自動販売機のソフトエコー・デザイン化〜「高ステルス・デザイン自動販売機」の必要性


20040605 長沼伸一郎


 以下は、ステルス理論を自動販売機のデザインに適用する試みです。

 日本の夜の町を見ていて思うのですが、夜の路上を歩いていると、とにかく街角にたくさんの自動販売機が置かれていて、そのウインドウ部分から過剰なばかりの蛍光灯の光を路上に投げかけているのが、やたらに目につきます。
 そしてその白色光によって、周囲20mほどの空間が何だか寒々しい閉塞感に覆われてしまっており、確かに防犯上の安心感はあるかもしれませんが、どうも自動販売機の存在が、夜の町全体が閉塞感を帯びてしまうことに一役買っているように思われてなりません。
 そして商店街ならまだしも、公園や観光地などでは、自動販売機が1台無造作に置かれているだけで、その「光害」とまで言えるほどの過剰な明るさが夜の景観を台無しにしていて、風情も何もあったものではなく、こういう場所では全体から見て明らかにマイナスの方が大きいように思われます。

 そこで、ステルス理論を応用することで、夜の市街地の景観に閉塞感を与えない「高ステルス自動販売機」を作れないかというのが、ここでの試みです。


在来型の低ステルスの宿命
 しかしながら従来は、その自動販売機のウインドウ部分の過剰なまでの明るさは、現実の必要性からやむを得ないものだと考えられていました。それというのも自動販売機というものは、とにかく夜の町でもなるたけ遠くからその存在がわかるようでなければなりません。
 そして夜の町中で目立つための一番早い方法が、過剰なまでにウインドウ部分を明るくして遠くからその光が見えるようにすることである以上、やはり町の美観などということを言っている余裕はないというわけです。

 しかしステルス理論の中の夜間照明に関する部分を用いると、この矛盾を解決して双方の要求を両立するという、従来は不可能と考えられていたことが現実に可能になる道が開けてくるのです。
 つまりこれは「夜の町中の閉塞感を減らす高ステルス自動販売機」のアイデアであり、そして以下はそのデザインに関する第一試案です。


夜間照明とステルス理論
 ではその前に、夜間照明のステルス理論について、これと関連のある部分を復習の意味で簡単にまとめておきましょう。
 まずそもそもステルス理論の観点から見たときに、夜間照明で何が問題になってくるかというと、例えば蛍光灯のような光が周囲をスポット状に白く照らし出していた場合、しばしばその白いスポット部分自体が、あたかも白い大きな壁のように認識されてしまうという点です。
 つまりこれは、ちょうど昼間のステルス・デザインの話で、白い壁があった場合と同じことになってしまい、ステルス効率を大幅に低下させてしまうことになるわけです。

 そしてこの効果は、暖色系の光と寒色系の光でも違いが出てきます。常識的な感覚からしても、寒色系の白い蛍光灯は寒々しい感じを受けるものですが、実はそれだけではなく、ステルス理論の観点からしても意外なメカニズムがここに作用していると考えられるのです。

 それというのも、一般に人間の感覚において、暖色系の照明は光源自体が前へ出てきやすく、逆に寒色系の光源は後ろに引っ込み易いことが知られていますが、実はこの点が、ステルス理論の「なるたけ小さいサイズの物体がなるたけ目立って見えることが望ましい」という原則に関連してきてしまうからです。

 要するにこの場合「一番目立つものが何か」に関して、暖色系の照明の場合、光源自体が前へ出てきてそれが一番目立つのに対し、白い寒色系の蛍光灯の場合、光源自体よりもむしろそれがスポット状に照らした背後の壁面部分全体が相対的に目立ってしまって、それがあたかも「一番目立つ物体」のように意識されるため、これがステルス効率の悪化を招いてさらに閉塞感を増してしまうというわけです。

 
 (図1)

高ステルス型デザインの一つの試案
 以上がこの問題に関する第一の鍵ですが、もう一つ、ステルス理論の中でこの問題に使えるのは共鳴効果に関する部分です。
 要するに自動販売機の場合、その存在が夜の町で遠くからも認識されやすいということが、不可欠な条件として要求されているわけですが、その「目立つための策」を、従来のようにただウインドウ部分の光量を大きくするという方法ではなく、むしろこの共鳴効果を利用することでそれを補えないかというのが、ここでのアイデアの中核です。
 そしてそのための一つの試案が、次の模型写真です。


(図2)

ではこのアイデアの要点を以下に列挙していきましょう。


アイデアの要点
1・まず一番基本的なことは、ウインドウを細く縦長にして並べることによって、共鳴効果を作ることを狙っていることです。
 つまり在来型の自販機の場合、もし「光害」を防ぐためにウインドウの光量を弱くしてしまうと、それが周囲の明かりの中に埋没してしまって、そこに自販機があることが夜道で遠くから認識されにくくなるというジレンマを抱えていました。
 しかしこの高ステルス型の場合、並んだ縦のウインドウが作り出す共鳴効果によって、光量自体を多少落しても、他の同光量の明かりのノイズを突破して人間の目に認識されやすくすることができるというわけです。

2・一般にステルス理論では、縦方向の共鳴効果(つまり縦長の柱などを並べたようなパターン)の方が、横方向の共鳴効果よりも強く効いてくることが知られています。そのためこの場合も、ウインドウを横長のものではなく縦長のものとすることによって、共鳴効果を強く出すことを狙っています。

3・さらに、光源としては寒色系ではなく暖色系の蛍光灯を用いることを考えます。先ほどから述べるように、もともとこの高ステルス型の自動販売機は、在来型に比べて周囲に撒き散らす光量がかなり小さくなっています(つまり光源のワット数自体を小さくできる上、ウインドウの開口部の総面積も小さい)。
 そしてその上にさらに暖色系の光源を用いると、在来型に比べて、ウインドウからの光が反対側の塀や下部の路上をスポット状に照らし出して「白い壁」を作り出してしまう難点を、大幅に減少させることを期待できるというわけです。

4・また、ウインドウのそれぞれの長さ(縦方向の)を、中央部で長く、両端で短く配置して全体を山型の形状にしてやることで、アーチ状物体のステルス効果と似たものを作り出すことを狙っています。
 つまり配置全体が単なる長方形のように見えるよりも、アーチ型にしてやることで、遠くからその形状がさらに認識されやすくなりますし、またやはりステルス理論の観点からすれば、直角部分は少しでも減らしておいた方が望ましいでしょう。
 またこの自販機が十分に普及して、この形状パターン=自販機なのだという認識が常識化していけば、その存在がさらに遠くからでも認識できるようになるはずです。(なお配置形状パターンは何もこれに限ったものではなく、他に何通りも考えられます。)

 また今回はそこまでは考えませんでしたが、遠景から見える明かりの形状に関して、自治体などで特定のパターンを制定し、「その形状パターン=自動販売機」という一般常識を定着させることで、さらに弱い光でも遠くからの識別を可能にするという行き方もあります。
 ただしこのアプローチの場合、ステルス性よりもその光パターンをどうデザインするかということの側に、大きな努力のウエイトがかかることになりますが。

5・今回は夜間の見え方だけしか考えなかったため、自動販売機全体の外形は、単なる直方体のままにしてしまっています。しかしウインドウの形状をそのように工夫した以上、全体の形状自体にも何か工夫を加えて、もっとステルス性のよいデザインにしたくなるのは当然でしょう。
 そのデザインはいくらでもバリエーションが考えられるため、それは将来の課題としておくこととします。

6・一方この形式の欠点を列挙しておくと、まずウインドウ部分に収容できる缶や商品などの個数が、在来型の横並びの場合と比べて多少減ると思われることです。しかし実際に数えて見ると、それほど大きな差が出るわけではありません。
 また使用する蛍光灯の本数が増えることになりますが、在来型が大体3本であるのに対し、この場合にはうまく工夫すれば4本ですむため、この面でも差はそれほど大きくはありません。
 最後に、ボタンをどう配置するかですが、これに関しては現段階では特にこれといったアイデアはなく、この先何か一工夫必要でしょう。
 いずれにせよ、この第一試案を叩き台に、もっと良いものをいろいろ考えていただきたいと願っています。

 ステルス理論からすると、一般に共鳴効果を利用した建造物や物体が町中に多く存在するほど、町全体の波長効果(無論ステルス理論で言う「波長」です)を向上させて、町のステルス効率を上げていくものです。つまりこのような「高ステルス型」によって、自動販売機の存在を景観の点でマイナスではなくむしろプラスに変えていくことができるわけです。
 現在は、国の政策にも「観光立国」ということが採り上げられ、国や自治体を上げてそれに取り組んでいる最中です。そのためまず観光地などから、このように自動販売機をステルス化していくというのは、現在の国の政策にもかなりマッチしているのではないかと思います。


お願い
 ここで、これを読まれている方に一つお願いなのですが、われわれはこのステルス理論が近い将来、現実に国や地方自治体などで採用された時に備えて(それはそんなに先ではないように思えます)、人材を今からストックしておきたいと考えています。
 つまり例えば自治体なり企業なりが、この高ステルス自販機のプランを本格的に進めることに乗り出し、そのための人材が欲しいと言ってきたとき、急速に人材の需要が生じてくるということは十分考えられことです。

 しかし現在のところ、大学などではまだそれに十分対応することが不可能な状況にあり、そのため当面われわれパスファインダー・チームがターミナルとなって、その人材供給を行っていこうというわけです。(何と言ってもステルス建築の研究は、ここ以外にやっている場所がどこにもないのが現状なのですから。)

 そこで、将来このステルス自販機のプランを発展させて、本格的に仕事にしていきたいとお考えの方がおられましたら、近い将来のリクルートを視野に、その希望をそちらに申し出ておいていただきたいのです。(現在まだ特にアイデアをお持ちでなくても、将来に向けてのやる気さえあれば結構です。)

 現在のところいわば予備登録の段階ですので、登録に関しては基本的に無料です。また、登録取消しをご希望ならば、いつでも可能です。
 推薦の順番などに関しては、基本的にはここでの実績からこちらで判断しますが、他の条件が同じ場合には登録の早い順ということになるでしょう。

 いずれにせよ、企業などがその人材を欲しいと言ってきたとき、先方がまず最初に問い合わせてくる場所がこのパスファインダー・チームであることだけは確かなのですから、やる気がある方ならば、まあ予備登録はしておいてご損になる話ではありません。
 そのような方のご参加をお待ちしていますので、是非ご検討ください。