以下に開戦初日の状況を見ることになるが、その前に時間のスケールに関して、無形化した戦争の基本法則について述べておかねばならない。それは、一般的に現代の無形化した戦争は、過去の軍事的戦争の1/10の速度で進行するというメカニズムをもっているということである。
それは「消耗速度比」という理屈によって現実にそうなるのだが、それを端的に示すのは次の事実である。
それは、核兵器の登場以前の代表的な純軍事的戦争である第一次および第二次大戦では、ドイツが倒されるまでにほぼ5年を要しているのに対し、経済力などの無形パワーを用いて戦われた東西冷戦=「準三次世界大戦」では、ソ連が倒れるのにほぼ50年を要していたことである。
要するにこれを見てもわかるように、この規模の大戦争は、現代の無形化された環境では大体50年をスパンに全体像を見ることが必要である場合が多いというわけである。
そしてわれわれが現在見ているのは、単なるイラク戦争というよりむしろ米国による大きな「民主帝国戦争」の一部ではあるまいかとの感想は、多くの人々の共有するところであろう。
そのためここで先ほどの論理を大胆に延長すると、これもやはり規模の点では実時間で50年程度を要する「準四次世界大戦」という、無形化された大戦争の一環であると、あらかじめ見ておいた方が、より歴史の実相に迫れる可能性が高いものと思われる。
つまりわれわれの実時間の10年間を1/10に圧縮して「1年間」とみることで、過去の5年程度の大戦争の作戦経過とのパターン比較が可能になるというわけであり、そこで第二次大戦や「バルバロッサ作戦」との比較ということが意味をもってくるわけである。
そのため必然的に、以下においても実時間の10日間が無形化時間の1日に対応するとして分析がなされる。
開戦初日の戦況
そういうわけで、この場合も「開戦初日」は開始からの10日間を意味することになり、その意味では現時点(3月26日)はまだ開戦初日の中にあることになる。(要するに「開戦初日」は3月20日から3月29日までを意味している。)
さて次に示す画像が、無形化のフィルターを通して可視化して見た場合の中東地域、および現在の戦況である。
写真4
現在地上においては、米英軍がその力をイラクに叩きつけ、クゥエートからバグダッドへ向けて破竹の進撃を行なっており、その点ではバルバロッサ作戦初日の状況とも共通する。(ただし現時点ではまだ先遣隊がバグダッド近郊に接触している程度に過ぎず、本格的抵抗に遭遇するのは間もなくである。)
一方、情報制空権を巡るメディアの空の戦いでは、注目すべき状況が見られている。そもそも今回の作戦は、従来の多くの場合と異なって、米国は絶対的情報制空権を確保しない状態で開戦に踏み切ったという点で、歴史的に見ても少々珍しいケースであったと言える。
そのためカタールに根拠地を置く衛星テレビの「アルジャジーラ」などの存在は、本来かなり邪魔であるはずだが、むしろ現在までのところ全体的に見ると、米側はそれを逆手にとる情報制空戦略をとってきたように見られる。
そもそも今回の作戦全体の最大の主眼は、要するにフセイン一人なのであり、フセインを物理的に取り除くか、あるいはイラク国民にフセイン死亡を何らかの手段で確信させて抵抗意欲を奪うことをすれば、それで戦争全体の決着がつく。
そのため米英側は開戦初頭の攻撃でフセイン殺害を図ったが、それにはどうやら失敗したようである。しかしその試みは今後も継続され、そのたびにフセイン死亡の可能性が宣伝されて、イラク側はその都度、情報戦の迎撃を強いられることになるだろう。
その場合問題となるのは、イラク側の無形エアパワーの「滑走路」たるテレビ施設などを、物理的に破壊した方が良いのか、それともむしろ故意に破壊せずにその機能を温存させた方が良いのかということである。
後者の場合、もしその状況でイラク側の迎撃がある時突然、自発的に止んでしまったならば、イラク国民はその理由をフセイン死亡に求める以外なく、迅速に国民および軍隊の抵抗意志を奪えることになる。
推測によるしかないが、どうやら当初米側は後者を採るつもりでいたのではあるまいか。ところがつい先ほど、開戦から(実時間で)6日たってから、それまで野放しになっていたイラク国営テレビが初めて攻撃を受けて、電波を停止しているとの情報が伝えられてきた。
どうもこれだけから判断する限りでは、開戦初頭のフセイン殺害計画が外れたため、米側はやむなくここへ来て方針転換を図っているかのように見えなくもない。もしだとすれば、現在米側の陣営内部もそう自信をもって作戦を遂行しているというわけでもなさそうである。
ともあれ無形化して見た場合、今回の戦略全体がどことなく「陸側」よりも「空側」に軸足を置いて立案されているように感じられる。
全般状況に関しては、要すれば、米側は数量的には圧倒的でありながらも、「開戦初日」早々から目算の外れや齟齬が目立っている。
「戦争広告代理店」の待機
前回の湾岸戦争では、テレビ映像の背後に広告代理店の手が大規模に働いており、イラク兵の残虐行為を涙ながらに証言した少女が、実は大手広告代理店の演技指導を受けたクゥエート大使の娘だったということなどが戦後に明らかとなって、人々に大きな衝撃を与えた。
現在のところ、その疑いのあるような映像はさほど流れてきてはいないが、しかしいずれはそれらは何らかの活動を始めるものと思われる。
それはあるいは今回のイラクの軍事作戦終了までは本格的には使われないかもしれず、むしろ戦後処理の段階になったり、またさらにその次の中東全体の民主化などを狙い始めた時点で、戦争の正当化を支援するために本格的に活動を始める可能性が高い。
それゆえ恐らく現在、そのための航空戦力は「米本土で待機中」というところであろう。無論その際には日本のわれわれの頭上にもそれらが大量にやってくるはずである。
写真5
なお無形化戦略解析では、運動エネルギーと資金量の比例関係を鍵に、テレビの15秒CM1回のオンエアが航空爆弾2kgの投弾に等しいと計算されており、そこからメディアの力が航空機何機分に換算されるのかの仮想機数を割り出すことができる。
しかしこの場合には、そのようにして巧妙に用意された映像が、世界中のテレビ局で増幅されて流されるという特殊事情があるため、単純に広告資金量だけからはその仮想機数を割り出せない。