これは、都市や建物の形状を、イルカなどの音波エコーの考えを応用して安らぎ感のあるものに変えていこうという、ユニークな研究です。
この話に関しては、以前に朝日新聞の2007年10月の「日曜版Be」の第一面で採り上げられ、『直角の隅を追放して町に安らぎ感』という見出しで紹介されましたが、初めて接する方のために最初に全体の粗筋を簡単に述べておきましょう。
さて冒頭の口上では、イルカの話が先ほどの不満とつながっているということでしたが、まずそのこと自体が少々面食らうような話に違いありません。一体それらのどこがどう関連しているというのでしょうか?
まず彼らが水中で音波をソナーのように使って泳いでいることはご存知でしょう。しかしその音の反射の強さは、海底の凹凸の形状に大きく左右されることがあり、そしてここに一つ面白い現象があるのです。それは彼らが音波エコーをきつく感じるような場所や構造物は、同じような形の建物を人間が地上で見たときにも、なぜか視覚的に閉塞感を覚えることが多いということです。
例えばわれわれの身の回りだと、直角のコンクリートがむき出しになった空間(先ほど槍玉に上がったような場所です)などがその好例で、そういう場所は視覚的な閉塞感が強く、しばしば市街地を狭苦しく感じさせる大きな要因となっています。ところが海中ではこういう形の場所は音を強く反射する性質があって、イルカはそこから圧迫感の強いエコーを感じているはずなのです。
つまりこういう直角の形状が「ハードエコー・デザイン」だというわけですが、とにかくイルカの音波エコーと人間の閉塞感との間に奇妙な相関関係が見られるというわけです。
一方それとは逆に、安らぎ感や広がり感のある伝統的な名建築や古都の町並みを解析してみると、不思議なことにその形状が音の反射の柔かい「ソフトエコー・デザイン」になっていることが多く、それには少々驚かされるのです。
しかし実を言うと、新聞に記事が掲載された時点では、これは面白い話ではあるものの、まだきちんとした実証実験が完了しておらず、そこが大きな弱点だったのですが、昨年の11月に東京大学において、懸案だった信頼性の高い実験をようやく被験者を集めて実施することができ、そして非常に肯定的な結果を得ることができました。
とにかく実験データによる一応の裏づけが得られたことで、晴れて堂々と「科学」を名乗れる条件が整ったわけで、それに備えて内容の整理を進めていたのですが、その作業を進めている最中にこの金融危機に伴う大不況が本格化し、そしてその中でこれが意外な役割を果たす可能性が浮上してきました。
どういうことかというと、それはもし町中のいろいろなものをそのように「ハードエコー・デザイン」から「ソフトエコー・デザイン」に転換していこうという動きが起こった場合、その際に発生する需要が、この現在の「L字大不況」から脱出するための有力なカードとなり得る可能性が出てきたということです。
もともと、この閉塞感に満ちた現代の町を、何か新しい物を使って古都のような安らぎ感のあるものに変えたいということへの潜在的要求は高く、そもそも各家庭にモノが置き場所に困るほど飽和している現在、「家の周囲を広々とした安らぎ感のあるものにしたい」というのは、あるいは消費者にとってクルマよりも「欲しい」ものだったかもしれません。
そしてこの話のユニークな点は、消費者が最初に手を出す時の「価格の敷居」がクルマなどより低いことです。つまり「閉塞感を減らすためのパーツの組み合わせ」という形でそれができるため、一番最初はそれこそ数千円の建材を買って装着するぐらいの簡単安価なところからスタートして、それらを買い足す形で、高価なリフォーム抜きでも段階的に進められる道が開けているわけです。
実はそれこそがこの話の経済面での最大のメリットで、財布の紐の固くなる不況下では、最初に数十万円の投資が必要なものでは消費がなかなか動かないのですが、この場合には一つ一つは安価である一方、その数自体は日本全体では恐らく膨大な数に上ると予想されます。おまけにそれが芋蔓式に波及していくため、最終的な合計ではあるいはエコカーのそれを上回るかもしれません。
これはまさに現在の経済状況では理想的な特性で、もしこの話が正しいならば、それは経済対策が必死で探している新しい国内需要の候補としてはまさに最適と言えるでしょう。
要するに「都市をイルカが音波エコーを柔らかく感じる形にデザインして、古都に似た安らぎ感のあるものに変えていく」という魅力的な話を基に、家の周囲に小さな改良を重ねていくことでそれを実現しようというわけで、これはキーワードとして定着すればこの陰鬱な風潮の中、夢のある消費として、エコ関連の需要への有力な援軍たりうるのではないでしょうか。
(なおどうもこの件に関しては男性層と女性層の間で受け止め方に一種のギャップがあり、最初は女性層の側は「難しそう」ということで食いつきが悪いのですが、逆に冒頭のような思いを胸の中に強く持っていて真にこれを求めているのも、むしろ女性層の側のようなのです。そのためこの話は、何らかの形でこのギャップを超えて女性層に届いた時、少なくとも「直角の隅を埋めれば閉塞感が消える」ということだけでも理解された時に、何かが大きく動くのではないかと思われます。)
そして(実はこれが一番唐突な話なので敢えて後回しにしたのですが)そういう音波エコーを減らす形状デザインの研究に関しては、実はすでに別の用途での高度な研究が存在していて、それを転用することができるのです。
少々物騒な話ですが、それは軍事ハイテク技術の「ステルス技術」で、まあ考えてみると、これはもともと飛行機や船などの電波・音波エコーを減らすための技術なので、その平和利用ができてもさほど不思議なことではありません。
つまりそれが冒頭の少々不可解な「ステルス技術の平和利用」というタイトルだというわけですが、大体において常識的な発想の手詰まりから抜ける際にはしばしば軍事技術が大きなヒントになることが多く(インターネットの時などもそうでした)、そして一般社会に出て行くときにその殻を脱ぎ捨てていくものです。そのためこの話も当初は「ステルス・デザイン技術」という名称でしたが、これを機に名称も「ハードおよびソフトエコー・デザイン」と改められています。ただし、以下の記述の中にはまだ旧名称が所々で残っていることをご了承ください。
以上がこの話の粗筋で、確かにこれは今までの常識からは飛躍した話ではありますが、考えてみればむしろ常識的な発想の中でこのL字大不況に役に立つようなものが簡単に見つかるはずがないとも言えるでしょう。まあ「駄目で元々」の話です。そう思えば現在の手詰まり状況の中、一応試してみるだけの値打ちはあるのではないでしょうか。
それでは以下にもう少し詳しく述べていきましょう。経済との関連に関しては、第2部として特別付録の形でつけてあり、全体の構成は
ではまずソフトエコー・デザインとは何であるかということから、あらためて述べていきましょう。それは、都市空間を、イルカが超音波のエコーを柔らかく感じるような形状にデザインすると、その景観が人間に安らぎ感を覚えるものに変わるという興味深い現象で、そしてその形状デザインに際しては、飛行機などをレーダーに写らないようにするステルス技術を応用できるということです。
理屈を言うより、次の2枚の写真をご覧ください。両者を比較すると、何だかアーチ型の方が景観全体に広がり感があり、直角型の方は閉塞感が強いのではないでしょうか?
さてイルカが音波反射を柔らかく感じる空間をデザインするためにステルス技術が応用できる、などと言われると何やら非常に難しそうで、そんなことをやれといわれても専門家以外には到底理解できなさそうに思えます。
しかしそのために重要なのは次に挙げる二つの大きな原理で、この二つさえ覚えておけば、そんなに難しいことを理解していなくても、割合に誰でもこの技法を使うことができるのです。それらは
@・直角の隅(コーナー・リフレクター)の追放
A・共鳴効果によるノイズの強制消去
の二つであり、それでは早速これらの二大原理をそれぞれ紹介していきましょう。
第一の原理・直角の隅(コーナー・リフレクター)の追放
まず最も容易なのがこれで、実はこれはレーダーのステルス技術でも最初の第一歩となるものであり、理数系の話が全く駄目という文系デザイナーの方でも、とにかくこれさえ覚えておけばステルス・デザイン技術を使うことができると思われます。
どういうことかというと、一般に建物や船などが「直角の凹み部分」をもっていると、そこが電波や音波を非常に強く反射してしまうという特性があるのです。
これは都市計画の思想にとってはまさに革命と言ってもよく、従来の都市計画では行政が独裁的な権限で個々の建物に強力な規制を加えて乱雑な部分を徹底的に除去し、幾何学的に整然とした町にしなければ美観は守れないというのが常識で、自由と美観は両立できないことが多かったのです。
ところがこの場合にはそのような強い統制を加えずに、町の中の雑多な部分(市場のような場所)を比較的自由に残したまま、外側から共鳴効果を発生させてそのノイズを消去することができ、それによって都市の景観を向上させていくという、ほとんど夢のようなことが可能となってくるわけです。
実のところ文系デザイナーの方の中にはこれまでの議論を、理系の人間が余計なことを言い出して仕事場を荒らすようで、迷惑に思われていた方もあるかもしれませんが、話がこうなってくると、むしろ優秀なデザイナーにとっての大きな福音の部分が出てくるのです。
そもそも昔からそこには解決不能の一つのジレンマが存在しており、それは同一場所で複数の個性的なデザイナーが独自に活動すると、それぞれがデザインする建物一つ一つは美しいのに、それらが集まると互いに不協和音を発生して、遠くから見るとごみ箱のような汚い空間になってしまうということで、これは如何なる優秀なデザイナーもお手上げの難題だったのです。
ところがこの新しい理論を用いると、とにかく共鳴効果だけは互いに合わせるという合意さえあれば、各デザイナーが比較的自由に個性的なデザインを行っても、共鳴効果によってノイズが打ち消されてそこが決して汚くならないことになり、個性豊かな複数のデザイナーの存在が都市を汚くするというジレンマから解放される道が生まれてくることになるわけです。
それはまた、共鳴効果さえ考慮すれば、未来的デザインと伝統的デザインを一ヶ所に同居させても従来のようには不協和音を発生させないようにできることを意味し、もしそれができればデザイン思想全体の革命となりうるわけで、その可能性を理解して胸を躍らせない優秀なデザイナーはいないのではないでしょうか。
このように、独裁的な都市計画抜きでも、このマジックを用いれば末端からの工夫が不思議とハーモニーを作って、一見乱雑ながら奇妙に安らぎ感のある都市景観が生まれ、都市全体の体感面積も広くなるという、従来の常識ではあり得ないとされていたことが本当に可能になってくるというわけで、これは物理学の助けがない限り絶対に生まれない発想だったと言えるでしょう。
なおこの稿では、直角の隅や並んだ柱がなぜそういう効果を生じるのかの物理的な理由の説明は省いてしまいましたが、その基本的な理屈をもう少し理解したい方は、一番最初に公表された論文がこのサイトの《都市建築のステルス理論》に掲載されていて、そこにもう少し詳しい解説が述べられていますので、そちらをご参照ください。
さてこうしたことが本当にできるなら、それは物凄いことではありますが、しかしこれは本当に科学として立証されうることなのでしょうか?
まあ最終的には人間の美的感覚の問題なので、(将来はともかく)現状では結局は経験科学以上のものにはならず、どういう形状の建物が閉塞感が少ないのかを聞き取り調査していく以外にありません。しかしそれに関してはインターネットでアンケート調査などを不用意に実施するのは危険で、何しろ建築デザインの問題の場合、既得権の問題もからんでいるだけに、旧来の派閥や古い教育を受けた世代による組織票のバイアスで収拾がつかなくなる恐れがあります。
そのため、まだ問題自体が十分に知られていない初期段階で、人数はやや少なく絞っても良いから、全く先入観を持たない被験者のみを集め、とにかくそういうバイアスの汚染を最小限に抑えた精度の高い実験を行っておく必要があるわけですが、昨年度、ついに東京大学の西成研究室との共同企画でそれを実施することができました。(その詳細は《エコー・デザイン理論の検証実験に関するレポート》に掲載されていますので、そちらをご参照ください。)
そしてその実験結果はかなり肯定的なもので、その結果を見る限り、確かに音波や電波を反射しにくい建造物は閉塞感が少なく、それが周囲の体感面積を増すことに関しても十分な相関関係があるとのデータが得られています。
特に第二次実験においては一種の挑戦的な試みを行ない、それは設問を工夫してその回答パターンが、従来のデザイン思想の常識に基づいた場合とエコーデザイン理論に基づいた場合とで正反対の結果になるよう故意に設定し、答えがどちらになるかで一種の「決戦投票」を行ったことです。
その結果はエコーデザイン理論に基づく予想にぴたりと一致し、特に第二次実験の場合、偶然にそれだけぴたりと一致する可能性は1%未満という、ある意味で衝撃的な結果が得られています。(実験協力・大日本印刷)
ではこれは現実の日本の市街地ではどのような形で応用ができるでしょうか。まず上の二つの主要原理のうち、前者の方が着手が容易であるため、そちらの方から話を進めていきましょう。
この場合、とにかく直角の隅=コーナー・リフレクターを除去していけば、それだけで大幅に市街地の景観向上を図れるというわけですが、それではまず現在の日本の市街地に、閉塞感の元凶となるそういう直角部分がどのぐらいあるのでしょうか。
実のところそれをあらためて注意して市街地を見回すと、如何にそういう部分がむき出しで多く放置されているかは驚くばかりで、普通の住宅地を少し歩いただけでも次の写真のような部分が大量に見つかります。
現在の日本の都市空間では、マンションの廊下というものがこれと同じ理由で非常に閉塞感の強い空間となっている場合が非常に多く、そこにソフトエコー化を考慮した建材を装着して閉塞感を弱めることことは、先ほどのものに劣らず重要です。
一方こちらは数としてはさほど多くはないのですが、これはせっかくの緑化の努力がエコーデザイン理論を理解していないことによって台無しになっている「惜しい」例で、普及の初期段階の着手点としては注目すべきものでしょう。
それというのも公園などのプランターをハードエコー・デザインの形で設計すると、それを設置してもあまり周囲の閉塞感が減らない場合があるのです。下の写真などが良い例ですが、この場合、プランターの下端部分が直角のコーナー・リフレクターを形成し、そこが強烈な閉塞感を作り出して、せっかくの上部の緑の効果が相殺されてしまっています。
次のものはやや隙間的な応用バリエーションですが、日本の現実の市街地というものはとにかく工事中の場所が多く、そこを囲む白い板状の工事用フェンスが市街地の閉塞感を増大させる元凶となってしまっています。
一方、意外に大きな応用効果が期待できるのが「自動販売機のソフトエコー・デザイン化」です。これは白い箱型の外観が昼間の市街地に与える影響もさることながら、むしろ現在の自動販売機が夜の市街地に与えている閉塞感の方が遥かに重要です。
それというのも、現在の日本の夜の通りを歩いていると、あちこちに置かれた自動販売機がその窓からやたらに明るい白い蛍光灯の光を放っていて、その不快な白い光のスポットが周囲に寒々とした閉塞感を作り出しているのが目につきます。
これは特に観光地などでは深刻で、ホテルなどから少し離れたさびれた場所にまとめて置かれている自販機群が、夜になると異常な存在感をもって白い閉塞感の放射源となり、町の資産である景観をぶち壊しにしていることも稀ではありません。
しかし自販機の都合からすると、とにかく遠くから自販機の存在がわかるように明るく目立つものにすることが必要で、たとえ周囲の閉塞感を強めようともその光を弱めるわけにはいかず、そのジレンマはかなり根本的なものです。
ところがソフトエコー・デザイン理論を応用すると、この一見両立の難しいジレンマを解決することが理論的に可能なのであり、それに基づいて作成した最も簡単なデザイン試案が次のようなものです。
ところでこの新しいデザイン思想は、目下のところの国家的課題というべき太陽電池の普及を手助けするためにも使えるのではないかと考えられます。
実のところ、太陽電池の普及ということは、環境問題のみならずエネルギーの自立という点でも、日本にとっては国家的観点からは極めて重要なのですが、ただ一般家庭への普及を通じてこれを行うとなると意外にそのハードルは高く、何年も前からいろいろ国も努力しているのですが、遅々として進まないのが現状です。
それは、まず太陽電池のコストがまだ高いことが何と言っても最大のネックですが、加えて日本の場合、住宅一戸あたりの総面積が狭い上に天気が曇りがちで、得られる電力の上限が意外に低く制約されていて、「家庭の電力を得る」という点では百%得という状況に持っていくのが少々難しく、そのあたりが消費者がそれだけのまとまった金額の投資を行う根本的な障害となっているようです。
つまり各家庭への普及を狙うには、単に電力を得るという動機だけでは少々弱く、そこで「デザイン」という切り口からその動機を確保することを狙ってみたらどうかというのがここでのアイデアで、そしてその際に、このソフトエコー・デザイン技術を使ってみようというのが、ここでの話題です。
考えてみると、クルマにせよ何にせよ、その普及や消費に際しては単に便利ということだけが動機だったわけではなく、ほとんどの場合、デザインと見た目の力というものが馬鹿にならない動機となってきたように思われます。
しかし太陽電池の場合、まだ世界的に「太陽電池を組み込んだ住宅の新しい標準デザイン」というものが確立されておらず、そこに対する重点的な研究もさほど大規模には行なわれていません。
そしてこの問題をソフトエコー・デザインの視点から見ると、そこにはいくつかデザイン上の盲点があり、そこからうまく入ると「景観の観点から太陽電池を普及させる」という道があるかもしれません。(その詳細については《太陽電池の景観デザインとエコーデザイン理論》をご参照ください。)まあこれはまだ十分に詰めたプランではありませんが、一つの可能性として付記しておきます。
また太陽電池と並んで、応用価値が高いと思われるのが有機EL照明への応用です。有機EL照明は壁全体を発光させる照明方式ですが、省エネルギーの点でLED=発光ダイオード同様に優れており、環境対策として将来の普及が期待されています。
しかし現在のままだと、都市の夜間の景観に一つの悪影響を及ぼす恐れがあり、まあ既に発光ダイオード自体、その光が白熱電球に比べて冷たい感じがあるため、都市の照明光をそれに全面的に入れ替えてしまうことの精神的な悪影響が一部で指摘されていますが、有機EL照明は下手をするとそれに輪をかけて、夜の市街地を閉塞感で埋め尽くしてしまうことが十分に懸念されるのです。
それというのも、有機EL照明で壁全体を白く光らせた空間は、ちょうど白い四角い壁の部屋に閉じ込められたのと同じで、エコー・デザイン理論からすると人間にとって最も閉塞感の強い空間となってしまうからです。
そして有機EL照明の場合、その照度が面積に比例する関係上、発光させる壁の面積をなるたけ多くとらねばならず、省エネルギー効果と引き換えに人間の閉塞感を増してしまうという問題点を宿命のように抱え込んでしまう恐れが強いわけです。
しかしエコー・デザイン理論を使うと、これに対する解決策を一つの原理として見出すことが可能となり、それは京都の三十三間堂に秘められた偉大な知恵を応用することです。
ここで下の図をご覧ください。これは両方とも三十三間堂のCGで、その壁の白い部分を有機EL照明に見立てたものですが、上のものは壁全体を有機EL照明にした場合です。
以上、思いつくところをいくつか記しておきましたが、これは建物の外観だけでなく、マンションの部屋の内装などにも応用できるでしょう。
最も簡単なところだと、例えば部屋のカーテンをひだの多いものに変えた時に、なぜか部屋の中が落ち着いた感じになったという経験をお持ちの方はないでしょうか?
それは実はこの原理を使って結果的にソフトエコー・デザイン化されているためであると考えられ、そのためこれをもっと体系的に多くの箇所で使えば、都会の狭い部屋を体感的にもっと広々としたものに変えることに大きな威力を発揮するのではないかと思われます。
確かにそれらは一つ一つは単なる模様替えなのですが、これを「部屋の空間をイルカが音波エコーを快く感じるような形状に改良すると、部屋の体感体積が増して狭い部屋を広々とした感じにできる」という、全く新しい視点で捉え直して有機的に組み合わせれば、その効果は倍加することが期待されるわけで、これは特に都会の一人暮らしの女性などにとっては、非常に魅力的な響きを帯びているのではないでしょうか。
この部屋の内装に関する話は、一旦始めれば恐らくそれだけで雑誌数年分の話題になってしまうと思われるので、ここでは突っ込んで論じることはできませんでしたが、とにかくこれがひとたび部屋の内装に体系的に使われ始めたとなると、それは次の段階として家電デザインなどにも影響を及ぼす可能性が高く、それによって新しい製品需要が生み出されるということも十分考えられるでしょう。
他にもまだまだわれわれが気づかなかった部分への応用は考えられると思いますので、多くの方々がそういう新しい応用箇所を発見していただけることを、大いに期待したいものです。
そして先ほどの簡単な建材だけでも試算では大きな経済効果を期待でき、さらにそのように広い分野での応用が考えられるというわけですから、その最終的な経済への影響は非常に大きなものがあると思われます。そこで次に第2部として特別付録の形で、現在のこの経済危機においてこれがどう役に立つかに関して、ちょっと集中的に論じてみることにしましょう。
>> 第2部 「ステルス技術の平和利用」は「L字大不況」脱出の切り札となるか に続く.