ソフトエコー・デザインを応用した建材の例

Update: 2009/03/26
※ タイトルを「ステルス・デザイン」から「ソフトエコー・デザイン」に改めました。

 今まで何度も述べてきたように、日本の現在の市街地では建物や塀の下端部分が閉塞感を発生する元凶になっていることが多く、その種の問題箇所は日本全国で恐らく数千万箇所に及ぶと推定されます。
 その代表的なものの一つが、一般住宅の敷地に設けられているガレージおよび駐車スペースで、特に車がいない状態では直角のコンクリート壁がむき出しで見えていて、強い閉塞感で周囲全体を狭苦しく見せていることをお感じになった方も多いでしょう。

ガレージ・冒頭写真

 そのためここではそういう場所を例に、ステルス・デザイン理論をうまく用いて最も低い手間やコストで閉塞感を最大限に減少させるための方法について、一つの試案の例を述べてみたいと思います。
 これは、この技法を身近で現実に使うにはどうすれば良いのかを知るためにも最適で、面倒な理論はよくわからないという方は、むしろこれだけをお読みいただければ、それだけで一通りのことは理解できるのではないかと思います。


 ステルス化の最初のステップ

 さてまず「直角の凹みを追放せよ」というのがステルス・デザインの第一歩だというのですから、こういうガレージのようなスペースでも、そのコンクリートの壁面を傾斜させれば良いということになります。
 しかし現実には直ちにその部分をそのように作り変えろと言われても、結構な大工事が必要となってしまい、なかなか実行に移すわけにはいきません。しかしこの理論をうまく使うと、それこそ今日明日すぐにでも実行できるような簡単な方法で、同じような効果を得る手法を見つけることが可能となります。
 実際にこの場合、理論をもう少し柔軟に解釈することで、必ずしも壁面全体を傾斜させずとも、下部の一部だけを処理するだけで十分な効果を得ることができるのです。
 これに関しては拙著「ステルス・デザインの方法」でもモン・サン・ミッシェル修道院を実例に論じており、この寺院の壁面の多くは下部だけが傾斜していて上半分は垂直なのですが、それでも十分な効果をもっていて、壁面全体を傾斜させた場合に比べてほとんど遜色がありません。

モン・サン・ミッシェル写真

 これはどうやら、人間の「有効視野」が実際には比較的狭くて、直角の隅のごく周辺の部分しかその有効視野内に収まらず、その外ではどうなっていようと人間の意識に影響しないためではないかと考えられます。
 その「有効視野」がどの程度の広さなのかは、まだよくわからない部分がありますが、とにかくそうだとすれば、図1−aのようにその範囲内だけを傾斜壁にすれば、コーナー・リフレクターを除去できるというわけです。
 そしてもしそれが事実なら他にも様々なバリエーションが考えられ、この理屈を応用すると例えば図の1−bのように、その部分だけを緑で覆ってしまえば、十分な効果が期待できるということになります。
 実際にこういう塀の下端部分に草が生えていると、それだけで閉塞感が多少なりとも減っていることが多いものであり、それは経験的に事実と言って良いかと思われます。
 また同様のバリエーションとして、図のcのように、直角の壁の下端部分に隙間を空けてやっても、似たような効果が期待できます。(これは理論的にもその通りで、特にソナー音波などのように指向性が強くビーム状に絞られた超音波であれば、実際に壁をこのような形状にすることでその音波反射を減らしてやることが可能です。)
図1
 さて理屈からすると、このように
  a・壁面下部を傾斜させてやる   b・下端部分を緑化する   c・下端部分に隙間や穴を空ける
などの簡略化された方法が考えられるというわけですが、しかし確かに壁全体を傾斜させるよりは簡単とはいえ、これらといえども現実に行なうとなるとまだ結構大変で、さすがに今日明日すぐに各家庭で実行するというわけには行きません。
 例えば先ほどの1−cのように壁の下端部分に隙間を作るといっても、そう気軽にブロック塀の下部にドリルで穴は空けられませんし、また1−aのように下部だけを傾斜した形に改造するのも、きれいにやろうと思ったらそれなりの工事が必要になってしまいます。
 そのためここではさらにもう少し知恵を絞り、何かこの原理を用いた適当な建材のようなものを作ってそれを装着・設置するなどの簡単な方法で、大掛かりな工事を行なわずに先ほどと同等あるいはそれ以上のことを行う手段を何とか工夫したいものです。


 最も初歩的な方法

 ではいろいろと試みることにしますが、まず一番初歩的な練習問題として、1−cに似たことをもっと安上がりな簡略化された方法で行なうことから話をスタートしてみましょう。
 つまり先ほどのように塀の下端部に隙間や穴を空けることができない場合、誰でも考えつくような簡単なものとしては、塗装などのフェイクでそれらしく見せるという案がまず考えられます。要するにその部分に実際に穴を空けたりするかわりに(少々姑息な手段ではありますが)黒く塗るなどして、一見するとそこに隙間や穴があるように錯覚させるというわけです。
 もっともこれは何ら新しい方法などではなく、校舎の廊下などでは昔から行なわれていることで、壁の下端部分を黒や焦げ茶色に帯状に塗ってあるのをご覧になったことがあるでしょう。

写真1

 まあこれは応用としても初歩の初歩で、雀の涙ほどの効果しか期待できませんし、またこんなありふれた手段を今さら新手法として大袈裟に主張するつもりもありません。
 もっともたとえ申し訳程度といえどもそこそこの効果が期待できることも事実で、逆に言えば以前から校舎などで使われていたこの方法は、実はステルス・デザイン理論の観点からするとちゃんと根拠のあるものだったということになるでしょう。
 しかしこの方法は建物の中ではそれなりに使えるものの、家の外で使うとなると汚れに弱いという弱点があり、ここでは少々使い物になりません。ちょっと想像しても、黒い部分に少し埃が溜まって白っぽくなってしまっただけでそれが穴や隙間でないことがばれてしまい、2〜3ヶ月ほど放置しておくとほとんど効果はなくなって、ただ薄汚れた汚い印象だけになってしまう恐れがあります。
 とにかくここで考えているのはガレージなどの屋外で使えるものであるため、経年劣化に強いということは重要な条件で、いずれにせよこの点でも候補としては失格なのですが、思考の一つの通過点としてはそれなりに意味はあるので、一応これを頭の隅に留めて先へ進みましょう。

 では別方向からのアプローチとして、先ほどのaやbの発想からスタートすればどうなるでしょうか。そこから出発した場合には、まず一番簡単なものは次のものだということになります。
 これもまたありふれた外見の初歩的なものではありますが、要するに傾斜した形に土を盛ってそこに草を植えるもので、これを簡単なユニット形の建材としてブロックのように置けるものにすれば、とりあえず「設置が容易な建材」という条件を一応クリアできることになります。

写真2

 写真を見ても、これだけでもある程度の効果を期待でき、また一応は経年劣化にも強いという条件を満たしているため、屋外に設置するには適しているでしょう。
 これは傾斜面と植物の組み合わせという点で、言わばaとbの機能を組み合わせたものだと言えますが、ここでbの緑を組み合わせたのは、実はこの状況だとaの傾斜壁が持っている欠点が表面化しやすいので、それをカバーする必要があるからです。
 これはこういう場合の一般的な注意事項なので述べておくと、aのような傾斜面の効果だけに期待して、単純にそこを白いのっぺりした平面にしても大した効果を期待できない場合があり、それはこのぐらいのサイズだと(モン・サン・ミッシェル修道院の時と違って)、人が立った位置からその部分を見下ろした時に、次の図2のイのように、かえってその傾斜壁が角度的に、人間の視線に対してちょうど垂直に向いてしまうことがあるためです。
図2
 つまりこの位置関係だと、せっかくの傾斜壁がまっすぐな塀のように立ち塞がる格好になって、その圧迫感でせっかくの傾斜効果が半減してしまうことが多く、そのためこの部分をのっぺりした平面ではなく、植物という優秀な「吸収材」で覆っておく必要があるというわけです。
 まあどのみち緑化が必要だというなら、わざわざ理論など持ち出す必要はないではないかと言われるかもしれませんが、例えばこれまで別の場所で紹介した、まずい設計のプランターのように、直角の隅=コーナー・リフレクターを除去することを忘れた形の緑化はしばしばその効果を発揮できず、そのためbのように緑化を行うにせよ、理論をきちんとのみこんだ上で設計すると、その効率を倍加することができるわけです。


この方法の欠点

 ともあれこういうブロック状の建材を考えれば一応はOKだというわけですが、しかし実用品として見るとなると、さすがに多くの欠点があって、やはりまだ十分なものとは到底言えません。
 まずこういう場合、盛り土の高さをあまり高くできないことが問題です。確かに先ほどの理屈では、人間の有効視野内の狭い部分だけをカバーすれば良いということですから、原理的にはせいぜい数センチぐらいの高さでも良いことにはなりますが、しかし現実には人間の有効視野はさすがにそれよりは遥かに広く、やはり少なくとも高さ30〜40センチぐらいはないと、十分な効果は期待できないようです。

 ところが傾斜した盛り土をそのぐらいの高さまで盛るとなると、土が上からぼろぼろと崩れて地面に散らばることを心配せねばならず、かと言ってそれをせき止めるために図2のロのように前方に板を立ててやるなどすると、今度はそれ自体が小さな壁や塀となって、特にそれを垂直に立てた場合には下端部に新たなコーナー・リフレクターを生じてしまい、これでは全く意味がなくなります。

 一方、最初から盛り土のスロープをもっと緩やかにすれば土がこぼれないようにできますが、ところがそうするとスロープの下端部分が大きく前方に張り出してくるという問題が生じてきます。
 図2のハでもわかるように、もし高さが30センチならば、底辺が40センチぐらいは必要となり、それが前方に張り出すため、敷地の地面をそれだけ狭めてしまうわけです。
 この弱点は先ほどの写真を見てもよくわかり、恐らく現実にはこの欠点ゆえにほとんどの場所で設置の際の問題となって、設置を見送る大きな要因になると予想されます。

 とにかくこれらはこの方法が背負っている本質的な弱点で、閉塞感を消すのに十分な高さを確保しながら土がこぼれ落ちないようにすると、結果的に敷地の有効面積がかなり犠牲になってしまうことになり、何とかそれを最小限に抑えるうまい手がなければ、決定版的手法として広く用いるわけにはいきません。


 理論を応用した解決法

 しかしむしろこういう時こそステルス・デザイン理論が威力を発揮するのであり、普通ならそのような障害に遭遇するとデザイン案をまるごと放棄しなければなりませんが、この理論があるとそれらの条件を両立させる迂回路を迅速に見つけ出していくことができ、そして実際にこの場合にも一つの抜け道があることが容易にわかります。
 それは、要するにその傾斜面に関して理論が主張しているのは、単に下端に直角の隅を作らないようなものであれば何でもよいということであり、だとすれば傾斜面の角度は鋭角ではなく鈍角でも構わないことになるでしょう。
 つまり次の図3の@のような向こうに傾いている傾斜面ではなく、逆にAのような前傾型の傾斜面でも差し支えないことになり、実際に理論的には音波などの反射率は全く同じものになります。
 そしてさらに理屈からすればその両者の組み合わせとしてBのような形でもOKで、このガレージの状況を考えると、下部の十数センチぐらいを逆方向に傾斜させた「く」の字型のものが絶好の条件を備えていることがわかります。
 それというのもこのようにしてやると、閉塞感を減らす効果はほぼ同等で、なおかつ先ほどと比べると下端部分の張り出しを十数センチほど減らしてやることが可能となり、これによって敷地の有効面積が狭まることを最小限に抑えるという課題をクリアできるからです。

図3
 ただし土をそういう形に成型するのは難しいので、この場合その下半分の傾斜面は、Cのように何か板状のもので底を支える必要があるでしょう。むしろここにそのように斜めに張り出した板があると、上からぼろぼろ落ちてきた土をそこで受けて地面に散らばるのを防ぐ役にも立ちます。
 そしてそういう板状の部分を設けるとなれば、無論その板の表面はのっぺりした白い平面ではない方が望ましく、そこは黒く塗ってやった方が良いでしょう。これは以前に出てきた1−cの話と似ていますが、あの時と違ってこの部分が垂直ではなく前方に傾斜していて光が当たりにくいため、黒い部分が埃で白っぽくなっても暗くてそれほど目立たず、経年劣化の中でも有効性は失われにくいと思われます。

 こうして作ったのが写真の状態で、閉塞感を減らす効果という点では先ほどの単純な傾斜型と比べてもさほど遜色はありません。
 なお模型では、経年劣化を想定してウェザリングを施してあり、黒い部分が白っぽく汚れる弱点は、もし先ほどの写真1の状態で同様のウェザリングを施すと、恐らくそれはもっと大きな弱点として現れたはずです。

写真3

 ともあれこうした過程を見る限りでは確かにこの理論は有効で、特に何らかの制約が生じたとき、それを迅速に迂回して代替案を探すための武器として、大きな威力を発揮することが実感されると言ってよいと思われます。


 共鳴効果の応用

 さてこれで一応、基本的な方向性は定まりましたが、この段階ではまだステルス・デザイン理論の二本柱というべき重要原理の一方である「直角の隅=コーナー・リフレクターを除去する」ことだけしか用いられておらず、もう一方の重要な原理である「共鳴効果」はどこにも使われていません。そのため今度はこれを使ってさらに効果を増すことを考えていきましょう。

 この「共鳴効果」をここで使う場合、教科書どおりにやるならば、要するに白い柱などを規則正しくどこかに並べて立ててやることなどが最も標準的な手段として考えられますが、先ほどまでの状態を見ると、まさにその絶好の応用場所があることがわかります。
 つまり先ほど下部に設けた黒い帯状の部分に、白い短い柱や棒を規則正しく並べてやると、それが共鳴効果を発生して、かなりの効果を期待できる理屈になるからです。そしてこの黒い板の前に白い柱を並べて立てることは、視覚効果だけでなく構造的にも有益です。
 それというのもこのような「く」の字型の建材は、もともと前へ倒れ易いという弱点があり、その観点からすると、先ほどの黒い帯状の板の前傾角もあまり深くとらない方が、建材全体を倒れにくくできますが、しかし閉塞感を減らすには逆にその前傾角はなるたけ深くとった方が良く、双方の要求が真っ向から矛盾するというジレンマがありました。
 しかしここでその部分に短い柱を立てられるならば、構造的にはそれで前に倒れにくいよう支えられるので、黒い帯状の板の側はその役割から解放されて目一杯まで深く前傾させることができ、その下端部のラインを壁ぎりぎりまで後退させてもOKとなります。
 要するにこの白い短い支柱があると、黒い板の傾斜を深くすることで閉塞感を減らす効果を大きくする一方で、白い支柱自体が共鳴効果を発生してさらに効果を倍増できるというわけです。


 さらに効果を増す方法

 一方、その白い支柱の側は、そのように建材を支える役割を担う以上、本来なら次の図の@のように垂直に立ててやるべきではありますが、少しぐらいなら傾斜させても大丈夫なので、ここではむしろ閉塞感を減らすことを優先し、あえてそちらをもう少し欲張ってみましょう。
 要するにこの白い支柱もAのように一斉に傾けてやるのですが、先ほど黒い帯状の板を目一杯深く傾斜させてしまったため、こちらはそこまでは傾けるわけにはいかず、両者の角度は図に示したぐらいのものが適当でしょう。

図4
 まあどのみち安全性を考えるとこの建材は前方に倒れるのを防ぐため、金具や接着剤などを使って壁に固定してやることが必要になると思われるので、自力で立っていられる程度ならば十分と考えてそうしたのですが、ともかくこの断面図だと、少なくとも建材の重心が柱の下端ラインよりは前に出ないようにすることができ、一応はこの支柱があることで全体を倒れにくくすることができます。
 そしてこの場合、どうせですからその部分の地面に帯状の黒い底板を、支柱の下端のラインから壁までの幅で敷いてやって、柱の下端をその底板の先端に固定し、図のBのようにその板をいわば建材自体の底板にする格好にしてやると、構造的にも強くて設置の際にもやりやすいものになるでしょう。
 そしてこのようにしてやると、ちょうど写真のように、白い枠で囲まれた仮想的な平面が下端部に生じ、それが下向きに傾斜しているように見えることになります。
写真4

 一方その白い枠で囲まれた部分の内部はちょうど長方形の黒い穴のようになり、白い柱とのコントラスト効果で黒い部分がさらに暗く見えて、この部分があたかも音波などを吸い込んでしまう穴と同じ役割を果たせるため、もうわざわざ塀に穴を空ける必要はなくなるというわけです。

 この穴の部分はコントラスト効果で暗く見える上、日陰にもなるので、多少埃をかぶって白っぽくなっても大丈夫ですが、さらに経年劣化に強くするためには、いっそこの穴の部分の奥に僅かに土を入れて、草を生やしてやるというのも良いかもしれません。
 実際ここに適度に草が生えていると、深い穴に草が生えていてそれが出口にはみ出ているように見えるため、細部の汚れやアラがさらにカムフラージュされやすくなり、外で使う建材ならむしろ適しているかと思われます。


 この方法のメリット

 いずれにせよ、理論的にはこのような形で黒い板と白い柱を組み合わせるのが閉塞感を吸収するには最も効率が高く、そのためこのように黒っぽい色をバックに白っぽい細い柱を並べるのは本来ベストに近い選択です。
 そしてこの場合にはさらに、白い支柱が仮想的な傾斜平面を形成する一方、背後の空間をそのコントラスト効果で穴のように見せることができ、限られた空間サイズの制約内で閉塞感を最大限に減らすためには、これは最も優れた方法の一つだと言えるでしょう。
 それだけでも望ましいのですが、さらにこの場合には単に閉塞感の吸収に有効なだけでなく、「く」の字型構造によって敷地の面積が狭まる欠点を最小限にすることもできるという、願ったりかなったりの特性も備えています。
 つまりこのように比較的単純な基本パターンによって、これらの多くの要求を同時に満たすことができるため、これは下端部分のコーナー・リフレクターを除去するためのものとして、恐らく最良の解答の一つかと思われます。そのためガレージだけでなく一つの標準的メソッドとして、町中の多くの場所で有効に応用できると思われるので、これを基本パターンとしていろいろなバリエーションを考えてみると良いでしょう。


 壁面の閉塞感の除去

 さて閉塞感の最大の元凶である下端部分のコーナー・リフレクターの処理に関しては、以上の方法でほぼOKかと思われますが、全体を見ると上の部分がまだのっぺりしたコンクリート壁のままになっており、下の部分が改良されて良くなってくると今度はそこの閉塞感が気になってきます。そのためどうせですから、ここにもちょっと理論を応用してみましょう。

 普通に考えるとこのように剥き出しの壁が気になる場合、壁全体に何かテクスチャーでも貼ってやれば良いのですが、そこまでの予算がないという場合、理論をうまく使えばもう少し安いコストで行なう方法を簡単に見つけることができます。
 つまりこういう時にはやはり共鳴効果を応用するのが「最小限の建材で最大限に閉塞感を減らす」ためには一番早道で、要するに先ほどの白い支柱と同じことをもう少し拡大した形で行ってやればよいのです。
 具体的には高さ1mぐらいの手頃なサイズの柱やポールを等間隔で何本も壁の前に並べて立ててやるのが一番簡単でしょう。これはステルス・デザインの教科書的な応用ではありますが、とにかくそれを適切に行えば、のっぺりしたコンクリート壁の閉塞感をかなり弱めることが可能となります。
 しかしここにポールを立てることにはもう一つ狙いがあり、それは実はこの敷地には奥に1箇所、縦方向にコーナー・リフレクターが生じており、それを消す必要があるからです。
 写真でもわかるように、もともとこのガレージの敷地は、縦横三方向の全部に直角の隅のラインが生じていて、先ほどまでで下端部のものは除去しましたが、まだ垂直方向に1本、直角のラインが残っており、そこがやはりコーナー・リフレクターを形成して閉塞感の元凶となっているため、それも消去せねばなりません。
 しかしそれは簡単で、要するにそこに柱を1本立てて直角のラインを隠してやれば良く、そしてどうせここに1本、柱が必要になるというなら、このさい同じものを何本も壁全体の前に並べて立ててやれば、全体としてそれら両方の目的を兼用できることになります。  つまりこの方法だと、壁全体のっぺりした閉塞感を共鳴効果で減らすことと、奥に縦に残ったコーナー・リフレクターを除去することを同時に行うことができ、単なるテクスチャーを壁全体に貼る方法よりも一石二鳥の効果を狙えて、効率が良いわけです。


 ポールの効果の増強法

 では話を進めて、その柱やポールの色などに関しても理論を使って正解を探っていきましょう。まずポールの色ですが、これは黒っぽいものではあまり効果がなく、先ほどと同様に白やアイボリーなど、なるたけ明るい色にした方が一般的に高い効果が期待できます。
 それというのも理論的には「なるたけ細い柱がなるたけ背景から目立って見えている」というのがステルス・デザインの基本原理なので、黒っぽくて目立ちにくいポールでは十分な共鳴効果を期待できず、明るい色のポールが望ましいというわけです。
 ただしこの話には一つ注意すべき点があり、それはこの話の本質が「コントラスト」ということにあって、それを無視して単にポールは白ければ良いのだと早合点してはなりません。つまりこの場合、白い柱は黒っぽい背景との組み合わせて強いコントラストが得られることで、はじめて効果が発揮できるのであって、そのコントラストが弱ければいくら柱が白くても効果はあまり期待できないからです。

 ところが困ったことにこの場合はちょうどそれに相当しており、ガレージの壁の色が明るいグレーであるため、白いポールをその前に立ててもコントラストを得にくい状況になっています。
 そのためそれを何とか解決する必要が出てきますが、先ほどの原理に立ち返ればその障害は簡単に迂回でき、要するにこの場合、壁全体に手を加える必要はなく、ポールの付近だけでそのコントラストを強めることを考えればそれで良い理屈になるわけです。
 具体的な解決策としては、例えばポールの背後の部分にだけ、やや暗めの色のプレートなどを壁に貼り付けてやることを試みれば、理屈の上からは十分だということになります。

 そしてどうせですからそのプレートの形状も少し工夫して、効果をさらに増すことを考えてみましょう。それというのもこのガレージでは、バックのコンクリート壁がもともと縦にも横にも四角い形状で、直角を意識させやすいものであるため、プレート形状の工夫でそれをなるたけ弱めるようにすれば、その面でも効果を期待できて一石二鳥だからです。

 ではどんな形状なら良いかですが、なるたけ最小限の大きさで最大限の効果を発揮させるため、ここでは次のようなレンガ色の三角形のプレートを考えてみました。このようにすると、バックのグレーの壁が台形の形状のスペースに区切られる格好になり、直角のイメージをかなり消すことができます。そしてその理屈に従ってポールとプレートを設けた状態が次の写真です。

写真5

 この例では先ほどと同様、白いポールも垂直に立てるのではなく、やや後方に角度をつけてやっています。これはプレートの形状に合わせた工夫で、特にプレートの幅が狭い場合、プレートの上部三分の一ぐらいがポールの背後に隠れて、見る角度によってはその三角形の形状がはっきり認識できないことがあるためです。
 そのためポールをこのように後方に傾斜させてやると、左右のやや斜め方向から眺めたときに、ポールとプレートに立体的にも角度がついて、三角形のプレート形状がはっきり意識されるようにすることができます。
 またポールを後方に傾けることは、建材の他の部分の傾斜角をより鮮明に意識させる効果もあり、その意味でも有利でしょう。この例では真っすぐなポールを使っていますが、他にも「く」の字型のポールを用いて、下半分は斜め、上半分は垂直という形で並べるというバリエーションも考えられます。
 まあ柱やポールは一応は傾斜させずに垂直に立てても構わないのですが、ただその場合、ポールの基部が地面と垂直に接している状態が見えないようにすることは必要で、そのためそれをまとめて解決するために、ポールを草の中から生えているような形で立て、その根元部分が植物に隠れるようにした方が早道で、ここでもそのようにしてあります。
 しかしいずれにせよポールはこのように傾斜させた方が、如何にも「ステルス・デザイン」的な感じがして良いのではないでしょうか。
図5

 ポール上端の工夫

 ではここから後は細かい工夫になりますが、この写真の例ではポールの上端部にアクセントをつけるため、やや太いリングをはめて上端部に膨らみを持たせてやっています。これはリング以外にも、例えば金属球などをポール上端に装着してやっても差し支えありません。
 これらは一見、余計な装飾に見えますが、実はちゃんと理論的にも根拠があり、ステルス・デザイン理論では、「なるたけ小さな物体が目立つようにしてやる」ということが一つの原則であるため、この位置(ポールの上端などは視線を惹きつけやすい場所です)に何か特徴的な形状の物体を置くことは、ステルス効率向上のための有効な手段なのです。

 とかくこうしたものは少し前のいわゆる「近代」デザイン思想では、無駄で幼稚な装飾として否定される傾向にあり、可能な限りそれらを除去したシンプルで無装飾なものが良しとされてきたのですが、ステルス・デザイン理論に照らすと意外にもそれらは科学的にも体感面積を増やす重要な役割を担っていたという、少々驚くべき結論が出てきてしまうのです。
 まあそれはともかく、ここで再び基本原理に立ち返ると、それは要するに注目を惹く形状の物体なら何でも良いわけで、例えば小さな金属製の鳥の彫刻を並べるとか、あるいはもっと渋いところでは家紋を思い切りモダンにアレンジした金属彫刻を配置するなど様々なバリエーションが考えられ、その意味ではここはそれこそ遊び心の絶好の表現場所です。


 配置する物体の注意点

 ただしここで一つ注意点を述べておくと、それらはどんな自由なものでも良いかといえば、そこにはちゃんと一種のルールや制限が存在しており、それは、そこに配置する物体は
 ・サイズがほぼ同程度に揃っており
 ・その色彩もなるたけ揃っていていて出来れば同じ一色だけに統一されている
という条件を満たしていることが必要です。
 この場合、特に後者が重要で、それらをけばけばしい色とりどりのもので作ると、特に遠くから見たときにただ全体が汚くなるだけとなり、一種のノイズを発生して共鳴効果が阻害され、せっかくの効果は失われがちとなりますので、ご注意ください。
 そのため例えばここにディズニーのフィギュアなどを並べたいという場合、赤や青の原色の彩色フィギュアを用いると、下手をすればそのノイズで効果を半減させる恐れがあるため、これは一種の禁止事項です。
 ただしこの場合も、フィギュアの使用そのものが駄目なわけではなく、もしディズニー・マニアの方などでどうしてもそれを並べたいという場合、その色が白や金など、とにかく単色で全部統一されているようなものだけを用いるようにして、なおかつサイズ的にもほぼ揃ったものを用意すれば理論的には一応OKで、細かい形状は雑多なものでも差し支えないということになります。

 またさらに一種の別のバリエーションとして、その位置に物体を置くのではなく、そのかわりに照明を設けてやるというやり方も考えられます。
 ただその場合にも一つ注意をしておくと、この位置に白いLED照明や寒色系の蛍光灯を置くと、しばしば背後のコンクリート壁を白くスポット上に照らしてしまい、そこが閉塞感を作り出してせっかくの効果が台無しになってしまうことがあるので、そこは注意が必要です。

 これはステルス・デザイン理論を夜間照明に適用した場合の一つの原則に基づくもので、ここでは深入りを避けますが、一般に照明が背後の壁を照らして大きな白いスポットを作ってしまうと閉塞感の元凶になるため、それを避けることが必要になるのです。
 そういう場合でも照明の色を暖色系にすると、その障害は起こりにくいため、この位置に設ける照明は必ず暖色系であることが、少なくとも理論からは必要だということになります。(ただし照明を置く位置をもっと下にして、植物の部分に埋め込むような形にすれば、壁にスポットを作らないため、寒色系の照明であってもOKである場合があります。)
 この件に関してはここではあまり深入りできませんが、要は「背後の壁に白いスポットを作らなければ良い」のであって、ここに照明を設ける場合にはその点にご留意ください。


 車を置いた状況

 さてデザインの基本案は以上で一応のゴールということになりますが、この状態で車を置いてみると、次の写真のようになります。模型から判断する限りは、ガレージの地面の有効面積がそれほど狭められておらず、また一応車の出し入れやドアの開閉などをそれほど阻害しないような格好にはなっているのではないでしょうか。

写真6 写真7

 もっとも今はまだデザインの基本コンセプトを理論を使って導き出すという段階で、実物大のものを使ってテストしたわけではありません。というより、実物を作ってみると恐らくデザイン以外の部分から、予想もしなかった問題点がたくさん出てくるはずで、最終的にはそれらと折り合いをつけつつ、さらに改良を加えて完成形に近づいていかねばならないため、今の段階でそれらを無視して形状デザインだけを完成させてもあまり意味がないと思われます。
 ただ、一種の叩き台となる新しいイメージが一応はまとまった形で提供されていないと、現場の経験豊かなプロといえども動きようがなく、逆にそれがあれば、それをゴールのイメージとして頭に置きつつ各自が進んでいけるわけで、この試案も本来そのあたりを目的としたものであることはご理解ください。


 パーツの必要量とコスト

 さてこの状態までで改良前と改良後の写真を比べると、相当にイメージが違うため、一見するとかなりの覚悟を決めた大規模なリフォームのように見え、予算の面でも相当な額がかかっているようにも思えます。しかし見た目の効果の割には使用されている建材の量は意外に少なく、1m分に要するパーツはバラで示せば次の写真ぐらいの程度でしかありません。

写真8

 このぐらいだと、当初のコスト目標である「1mあたり4000円(±2000円)」をクリアするのもそう難しくはないのではないでしょうか。
 写真のガレージの寸法は縦4m、横2mという設定ですから、建材は写真の場合で合計6m分が必要になるわけですが、1m当たりのコストがその程度なら大体2万4千円で出来ることになり、コストの割には効果は悪くなく、少なくとも不況だから一般消費者が到底手を出せないというレベルではありません。
 むしろこれを行なわず以前のままに放置しておくと、家の周囲の体感距離を損しているため、それを経済的損失に換算することも可能です。そこで試みにそれをちょっとソフトを使って計算してみましょう。

 効果の数値計算と体感面積

 計算に使用したのは「Arc Stealth ver2.0」で、これはデジカメで撮影したJPEG画像を入力して、その写真の上をなぞってやることで、二種類の建造物のステルス効率、そして一方の体感距離や体感面積がもう一方の何倍かを計算できるソフトウェアです。
(ただし、このソフトはこういう緑化がなわれた特殊な建材などに直接用いるにはまだ機能不足で、今の段階ではその部分はうまく操作方法を工夫することで補ってやらねばなりません。そのため操作のやり方次第で結果に多少の違いが出てくることがあり、結果の数字もオーダーはともかく今のところ数値は必ずしも厳密に正確なものと解釈するわけにはいきませんので、その点はご了承ください。)

 ここで計算するのは、先ほどの最終的な完成形のものを装着した状態と、何も装着しておらずコンクリート壁がむき出しの状態を比較したとき、ステルス効率の向上で前者がどの程度広々として見え、その体感面積が後者に比べてどのぐらい増えるかということです。
 では早速その計算結果を述べると、まずこのステルス建材の装着によって、形状による音波や電波の反射を直角のコンクリート壁の時の46%に減少させてやることができるという結果になります。
 そして、道の反対側に立ってこのガレージを眺めると、壁が前より遠くに見えて、その寸法が縦横ともに1.214倍に広がっているように見えるということになります。(実際写真を見比べても、そのぐらいの広がり感は感じられるのではないでしょうか。)
 そして面積はその2乗なので、ステルス・デザイン化によってガレージ敷地の体感面積は直角コンクリート壁のままの時の1.474倍に広がることになります。(以下に示すのはその計算画面です。)

計算画面

つまり
 ・反射率:46%に減少
 ・敷地の体感面積:1.474倍に拡大
ということになるわけですが、これは逆数の形で表現すれば言い方も逆になり、ガレージを直角のコンクリート壁が剥き出しの状態のままに放置しておくと、その閉塞感によってどのぐらい体感面積が狭く感じられるかの数字という形で示されることになります。
 それは簡単に電卓で計算できますが、一応そういう形の数字も示しておくと、ここを直角コンクリートのままにしておくと、ステルス・デザイン化した場合に比べて寸法で0.824倍狭く見えることになり、体感面積だと0.679倍、つまり68%に狭くなって、本来の面積の32%分も損をしていることになります。


 体感面積の増大でいくら得をするか

 ではさらに一歩進めて、その損失分を経済的に金額で換算してやるとどの程度になるかを見てみましょう。このガレージの面積は6平方mという設定ですから、その地価を大体300万円と見積もった場合、それが1.474倍に増えるというなら、まず単純計算で
  300万×0.474=142万
となって、とりあえず142万円分の得ということになります。
 ただし実際にはその数字はもう少し小さく解釈することが必要で、それというのも観賞用の庭などと違って、ガレージのための土地を購入する目的は、本来は車を置いておくための物理的なスペースを得ることが主目的だからです。
 つまり土地のために払った値段の少なくとも半分以上は、そのために支払われていると考えるべきで、逆に体感面積に支払われる分は半分以下の、せいぜい3割程度でしょう。そこで、車が空の時などに家の敷地全体を体感的に広く感じさせるための部分に支払われる値段は、ここでは土地価格の30%と見積もってそれで換算することにします。

 つまりそのように、体感面積の価値が土地価格の3割相当だとすれば、142万円の3割ですから約43万円ということになり、要するにこの建材を装着してガレージをステルス・デザイン化すると、体感面積の増大で43万円分の得をする計算になります。
 これは建材の設置コストを大幅に上回る数字で、先ほどのように最も価格の安い建材を用いた場合、建材の設置コストは2万4千円程度だというのですから、その場合だと差し引き40万円で、結局最終的に、この建材を設置すると、それを行わない場合に比べて経済的に40万円分の得をするという計算結果になるわけです。

 まあこの数字自体は完全に厳密なものとして採用するわけにはいきませんが、少なくとも各世帯で見ると、たかだか2万円か3万円の支出で数十万円分の得をする、あるいは放置しておくとそれだけの損をするということだけは言えるのではないでしょうか。
 そうだとすれば、経済的にもその購入は十分ペイすると言って良く、不況下でも十分に消費者に行動を起こさせる力があると思われます。特にこういう場合むしろ、そこを直角のコンクリート壁のままで放置しておくと体感面積の損失によって経済的にも大体そのぐらいの損をしている、と言われた方が不況下では積極的な消費行動につながるかもしれません。


 国全体での経済効果

 ともあれそのようにして、経済的にはっきりプラスであるということが論理的な数字として出てくるということになれば、それは必ず経済世界をマクロ的に動かすにことになり、そこで国全体の数字として見てみましょう。
 先ほど、こういう問題部分はガレージ以外のものも含めると、日本の市街地には全体で大まかに言って数千万箇所はあるだろうと推定しました。
 そこで、まずこの種の建材の消費がもたらす経済効果から計算すると、1m当たり4000円クラスの建材で、先ほどぐらいの長さの部分が4〜5千万箇所あるとすると、
  4000円×6m×4500万箇所=約1兆円
という計算になります。

 これは単に建材が消費されることによる単純な経済効果ですが、先ほどと同じ要領で、逆にこれを放置しておいたことによる都市全体の体感面積の損失分を、金額に換算した数字も求めることが一応は可能です。
 先ほどは個人住宅でガレージ部分をそのような形で放置しておくことの損失は、一ヶ所あたりの経済換算で約40万円程度になると算出しました。そのため一つの町全体で見るとその損失分は恐らく億単位になると予想されます。
 ガレージ部分だけの計算でこうなるのですから、他の部分まで含めると合計損失金額はその数倍から、下手をすれば数十倍にもなり、さらに全国に拡大するとそれはちょっと現実感が乏しいほどの数字になってしまうと思われるので、今はその話は控えておきましょう。
 ただ少なくとも、日本の都市はステルス・デザイン化を考慮せずにコーナー・リフレクターを剥き出しに放置していることで、国土全体で都市部の体感面積をひどく損していて、それを経済換算した場合の損失分も何十兆円分もの膨大なものになっている、ということだけは言えるのではないかと思います。


 L字溝などへの応用

 さて先ほどの見積もりでは、日本全国の市街地において、こういう直角の隅=コーナー・リフレクターを放置している問題箇所の数をざっと4〜5千万箇所と推定しましたが、無論それはガレージ以外に玄関ステップや縁側など全部を含めた数字で、ガレージ用の敷地だけだと恐らくそれよりはかなり少なくて、多分それは1千万箇所にも満たず、せいぜい数百万箇所に留まるものと思われます。
 しかし先ほどの建材で工夫されたパターンは、当然それら他の部分にも適用でき、特に何よりも、もう少し工夫すれば、L字溝の上に設置してブロック塀の閉塞感を和らげることに応用ができるのではないでしょうか。
 つまり日本の市街地の道路脇というのは、次の写真のような光景がむしろ一般的で、直角の塀が道路ぎりぎりに迫っていて、どこの通りを歩いていても、そのほとんどが閉塞感の強い景観となっています。

L字溝

 ところが写真を見てもわかるように、道路と塀の間にはL字溝の僅かな幅のスペースがあり、そして先ほどの建材ではちょうどそのぐらいの幅で最大限に閉塞感を消す方法が工夫されていたため、そのパターンを応用した同様の建材を、この部分に道路に沿ってずっと設置していけばどうかということです。
 これは何しろ合計全長がガレージなどとは比較にならないほど長いため、この部分に道路に沿ってずっと建材を設置し、そこが発生する閉塞感を道路全体にわたって消去していけば、町全体の閉塞感を大幅に弱めてその体感面積を相当に広くすることができるのではないでしょうか。

 無論この場合には排水や通行に及ぼす影響を考えねばならず、その点でガレージよりもかなり注意深くデザイン案を修正する必要があると思いますが、しかしひとたびここに設置が始まれば、経済効果の点でもガレージなどの比ではありません。
 まあそうなると民間だけで完全に自由にやるわけにはいかず、行政レベルで条例などが必要となって、その意味では公共工事の範疇に入ってしまうかもしれませんが、しかしいずれにせよその数字は非常に大きなものになると予想されます。

 そしてこの場合(模型写真を製作してお見せできなかったのが残念ですが)、もし白い支柱を並べる間隔をほぼ同じサイズに統一して、それを百m単位でずらりと並べてやると、共鳴効果の影響は先ほどのガレージの場合よりもさらに強力に効いて、驚くほどの効果を発揮するはずです。
 その際には、建材の細部のデザインなどは必ずしも統一する必要はなく、10mぐらいの単位で、各自がある程度ばらばらなデザインの建材を設置しても差し支えありません。この場合、それらの共鳴効果の間隔パターン(要するに白い支柱の間隔の長さ)だけが統一したサイズになっておりさえすれば十分なのです。
 これこそステルス・デザイン理論の革命的なところですが、とにかくそれさえ守られていれば、恐らくその部分が強烈な共鳴効果を発生して他の部分の余計なノイズを圧倒し、狭苦しかったコンクリート塀の通りに見違えるような広がり感を与えて、裏通り全体が魅力的な空間に一変することを十分に期待できるものと思われます。

 これは例えば地方自治体などで、どこかの町を選んで実験を行なってみても面白いのではないでしょうか。実際、建材の値段が1m4000円ぐらいなら、百mの道路全体で実験を行なってもそれほど大した額ではなく、うまく作れば「絵」になってメディアにも良いネタを提供できるので、一種の町おこし的イベントにもなり、多少予算の厳しい自治体でも実行することは可能かと思われます。

 以上、ガレージを例にステルス・デザイン理論を応用した建材の工夫を行ってみたわけですが、結果として得られたこのパターンだけに限ってもその応用範囲は非常に広いものと予想され、これを見てもこの方法が秘める潜在力の大きさはご想像いただけるものと思います。


↑↑↑Home に戻る↑↑↑