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仮想地球儀

 まず最初に「仮想地球儀」について説明しておきましょう。

・役に立たなくなった「現実地球儀」
 つい数十年前までの世界では、領土面積の大きさと国力は普通は比例していたものであり、「強大国イコール広大な国土」という図式がありました。
 しかしパワーの無形化が進行して経済力が国力の指標になるにつれて、その図式は次第に崩れ、例えばロシアのもつ物理的な国土面積はあまり意味をもたなくなる一方、むしろ日本の経済力のほうが大きな意味をもつようになりました。
 それゆえ無形化された世界の力関係を表現する「仮想地球儀」というものがあったとすれば、むしろ経済力の大きさがここでの「国土の仮想面積」として表われているはずで、例えば日本は広く、ロシアは狭く表現されているはずです。
 そのようにして各国のもつ無形パワーを面積に換算し、根本的に計算をやり直して球体の上に表現したのが、ここに示す「仮想地球儀」です。



・球体表現は難しい
 実のところこうした考えそのものは何ら真新しいものではなく、年鑑などのグラフィックページで各国の経済力を目で比較するため、各国の地形図を経済力に対応するよう拡大縮小して並べた世界地図を作るなどというのは、昔から行なわれていることです。
 しかしながら、これは2次元の平面地形図としてやるのは簡単なのですが、3次元の球体にすることは格段に難しくなります。なぜなら平面地図の場合、縮尺の値をノンスケールにしてごまかしておけば、各国の地形図を縮小コピーで比率だけ調整して貼り付ていくだけで簡単に世界地図を作ることができます。
 ところが球体の場合、球の直径というものがあるために、比率だけのノンスケール地図では球の上にどのくらいの大きさで描けばよいのかがわかりません。つまりこの場合、具体的な「絶対値」として「ある国のGDP何億ドルが仮想面積何平方キロに相当する」という換算値がない限りは表現不可能なのです。

・それを可能としたもの
 この困難ゆえ、これまで欧米などでも平面世界地図としての表現はしばしば行なわれていたものの、球体の表現は不可能でした。そしてそれを可能にするためには、無形パワーを過去の国際社会の物質パワーに対応させる「無形化戦略解析」の力がどうしても必要だったわけです。
 そしてここでは単に経済力の表現ばかりでなく、人口、文化、宗教なども総合的に表現されており、また面積だけでなく各国間の仮想距離についてもある程度配慮して、そこから国土の形状などが割り出されています。
 その意味では、ここで示しているのは事実上、世界で最初の本格的な仮想地球儀であると言ってもそう罰は当たらないでしょう。実際将来において、パワーの無形化という現象の逆行が起こらない限り、従来の地球儀は次第に観光用ぐらいにしか役に立たなくなり、真の国際関係の表現には、遅かれ早かれこのような仮想地球儀(ただしその地形は刻々と変動していきますが)が主力になっていかざるを得ないものと考えられます。

・仮想地球儀・日本周辺



 この写真は仮想地球儀の日本周辺を捉えたものです。黄色い線で囲まれている部分が日本区域を示し、東側(向かって右)に米国が、逆に向かって左が中国に当ります。
 ここでの日本の仮想面積は、GDP値をもとに約460万平方kmと算出されており、それは現在の物理的面積の12倍に相当します。そしてその経済・文化が米国とアジアの仲介的意味をもっているということなどを加味して、国土の位置および形状はこのような形に想定されています。

・半導体文明の中心地



 この仮想地球儀では、世界の半導体文明の中心地に「シリコン・リーフ」という名を与えて、写真の位置に描いています。
 これを大堡礁地帯(リーフ)として描いているのは、半導体文明は産業という観点からすれば陸地として描かれるはずですが、そこでの行動は多くの理系研究者−−艦艇−−なしには成り立たず、陸と海の混成的性格をもたせるため、そのように表現されています。
 またこの半導体文明というものは、米国と日本の間で発達してきたことは間違いなく、それゆえその位置はここに定められています。
 もし貴方が半導体産業にかかわっておられる方だとすれば、昼間の大半はこの区域で活動されていると思ってよいでしょう。

・「金融スーパーハイウェイ」の可視化



 90年代の経済世界を揺さぶり続けた国際金融の存在は、仮想地球儀上にも表現されています。
 90年代までにこの世界には、国際的な資本が自由自在に移動するためのルートが誕生していましたが、それは仮想地球儀上では赤線のように、非常に細い陸地が帯状に(ちょうどアリューシャン列島などがもう少し隆起してつながったような形で)生まれていて、そこに無国籍の鉄道の路床が生じているという形に表現されています。
 問題なのは、今やその鉄道上から投機資金の巨弾が飛んでくるようになって、国内にあった鉄道(銀行)線路の多くがその射程内に入ってしまっていることであり、バブル崩壊とそれに続く日本経済の危機は、すべて基本的にその戦略的条件の変化によるものです。
 ここではオレンジ色の円で示した位置が、その日本経済の惨状の中心地で、「経済の可視化」で示されている写真のいくつかも、その仮想的な撮影位置はこの付近です。

・日本周辺の地政学地図



 一般に「地政学」は日本ではあまり馴染がないので、これはむしろ欧米人好みのビジョンであると思われますが、ともあれ写真上方に赤で「仮想的ハートランド」として描かれているのが、仮想的地政学上の最重要地域と考えられる場所です。
 伝統的な地政学では、一般にもしそこを陸軍力で占拠すれば、結局世界全体を制することが可能になるような地域を「ハートランド」と呼び、昔の地政学ではそれはユーラシア大陸の中央部に置かれていました。
 そして現在の無形化した環境では、将来もし仮に米国のウォ−ルストリ−トと中国のビジネス界が手を組んで一体化した場合、対抗不可能な巨大な仮想的陸地の塊が誕生することになり、結局その潜在力が過去の「ハートランド」に最も近い意味をもっていると考えられます。
 それゆえ将来への潜在力という観点から、この仮想地球儀では米国と中国をつなぐ位置にそれを置いており、米国は長期的に見て、そこの制圧を最大の戦略目標としているように思われます。
 一方この仮想地球儀にはもう一つ、鍵となる重要地域が存在しており、それは写真の下方、青の点線で示した巨大な仮想的海洋です。
 この部分は、現在の無謀なグローバリゼーションとそれによる文明の縮退に対する、潜在的な復元力の存在を意味するものとして描かれています。
 しかしそうは言っても人類にはその方法がまだよくわかっておらず、これから膨大な知的努力が要求されることになるでしょう。その意味でここは、広くて渡ることの困難な、巨大な未開拓の海洋として表現されているわけです。
 これは先ほどの「仮想的ハートランド」と対をなす存在であり、恐らく日本の将来もここにしか存在しないものと考えられます。ここは我々の希望の海です。

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