イラク戦争 「無形化実況中継」  2003年4月2日報告

(参照 20030323報告および2003年3月26日報告

 開戦から実時間で10日余りが経過した。そのため現在は無形化時間で言えば開戦2日目に入ったことになる。
 現在の状況を一言で言うならば、開戦初頭の奇襲が大失敗し、そのための仕切り直しをしている最中だと言える。
 実のところ、開戦直後のフセイン殺害が成功していれば、現在の作戦でも十分順調に行っていた可能性が高い。逆に言えば当初、米側が如何にその一点に賭けていたかがわかるわけで、要するに初日にはCIAがフセインに完全に負けたのである。

 ところでフセインとCIAの知恵比べの歴史は意外に古い。それはイランのパーレビ政権の崩壊とそれに続くホメイニのイラン革命の頃であり、革命勃発の2年前、まだ世界の誰もそんなことを予測もしていなかった頃に、フセインはいち早くその発生を予想していたという。
 ところが対するCIAは土壇場までそれを予想できず、そのためテヘランの米大使館に学生が侵入し、大使館員が人質にとられるという事態の発生に至った。おまけにカーター大統領はそれを救出する作戦を命じたが、作戦が失敗した上にヘリの衝突事故まで起こし、砂漠にヘリの残骸と乗員の死体を残して逃げ帰るという醜態を演じた。
 つまりフセインは当時それを見ていたわけであり、彼がどこかCIAを呑んでかかったように行動しているというのも、ある意味納得のいくところであろう。

 しかし何しろまだ「開戦2日目」に過ぎず、しかも今回はベトナムの時と違って、米側から見れば戦争の重心が明確に定まっている。つまりベトナムの時は一体どこを攻撃すれば良いかがわからず、その重心が存在していなかったが、今回の戦争の重心とは要するに依然としてサダム・フセイン一人である。
 そのためバグダッド占領の目的も、極端に言えばフセイン捜索の拠点確保のためだと言えなくもない。そしてこの圧倒的な戦力差で、しかも重心が明確に定まっているというのだから、フセインがいくら知恵で勝っていたところで、そう楽に守れる戦いではなかろう。


今回の戦争における石油の意味
 さてそれはともかく、無形化したこの戦争の状況についてである。次の写真は、この戦争における石油の意味を示すものである。


    写真6

 およそこの戦争にとって石油というものがどのような意味をもっているかを知りたければ、この仮想地球儀の写真1枚を記憶すれば事足りると言ってよい。
 この仮想地球儀では、この地域の主要国の仮想面積は、主として原油埋蔵量の数字を基に算出されている。イランの面積だけは人口によるものの割合が比較的大きいが、中央部の諸国の仮想面積は、原油埋蔵量をほぼ直接反映している。

 これを見ると、例えばアラブ首長国連邦などが意外に仮想面積が大きく出ているが、それは長らく日本の原油の最大の調達先がこの国であったと聞けば、納得の行くことだろう。(なおこの写真に写っている国の合計で、世界全体の原油埋蔵量の65%を占める。)

 さてこの状態で、米国がクウェートとイラクを勢力圏に置いてしまうという事態が訪ようとしているわけである。
 この写真を見れば、その時にもうOPECの力が事実上崩壊状態になることは、一目瞭然であろう。
 そのためこの衝撃的なイメージを見れば、確かに誰しも石油こそがこの戦争の第一目的なのだと思いたくもなるであろうが、しかしそれでもなおこれが最大の動機というわけでは恐らくないのであり、米側の真の戦略目標は、それをすら上回る規模のものである可能性が高い。

 ちょうどそれは、「バルバロッサ作戦」の場合、副次目標として一応コーカサスの油田確保というものが設定されていたが、決して石油が同作戦の最大の目標ではなかったというのとどこか似ている。

 そしてわれわれがもう一つ思いを致すべきことは、とにもかくにもここ数十年間、アラブ側にとって原油の存在は、文字通り彼らがこの現代世界を生きていくための切り札的存在であり、OPECはその象徴だったということである。
 つまり事態がこのような形で終結を迎えたならば、その後の世界には、この写真から容易に想像できるような喪失感を抱えた状態で、アラブ世界がそこに残るということになる。それが何らかのリアクションにつながらないと考えるのは、想像力の欠如というものだろう。