「ステルス・デザインの方法」出版のご挨拶


 随分長らくお待たせしましたが、ステルス・デザインに関する著作がようやく刊行となりました。
 正式なタイトルは「ステルス・デザインの方法」、副題が「イルカの記憶と都市の閉塞感を減らす技」、通商産業研究社刊、190ページ、税抜き価格が1800円となっています。

 扱う内容は、今までこのサイトのプレビューなどでも紹介したように、一般に広がり感のある建物は、電波や音波を反射しにくい形状をしていることが多い、という興味深い事実を基に、ステルス技術を建物などのデザインに応用して現代都市の閉塞感を減らすというものです。そしてこの本では模型やCGなどを多用し、この破天荒なアイデアを本格的に世に問うものとなっています。

 今回は本の厚さが「物理数学の直観的方法」の最初の版とほとんど全く同じページ数にまとめられていることもあり、同書の最初の読者の中にはこれを手に取ったとき、どこか懐かしさを覚えられる方もあるかもしれません。

 そして本の中では、例えば実際に過去の優れた建造物のデザインがどのぐらいステルス性が高い(つまり電波や音波を反射しにくい)ものになっているかを、京都の三十三間堂を例にとって検証するなどという、非常にユニークな試みなどを行う一方、家の身の周りでこれをどう応用するかも紹介されており、実際に読者がその気になれば、殺風景だった自宅や部屋などを改良するために明日からでも使えるものとなっています。

 これは応用範囲も極めて広く、デザイン思想に甚大な影響を及ぼしかねないものであるため、ひとたびこの理論が世の中に広まったならば、下手をすればそれが都市の光景を一変させてしまう可能性もあながち否定できません。
 実際もし本書が1万部以上出回ったとすれば、その新しい技術思想の少なくとも一部は都市に深く刻印されて、もはや決して後戻りしないのではないかとさえ考えられます。(恐らく本書を実際に読まれた方は、それが必ずしも誇張ではないことがご理解いただけるでしょう。)

 また、今回も「物理数学・・・」以来の「伝統」にのっとって、一般メディアへの広告は一枚も出さずに勝負することになっており、火がつくかどうかはやはり同書と同様、口コミとネットに全面的に依存することになります。
 そのため、現在これをご覧になっている方のご協力が大きくそれを左右することになるわけで、「広告費ゼロで社員3人の小さい出版社から出した本が何部行けるか」の記録に再度挑戦、というところでしょう。

 しかし今回はそれに留まらず、先ほども述べたように本書がどの程度世の中に出回るかは、冗談ではなく都市デザインの将来に大きな影響を及ぼす可能性を秘めているため、ある意味で皆さんのここでの行動が世の中を動かし、ひいては都市の顔を変えていくことにつながりかねないとも言えるわけです。
 まあそれは話半分としても、とにかくこの本をどこまで世の中に流布させられるかの挑戦に、力をお貸しいただければ幸いです。

 なおわれわれパスファインダー物理学チームでは、現在建築やデザインに携わっていて、その立場からこの技法を発展させたいという方があれば、一緒にこれを育てていきたいと考えています。
 大体、物理屋がデザイン作業の代行をすること自体、かなり無理があることで、できれば具体的なデザイン作業は各現場で本職のデザイナーに任せ、パスファインダー・チームそのものは、何か物理がらみの難題が起こった時に駆けつける戦力として中央に存在・待機する、という形が望ましいと考えています。
 本にも書きましたが、これは単なるビジネスの話を超えて国にとって大切なものになるとも予想されるのですが、それを支える人材の量はやはり何と言っても不足しているのが現状で、そういう方の御参加は是非とも歓迎したいところです。


 では以下に目次を紹介しておきましょう。一見内容が多く見えますが、分量的には僅か190ページのかなりコンパクトなものにまとめられており、文系の読者でも平易に読めるよう配慮されています。

 目次

第1部 ステルス・デザインの概略

 第1章 ステルス・デザインで都市の閉塞感を減らす

  ステルス技術とスタイリング
  比較写真の例
  ステルス技術の第一歩−−直角を追放せよ
  コーナー・リフレクターの原理
  目で見た場合のステルス・デザイン
  コーナー・リフレクターの処理方法

 第2章 現存するステルス・テクニック全紹介

  尾翼部分の処理
  楔形の凹凸
  波を消すメカニズム(1)
  波を消すメカニズム(2)
  ダクトなどの工夫
  金属棒はなぜ嫌われる
  トラスの不利と有利
  ステルス技術史への影響
  曲面と平面はどちらが有利?
  デッド・アングルの応用
  吸収材の使用
  ステルス技術の限界と有効性

 第3章 なぜわれわれの脳はそれを感じ取るのか−−イルカの記憶

  生物とセンサー
  意外なほど多い自然界のアクティブ・センサー
  進化の名残り
  イルカのソフトウェア
  進化の神秘

 第4章 もう一つの大きなステルス技術−−波長効果のマジック

  開けた場所の奇妙な閉塞感
  この閉塞感のメカニズム
  波長の選択がもたらす効果
  小さな物体をシャープに見るための波
  遠くまでをぼんやり見たい時の波
  なぜそれが閉塞感として現われるか
  都市空間への応用
  まとめ

 第5章 共鳴効果とノイズの突破法

  目標物のジレンマ
  共鳴効果によるノイズの突破
  ホワイト・ノイズの厄介さ
  ホワイト・ノイズの低減法
  スペクトル・グラフの有用性
  まとめ

第2部 過去の名建築に秘められたステルス・デザインとその能力

 第1章 ステルス・デザインから見たモン・サン・ミッシェル修道院

  この建築物の複雑さ
  注目点1・全体の形状
  注目点2・共鳴効果の応用部分
  注目点3・迷路のような隙間
  注目点4・他の共鳴効果
  注目点5・控え壁の散乱
  注目点6・西欧建築とアーチ
  秘められていた驚異

 第2章 ステルス・デザインから見た京都・三十三間堂

  三十三間堂の広がり感
  三つの注目点
  広がり感のポイント1・直角の凹みの処理
  広がり感のポイント2・屋根の傾斜
  広がり感のポイント3・白扉の共鳴効果
  実際の数値
  ステルス・デザインとしての日本建築
  三点それぞれの比較
  古都のステルス・デザイン性
  三十三間堂の解析が教えること
  現代都市環境の中のステルス・デザイン


第3部 ステルス・デザイン技術は都市の未来をどう変えるか


1・都市景観への応用

  現代都市の乱雑な景観
  景観向上のマジック
  「美化」の新しい概念
  ヨーロッパの街並の秘密
  体感面積のコントロール
  真の「広さ」とは
  様々なステルス・デザイン思想

2・具体的な着手点

  身近にある着手点
  (1)駐車場の下の隅
  (2)マンションの廊下
  (3)自動販売機

3・現代にとっての意義

  駄馬の鑑定法
  巨大システムとデザイン
  現代の日本にとっての価値


付録

 付録1 実際のステルス・デザイン建築の例

 付録2 身の周りで簡単に使えるステルス・デザイン技術
  部屋の隅への応用法
  さらに効果の高い建材の例
  取付け方法の工夫
  天井部分への適用
  共鳴効果による工夫

 付記


・なお本の表紙は、トップにも掲載されている、青い水の中のモン・サン・ミッシェル修道院の写真です。(上半分だけを見て実物写真と勘違いした人もいるのですが、自前で製作した模型による特撮写真です。)
 一方、裏表紙は黒バックに白い線図の非常にクールなものとなっているのですが、残念ながら来年度に出る版からはここにバーコードが入ってしまうことになり、裏表紙の美的構図はかなり損なわれてしまうと予想されます。
 そのため、きれいなカバーの版を持っていたいという方は、なるたけ本年度中の入手をお勧めします。

Pathfinder Physics Team