エコー・デザイン理論の検証実験に関するレポート

Update: 2009/01/12
※タイトルを「ステルス・デザイン理論」から「エコー・デザイン理論」に改めました。

 このステルス・デザイン理論に関しては、発表当初からこれを高く評価する多くの意見がある一方で、それと同程度の批判も寄せられた。まあ実のところ初期段階でそのように毀誉褒貶が共に大きいことは、むしろそれが将来性を秘めていることの一種の証拠とも言えるため何ら嘆くべきことではなく、また批判の中でもあまり意味のないもの、例えば単に「欧米のお墨付きがないから駄目だ」式の論拠に服を着せただけのようなものは、時の流れが自然に洗い流して行くことだろう。
 しかし寄せられた批判の中には「実証実験がなされていない」という指摘が少なくからず含まれており、それに関する限りは正当なものとして耳を傾ける必要があると思われる。
 特に拙著「ステルス・デザインの方法」の中で「この建物は閉塞感が少ない」とする議論が多分に著者の主観に頼っていて、客観的なデータの裏付けがなく、少なくともそのデータがない段階ではそれを科学と呼ぶには無理があるとの批判が少なくなかったのである。
 まあそれに関しては、後に述べるようにこちら側にも言い分はあるが、それでもその意見の中に見られる「実証実験が一つでもなされた時点でこれは科学となるが、それがなされるまでは科学ではない」という基本的な主張が正しいものであることは、確かに認めざるを得ないのである。

 そのため当方としても、何とか実証実験を行ないたいと長い間願っていたのだが、実は本気でやろうとすると、その実験は一般に考えられるほど容易ではない。
 ちょっと考えると、インターネット投票でアンケートでも行なえば良いではないかと思えるかもしれないが、このように論争の種をはらんだ問題の場合、そのような方法では、何らかの意図をもって参入してきた者による組織票の悪影響を除去することが非常に難しい。特にインターネット投票のように回答者の顔も素性もわからない状態では、信頼性のあるデータが得られる可能性は非常に低いと言わざるを得ないのである。

 つまりこの場合、十分な信頼性のあるデータを得るには、とにかく中立的でバイアスのかかっていない信頼できる被験者をまとまった数だけ集めることが不可欠なのだが、その一方で、被験者に余計な予断や先入観を与えることは最小限にせねばならず、そのため被験者の募集に際しても、出来れば調査目的を事前に知らせることを極力避けた方が望ましい。
 しかしそれらの条件は互いに矛盾しやすく、しかもその実験は、この理論がまだ世の中に十分知られていない初期段階で行なう必要があり、それが世間に知れ渡った後では先入観をもたない無菌状態の被験者を集めることができなくなる。
 ところが初期段階にインターネットなどでまずい実験を拙速に実施して、その不手際から泥沼的な論争を引き起こした場合、下手をすればその批判合戦の情報から先に世間に広まってしまい、そうなれば先入観に汚染されていないきちんとした実験を行なう機会は半ば永久に失われてしまいかねない。
 つまりそのように実験自体にもともとやや一発勝負的な性格があることを考えると、最初はどうしても慎重に行なわざるを得ず、その実験を現実に実施することは、これを批判する人々の多くが考えるより遥かに難しいものだったのである。

 しかし、朝日新聞の「日曜版Be」で採り上げられたことなども手伝って、東京大学の西成研究室との合同企画という形で、ついに十分な精度を期待できるレベルで実験を行なう機会が得られた。そこで、その結果を以下に報告したい。


   第1次実験   (実験実施日 2008年11月16日)

 この第1次実験では、まず「ステルス・デザインの方法」に載っている最も基本的なことを検証することを主眼とした。具体的に言うと、本ではその冒頭付近に載っている二つの水道橋(アーチ型と四角型。後の写真に示す。)の比較において、「アーチ型の橋(音波や電波を反射しにくい)の方が閉塞感が少なく、周囲の体感面積も広く感じられる」ということが主張されていたが、それが客観的事実であるかどうかの検証を行なったのである。

 この場合、何が問題だったのかというと、まず話の前半部分、つまりアーチ型の方が形状的に音波などを反射しにくいこと自体は、幾何学的な解析を通じて物理学から示すことができる。そして直角部分が除去されたことで反射がどれだけ少なくなるかに関しては、本の中では0.68倍という計算値が示されており、その理論の部分は間違いなくサイエンスである。
 ところがその一方で話の後半部分、つまり本当に人間がアーチ型の橋を見たとき閉塞感が少ないと感じるかについては、「写真を見れば明らかにそうであろう」と述べてあるだけで、特に客観的なデータが示されてはいなかった。実はそれに関しては周囲の意見を聞いてもそう言う人が多かったため、半ば自明の常識のようにそう扱ってきのだが、とにかくこれに関しては、実験に基づく実証データもないのにそう断定するのは間違っているのではないかという批判が少なくなかったのである。
 それは確かにその通りであり、一般的な基準に照らしても、少なくともその客観的な実験データが1個でもあれば後半部分もサイエンスとなって両方の話がつながり、「音波などを反射しにくい建造物は閉塞感が少ない」という主張は一応科学として扱えるが、それがない限りそれはまだ科学ではないというのが一般的見解であろう。

 それゆえその批判に答えるべく、やはり初期段階でその実験データを得ておくことは不可欠と考えて、それが本当に正しいのかをあらためて検証すると共に、もう一歩進んで「体感距離」に関する定性的なデータ収集を試みるのも、この第1次実験の目的である。


◎実験の状況

・この実験の最大の特色は、同一の場所に集められた被験者に抜き打ち的に一斉にアンケートを行い、完全に同一の条件で回答してもらったことである。また「建物の美観に関するアンケート」ということが事前に知らされていると、被験者に先入観が入り込む恐れがあるため、それを最小限にするよう配慮がなされた。

・具体的には、東大の西成研究室が渋滞問題に関する群集実験のために集めていた被験者(36名)に、抜き打ち的にアンケート用紙を配布して一斉に回答してもらうという方法でそれが行なわれた。つまり被験者には、事前にこういう景観に関するアンケートを実施することは全く知らされておらず、開始1分前の直前に初めてそれが伝えられ、あまり余計なことを考える余裕がない状態で、短時間で一斉に回答してもらった。

・さらに質問意図を隠すため、アンケートの名目も「道路景観が閉塞感に与える影響」とされた。また被験者のほとんどはまだこのステルス・デザイン理論の存在自体を知らなかったと思われるため、何らかの偏向した意図をもつ回答者や組織票が紛れ込む可能性はほぼゼロに近く、被験者の先入観も極限まで減らせるよう工夫されていたため、その点で十分な信頼性のある実験であったと言って良いと思われる。


◎質問の内容

 ではアンケートの内容だが、この実験では3つの設問が準備されている。まず最初の「質問1」は最も基本的な質問として、二つの橋の写真を比較して、どちらの景観が閉塞感が強く、逆にどちらが広がり感があるかを直接回答してもらうものであり、具体的には次の通りである。

 質問1
 目の前にこういう景観が開けてきたとき、どちらの景観が広々として感じられますか?あるいは逆に言えばどちらの景観の方が狭苦しい閉塞感を与えますか?





イ・景観A(四角い橋)の方が広々と感じられ、それに比べて景観Bは狭苦しい閉塞感がある。
ロ・景観B(アーチ型)の方が広々と感じられ、それに比べて景観Aは狭苦しい閉塞感がある。
ハ・どちらの景観も広がり感や閉塞感は同じ。

という三択であり、その結果は次のようになった。

・質問1の結果
 結果はBのアーチ型の方が閉塞感が少なく景観に広がりを感じる、という回答が圧倒的で、実に9割に達した。



 これを見る限りでは、本で主張していたことを裏付ける信頼性の高いデータが一つは得られたことになるわけで、少なくともまずこれによって、ステルス・デザイン理論は「科学」への最初の一歩を踏み出したと言って良いだろう。
(注・なおこの写真に関しては、「二つの橋の開口部の面積は同じなのか?」という質問を受けることが多いので、ここで答えておこう。実は一見そうは見えないのだが、この二つの橋の開口部の面積は、両者で全く同じなのである。つまりこの二つは橋の高さや長さが同一であるのはもちろん、アーチ型の半円形の開口部全ての合計と、直角型の四角い開口部を全ての合計は、その面積が同一になるよう設定されており、そのため橋の体積・重量も同一である。そのためアーチ型の開放感が大きいとすれば、それはもっぱら形状面の効果のためで、決して開口部の面積が広いからではないということになる。)


 そして次の「質問2」は、質問1と内容的にはほぼ同等ではあるが、ただもう一歩踏み込んだ形で質問を行なって、それが「体感距離」というものと本当に結びついているかを確認するものである。その具体的な内容は次の通りである。

 質問2
  A、B二つの写真を比べると、橋の大きさや風景の奥行き感(写真の右方向への)は両者で違って感じられますか?
また違うとすればA、Bのどちらが大きく、深く感じられますか?

 イ・Aの四角い橋の方が大きく感じられ、右への奥行きも深く伸びて見える。
 ロ・Bのアーチ橋の方が大きく感じられ、右への奥行きも深く伸びて見える。
 ハ・どちらも同じ大きさ、奥行きに見える。

・質問2の結果
 つまりこの三択は「閉塞感が減っている=体感距離が増えて、あたかも『遠くに大きな橋がある』ように見える」ということが本当に成り立っているのかを問う質問であり、それはもう一歩進めれば「広がり感=敷地の体感面積の増大」という図式の正当性を問う質問でもある。そしてその結果は次のグラフのようになった。



 これを質問1の結果と比較すると、質問1で「アーチ型のBが閉塞感が少ない」と回答した人の全員が必ずしも「体感距離が増していると」いう回答を行なっておらず、その割合はやや減じている。
 ただしそれでも一応その7割程度が、体感距離も増えているとの回答を行なっており、グラフの右半分、つまり体感距離との結びつきを肯定する回答の割合が、それを否定する左半分を大きく上回っていることには変わりはない。
 そのため少なくとも定性的にはこの結果は「音波などを反射しにくい形状は、人間の体感距離増大との間に相関関係がある」という仮説を支持するデータの一つとして解釈して良いと思われる。

(なお、質問1の時より割合を減じた理由としては、事前にも予想されたこととして、Aの四角型の橋は上部が一枚の広い板状になって、それが立ち塞がるようにそそり立っており、その重量感・圧迫感が「橋が大きい」との印象を与えるのではないかという見解があった。無論それは推測に過ぎず、本当にそれが回答において割合を減じたことの理由かどうかは不明である。)

 そして次の質問3が、以上の二つの質問内容をもっと具体的かつ定量的に問う質問であり、その内容は以下の通りである。

質問3
もしBの写真が橋の大きさや奥行き感がAとは違って感じられる場合、その感覚的な大きさはAの何倍ぐらいに感じられますか?
下の図に大まかな倍率のイメージを図示したので、@〜Dの中から選んでください。(ぱっと見た感じの印象で結構です。)



・質問3の結果
つまりこの質問3では、被験者がこの図を参考に、体感距離がどの程度増えているかをずばり回答してもらったわけだが、ただ実施前には、この「質問3」は被験者にとってはかなり難しい設問で、被験者の中にはそれが一体何を意味しているのか理解できない人もいるのではないかと懸念された。
 その懸念もあり、選択肢の数は「体感距離に変化なし」を意味するBを中心に、両方に0.1倍づつ区切ったものを2つづつだけ、つまり@からDまでの5つの選択肢のみを用意した。(本当はもう少し多くの選択肢を用意したかったが、被験者の混乱を防ぐことを考えると、これが限界と思われた。)
 結果的に言えば、被験者の質が良かったこともあり、懸念されたような混乱は起こらず、比較的しっかりしたデータが得られた。

 そして質問3の結果は次のようになった。@からDの回答者数をグラフ状に示したのが次の図で、Bのラインより右が「体感距離は増大している」、左が「体感距離は減少している」と感じた人の割合をそれぞれ示していることになる。



 これを見ると、Cつまり「Bのアーチ型の方が体感距離が1.1倍に増大している、あるいは体感距離が10%増大している」との回答が最も多い。
 このことだけでも、先ほどの質問2の結果を支持する定性的データであると言って良いが、ここではもう一歩進んで、定量的な体感距離のデータを求めてみよう。つまりこの場合、@〜Dのそれぞれの回答者数に、おのおのの倍率を示す「0.8倍」〜「1.2倍」という数字をかけて合計し、全体で割って平均をとれば、一応の定量的な体感距離データが求められるわけである。  (なお実験では質問3に関しては無回答が1通あったので、35通で合計および平均を行なっている。)

 そのようにして求めた結果は、1.074倍という数字になった。つまりこの実験によれば、アーチ型のBの体感距離は、四角型のAの体感距離に比べて7.4%増しているという結果が得られたわけである。
 またこれを2乗して面積の形に直すと、Bの周囲の敷地の体感面積はAに比べて1.15倍、つまり「アーチの橋は周囲の体感面積を15%ほど増大させる効果がある」という結果として解釈できる。

 ではこれを理論値と比較してみよう。以前に述べたように幾何学的な形状から物理的に計算した場合、アーチ型のBは四角型のAに比べて反射率がの0.68倍、つまりアーチ型のBはAに比べて音波などを0.68倍しか反射しないという数値が得られている。
 そしてステルス理論では、体感距離は物理法則に基づくと、この「反射率」の4乗根に反比例するという理屈になるので、反射値に関して先ほどの値を採用した場合、体感距離の理論値は1.10倍ということになり、その比較を次の図に示す。



 つまり理論値では体感距離の増大分は約10%だが、それに対して実験値では7.4%の増大ということになる。両者を比べるとその開きは、実験値が理論値の74%という数字に収まっており、比較的良い一致を示している。

 ただし一応結果は良く一致しているものの、もともとこのこの実験ではそこまでの精度は期待されておらず、その点で多少注意して扱うことが必要である。
 その問題点を言うと、まずこの質問では「体感距離が増大するか減少するか」というデータを確実に採集することに重点を置いたため、被験者が迷わないように、「増大する」に関して「1.2倍」までしか回答の選択肢を設けなかった。
 そしてグラフ3で結果が右寄りに相当にシフトしていたことを見ると、もしその先に「1.3倍」という選択肢を設けておいた場合、それを選んだ被験者が存在したことは十分に予想され、その場合には体感距離の実験値はもう少し高い値に出たかもしれない。

 また理論値の側に関しても、この橋のように薄い板状の物体にアーチ型の大きな開口部を空けたような形状だと、実は現在のソフトウェアでは少々計算がやりにくい。そのためここで採用した0.68倍という数字は、かなり粗い計算の中から選んだもので、ここまでの有効数字を期待できるかは少々疑問である。むしろ理論値に関しては、その計算方法自体をこれから長い時間をかけて現場で実例と突き合わせながら修正していくべきだと思われ、その意味でもこの結果は定量的レベルであまり正確なものとして扱うことは時期尚早だろう。
 しかし少なくとも、定性的に「アーチ型の橋は直角の橋に比べて、それを眺める人間の体感距離を1割ほど増大させる」ということを示す客観的データとしては、十分採用できるものと思われる。

 なお、最後に、実施したアンケートの文面全体を以下に示しておく。




◎実験全体の評価 

 以上に述べたように、この実験全体を通して肯定的な結果が得られたことは間違いなく、細かい問題点はいくつかあるとは言え、これで少なくともステルス・デザイン理論はきちんとした実験に基づく実証データによる裏づけが一つは得られたことになる。
 そのため一応これによって、この理論は単なる仮説から脱して、一つの「科学」へ一歩を踏み出したと言って良いとは思われるが、しかしながら1回の実験だけでは、たまたまそうなっただけではないかという批判の余地がまだ残っていることは否みがたい。
 ちょうど今の状況は、例えば計算問題などで1回だけ計算を終えて一応結果が求まった状態のようなもので、日常的な常識でもわれわれは1回だけの試行ではその結果を信頼せず、少なくとも別方向からもう1回の検算を行なって結果が一致したとき、一応それを信頼できると見なすのが普通である。
 それと同様にこの場合も、やはりこれが一応の「科学」であるとの主張が万人を納得させるためには、独立した実験を少なくとも2回は実施し、その別々の実験が互いに支持する結果を示すことが必要であろう。
 逆にもしそのように2回、独立した実験を行なって、2回とも肯定的な結果が得られた場合、もはやそれを科学でないと主張するためには、今度は批判する側がルールとして自ら同程度以上の規模で反証実験を行なう義務を負うことになり、少なくともそれを行なわない批判は許されなくなるはずである。
 そのためこの場合も、次の第2次実験が、その一応の決着をつける重要な意味をもつことになるわけであり、そしてこの第2次実験はさらに精密な形で行なわれた。


   第2次実験  (実験実施日 2008年9月26日)

◎第2次実験の性格

・先ほどの第1次実験では2種類の橋の景観パターンを用意し、それらの間で閉塞感や開放感の比較を行なったが、今回の第2次実験では5種類の道路景観パターン写真を用意し、前回と同様、それが人間に与える閉塞感や広がり感がどのように違うかを被験者にアンケート形式で回答してもらい、それが理論から予想される順位とどの程度一致するかを調査した。

・そして今回の実験の特色は、その景観パターンを前回よりも解析しやすいシンプルな形状に設定し、それによって体感距離などに関してさらに正確な比較が行なえるようにしたことである。
 またさらにその形状パターンも、今回の第2次実験では少々挑戦的な形に設定されており、それは、その5つのパターンの閉塞感・開放感の優劣が、ステルス・デザイン理論から採点した場合と従来の常識論から採点した場合とで、その順位が全く異なったものになるように故意に設定されていることである。
 両者に基づく予想順位は、後に示すようにほとんど正反対に近いものになるため、実験による順位が果たしてどちらに近いものになるかは、一種の「決選投票」としての色彩を帯びることになり、それを敢えて正面から対決させるという少々冒険的なことを試みたのである。

・しかしそのような都合の良い景観パターンは、既存の風景写真の加工などではそれら全部を正確に作り出すことが難しく、そのためこの第2次実験ではその5パターン全てについて模型を作り、それを本物らしく撮影した写真で被験者に比較を行なってもらうという、少々手の込んだことを行なった。
 この場合、CGで写真を作成するという案も検討されたが、CGで本物に見えるぐらいのレベルの写真を作成するのは現実には困難であり、模型を製作した方がまだしも容易と考えられたため、そちらが採用された。

(なおこの第2次実験は、日程の都合で結果的に先に行なわれることになったが、実験内容も完全に独立したものであり、また異なる被験者をそれぞれ募集して行なわれたので、実験順序はどちらが先でも実質的には問題ない。なお先に行なわれた実験の情報が後の実験の被験者に伝わることを避けるため、両方の実験終了まではそれらの情報は一切公表されなかった。)


◎実験の具体的内容

 まず今回行なわれたアンケートに関しては、レイアウトも含めて全体を以下に示す。
 


 この実験は、前回と同様、被験者に余計なことを考える余裕を与えないよう抜き打ち的に行なわれたが、それゆえその唐突感の中でいきなり5枚の写真の比較実験を行なわせた場合、被験者が何をどう答えればよいのか戸惑う恐れがある。
 そこでこの実験に慣れてもらう目的で、「質問1」としていわば練習を行なってもらい、次に本命の「質問2」として5枚の写真を比較してもらうこととした。では詳細について以下に述べる。

・今回準備された景観パターンは次のAからEのようなものであり、このように少しづつ細部を違えて作った5種類の道路模型を全く同一のアングルから撮影し、それら5枚の写真で比較実験を行なった。



 そしてそれぞれの道路パターンの断面図を次に示す。なおこの場合、特にBとDに関しては道路部分の体積が完全に同一になるように設計されており、また「質問1」でこの両者を比較しているため、下の図では別に両者を並べてその状況を示してある。



・写真に関しては、先ほども述べたようにCGよりも模型写真の方が実物に近い感触があると思われるため、上に示した図面に従って同一縮尺でそれぞれ模型を作り、カメラ位置は固定してすべて同じアングルから撮影した。
(特にBとDに関しては、撮影に関してカメラアングルを完全に同じにできるよう、模型を下部の道路部分を固定したまま上部の壁面上部だけを取り外して交換できるように製作し、模型上部だけを交換して2枚の写真を撮影した。そのためこの2枚の撮影においてはカメラと自動車模型には全く手を触れておらず、完全に同じアングルで撮影されている。ただしカメラは三脚に固定されていたが撮影の際にレリーズを用いなかったので、シャッターを押した時に僅かなズレが生じた可能性はある。)


◎実験の状況

・実験の被験者は40名で、40通の回答を得た。被験者は男子大学生が中心だったが、中には少数ではあるがかなり高齢の被験者も含まれている。(実験場所=DNPホール、協力・大日本印刷)

・実験に際しては、前回と同様、ホールに集合した被験者全員に一斉に用紙を配布して、同時に回答を記入してもらった。(また用紙には被験者に割り振られたID番号も記入してもらった。)
 そのためインターネット投票などと違って、同一人物が重複して何度も回答していることはなく、かなり責任をもった回答が行なわれていると期待できる。

・被験者には、やはり事前にこの景観に対するアンケートを行なうことは全く知らされておらず、開始の5分ほど前に初めてアンケートを行なうことが通告された。そのため、この質問に関して被験者が予じめ何かを考える余裕を最小限に減らすことが可能となっている。
 また、今回も「渋滞中の車内からの景観に関する質問」という名目で行なったため、多くの被験者はこれを「建物のデザインに関する質問」だとは思わず、その点でもバイアスを減らすのに有利だったと思われる。

・また被験者は、アンケート実施の数時間前から窓のないホールに閉じ込められた状態で歩行実験を行なっており、全員が数時間の間、ホール内の全く同じ光景だけを眺めていた。
 そのため通常のアンケートなどで生じがちな誤差、つまり被験者が回答前にそれぞれ違う風景を見ていたことで印象に差が出る可能性(例えば回答者を路上で募集してその場で答えてもらう場合や、あるいは用紙を郵送して各家庭で記入してもらう場合などは、共にその危険が大きい)は極限まで減らされており、この実験では第1次実験よりさらにその危険は低くなっている。

・写真に関しては、AとCの写真がやや不鮮明で、特にAは緑化部分が下端にあって光が当たりにくいため黒に近い緑になって汚れのように見えており、写真だけでは緑化の印象が薄いと思われたため、それが緑化を意味していることを被験者全員に同時に口頭で伝えた。

・以上、質的に見れば実行可能な範囲からする限り、かなり精度の高い実験であったと言えると思われる。


◎実験に関する事前の予想

 先ほども述べたが、この実験の大きな特色は、従来の一般常識に基づいた場合の予想順位と、ステルス・デザインに基づく順位に食い違いが出るような景観パターンを故意に選び、結果がどちらに近いものになるかという、いわば対決を行なっている点である。
 そこで実験結果を述べる前に、両者の予想順位がどういう理由でどう違ってくるのかについて、それぞれの論理から述べておくことにしよう。

@従来の一般常識に基づく順位予想 ・まず従来の一般常識ではどういう順位になるかであるが、大体現在の普通の常識では「閉塞感を減らすための工夫」と言えば、まず「緑化の有無」がその筆頭に来ることが多く、特にパンフレットなどの上で言葉だけで論じる場合、しばしばそれが最も有力な手段として語られている。
・一方それに比べると、形状の工夫はそれほどの重きをもって語られることは少なく、特に「直角の隅=コーナー・リフレクター」の有無に関しては、言及されることはほとんどない。
・また一般には、壁の色などは白っぽく明るいことが「開放感」の条件と見られており、壁の色が暗いことは一般には言葉の上ではマイナス評価となりがちである。
・そして頭上に視界を阻害するような構造物が存在すると、それは開放感の障害となるため、そうしたものは全て除外することが望ましいというのが一般的な見解である。

 まあ大体これが従来の常識的な開放感・閉塞感の基準と考えられる。ただしこれらは正確な聞き取り調査を行なったわけではないので絶対的なものではないが、しかし少なくとも最大公約数的な見解として、当たらずといえども遠からずというところであるとは言えるだろう。

 ではこの観点からAからEの景観パターンを眺めてみるとどうなるだろうか。まず先ほどの点にを念頭に置いてそれぞれの特徴を言葉で表現した場合、それは例えば次のようになるだろう。(なお景観写真につけられたAからEの記号は、レイアウトから比較意図が被験者に知られにくいよう、並べる順番を適度にシャッフルしたためこの順になっているが、本来はBをベースとして、残りのものはその改良形として作られているため、ここではBから順に列挙する。)すなわち、

・Bはまっすぐなコンクリート打ちっぱなしの壁面。
・Cはその壁面のてっぺん部分に高さ数十センチの植物を植えて緑化を行なっている。
・Aも同様の緑化を行なっているが、Cと違って緑化は日の当たる上部ではなく下部のみに行なわれており、壁のてっぺん部分は緑化されないコンクリートのままである。
・DはBのコンクリートの壁面を傾斜させて下部が少しこちらの道路側に食い込んでおり、また緑化は全く行なわれていない。
・EはDと同様の形状のまま壁面の色を黒っぽい暗いグレーにし、そこに何本もの細長い板状の照明用構造物が頭上に覆い被さるように設けられ、それらが上方の空の視界を部分的に遮っている。無論、緑化は行なわれていない。

などという表現になるだろう。無論他の表現もありうるだろうが、最大公約数的な表現の一つにこれらが含まれると想像してもそう間違いではないと思われる。

 そしてこのように表現されたものを、先ほどの一般常識による閉塞感・開放感の基準に照らして採点するとどういう順位になるかであるが、普通に考えればそれは次のようになるだろう。

・先ほどの基準からすれば、まず緑化のなされたAとCが高い評価を得ることになるが、さらにAとCを比較した場合、強いて言えば「てっぺんの目立つ部分を緑化した」Cの方が、目立たない下の隅を緑化したAよりも高い緑化の効果を期待できそうなイメージがあるため、言葉の印象からすると一応Cが最高の評価ということになるのではないかと想像される。
・一方、残りのものは緑化がなされていないので、形状がどうだろうが押し並べて下位に置かれるものと思われるが、中でも特にEは、まず壁の色が開放感に欠ける暗いグレーと表現されることでイメージに陰鬱感があり、さらに頭上に突き出た構造物が「上方視界を遮っている」と言われると、これもマイナス評価になる恐れがあるので、言葉だけで表現するとどうもこれが最低の評価を下されやすいと想像される。
・ではDとBはどうかだが、これは同順位という可能性もあるが、断面図で比較すると、Dは壁を傾斜させたことでその下端部がこちら側にせり出す格好で地面を狭めており、言葉の上ではこれがマイナス評価となる可能性がある。そのためもし壁を傾斜させることに特に他のメリットがないとなれば、「Dの方が地面が狭まっている」との評価でBより下に置かれることが考えられる。

 つまりこの場合には、Eが「最も閉塞感が強い」として最低の評価となる一方、Cが最も開放感のある優れた景観として最高位ということになり、全体の順位は(このアンケートでは回答欄が下から上へ順位を列挙してもらう形になっているので)EからCに向かって

 E→D→B→A→C

という順番になるというのが、一つの予想として考えられるわけである。
 そしてここで最下位のEを1ポイント、次を2ポイント、そして最高位のCを5ポイントという具合にそれぞれに1〜5のポイントを与え、それらをグラフ状に図示した場合、それは下の赤い線のグラフのようになる。



(注・なお先ほどの場合の言葉による別の表現パターンとして、例えばAとCに関して単に
 ・CはBの上部に植物を植えて緑化を行なっている。
 ・AはBの下部に植物を植えて緑化を行なっている。
またDに関しても
 ・DはBのコンクリートの壁面を傾斜させているが、形状が違うだけで緑化は全く行なわれていない。
などと簡単に表現されることもあるかもしれない。しかしこの場合でも、EとCがそれぞれ最下位および最上位になるという基本的なグラフの形は変わらず、全体の傾向はほぼ同じとみて良いだろう。)

Aステルス・デザイン理論に基づく順位予想
 では次にステルス・デザイン理論に基づいた予想について述べるが、こちらは直接ソフトウェアを用いて体感距離を計算できるため、直接その値で比較を行なった方がてっとり早い。そしてその結果を低いものから高いものへ順に並べると次のようになる。(なおこの体感距離の計算は「ArcStealth Ver.2.0」を使用して行なった。ただしこのソフトは、使用者によって値に多少の違いが出ることがある。)



それぞれについて優劣の理由をステルス・デザイン理論に基づいて説明しておくと、
・Bが最下位となっているが、これは下端部分に直角の隅=コーナー・リフレクターがむき出しになっている上、壁自体も垂直のままであるため、極めて閉塞感が強い。
・AとCの順位がその上に来ているが、まずAの場合、その下端の直角部分を緑で覆ってコーナー・リフレクターが事実上消失しているため、緑化の効果と相俟ってBよりも閉塞感が減って広く見えている。
・一方Cは緑化がなされている点ではAと同じだが、その緑化は下端の直角部分を隠す役割を果たしておらず、その消去効果がないため、Aに比べるとせっかくの緑化が多少効果を減じている。
・ここでの比較では、緑化のないDがその形状面の効果によってBやCなどより上位に出ているが、それはDような傾斜壁では下部に直角の隅が生まれず、Bなどで閉塞感の元凶となっている下端部のコーナー・リフレクターが存在しないからである。また壁を傾斜させることは、それ自体が音波などの反射を減らす効果があるため、その合計は場合によってはAやCの緑化の効果を上回ることになる。
・そしてEが最高となっているが、その最大の理由は、周期的に並んだ白い照明用構造物が「共鳴効果」を発生させてステルス効率を強化しているためである。また壁の色を暗くすることはそれ自体、反射を減らす効果があり、確かにこのEは上方視界が構造物で遮られているマイナス面はあるものの、上記のメリットがそれを上回ることでDよりむしろ広く見えるという結果になる。

つまりこの場合は閉塞感が強くて狭苦しいものから順に

 B→C→A→D→E

となるわけである。そして先ほどの結果と比べると、従来の常識論による評価ではEは最下位ということだったが、今回は逆にEが最高位となっており、全体としてほとんど正反対の予想順位となっている。
 そこで先ほどと同様、それぞれのポイントをグラフで図示してみよう。ただし前回の赤いグラフがポイントの値を示すものだったのに対し、今回は体感距離の値が直接計算できているので、グラフはその値で描くことにする。
 その結果は次の青線のようになり、先ほどの赤のグラフと比べるとほとんど真逆と言っても良い形になっていることがわかる。



(なおこれは体感距離を示すグラフなので、本当は先ほどのポイント値を示す赤いグラフとは別物であるが、グラフ全体の形を比較するだけなら、重ねて比較をしても良いだろう。)
 つまりこのように両者のグラフの形が正反対になっているため、実験結果のグラフが青・赤どちらに近い形状になるかは、先ほども述べたように一種の「決選投票」的性格を帯びることになるわけである。


◎実験結果

 では実験値は一体どちらのグラフに近い形になっただろうか。その結果を以下に示すことにする。なお、先ほども述べたように、今回の被験者は40名である。


 まず質問1は、一種の練習的な意味での予備的な設問で、図のように直角のコンクリート壁を傾斜したものに改良した場合を想定して両者を比較してもらうものであり、具体的には

質問1
この道路部分の景観が下のように傾斜した壁面に改良された場合、どのように感じますか?
 A:改良前より閉塞感が減って多少広々と見える。
 B:改良前よりもかえって閉塞感が増えて狭苦しく感じる。
 C:あまり変わらず景観向上の効果はない。
という三択で回答してもらった。



その結果は

  A:32人  B:3人  C:5人

つまり
  A:80%  B:7.5%  C:12.5%

であり、結果は「改良によって広がり感が向上したとの回答が」80%と圧倒的に多かったが、改良してかえって悪くなったという回答者も7.5%いたことになる。

 そして次が本命の「質問2」だが、これは各景観パターンが獲得した合計ポイント数の形で結果を示すことにする。つまり「最も閉塞感が強い」を1ポイント、「最も開放感がある」を5ポイントとして、順位にそれぞれ1〜5までのポイントを与え、それを40通の回答数で合計した合計ポイント数が、結果の数値として示されているわけである。(つまりその数値は最低の場合で40ポイント、最高の場合で200ポイントだということになる。)

 その結果は次のようになり、各景観パターンが獲得した合計ポイント数はそれぞれ
  A:116  B:85  C:92  D:150  E:157
という値となった。
 そしてこれをグラフにして、先ほどの赤と青のグラフに重ねると次のようになる。(なお先ほど述べたように赤と青のグラフは本来は別のグラフなので、これらを重ねる際にはカーブの形状比較がやりやすいよう、適当に設定を調整してある。)図では黒い線が実験値である。



 これを見ると、実験値のポイント数分布が、体感距離の値を示す青いカーブと驚くほど良く一致していることがわかる。(実を言えば事前にはここまでの一致は期待されておらず、われわれ自身にとっても衝撃的な結果であった。)
 ともあれ順位の序列は実験結果では
  B→C→A→D→E
となり、先ほどのステルス・デザイン理論から予想した順位にぴたりと一致するという、かなり驚くべき結果が出てきたのである。

 なお、この結果がたまたま偶然にそうなったのではないかという意見があるかもしれないが、それに関しては、参考として完全に偶然な形でここまで一致する確率がどの程度なのかを示しておこう。
 これは簡単な計算で求められ(5の階乗の逆数)、順位がこのような形で偶然にぴたりと一致する確率は0.83%という値になる。 (ただしこれは順位が一致するかどうかのみに関する確率で、グラフの形自体も先ほどのようにぴったり重なる確率はさらに稀なものとなる。)
 いずれにせよ偶然にそうなる可能性は1%未満であり、このようにかなり正確さを期した実験において、そのような高い一致率を示すデータが得られたことの意義は極めて大きいと言えるだろう。そして本来この第2次実験は第1次実験の追加検証のための実験として位置づけられていたが、無論その目的も問題なく達成され、2回の独立した実験で肯定的な結果が得られたわけである。

 なおこの実験は重要なので、あえて生データを全て公開しておくこととする。それは以下の通りである。




◎結果の分析と実験の評価

最後に結果の分析を少し述べると
・今回、特に事前の予想段階で注目されたのは、緑化なしで壁を傾斜させただけのDが、果たして緑化を行なったAとCに勝てるかということだった。
 実験結果を見るとDの圧勝と言って良く、わざわざ実験時に口頭でAとCが緑化されていることを伝えて強調したにもかかわらずそのような結果になったことを見ると、少なくともこの程度の緑化に対してなら、むしろ形状面で反射を減らすデザインの方が閉塞感を減らす効果において上回るという結果が示されたことになり、ある意味、常識からは異なる画期的なデータが得られたと言えるだろう。

・そして事前にもう一つ注目されたのは、同じ緑化でもそれを下部と上部に行なったAとCの間で果たして差が現れるかということだった。
 この場合、Aは下端の直角部分のコーナー・リフレクターが消去されているが、Cはそれがむき出しになっており、理論が正しいとすればAとCには差が出るはずだが、常識論に基づく限りは両者は同じ緑化であるため基本的にAとCに差は出ないはずである。
 では実験結果はどうだったかというと、グラフを見てわかるようにAのポイントがCを明らかに上回っており、これはコーナー・リフレクターによる効果が実際に現れることを示すデータとして、非常に重要な意味をもっていると考えられる。(そしてこれは実際に将来プランターなどを設計する際にも重要となってくるだろう。)

・さらにEが最上位という結果は、白い照明用構造物が発生する共鳴効果の力が極めて大きいことを示しており、これも非常に重要なデータである。
 このEの道路パターンは、構造物が頭上に覆いかぶさるようして上方視野の障害物となっているため、従来の一般常識からすれば開放感や広がり感という点では不利なはずであり、事前の予想でも、そのマイナスで最下位に近くなるのではないかという予測が一部にあった。
 ところが蓋を開けてみれば、結果はその予想を吹き飛ばしてこのEがトップであった。もっとも面白いことに、実験データをよく検証するとまさにその点を嫌ったと見られる回答が少なくなく、むしろEを一番下だと評価する人が15%もあり、その率は他のいくつかより多いほどだった。
 にもかかわらず、全体を集計すると最上位になったというのは、逆に言えばその不利を補う共鳴効果の力が如何に高かったかを示していると思われる。

・以上、かなり正確さを期した実験においてこのような重要なデータが得られたことになり、かなり意義深い実験であったと言って良いと思う。
 確かに終わってから振り返ると、ここはこうした方が良かった、という問題点はいろいろと出ては来るが、しかし実施の際の難しさを考えるとやはりこのあたりが限界で、これ以上を望むのは無理だったというのが、実行してみての正直な実感である。

 当事者の立場でないと想像しにくいかもしれないが、とにかく実験前には結果がどうこう言うより前に、果たして被験者が短時間で設問の意図を正確に理解してくれるかということが、まず全てに先立って最大の問題だった。何しろ開始の僅か数分前に突然アンケート実施を被験者に通告するという厳しい状況ゆえ、大混乱を生じることなくまともな回答が得られるだけでひとまず成功と思わねばならず、他の件に関しては第二優先という有様だったのである。
 それは裏を返せば、この実験を本当に行なうのが実は如何に難しいかということでもあるが、それを思うと、結果がこれだけの精度で得られたというのは、実に期待を大きく上回る望外のことで、その意味でも非常に貴重なデータだったと言える。

 そして今後のことを考えると、ここから先は被験者の数を無闇に増やしてさらに実験を行なっても、先入観をもたない無菌状態の被験者の調達がだんだん難しくなるため、たとえ数千人規模で実験を行なっても、今度はその先入観のバイアスによる誤差が結果に大きく作用してきて、結局全体の精度はそれほど向上は見込めないと予想される。
 そのため実験室で行なう精密実験はこのあたりにして、むしろ今後は現場の実践の過程でフィードバックを繰り返しながら、長い期間をかけて次第に経験科学としての精度を上げて行くことを考えるのが賢明であろうと思われる。


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