Pathfinder Physics Team

無形化西方電撃戦・映画化シナリオ構想  長沼伸一郎  

1997年に世界の経済界を揺るがせたアジア通貨危機から、ちょうど10年になる。今ではこの事件の存在を多くの人が忘れてしまっているが、しかしその後の10年間をフォローしてみると、これが如何に歴史そのものの進路に影響を与えた大きな事件であったかが、あらためて明らかになってくる。
 実際その意義は9.11に匹敵する、というより、この事件自体が9.11の遠因であったという言い方もできるのであり、見方によってはむしろこちらの方が大きな事件だったとすら言えるのである。
 にもかかわらず人々の認識にこれだけ開きがあるというのは、要するにこちらが「絵」になっていないという、その一点にある。    そのため以下に、この事件を一種の無形化された電撃戦として可視化し、戦史スペクタクル映画として映像にするという、驚異的な試みを行なってみたい。
 このシナリオでは巨額の投機資金が飛び交う様が巨大な砲撃戦として表現され、投射された砲弾量なども当時の投入資金を基に精密に計算されていて、その規模がいかなるものであったのかを戦史として実感することができるようになっている。
 そして当時の、まだASEANなどの東南アジア経済が将来の主役と目されていた時期にそれが突如崩壊して、韓国がIMFの支配下に入るまでの出来事が、時間経過も含めてほぼ史実どおりに再現されている。つまり極端に言えばこの種の映画によって、人類は経済戦争を初めて「目で見る」ことになるのである。

この映画の性格

 この映画のスタンスとしては、良くも悪くもダリル・F・ザナック(「史上最大の作戦」の製作者)風の大作が想定されており、見終わった後に観客がそのスケール感に圧倒されながらも、同時にマーチ風のテーマを何となく口ずさみながら帰れるようなものが考えられている。(とにかく最近は本当にそういう映画が作れなくなってしまっており、その再生の試みであると思っていただければ良いだろう。)
 そしてここでは、このアジア通貨危機を第二次大戦における1940年の「西方電撃戦」のイメージにオーバーラップさせる形で描いていく。実際、第二次大戦初期にフランスが電撃戦で瞬く間に粉砕されて降伏した経過は、特に時間経過などを比べると驚くほど良くこの事件と対応づけられるのである。(そして予告として付け加えておくと、イラク戦争の勃発が第二次大戦における独ソ開戦に対応づけられ、それらは壮大な対比年表を構成していくことになる。)
    構成に関しては、骨格となる歴史的大事件そのものが巨大で複雑であるため、映画として成立させるために、ここでは一種の狂言回し役を作って彼らを中心にストーリーを展開させる。また歴史の側が複雑巨大なストーリーで展開している以上、狂言回しの周りのストーリーは比較的単純である必要があり、下手な人間ドラマなどは不要である。
   また一般に娯楽性を強めるためには「敵役」の存在が明瞭であることが不可欠であるが、今回その役を担うのは米国、というよりはむしろいわゆる「為替金融帝国」である。(厳密に言えばこの「帝国」はそれよりもう少し拡大された概念で、トックビルが描く抽象的で完全に非人格化された専制権力を意味しており、特定の金融資本グループなどのことではない。)
   
そもそも最近ハリウッドで作られる戦争映画がどれもこれもつまらない理由の一つが、現実世界で米国自身が強くなりすぎた結果、米国側を善玉にしてストーリーを作る限りは、誰を敵役にしてもそちらが相対的に弱者となってちゃちに見えてしまうことである。
 要するに米国が責任をもって悪役を引き受けないために、まともな映画が成立しなくなっているのであり、そのためもあって、この出来事を描くには、どうしても背後にある「帝国」の存在を、強い魅力的な敵役として描写せねばならない。そして敵役といえども悪を強調することはせず、むしろ「強く、冷たく、格好良く」というスタンスで描写する。
   
ただし今回はそれら物語的な造形よりも、とにかく「経済戦争を眼で見えるようにする」という巨大な試みを可能にするという点に重点を置くこととして、その他のもろもろのポイントは続編などのシナリオにおいて試みたい。
 そしてストーリーがどう史実に対応しているかは、シナリオの中に「注」で示されている。実際この事件は、グローバル経済の台頭、中国経済の巨大化の開始、山一證券の崩壊、果ては韓流映画の端緒となったことなど、驚くほど多くのことのきっかけを作っており、読者はそこをチェックするだけでも、今まで見えにくかった同時代史を良く理解することができるだろう。

  「西方電撃戦1997」(仮題)シナリオ原案      長沼伸一郎       写真制作、OPT班   

オープニング部分

 オープニング前のまだ暗い画面。その暗い無音の画面の上に、無形化に関する印象的な予備知識が字幕で次々に流れていく。例えば   『現代の経済世界ではメディアの力は空軍力に似ており、それが空中から投下する情報が世界を動かす力は、時に空爆能力に等しいものがある・・・
・・・そして現代世界で15秒CM1本がオンエアされることは、2kgの航空爆弾が投下されるのに相当する力がある。・・・・ (そしてここで飛行機の爆音が聞こえてくる。昔懐かしいB17のような爆音である。爆音がだんだん大きくなる中、字幕はさらに続く。)
・・・また現代の為替投機市場では、巨額の資金が飛び交うことを投資銀行のディーラーたちは「巨弾が撃ち込まれる」と表現しており・・ ・・・その取引単位は通常100万ドルが「1本」と呼ばれているが・・・
・・・投機市場に撃ち込まれた資金「1本」のエネルギーが現代の国際政治を動かす力は、砲兵戦で24センチ列車砲弾1発分のエネルギーが戦局を動かす力にほぼ等しい。・・』
などの字幕が流れていく。そして画面が次第に明るくなる。

冒頭場面。アジア陸軍の快進撃  
画面が明るくなると、飛行機から下を見た空撮映像で、下を白い雲が流れており、聞こえていた爆音がその飛行機のものだったことがわかる。雲が切れると、地表を戦闘車両が高速で突進している空撮映像となる。
   地表は、オランダの低地のような感じ(ただし湿地帯ではない)で、緑の美しい地面の上に何本もの道路が走っており、そこを並行的に数台の戦闘車両が疾走している。(映画「レマゲン鉄橋」の冒頭で米戦車が岡の上を疾走する場面のイメージで。)
 そしてアジアの新型機甲師団が、アメリカ軍の部隊と小競り合いを演じて、たちまち勝利する場面を描き、道路上を高速で移動する装輪(タイヤ)式戦闘車両の戦術とその強さを、序盤の戦闘シーンを通じて観客に理解させる。
(この場面を通じて、アジア人将校たちを欧米の将校と同等以上の堂々とした存在として描き、アジアの貧乏くさくて弱いイメージを完全に払拭する。以下の演出はとにかく早いテンポで。観客が台詞の速さについてこれないぐらいがむしろ望ましい。)
   続いて機甲師団を地上から見た映像に移る。土手の脇の道路を、何両かのタイ陸軍の最新式の戦闘車両が高速で走っている。先頭の3両ほどは、装輪式(タイヤ式)の装甲車に戦車と同じ砲塔を載せた車両で、後ろに続くのは、やはり装輪式の装甲車である。
     
   

(写真1)

縦列は急停止し、装甲車から飛び降りた下士官が土手の向こうを双眼鏡で観測して報告する。「2時方向に戦車!米国製の3型戦車です。距離2000。さらに遠方、4時方向、距離4000にもう一両います。」
  「よし。『神の眼』で敵味方を確認しろ。だが今は送信を傍受されたくない。通信車の指向性アンテナだけを使え。空は少し雲があるがちゃんと狙えるか?」 「今は雲で隠れてますが、一分前に中継飛行船の位置を確認してあるので十分に狙えます。」通信用装甲車の頂部についている、衛星放送用のものに似た小さなアンテナが空を向く。「こちらの位置座標を送信します。」
 車内の無線席で兵士がスコープを覗き込む。スコープには赤と緑の点が表示されている。「IFFから返答が来ました。2時方向のは赤表示です。敵と確認!交戦OKです!ですが4時方向のは緑表示、一応味方のようです。」
(注・この『神の眼』は、シューティング・シミュレーションゲームでよく画面の脇に表示されている、位置関係表示用の小画面と事実上同じようなものである。)

   (写真2)
  「それじゃあいつら、敵同士なのに交戦せずに睨み合ってるだけなのか?」「敵味方関係が入り組んでるみたいですね。多分向こうさんの『神の眼』スクリーンには、お互いに中立の黄色で表示されてるんでしょう。」
「まあ『神の眼』の言うことには従うしかないからな。あれがどこの誰だかはよくわからんが、とにかく2時方向のやつだけを攻撃する。前進!」装甲車は走り出す。
  「歩兵を展開!」指揮官が命令すると、走り続ける装甲車から一定間隔で歩兵が飛び降りていき、着地すると土手の上に登って配置について、短時間で防御ゾーンを作る。
  「アメリカの歩兵は戦車の後ろに団子になって固まってます。」「ようし。第一分隊の歩兵に連絡しろ。目標は敵歩兵。集中射撃を行なう。射撃用意!」地面に伏せていたタイ歩兵は武器を構える。
「撃ち方、始め!」歩兵の武器が一斉に火を吐く。双眼鏡を覗いていた小隊長が「連中の歩兵は逃げ出したぞ。戦車は孤立した。」「歩兵があれじゃいくら戦車が優秀でも勝てませんよ。ご自慢の88ミリ砲も威力の発揮しようがない。」
「高速で側面に回りこむぞ。乗車!」一同は装甲車両に乗り込み、土手の下の道を疾走していく。 「側面に回りこみました。」「反対側の第二分隊の歩兵に射撃を命じろ。注意を引き付けさせる。その間に射撃位置につけ。」車内の無線で小隊長は命令する。「向こうは歩兵による警戒線を敷いてません。気づかれてないはずです。」
「稜線射撃を行なう。土手を登れ。」装甲車が土手の前の傾斜路をゆっくり上っていき、土手の上に頭を出す。サイトの視野の中に米戦車が側面をさらしているのが見えてくる。「いいぞ。砲塔があの角度なら、こっちへ向くまで20秒はかかる。徹甲弾装填!目標、米戦車!撃て!」米戦車はあっさり撃破される。
「ようし。敵戦力は排除した。油井の確保に移る。結構な埋蔵量のあるやつだ。あれを確保すれば、わが師団は1か月は作戦行動ができる。他の師団には渡すな。作戦目標達成まであと一息だぞ。」
(注・ここで登場するアジア新機甲師団の装輪式戦闘車両−−つまりキャタピラをもたずタイヤ式の車体に戦車と同じ砲塔を搭載した装甲戦闘車両−−−は、当時のアジアで外資導入によって安直に作られた近代企業を示す。
・最初の場面での米歩兵の質の低さは無論、当時の労働者の質を表現する。 ・IFF(敵味方識別装置)が『神の眼』と呼ばれていて、戦場全体が事実上それに支配されている状況は、現代資本主義が「市場の神の手」に絶対的に従属している状況を表現している。)
 彼の言葉が終わると同時に、メイン・テーマ(「帝国のマーチ」で、明るい音楽である)が本格的にスタートし、メイン・タイトルはここに置かれる。タイトルバックには、無形化戦争の状況を示すような何かの映像が流れていくが、それを具体的にどうするかは未定。


   (メイン・タイトル)

フランス武官の哨戒機への搭乗
 メイン・タイトルが終了して音楽がフェード・アウトすると、場面は日本の航空基地。フランス人の将校が書類を見せて係員と何やらもめており、日本側の係官が仲間同士でひそひそ話をしている。
  「ありゃ一体何者だ?それにあのカメラ。偵察写真の分析班か?」「いや、フランス陸軍の広報班の写真編集担当官だってさ。こっちの洋上哨戒機に便乗させろと言ってる。」「どうでも良さそうな地位の割には、何だか下っ端じゃないみたいだな。」
「何でも曾祖父が第二次大戦の時のフランス陸軍の将軍だったって話だ。とにかく家柄は良いらしい。多分その割に軍人として無能で、責任ある地位にはつけられないんでそういうポストにつけたんだろう。今回も、偉いさん専用に特別編集する写真冊子の編集だっていうんで、フランス陸軍の特別パスをもってる。」
「どこの国でも偉いさんの世界のどうしようもなさは同じだな。」 「ああ。おかげでこっちはいい迷惑だ。まあ無能なのは構わんが、平気でこういう窓口に要求をねじこんでくるのは何とかしてほしいな。おまけに英語もできないときてる。」と陰口をたたく。 「だけど一体何だって、日本から飛ぼうとしてるんだ?」「何しろ今は日本以外のアジア諸国は、陸軍の活動が最も活発な地域で、各国の関心の的だ、おかげで普通の偵察機はほとんどそのために出払ってて、現地の滑走路も満杯だ。だから日本から飛ぶ洋上哨戒機を使うぐらいしかないんだよ。偉いさんのコネがあってもな。」
 フランス語でのやりとりが円滑に行かず、何やら係員が二人ほどで対応に困っている。 「どうしたんだ?」彼らに尋ねると、「この哨戒機はタイまでの洋上哨戒飛行なんですが、カメラ・ポッドの装着を要求されてましてね。問い合わせたら、確かにフランス陸軍からポッドの現物が前もってこの基地に届けられてます。小型のやつですから装着自体に問題はありません。日本側の上の方からのOKも出てます。」
「じゃ何が問題なんだ?」   「実はこの哨戒コースはもともと韓国の領空に入り込んでまして。ところが小型といえども外部装着式のカメラ・ポッドをくっつけると、区分上こいつは哨戒機じゃなく偵察機の扱いになってしまうんです。」」
「そりゃ問題だな。ただでさえ日本機が韓国上空を飛ぶことには、いまだに韓国側が神経を尖らせているのに、偵察機となると、こりゃ規定に従って、韓国軍から武官を一人呼んで同乗させるしかないだうろな。」
 (写真3)

   そこで韓国武官がやってくる。ところがフランス人と向き合うと、二人の間で会話が通じない。 「全くもう世話をやかせるな。フランス人は英語ができず、韓国人はフランス語ができない。誰かフランス語のできる韓国武官で、手の空いてるのはこの基地にいないのか?」言われた日本側の係員は肩をすくめる。「あいにく、そういう人間はいないそうですよ。」
「それじゃ、フランス語と英語のできる通訳はいないか?もう一人乗せるということで?」「とにかく今は全員出払ってましてね。まあいることはいるんですが・・・戦場にはおよそ縁のなさそうな、レセプション・ルームの女性通訳です。韓国語もほんの少しだけならできるそうです。」「しょうがない、呼んでこい。」
   呼ばれた女性通訳(准尉ぐらいの階級か)は、最初偵察機への同乗などを嫌がっていたが、フランス人将校がジャン=レノ風の渋いおじさまだったのを見て、ほくほく顔で同乗に同意。韓国武官も結構若くて良い男なのだが、あまり彼女の好みではないらしい。(彼女は戦争に興味がなく、前線などを見たいとも思っていない模様。平和ボケ日本の象徴的存在。ある意味で一般の観客の目線に最も近い存在である。前半での描写は多少コミカルで愛嬌のある感じで。彼女が無知であることは、狂言回しに最適。)
 彼女はカバンの中にたくさんの化粧道具を詰め込み、慌てて床にぶちまけて、急いで拾い集める。同僚の女性があきれて言う。「こんなにたくさん持ち歩いてどうするのよ・・・。一応任務なんだから、少し置いていったら?大体あんた今まで、おじさま狙いのくせに子供扱いされて結局全敗なんでしょ?本当、懲りないんだから・・・。」
「ほっといてちょうだい!」とカバンに詰め込んで急いで出て行く。

哨戒機からの光景 
 哨戒機の機内。韓国上空に接近し、窓からその地形が見える。韓国武官は女性通訳の気を引こうと、解説を始め、韓国の鉄壁ぶりをやや自慢げに語る。しかし女性通訳はさほど興味がなさそうである。
  「現在の韓国は、もはや一級の陸軍国だ。前の第三次大戦では、北の核兵器に備えるための『38号要塞線』が有名だったが、今では南にも、通常の戦車による侵攻を阻止するための堅固な要塞線が築かれていて、現在世界で最も堅固な要塞線に守られている。日本陸軍に追いつくのももうすぐだ。」
 空からのパノラマ的な視点で、韓国の要塞のコンクリート壁(強い保護規制)の堅固な威容が示される。(コンクリートの堅城の素晴らしい絵コンテが欲しい。)  しかし女性通訳は、窓の前方に見えている韓国には興味がないらしく、反対側に視線を向けて機の後ろの光景を眺める。韓国将校はそれに気づいて再び解説を始め、
「鉄道回廊を空から見たことはあるかな?君は運がいい。雲に覆われていない状態が見えるなんて滅多にないからな。ほら、両側を2本の山脈がずっと走っていて、その間を鉄道網が走ってるだろう?この回廊の鉄道が世界中を結んでいるんだ。特に、各国の軍用鉄道の上に相互乗り入れして全部をつなげた『オーバーロード』の合計全長は、アジア地域だけで数千kmに及ぶ。一般人が使う旅客鉄道は、山脈の外側だから、内側の軍用鉄道は滅多に見えないんだよ。」
 しかし女性通訳は一向に関心がなさそうである。   

(写真4)
(注・ここでの「オーバーロード」の綴りは「OVERROAD」。無論その響きを「OVERLORD」とかけている。)  一方フランス人武官は、機内にもカメラを持ち込み、三脚に据えてそれを撮影している。女性通訳が彼を見つめているのに気づき、彼女にフランス語で話かける。
「君はこの鉄道回廊の上を一体どのぐらいの量の弾薬や補給物資が移動しているか知っているか?現在ではその量は師団規模どころか今や一国の陸軍力全体を遥かに上回るほどのものだ。もう従来の常識を超えて、想像を絶する戦力が移動しているんだ。」
 フランス武官はカメラのファインダーを覗き込みながら「今はまだその猛威がどれほどのものか、力を示すに至っていない。そうなった場合、韓国陸軍の今の優位も一体どうなるか。」
   ファインダーの視野映像。その中の地形が、どんどん引きの映像になっていくと、地球上を大規模に鉄道網とその回廊がカバーしている映像に変わって行き、その驚異が描写される。


戦闘後の小休止  
さきほどのタイ機甲師団。戦闘が終了して、米歩兵捕虜がその前にうずくまっている。米歩兵は何だかデブでメガネをかけて、ぶよぶよした感じ(西海岸のアニメ・コンベンションなどで見かけるような)で、歩兵としては使い物にならなそうである。一方アジア側は歩兵の動作はきびきびしており、また物資も潤沢で、ケーキなどがトラックに山と積まれている。
 アジア将校は部下の軍曹に、自分たちの物資の中からケーキを米捕虜らに分けてやるよう命じ、軍曹も気前良く承知する。渡す仕草も丁寧。(この場面は、ケーキなどを如何にもおいしそうに描写することで、アジア側の余裕を表現。その印象を通じて、これまでのハリウッド映画でのアジア人と米国人の紋切り型の関係イメージを打破しておく。)
   
タイ軍の指揮官が野外作戦テーブルの上に地図を広げて部下に尋ねている。「核兵器の無力化措置の確認だが、どうなってる?」 「計画どおりです。作戦区域周辺にあった、米国の通信施設、フランスの飛行場、インドネシアの補給基地、日本の休養センターの四つには、ダメージが与えられていません。そのためこれら全部が、それぞれ別々の国の重要拠点として温存された状態にあります。」そしてテーブルの上の地図に円のテンプレート定規が乗せられて、地図の上をさっと滑っていく。
「この状態だと核爆弾の破壊半径10キロという設定で、どの地点で爆発してもこの円内にどれか2つ以上が必ず入ることになります。核兵器の使用不能状態は、作戦区域の全域でレベル4、もしくはそれ以上。完全に通常兵器のみの状況を維持できてます。」
(図・未)
「ようし。完璧だ。相変わらず誰も核兵器を使えない。一番小さい戦術核でも無用の長物だ。ひとまず防御拠点に歩兵を残して、車両の方は補給基地へ戻ろう。」 (注・これは、核兵器の問題というより、現代世界で軍事力自体がしばしば無用の長物となって経済戦争が主力になることの理由を説明した部分である。要するに「通常兵器の相対的核兵器化」と「モザイク戦略」のこと。)


回廊上空の通過
 再び洋上を飛ぶ哨戒機。フランス武官がなぜかちらりと腕時計を見る。それと同時に、哨戒機のコックピットでは副操縦士が「救難信号です。この近くですよ。」機長はレーダー(あるいはIFF)をちらりと眺め、「このあたりを飛んでるのは陸上偵察機ばっかりだな。洋上哨戒機はわれわれだけか。それじゃ放っておくわけにもいかないな。燃料は大丈夫か?」副操縦士は計器を確認。「まあその程度の寄り道なら大丈夫でしょう。」哨戒機は旋回する。


   (図1)

  「向こうの無線は故障してるらしいな。仕方ない。見えるところまで高度を下げよう。」副操縦士は双眼鏡を用意。   「そろそろ見えるはずだ。救難信号の位置はここから3マイルほどだったから。」その時、雑音と共に無線から声が流れる。「聞こえるか?どうぞ。」
「何だ、連中、無線が使えるのか。」機長はそう言ってスイッチを入れる。「聞こえてる。一体どうした?」 「船のエンジン故障だ。無線も故障していたんだが、そっちは直った。船体に損傷はない。立ち往生してるだけだ。こちらは無線機の出力が弱いので沿岸警備隊に場所だけ報告してくれないか?」
「了解した。」副操縦士は前方を双眼鏡で眺める。「いました。確かに船体に損傷はないようです。」そして機長は無線で「こちらは燃料の余裕があまりない。位置の報告だけで大丈夫か?」「大丈夫だ。有難う。」
 無線機を切る。「人騒がせな。こんなことならわざわざ高度を下げることはなかったな。」「そうですね。しかしまずいな。高度を2万5千フィートまで上げてる余裕はありません。前方の回廊山脈を何とか越えられる高度まで上がって、そこで回廊をまっすぐ突っ切らないと、燃料が足りませんよ。」
「大丈夫かな。あの回廊は雲の下を飛ぼうとすると、厄介なことになるって噂だが。陸上偵察機なら、上を飛んではまずいポイントもわかるんだがな。」前方には、頂上部が帯状に雲で覆われた回廊の山脈が横たわっている。
   しかし後ろではフランス武官が、まるでそれを予め知っていたかのように、機内カメラの準備を始める。そして女性通訳を手招きし、壁に装着されたボックスを指差し「これは機外カメラのコントロール・ボックスだ。合図したらこのボタンをずっと押し続けてくれ。できるか?」と尋ねる。女性通訳は頷き、フランス武官は反対側のカメラのところに座る。
 哨戒機は回廊の山脈を高度すれすれで通過し、雲に覆われた山頂の列を越える。雲がところどころ切れて地表が見える。


   (写真5)  

   機内ではフランス武官が女性通訳に待機するよう指示し、二人はレリーズを握る。「押せ!」カメラはシャシャシャ、と連写する。    その時、コックピットでは警報音が鳴る。IFFのスクリーンを見て副操縦士が「追跡されてます!4時方向に3機、7時方向に4機!いずれも黄表示から赤表示に変わりました!」スクリーンには赤い矢印がこちらへ向かってくることが表示されている。  

 (写真6)
   「早速厄介事か!単なる中立の哨戒機だという信号は送ってるっていうのに!この高度領域には中立機っていう言葉はないのか?」  続いて機体の後方で砲弾が続けざまに数発炸裂。「両方から撃ってくる!」「だがまだ遠いな。威嚇射撃のつもりか。」「向こうは雲の上です。照準はまだ正確じゃありません。」「降下して振り切ろう。どこまでなら下げても前方の山脈を突っ切れるか?」「2000フィートは大丈夫でしょう。」二人は機を降下させる。
   さらにドン!ドン!と砲弾が炸裂する音が聞こえる中で、機体は急降下を始める。後ろでは女性通訳が「キャー!」と悲鳴を上げてフランス士官にわざとらしくしがみつく。
  「山脈を越えます。少し高度を下げすぎましたが、あそこは低くなってますから通過できます。」機体は山の間を通り抜ける。「ようし!もう少し高度を下げて増速!」機体はさらに下に角度をとる。
「まだ追ってくるか?」「いえ、こちらへは向かってきません。おや?右からのと左からのとで、威嚇射撃を始めました。撃ち合ってます!あいつら、敵同士だったのか?こっちでは両方赤表示だったから、てっきり合同で追ってくるかと思ってたのに。」
「要するにわれわれだけが両方から敵と認識されてスコープに赤で表示されてたのか。こいつが例の噂なのか?回廊の雲の下を下手に飛ぶと、周囲全部から赤で表示されて袋叩きに合うっていう話は。それよりダメージは?」
「破片を少し食らったようですが、ラダーもエレベーターも動きます。燃料漏れもありません。このまま無事に行けると思います。後でギアが降りるかどうかだけ試してみましょう。」
「それにしてもこいつは本当に公正に敵味方の表示をしてるのかな?何しろこいつは戦場の信号機だ。その神の眼が狂ってるとなればえらいことだぞ。」と機長はIFFのスクリーンを疑わしげに指でこつこつと叩く。
(注・IFFの「神の眼」は、自由経済の「神の手」の象徴であり、機長の言葉は、本当はその自動均衡機構の予定調和が働いていないのではあるまいか、という重大な疑念を意味している。)


回廊内部とソロスの登場
 哨戒機がカメラの視界から消えると、カメラは回廊の方に寄っていき、さらに進んでその雲の中に入っていく。しばらく視界は雲で真っ白だが、やがてカメラは雲の下に出て、回廊内部の光景が写る。
   二列に並んだ高い山脈は、海からの視野を完全に遮って、その中に外界から隔絶された世界を作っている。回廊の内側は山脈の岩膚が露出して針葉樹のある、荒々しい北方風の風景で、空は大抵は雲に覆われている。そしてそこに何本もの鉄道線路が敷設され、装甲列車が走っていて、どこか重苦しいヨーロッパ風の雰囲気が漂う。
 ある意味で、長い山脈に挟まれて謎を秘めたこの「回廊」はこの映画の風景の上での主役であり、ちょうど一昔前の戦争映画で、ドイツの要塞が隠されているアルプスの山岳地帯の趣がある。
 つまり現在のアメリカ映画からは失われてしまった風景であり、神秘的な重厚さを損なわないよう、音楽も重厚な交響楽で。おどろおどろしさよりスケール感が大事。
 ドイツ風の城(ノイシュヴァインシュタイン城のような)が近くに見える谷間に旅客列車が停車しており、列車の脇には、親衛隊の制服を着た男が二人立っている。そのうちのコート姿の将軍はジョージ・ソロスである。
   彼は今回の作戦の立案者であるため、一応は悪役だがある意味では一方の主役。頭の切れる冷たい堂々とした悪の魅力が欲しい。ちゃちで強欲な悪人として描くと映画全体が安っぽくなる。(立場的にはドイツのマンシュタイン将軍を親衛隊−−SS--の所属にした感じか。)
 帝国軍将兵は、それとわかる服装をしており(肩部に黒白ストライプの識別帯をつけている)、皆きびきびしていて、以前のシーンの米兵とは対照的に強そうである。(写真7)

   そして遠くからもう一両の列車がやってくる。ソロスの隣に立っていた将校がそれを見ながら言う。「まあ一応今回の作戦は表向きは、われわれオーバーロード親衛隊(OVERROAD-SHUTZ)だけが担当して、アメリカ国防軍は関与しないことになってますからね。アメリカの政府軍の将官クラスとの最後の打ち合わせも、こうしてお忍びという形です。」
 列車は停止して、アメリカ国防軍の将軍が降り立ち、ソロスと握手する。ソロスは「あの城に作戦の資料を集めてあります。あちらへどうぞ。」と城を指差す。  国防軍の将軍は城の方を見て、「あれはもとはヨーロッパにあったのを移転したものだろう。全く君らオーバーロード親衛隊はああいうものを漁るのに目がないからな。オークションで手に入れたのかね?」と、皮肉っぽく言う。
   そして彼らは豪華な城の廊下を歩いていく。「作戦発動は3日後だが、予定通りに遅れなしで行けるか?」 「現在、列車砲がシンガポール周辺の待機地点に集結中です。待機地点からは、1日で最初の射撃位置に移動可能です。80センチ超重列車砲も、あさってには到着するはずです。」
(米国とソロスら帝国軍の立場は、ちょうどドイツの国防軍と親衛隊の関係に似ている。)  城の広間に入っていくと、壁には大きな作戦地図がある。「さて今回、アメリカ国防軍自体は最後まで表立っては動かないとのことで、われわれも作戦発動後は『神の眼』からの指示だけに従ってそちらの指示は仰がないことになっていますが、国防軍としては、それで十分ということですね?」ソロスは尋ねる。
  「そうだ。君らだけでなく、今回動く予定の戦力は全て建前上は自由行動で、全員が『神の眼』だけに従って行動するということになっている。だがその行動プログラムは作戦に適合するよう調整してあるから、君らがキックオフを行なう役を演じてくれれば、後は機械仕掛けのレミングのように、後続の巨大な戦力が目標目掛けて雪崩れ込んでくれるはずだ。カムドシュ大将の国際秩序維持部隊の戦車師団も、いつでも動けるよう待機している。」
(注・この名前は当時のカムドシュIMF専務理事のこと) 「大将はこの作戦についてどの程度まで承知してるんですか?」ソロスが尋ねる。「それは君が知る必要のないことだろう。とにかくだ、もし仮にこれから国際社会に予想外の事故が発生し、それが『弾薬燃料供給危機』に発展した場合、それに対する万全の準備は整えてある。要するにそういうことだったんじゃないのか?」 「おっと、そうでした。」ソロスは笑う。  

写真に写っていた列車砲

 タイの基地に着陸した三人は機を降りる。女性通訳は本当に飛行機に酔ってしまい、青い顔で口を押さえながらよろよろ降り、二人で肩を支える。(持参してきた高級な化粧袋を吐瀉物受けに使われたのを知って泣きそうになり、そこがまた平和ボケのコミカルな感じ。)
   基地のタイ人兵士に「フィルムを現像したいんだが。」とフランス武官が言い、女性通訳がやっとのことでそれを通訳する。 「カメラ・ポッドの写真は、タイ領空で撮られたものが混じってると、持ち出しに認可が必要です。現像は立会いのもとでなら、明日にでもやらせてもらえます。そうしますか?」
   暗室の赤い照明の中、印画紙を定着液の中で洗い、だんだん写真が浮き出てくる。写真のアップ。そこには列車砲が何両か写っている。「レイルロード・ガン?」「レイルロード・ガン」と通訳抜きで二人の男は言う。
   一同は暗室から出てコーヒーを飲みながら写真を前に検討する。 「15門もの24センチ列車砲が集結してるな。明らかに異常だ。」 通訳。 「たまたま何かでこの地域にあった列車砲がここに集まってただけじゃないか?」
通訳。 「いや普通なら最大3門ぐらいが限度だ。これは未曾有の大作戦が行なわれる兆候と解釈すべきだろう。」 「確かにそう考えるべきだろうな。だがそうだとすれば目標はどこだ?」
通訳。 「この位置からすると、目標はまさにここ、タイだな。」フランス士官は地図を指差す。 通訳。 「タイ?でもタイにそんな大規模作戦を行なう価値のある戦略目標があるのか?」
通訳。フランス人は肩をすくめる。 「ところでこの写真の持ち出し許可にはどのぐらい時間がかかるんだ?」韓国人はタイの係員に尋ねる。「お役所仕事なんで、2週間ぐらいかかりますが。」「そんなには待てないな・・・・。」渋い顔をする。
「一つ手がありますよ。タイの陸軍にとっても価値のある写真だということになれば、師団参謀クラスのところに直接、提供写真という形で持ち込んで、情報共有を持ちかけるんです。」
「つまり情報共有の見返りとして、持ち出し許可をそこでもらってしまえばいいというわけか?」 「まあそういうことです。もっともあまり重要度が高すぎると、逆にそこで止められてしまう可能性もあるんですが、そうでないものはフリーパスになることが多いです。」
「よし。それで行こう。もしこれが本当ならタイ陸軍に警告する意味もあるしな。一番近いところでどこへ行けばいい?」「最寄の師団本部があるキャンプまで、陸軍の車両に便乗すればいいでしょう。そのぐらいの通行証ならここで発行できます。」


タイ軍への警告 
 三人組は早速、連隊長クラスの本部があるキャンプに向かうことにする。    道路の向こうから、冒頭で出てきた機甲師団の縦列が、作戦行動を終えて補給基地に戻るためこちらに進んでくる。周囲は、開けた草原に土手が何本も走り、遠景には大きな風車が何本も回っており、タイというよりはオランダに一脈通じる風景。(風車も、現代の発電用の白くて細長い風車ではなく、それとオランダ型の中間的な感じのものである。)
 それを待つ間、韓国人が通訳女性に説明する。「ここは比較的最近になって海から隆起した場所だ。それを乾燥した陸地にするために、ああやって風車を回して排水をしてる。」
「内陸よりもずいぶん涼しくて爽やかですね。ヨーロッパみたい。」「回廊の中を通ってくる冷たい空気のせいで、内陸部よりも遥かに過ごし易いんだ。」 「ここ、タイの領土なんですか?」
「いや、ここの国際的な領有権は特に定まってない。確かに地理的な近さではタイに有利だが、原則的には各国のモザイク領土で、ここで得たものは各国それぞれ、というよりはその師団の持ち物になる。だからここの地下に眠ってる燃料を狙って、各国の師団がしのぎを削ってるんだ。」
(注・油井の地下に眠る燃料は、ここでは「需要(市場の)」を示し、需要を狙って企業が競争する状況はこれで表現されている。油井は地下資源や原油を指すわけではないので、注意されたい。)
 そして彼らは通行証を見せて装甲車の屋根に同乗して移動する。女性通訳は出発の際にディーゼル排気を思い切り浴びてしまい、相変わらず居心地が悪そうで戦場など眼中にない。自分の服の汚れを気にして袖のにおいをくんくんと嗅いで思い切り顔をしかめ、香水のスプレーを出してシュッ、シュッ、と振りかける。
   一方タイ軍の中隊長は、自分たちが米軍に勝てる理由を自慢げに韓国人に話す。   「とにかくアメリカ軍は戦車は強いが歩兵が弱い。われわれも過去、米機甲師団が日本と戦う際に、日本の機械化歩兵にどうしても勝てなかったことをさんざん見てきた。だが今やわれわれはその日本も超えうる。その秘密がこの新型車両だ。つまりわれわれは戦車をキャタピラ式ではなくタイヤ式に改めた新型の機甲師団に編成を転換したんだ。」彼は乗っている車両の屋根をこんこんと叩いて続ける。
「われわれは、日本の機甲師団に装備の面で追いつくのに何十年もかかるだろうと思っていた。だがこの新型車両が装備の概念を変えた。これは非常にコストが安い割に威力が大きく、戦車と十分撃ち合える。それどころか、道路の上を高速で移動する場合にはむしろ戦車よりも高い機動性を発揮できるんだ。」彼の言葉をバックに、タイヤ式の戦車が写る。
  「一昔前は道路状況が悪くて、タイヤ式の戦闘車両が活動できる領域も僅かなものだった。だが今では地面にああやって表面硬化剤を散布することで、代用道路を簡単に作っていくことができ、戦場全体がキャタピラ式でなくても十分戦える状況になっている。」車両が硬化剤を散布しながら進む状況が写る。
 途中で、道の反対側に停車している弾薬補給トラックの長い縦列の脇を通過する。トラックの運転手たちは胸や肩に帝国所属であることを示す黒白ストライプの識別帯をつけている。
 韓国将校がそれを見て「君らの補給部隊は、アメリカ人に大半を依存してるみたいだな。タイのトラックはほとんどいないぞ。」 「いや、彼らはアメリカ軍の所属じゃない。黒白ストライプを見ればわかるだろう。彼らの多くはアメリカ人だが、軍としてどの国籍にも所属しない無国籍の部隊だ。わが軍の将来性を見越してああして集まってくるんだ。」
   キャンプについた彼らは、タイ側の師団参謀に「そちらにとっても必要な写真かもしれない。」と言って不鮮明な写真を見せる。   「これだ。列車砲が写ってる。これはタイ全体に対する大きな砲撃作戦の前触れじゃないか?」と韓国人が言うが、師団参謀は「タイ陸軍全体が大規模砲撃の目標になる?君らは何もわかってないのじゃないか?」と一笑に付す。
   そして「とにかく勝ち馬に乗るというのが現代の戦いの原則だ。現在のわれわれはまさにそれで、歩兵の強さによってアメリカ陸軍を上回っていることは、周囲の皆が知っている。それを見越していればこそ、周囲から弾薬を含めた補給物資が大量にわれわれのところに集まっているんだ。そういう追い風の状態はまだまだ続く。逆に言えばわれわれを砲撃目標にするには、その向かい風を押し切るだけの覚悟が必要だ。」
「それはわかっている。われわれも素人じゃない。」 「とにかくそれでも強行するというなら相当な大規模砲撃で押し切るしかないが、そのためには前もって大量の弾薬を準備して、それを即応弾の形で可能な限り前方に配備しておかねばならない。だがもし力不足で押し返されるようなことになれば、砲列を下げる際にその弾薬も結局放棄せねばならず、結果的に大損害を被ることになる。」
「確かにそれはそうだが・・・でもとにかく写真には列車砲が写ってるんだ。」  タイ軍の参謀は写真をちらりと眺めて「それは一時的な小規模作戦のためのものだと考えるべきだろう。確かに、もしわれわれが負け続けてどんどん戦線を後退させるという状況が生じるなら、その流れに乗る形でそういうことも起こりえるかもしれない。だがわれわれには機械化歩兵戦での優位という基本的条件があって、この状況はすぐには覆らない。要するにそれへの確信が根底から揺るがない限り、そんなことは作戦としてあり得ないわけだ。それとも何か、それを覆すだけの強い論理的な理由でもあるのか?」
「いや、それは・・・。」と韓国将校は口ごもる。  そのときすかさずフランス士官が通訳女性に耳打ちし、彼女は「それじゃこの写真は重要度が低いものとして、持ち出しはOKなんですね?」と通訳する。
     彼ら三人はテントを出る。「連中の言うことは正しいよ。大体今どき、タイにわざわざそんな大兵力を集結させる必要がどこにある?そこまで値打ちのある戦略的な目標物はここにはないだろう。まあどっちにしろ写真の持ち出しはできたからそれでいいが。あんたは最初からそのつもりだったのか?」と韓国人が言い、通訳する。
   しかしフランス士官は「私はアメリカ陸軍が将来の新戦術として採用を考えているものを見たことがある。その実験をどこかでやりたがっているという噂も聞いた。どうもこの列車砲の集結は、それと無関係ではなさそうな気がするんだ。」
「新戦術の実験場、ですか?」女性通訳が直接フランス士官に尋ねる。 しかし彼はそれには答えず「いずれにせよ、何か始まるとすれば、もうすぐだ。」

作戦発動の直前状況
 ソロスは回廊内に設けられた作戦司令室にいる。作戦開始に備えて緊張感が増している。    (「D±0日」の字幕スーパーが大きく出る。これから後の各シーンの最初には、作戦経過にしたがってその場面の場所と日時−−「D+何日」と実時間の両方−−を文字で示すスーパーがつけられて、観客にそれが伝えられる。伝統的な歴史戦争映画では画面の真ん中を占領するように大きな字で出ていたが、この場合もその方が良い。)
   地下作戦司令室はドイツ軍のそれを思わせる3階吹き抜けぐらいの凄いスケールで、作戦予定区域全体の大きな立体模型地図が中央テーブルにあり、兵力の駒が置かれている。(「バルジ大作戦」の作戦室のようなイメージで。)
   ここは列車砲の射撃指揮所も兼ねているため、そのためのフロアにも大勢の人間が詰めており、また他にも、各予定区域ごとの模型地図のテーブルらしきものが、別に複数設置されている。(以下の場面の作戦経過は、この模型地図を用いて観客に示される。)
 そして作戦計画のスケールの大きさを印象づける場面が次々に映り、刻々と作戦前の緊張感が高まる。    ソロスが作戦前の訓示を行なうため、高い場所にしつらえられたガラス張りの司令官室に立つ。彼がマイクを握ると一同は静まる。
「全員、その場で聞け。諸君の中にはわれわれが半年前にイギリスに攻撃をかけた時のことを思い出している者もあるかもしれない。だが今回これからわれわれが行なう作戦は、それとは桁が違うほど大きなものだ。それは文字通り、史上最大の砲撃作戦として歴史に残るものとなるだろう。」
(各所で作戦準備を行なう兵士が次々写り、それらの上にソロスの声が流れていく。)   「それは単に規模の点で大きいだけではない。それは地球から国境線というものを取り去るための第一歩となるものだ。思えば19世紀以来、国境線というものが地表を区切り、各国政府がその中を仕切る体制が続いてきた。しかしもはやその時代は過去のものとなる。われわれはその国境線のコンクリート要塞を打ち壊し、世界を一つのものとせねばならない。それはかつてのローマ帝国を上回る、繁栄の地球帝国と呼ぶべきものとなろう。帝国という言葉はもはや悪を意味しない。そして今回の作戦は、その幕を開くための歴史的なものとなるのだ。」
 その声が終わると共に、司令室の下のフロアで全員が一斉に、襟からそれまでつけていたオリーブ色の地味な襟章をむしり取って、新しい凄みのある黒と白の親衛隊の襟章につけ変える。
  (注・ソロスの言葉の「半年前のイギリスへの攻撃」とは、1992年にソロスが英ポンドに攻撃をかけた時のことを示す。そして97年のこの頃には、それまで金融関係者の間でのみ語られていた「世界は不可避的に一体化しつつある」との台詞が世の中にも流布を始めていた。日本でも「金融ビッグバンをやればすべてが解決する」式の台詞が良く聞かれており、彼の台詞はそれらの翻訳版である。ただし無論彼は恐らくこんな訓示はしなかったと思われるが、内容的には後の経過を考えるとそう誇張ではないように思う。)
 タイの三人組。「これからどうする?」韓国人が尋ねる。フランス人の答えを女性が通訳し、「とりあえずここを出て、シンガポールまで出ておいたらどうかとのことです。」
「そうだな。もうここにいても出来ることは何もないし。でも一旦あの航空基地に戻らなくてもいいのか?写真ポッドはあそこに置きっ放しだと思ったが。」  しかしフランス人は首を振り、彼の言葉を女性通訳が「写真の様子から見ると、なるたけ早く出た方が良いだろうと言っています。もし本当に何か起こったらタイからの脱出自体が面倒になるでしょうから、できれば今すぐにでも。」と通訳する。
「そうか、では一番近い駅を探して、とりあえずタイを出る列車を探そう。その先はシンガポールについてからあらためて決めるとして。」

ついに発動される電撃戦
 ソロスらの地下司令室。作戦開始を前に、巨大な作戦テーブルの前に駒が並べられ、忙しげな雰囲気の中で緊張感が漂っている。「作戦開始まであと30分。」と拡声器が伝える。
     一方、アジア機甲師団の各戦場では、弾薬燃料の補給に雇われていた帝国のトラック軍団のドライバーたちが、時計を見て黙って互いにうなずき合い、運転席に乗り込む。運転席のダッシュボード下のカバーを外すと、カーナビに似た機器があって、キーを回すとルートが映し出される。(カーナビはごついデザインで、あまりモダンな感じではない。イメージ的にはかつてアストン・マーチンの中でショーン・コネリー=ジェームズ・ボンドが使っていたような一世代前の感じで。)
 各トラックには、あらかじめ脱出計画が精密な時刻表と共に与えられており、エンジンをかけると勝手にくるりと回れ右して、ぽつぽつと降り出した雨の中を、一斉にあらぬ方向に走り去る。アジア将校たちは慌てて「どうした、一体どこへ行く?」と呼び止めるが、銃を向けても無視して遠くへ去る。
       ソロスが指令フロアの椅子につく。脇にいた部下が「いよいよです。」と言う。    そして前線で待機する列車砲のカット。巨大な砲身が上を向く。
   司令室で秒読みが始まる。「10,9,8,7,6,5,4,3,2,1、ゼロ!」    それと同時に巨大な列車砲の凄まじい砲撃が始まる。何門もの列車砲が火を噴く場面が、短いカットを連続的につなげてフラッシュの連射のように写る。(この段階では、貨車に普通の長距離砲を載せただけの簡単な列車砲も混じっている。)
 

 (写真8)

   タイの要塞の地下司令室。異常に気づいたオペレーターたちがざわついて持ち場につき、電話があちこちで鳴る。  司令官が駆け込んでくる。「どうした?一体何事だ?」「大規模な砲撃が始まりました。どうも通常のものとは規模が違うようです。単なる師団規模レベルの砲撃ではありません。」
   司令官はモニターの一つを覗き込んで、「確かに中央政府軍の介入が必要なレベルだな。とにかくすぐに介入砲撃を開始しろ。当面、即応弾を全部使うまで続けていい。その後弾薬を追加するかどうかは追って指示する。」「了解しました。」そして司令官が首に下げていた鍵を外し、コンソールに差し込んで回す。
   するとコンクリート要塞の外側で砲塔の装甲シャッターが次々に開き、次々に司令室に報告が届く。「A区画砲台、主砲4門、発射準備完了。」「B区画砲台、主砲3門、発射準備完了。」「C区画砲台、主砲3門、発射準備完了。」(この台詞で、要塞には10門の砲があることがわかる。)
 そして砲塔内の要塞砲(15インチ=38センチ砲クラスのもの)の砲身がゆっくりと上を向く。「介入砲撃を開始します。」の声と共に、それらが一斉に火を吐き始める。
   要塞の司令室には情報が次第に入ってきて、次第に緊迫感が増す。「何だか規模が桁違いです!今まで経験したことのない規模で砲撃を加えてきています!押し返せません!」
「向こうは砲列をどんどん前進させてきてます!長距離砲の射程からだけ砲撃するつもりではないようです。ここまで砲列の前進を許すと、射程の短い砲も砲撃に加わってきます!」
「何だって?われわれの要塞砲の射程ラインを無視してどんどん入り込んできてるのか?普通ならこちらの反撃を考慮してこのあたりで止まるはずだろう?」 「反撃を食らう可能性を最初から無視しているとしか考えられません。いずれにせよ、このラインを超えられると、国内で活動している師団の大半が長距離砲の射程内に入ります!」そのとき電話が鳴り、司令官が受話器をとる。
 司令官は受話器を置いて言う。「弾薬の無制限使用の許可が下りた!とにかく手持ちの弾薬を全部投入して押し返すんだ!各砲塔の弾薬庫を全部開け!現在の弾薬はどれだけある?とにかくここにあるやつ全部だ!」
  「全弾薬残量を表示します。」スクリーンに現有弾薬量が出る。「現在の主砲の残弾は1門あたり平均260発です。」  指揮官は悔しそうに言う。「予備弾薬を全部合わせてもたったこれっぽっちか。この有様ではすぐに底を突くぞ。」
 そして、秒読みのように各砲塔の残弾のカウントダウンが始まる。「確かに弾薬備蓄はもともと定数よりかなり下回る危険レベルにありましたが、まさかそれがこんな形で致命的な問題になるとは・・。このままだと2時間ちょっとで撃ち尽くすことになります。それまでにこれが止まないとなると・・・」
 司令官はタイ国内の全体状況を示す戦略スクリーンを眺める。「まずいな。今の国内は砲撃に対して無防備だ。機甲師団は道路上にかたまってるから、まとめて殲滅されるぞ。」
   スクリーン上には戦線背後のアジア軍の状況が映っており、機甲師団の車両を示す黄色い点が道路上に何本かの列をなしている。今のところ要塞砲の対抗砲撃がその射程ぎりぎりの距離で列車砲の接近を食い止める堤防となっており、まだそれらは列車砲の射程内に捕捉されていない。「この要塞線がまさに唯一の堤防です。決壊したら全軍崩壊ですよ。」
 

 (図2・スクリーン)

  「とにかくこちらの対抗砲撃が奴等を遠ざけている間に何とか安全圏まで後退するよう、各師団に通告しろ!あと2時間が勝負だ!」「わかりました!」何人もが一斉に受話器をとって指令を発する。
 撃ち合いを続ける要塞砲と列車砲の短いカット。(派手な爆発アクションシーンばかりだと意外に飽きるので、そちらは短いカットにして散りばめ、むしろこうした全体状況が冷静に把握できるカットをベースにする。)
   司令室。「すでに弾薬は手持ちの1/3を消費しました!」「各師団の退避状況は?」別のスクリーン上の地図には、道路上を車両が何とか安全圏に退避しようと、ゆっくり移動している状況が映っている。「後退のための道路が渋滞してます。このままでは間に合いそうにありません。」(要塞内の士官の「早く、早く」という焦りのつぶやきが聞こえる。)
   スクリーンには刻々目減りしていく弾薬が、残弾カウンターの数字のカウントダウンで冷厳に示される。とてもではないが、機甲師団が安全圏に脱出するまで要塞は持ちそうにない。10門の主砲の残弾表示は次々にゼロになり、ついに最後の主砲の残弾もゼロになって、スクリーン全体に「残弾ゼロ」の赤い表示が明滅する。
  「砲弾が尽きました!駄目だ!退避できた師団は2割もありません!相手側はどんどん射撃ラインを前進させてきてます。間もなく国内のほとんどの師団が砲撃の射程内に捕捉されます!」
 スクリーンの上では、相手側の射程を示す赤い扇形の図形が徐々に前進し、道路上の機甲師団が次々にその圏内に捉えられていく様子が表示される。  

 (図3・スクリーン)
(注・この場面で出てくる要塞砲の対抗砲撃は、政府の介入による自国通貨の買い支えを表わす。史実でも、タイなど各国政府は必死で自国通貨を買い支えたが、あっという間に介入資金が底をついて沈黙した。このシナリオで示された砲弾の量は、その際の介入額データを元に計算した正確な換算値であり、まさにこの通りのことが起こっていたものと想像される。なお、史実ではこの作戦開始の日は97年の7月2日である。)

壊滅するアジアの新型機甲師団
 厚い雲が上に低くたれこめた空。何機かの不気味な航空機が、その厚い雲の下に次々に姿を現わして、戦場上空を悠々と舞い始める。それまで雲の上で待機していたイルミネーター機が、精密照準のため高度を下げ、雲の下に降下してきたのである。  

 (写真9)

  (注・この「イルミネーター機」は、ムーディーズやスタンダード&プアーズのような格付け機関を可視化したもの。ここでは、この機体が空から地上の目標を照射すると、その場所に一斉に砲弾が落下する、というメカニズムが想定されている。当時これがアジア経済の壊滅に大きな役割を果たし、世界全体に大きな衝撃を与えた。実は日本では「格付け」という言葉はこの事件を機に一般に定着したのである。この場面ではその具体的なシークエンスが描写される。)
   そのイルミネーター機の機内。搭乗員が照準サイトを覗き込んでおり、その視野に、路上で渋滞しているタイ機甲師団の長い列が映る。まずその先頭が十字線に捉えられ、「目標照射」の声がする。
 

 (写真10)

   戦場周辺を飛んでいる別の軽観測機。セスナ機のような粗末な機内に、観測スコープのようなものが据えてあって、後席の観測員がそれを使って窓の外を見ている。同じような別の観測機の機内が立て続けにいくつか写る。いずれの機内でも、観測員が同じようなことをしている。
   そのうちの1機のスコープのサイトの映像。地表の様子が全面緑色のスコープ映像で写っており、視野内にはタイ機甲師団の隊列がいる。するとその先頭部分がぼうっと赤く光る。    

(写真11)

    「砲撃推奨座標が上空からマークされています。何だか規模が大きいようです。」と後席の観測員が報告する。  前席の機長も計器盤のIFFスクリーンを眺めて、「何か只ならぬことが起こってるようだな。少し前から、タイ地上軍の表示がどんどん赤に変わってる。この様子だとじきにタイの全軍が『神の目』に赤で表示されて世界中から攻撃目標にされるぞ。まあいい。とにかく座標データをIFFに転送しろ。」と指示する。
   続くカットは列車砲の砲撃指揮室。IFFのスクリーン上に赤い点が現れる。「IFF上に砲撃推奨座標が表示されています。グリッド座標GN108。」「よし。次の目標はそこだ。照準修正。」
   数秒後にそこに砲弾がたて続けに数発落下する。    続いてサイトの照準は機甲師団の列の最後尾に移動し、再び「目標照射」の声と共に、今度は隊列の最後尾の位置が赤くマークされる。
   その地上での光景。雨がしとしと降る中、冒頭で出てきたタイ機甲師団の車両が路上で立ち往生している。その長い車両の列の遠くの先端で、弾着の巨大な爆煙が上がり、兵士たちは運転席から身を乗り出してそれを眺める。
 そして今度は遥か後方で弾着の爆煙が上がり、兵士たちは驚いて後ろを振り返る。「隊列の前方と後方に着弾です!道路に大穴が空いて車両が前進も後退もできません!われわれは道路上に閉じ込められました!」
   指揮官はトラックの横を駆けていきながら、「急いで前方の障害物を除去しろ!」と命令する。「それと、キャタピラ式車両だけでも路外に出せ!」そして僅か数台だけのキャタピラ式車両が、道路を横に外れて前進していく。
 そして主力の装輪式戦闘車両に近づいて、「こいつもできれば路外に出したい。タイヤの空気圧を下げろ!この程度のぬかるみなら、それで接地圧を下げれば何とかなるはずだ。」と命じる。乗員たちはばらばらと降りて作業にかかる。(現場指揮官が必ずしも無能ではないことを示す描写があった方が緊迫感は増す。)
    (注・最初ここでは、砲撃に関していわゆる「スマート砲弾」が使われていることが想定されていた。つまり各砲弾の弾頭に誘導装置のシーカーが装着されていて、空から観測機がレーザーなどで地上目標を照射すると、シーカーがそれを捉えて正確にそこに着弾する、という形態が考えられていたのである。しかし実態と照らし合わせると、格付け機関の言いなりになって売り浴びせに走るのは、むしろ質の悪い機関投資家が多く、それら全部がそんな高価な誘導砲弾を使っているとするのは、コスト面から考えても理屈に合わない。また、ここでは無形化世界全般に渡る設定として、シリコンチップが存在しないことが想定されているため、それらを考え合わせてこのように軽観測機を介在させる形態に変更した。)
   ソロスの司令室。「相手側の砲兵戦力はほぼ反撃能力を失ったと思われます。」「よし。真打ち登場だ。80センチ列車砲を出せ。」    そしてこのとき初めて、主役ともいうべき巨大な80センチ列車砲が姿を見せ、それが射撃体勢に入る様子が描写される。(ここは「ナバロンの要塞」の射撃シークェンス風。なお、この80センチ列車砲は、ジョージ・ソロスの巨大ヘッジファンドである「クォンタム・ファンド」を可視化したものである。)
   まずトンネルから一列の長い列車がゴトン、ゴトンと出てくる。一見したところ列車砲には見えず、ブロック状の構造物を搭載した一列の長い貨車のようである。
 トンネルを出てしばらくすると、列車は前後に二つに分離し、後ろの半分は切り換えポイントを経て隣の線路に進入する。  しばらく二本の列車は並走していくが、やがて両者は並んで停車し、そして両方からアームやブームが伸ばされて互いにがっちり結合し、砲架のブロックや砲身が自動的にその上を移動していく。
   このあたりから、これが実は二列の線路にまたがって射撃を行なう、桁外れに巨大な列車砲であること、そして今までは一本の線路上を移動するために分解されており、それが線路上で結合されているのだということなどがわかってくる。
 そして巨大な列車砲(そのフォルムはドイツの「ドーラ・グスタフ」80センチ列車砲に似ている)がみるみるうちに組みあがっていき、その驚異的な結合組み立てシークエンスが、昔懐かしい「サンダーバード」の発進準備シーンのように、順を追ってじっくり描かれる。

 (写真12)

   そして組みあがった列車砲は射撃ポジションにゆっくり前進し、緩やかなカーブ地点に進む。ここで、この列車砲の左右の照準はそのレールのカーブを利用することによって行なっていることが描写される。
    続いて砲弾が装填されるシークエンスとなり、砲身がゆっくり上を向く。  列車砲が凄まじい轟音と共に火を噴く。周囲の山なども振動で異変が起こり、むしろ間接的にその物凄さが描写される。
(この場面はある意味でこの映画の映像的な一番の見せ場である。そのためこの巨大列車砲をCGでお手軽に作ったのでは話にならない。実物大、とまでは言わないまでも、1/4模型ぐらいのものを実際に作って特撮で行なうことが、この映画を成り立たせるための最低条件である。)
   タイの緑の丘陵地帯。このあたりはまだ砲弾が落下しておらず比較的平穏で、指揮所のテントの脇にジープが、少し上の道路に一台のトラックが止まっている。
 突然テントが地震のように揺れ出す。「何だ?まるで地震だぞ。今までのものとは違う。これも砲撃の揺れなのか?」兵士たちは驚いて外へ出る。  雨の中、外でもトラックの荷台ががゆさゆさ揺れている。トラックを見つめる兵士の後ろで大きな音がして振り返ると、テントが倒れている。そしてトラックもついに横転してしまう。(これによって弾着の凄まじさを間接的に描写。)
   タイ軍兵士は倒れたテントの中から電話を探し出し、受話器をとるがつながらない。不安にかられてジープのエンジンをかけ、移動しようとする。しかし少し進むとタイヤは地面にもぐって空回りする。
 兵士は地面を覗き込む。「何てこった!この地震で地表が液状化を始めてるんだ!まずいぞ。このままだとキャタピラ装備じゃない車両は路外じゃみんな動けなくなる!」
 先ほどのタイ機甲師団。地震のような砲撃の中、雨はだんだん激しくなる。一人の兵士が部隊長に報告する。「道路の破損は、もはや直撃で破壊された数箇所だけではありません!この地震で、道路全体があらゆる場所でまるでチョコレートのようにひび割れを起こし始めてます!今や道路は全域で使用不能です!」
  「仕方ない、全車両を路外に出せ!」しかし路外に出ようとした戦闘車両群はタイヤが地面にもぐってしまい、這うような速度でしか進めない。数台のキャタピラ式装甲車両だけは何とか前進を続け、指揮官は遠ざかっていくその後姿を眺めながら「あれだけは助かるかもしらんな。」と呟く。
 そのうち砲弾が直接視認できる距離に落下を始める。遠方で、数秒に一つのペースでドーン!ドーン!と弾着の爆煙が上がり、それがゆっくりとこちらに近づいてくる。「ついに来たか。」
   そして残りの車両に対して「全員、車両を捨てて退避しろ!」と命令する。兵士たちはばらばらと車両から飛び降りて走り出す。(これによって、タイの新型機甲師団の構想そのものが破綻したことが観客に示される。)


マハティールの反撃
 タイの航空基地の管制センター。スクリーンを見ながらオペレーターが叫ぶ。「この物凄い砲撃で、戦車部隊だけでなく、機甲師団に随伴する野戦防空部隊もダメージを受けてます!わが国の上空全体で戦術防空能力は2割程度に低下しているものと思われます!」
  「まずいな。何しろ戦術空軍は、負け犬と見ると見境なしに獲物扱いして、誰彼となく襲いかかってくる。戦術防空能力の損害もそこまで行くと戦略レベルだ。国全体、いや、下手をすると西部戦線全体への空襲になりかねないぞ。とにかく基地に警報を出せ!」滑走路上に警報サイレンが鳴り響く。
 管制塔のレーダー・スクリーン上には赤い矢印がこちらに殺到してくる様子が映る。「来るぞ!2機、3機、4機・・数え切れない!」    空襲を加えてくる相手側の爆撃機や攻撃機のコックピット。ここにもIFFがあって、スクリーン上に地上のアジア空軍機が赤で映っており、パイロットがただ盲目的にそれに従って突入してきていることが示される。
   マイクを通したパイロットの声が聞こえる。「何だかよくわからんが、神の眼がいきなり地上のたくさんのものを赤で表示し始めた。目標は今も増え続けてる。地上は獲物で一杯だ!片っ端から血祭りに上げろ!」「了解。目標まであと10秒。」
   管制塔で外を双眼鏡で見ていた兵士が「駄目だ!来る!間に合いません!」と叫び、滑走路上に並んでいた航空機は、突然の空襲を受けて離陸できないまま破壊される。
   ほとんど飛べる飛行機もなくなったアジアの空で、マハティールだけは空中指揮機に搭乗して果敢に離陸し、反撃を指揮する。  マレーシアの中央空軍基地。空中指揮機にマハティールが乗り込んでくる。機内で待っていた部下が報告する。「タイでは空軍基地が一斉に空襲を受けて、空軍機能が麻痺しています。空襲は間もなくわがマレーシアの基地も襲うものと思われます!」
  「とにかくすぐに離陸するんだ!」エンジン音が高まり、指揮機は離陸していく。大砲撃にさらされる地上をバックに飛び続ける指揮機のシルエットを、どこか美しさを感じさせる不思議な映像として描く。
  「通信網はどんな状況だ?」「電話線がかなりの場所で寸断されて、大混乱を来たしてます。無線も空電ノイズが物凄くて、ごく近距離までしか届きません。地上の無線局はほとんど役に立たず、地方への通信連絡は事実上途絶状態です。」
「この機に搭載されている無線機だと、どのぐらい届く?」「10キロほどなら大丈夫でしょう。」「それなら十分接近すれば空から直接無線で指示を出せるな。地図をくれ。」地図が用意される。「では最初に向かうのはここだ。」マハティールは地図上で最初の目的地を指示する。 
 部下が目的地をパイロットに伝えた後で言う。「他の国では政府首脳はシェルターにこもったままのようです。空中指揮を行なっているのはどうやらわれわれだけのようです。」

帝国のトラック部隊の大脱出作戦
 砲煙と大雨で昼なのに暗く、この世のものとも思えない異様な空の下を、トラックの大集団が ヘッドライトをつけて高速で整然と突進し、タイ国外への脱出ルートをひた走る。何か壮大なマスゲームでも見ているようにきれいに流れる車両の列の映像。
(注・これは無論、資本が海外逃避する状況を可視化したものである。)  

(写真13)

 先ほどのタイの要塞内部の司令室。砲撃で地震のように絶え間なく揺れ続けている。「各地域で、補給トラック部隊が前線師団を置き去りにして、勝手に集団で国外に脱出しています!そのため砲撃の射程外で生き残った師団も、燃料を持ち去られて動けなくなりました。戦線後方に用意してあった戦車回収車両も動けません。わが軍の活動は全域で麻痺状態に陥っています!」
  「補給部隊を外国に依存したことのツケが来たわけか・・・。ほんの少し前までは、山ほどの物資を満載して向こうから押しかけてきたというのに。これはハシゴを外されたな。」指揮官は悔しそうに言う。
「どうします?この砲撃を止めるには、ここの要塞線全体が戦闘力を失ったことを宣言して、国際秩序維持軍の出動を要請するしかありません!」 「しかしそれは、彼らに首都進駐を要請することでもあるんだ。そして現在の国際秩序維持軍は実質的にアメリカ軍の指揮下にある・・・。くそ、最初からそれが目的だったのか?」
「ですがどのみち、この要塞が戦闘力を維持していることを示せなければ、秩序維持軍の戦車は向こうの判断で出動してきます。それに、このままでは国内に燃料補給部隊が入ってこず、国民生活にも支障が出てきます。」
 指揮官はコンソールに拳を叩きつける。「戦車の侵攻を止める方法はないということか!それも、表向きこちらが首都に進駐に来て下さいとお願いする形で!」

帝国治安維持軍(IMF)の大戦車軍団の突撃
 タイから撤収するトラック部隊の大集団が巨大な鉄橋を高速で渡っていく。カメラは最後尾のトラックを捉えてそれを追う形で、それらが回廊内に逃げ込んでいく様を後ろから追っていく。カメラの側は停止し、視野の中でトラック群が回廊の先に遠ざかって小さくなっていくと、カメラがゆっくり回って回廊の反対側を向く。するとそこには帝国治安維持軍(IMF)の戦車が長い列を作って停車しており、それが山陰でエンジンを切って密かに待機していた衝撃的な映像が初めて観客に示される。
   やがて砲撃が止んで周囲が一旦静かになる。すると今度はそれらの戦車の暖気運転のエンジン音が山間にこだまし始め、やがて戦車は次々に橋を渡り始める。  


 (写真14)

    そして対岸で隊列を整えた後、突進を始める。事実上無人の地を行くに等しい前進。(ただし戦車に関しては、後に韓国の場面でも壮大に描くので、今は大集団の凄まじさそのものはあまり印象的に描く必要はない。むしろ前進の際のタイ側の無抵抗ぶりを強調。)
   なだらかな起伏の緑の平原の前。雨は少し弱まったが依然降り続いている。土嚢で囲まれた陣地の中、兵士が「砲撃が止んだな。一体何が起こってるんだ?警報が一度鳴ったが、それっきりだ。」「さあな。俺にもわからんな。」その時、電話が鳴る。
   受話器をとると「そこの防備を固めろ」と声がする。「こちら56番陣地。何が来るんですか?」「防備を固めろ。」同じ台詞を繰り返して、電話は切れてしまう。
「切れちまった。どうする?」もう一人が肩をすくめる。「言われた通りにするしかないだろう。」何が起こったのかよくわからないまま、とりあえず防戦を命じられて機関銃を構える守備隊。
 配置についてしばらくすると、一人が「何か聞こえないか?」と言い、全員が耳をすます。  雨音を通して遠くから聞こえる無数の戦車のキャタピラ音。雨でかすむ丘の向こうに次々現れる戦車群の、一種幻想的でさえある光景。
 ぽかんと口を開けた守備隊は、無意味に機関銃を撃った後、すぐにパニックに陥って逃げ出す。    ソロスのいる帝国側の司令室。「戦車部隊はタイの第二首都に向かって進撃中。間もなく到達の予定です。」スピーカーが報告する。
 第二首都に向かって突進するIMFの戦車。  

 (写真15)

マハティールの空中からの指揮(1)  
空中指揮機の中。「第8補給基地の上空付近にさしかかりました。間もなく通信が可能な距離になります。」「基地司令を呼び出せ。」    無線の雑音に混じってだんだん声が聞き取れるようになる。「基地司令が出ました。」マハティールは無線の前にすわる。
  「私だ。現在、わが国全土で外国の補給部隊が勝手に集団で逃避を始めている。そちらの様子はどうだ?」「ここでも8割ほどが逃げられました。一握りだけを何とか足止めさせています!」
「それでは今すぐその燃料を使って、動ける車両をすべて最も近い油井に移動させろ。そこから15キロほど内地に下がったところ油井があるな。それは今でも使えるか?」
「かなり使われていて埋蔵量は十分ではありませんが、まだ一個師団の10日分程度ぐらいの量は残っているはずです。」 「とにかくこの状態では、たとえ砲撃が止んでもその時には外からの燃料供給が途絶していて、機甲師団は燃料不足で動けなくなっているはずだ。そこで、油井の近くまで退いて円陣を作って防御態勢をとり、砲撃が止むまでそこで待機させろ。基地機能もそこに移転させる。とにかく砲撃終了と同時に国内の燃料だけで動き出せる体勢に、何とかして移行させておくんだ。」
 そのとき、通信が突然途切れる。そして地表で砲弾が炸裂する音が機外からも聞こえてくる。「どうやら真下の地点が砲撃を受けつつあるようです。」「間が悪いな。」
   雑音の中で通信が回復する。「そっちは砲撃を受けているか?」「はい。突然ここにも砲弾が落下し始めました。ただ、長距離射撃用に射程を延ばした軽量砲弾のようです。ダメージは致命的ではありません。」
  「とにかく指示を実行しろ。なるたけ早くだ。まだ80センチ砲はわが国には向けられていないが、すでにタイでの射撃行動は終わって他の国に移動を始めているとの情報がある。そうなるといつこちらに向かって来るかわからない。その間に国内の機甲師団の主力を、少なくともこの化け物の射程外までは後退させておくんだ。」「了解しました!」
  「D+4日」の字幕スーパーをバックに、風車の並ぶ道を戦車が行進していく光景が短いカットで一瞬写る。(市街地はあまりアジア的な感じではない。)  

帝国側の司令室。
ソロスが入っていくと、部下が紙を持って歩いてきて報告する。「タイは正式に降伏しました。作戦開始から4日です。」「ほぼ予定通りだな。」 「列車砲は第二戦略目標に向けて、すでに移動を開始しています。途中で砲身の交換作業を行ないます。」
 「さて次の標的はインドネシアだ。」作戦テーブル上で、列車砲を示す駒が地図上のインドネシア周辺に置かれる状況がクローズアップで写る。「こちらも間もなく砲撃が始まります。」
  (注・史実でも、タイがIMFに支援を要請してその支配下に入ったのは、この年の8月中旬、大体開始から40日程度であり、その1/10で「4日間」と表現されている。)  

韓国への出発
 三人組が混雑したシンガポールの駅内を歩いている。「まあ早めにタイを出てシンガポールまで来ておいて良かった。さもないと今頃タイからの脱出列車でもみくちゃだ。」韓国将校は言い、「今や砲撃の嵐はインドネシアを襲ってる。この分だと、ここ、シンガポールにも砲撃が襲うのは時間の問題だろう。ここもすぐに出た方が良さそうだ。」そして駅の売店で新聞を買う。
   彼は新聞に目を通し、「ついに非常事態宣言が出されたな。タイの第二首都は国際秩序維持軍の占領下に入った。今までは国際秩序維持軍の出動なんて、今どき辺境以外ではあり得ないと思われてたから、それが首都を直接占領する能力を有していることも見落とされたんだが、まさかこんな形で使われるとは。何やら本性を現わしたという感じだな。」
   彼はさらに新聞を眺め「もう一つ興味深い記事がある。国際社会から、その国際秩序維持軍という名称も変更すべきだという話が出てる。そもそも実体が完全にアメリカ一国に権限が握られてるのに、国際もへったくれもないというんだ。まあ今回、急に表舞台に出てきたことでその話も一挙に噴出してきたんだろう。」
 女性が通訳するとフランス武官は何か答え、女性が通訳する。「それで、何と言う名前になるんですか?」 「西部戦線諸国は、非公式ながらすでにこれを帝国治安維持軍と呼び始めてる。ところが意外なことに、アメリカ人たちの中にこの『帝国』という名称をむしろ肯定的に受け入れる動きが出てるそうだ。むしろローマ帝国の再来というべき地球帝国の時代が来た、ということらしい。この様子だとそれが定着するかもしれないな。」
女性が通訳すると、フランス人は笑う。「時代も変われば変わるものだ、だそうです。」それを聞いて韓国人も頷き「全くな。で、これはまだ続くと思うか?というより、シンガポールから先、われわれはこれからどこへ行く?」と尋ねると、フランス武官は地図を広げて「韓国」と答える。
「韓国だって?」と将校は驚く。「一体なぜだ?」   「現在行なわれている新しい電撃戦の戦術は、私が以前に見たアメリカ陸軍の新戦術構想にそっくりだ。そうだとすれば、その絶好の舞台としての条件を備えているのは、むしろ韓国なんだ。」通訳。
「本当か?」韓国人は疑わしそうに言う。 「いずれにせよ情報を集めるためにも、韓国付近に行くのが一番いい。」「まあそれはそうだな。ここにいてもしょうがないし、どのみち私も国へ戻らなければならない。」と最終的に同意する。
(注・このシナリオでは一般に「グローバル資本主義」という言葉が「帝国」の呼称に変換されて表現されている。現実にはこの時はこのシナリオとは違って、IMF自体は特に名称は変更されなかったが、しかしこれが公正な国際機関というよりは露骨にアメリカのグローバル資本主義を推進するための機関であるという事実は、この時初めて世界の共通認識となり、「IMF=グローバル資本主義」の図式と、その悪玉論が広く大衆レベルで定着した。その意味では非公式ながら、帝国の一機関に名前を変えたという表現もあながち無理とも言えない。また、ワシントンのエリートの間で実際にアメリカ体制のことを肯定的に「帝国」と呼ぶ動きが出てきたのもこの頃からである。)

マハティールの空中からの指揮(2)
 再び空中指揮機の中。「例の長距離砲弾はどうだ?」コンソールの一つを覗き込んでマハティールが質問する。「どうもこの機の通った軌跡をなぞるように落下してるようです。この機の位置を追う形でマークして、その真下の地点を狙うようプログラムされてるんじゃないでしょうか?」「こちらの空中指揮を封じる目的ということか?・・・まずいな。」マハティールの顔に苦渋が見える。
  「第6補給基地が出ます。」報告を受けてマハティールは無線に向かう。「私だ。そちらの状況はどうか?」しかしひどい雑音でしばらく聞き取れない。  やがてその雑音に混じって「砲撃が、閣下の機の後をついてきてます!こちらでは複数の師団が砲撃を受けて悲鳴を上げてます!どうか空中指揮をお止めください!さもないとかえって地上の重要拠点が砲撃の目標となり、狙い撃ちされます!」と悲鳴のような声が聞こえる。
  「寝ぼけたことを言うな!それこそ相手の思うつぼだ!これが空中指揮を止めさせてわれわれの反撃を封じるための手だということぐらいわからないのか?」マハティールは叱咤する。
「ですが、アメリカの言うように今や国際協調が大事です。国際社会が『弾薬供給危機』という思いがけない災害に対して一丸となって当たるためには、わが国だけがそれと異なる方針をとって足並みを乱すのは望ましくありません。この砲撃もそれに対する一種の解答です!どうか空中指揮による反撃を中止して、早期に講和を行なってください!」
「『弾薬供給危機』だと?思いがけない災害だと?白々しい!こいつは西方電撃侵攻作戦そのものだろう!とにかく反撃中止など論外だ!動ける師団を今すぐ80センチ砲の射程外まで後退させて、国内の燃料で自活できる体制に移行させるんだ!」
(注・これはほぼ史実のまま。彼がアメリカに反対する言動をとるたびにマレーシアはかえって機関投資家の標的にされ、国内からはその中止を求める悲鳴が相次いだ。しかしマハティールは断固としてそれを拒否し続けた。)

日本側の救援計画
 日本の参謀本部の会議室。陸軍の将官たちが会議を行なっている。(「D+7日」の字幕スーパーが出る。)一人の参謀が発言している。   「さてこの西部戦線全体の危機的状況に対してわが国がどう行動すべきかだ。皆もすでに気づいていると思うが、今回標的となっている国々の多くは、わが国の陸軍と密接な関係をもち、その軍制もわが国の機甲師団のドクトリンを学ぶ形で作られたものだ。それを考えると、わが国としてもここで何らかの救援行動を起こすべきかと思われる。」
 参謀の一人が発言する。「その通りです。確かに現在、米国の主導のもとで弾薬援助のための補給列車が派遣されていますが、その安全確保の名目で首都にIMF、いや、帝国治安維持軍の機甲部隊が乗り込んで事実上の占領軍として振る舞い、陸軍の従来の体制を解体して米国型に作り変えようとしています。これを傍観したままでいるならば、西部戦線におけるわが陸軍のプレゼンスは大幅に低下し、その存在意義自体が問われることにつながりかねません。」(なお、この参謀は当時の「ミスター円」こと榊原英資財務官。)
「同感ですね。むしろ今回のことは、最初からそれ自体を目的とする意図的なものであったと疑うべき余地がありますからな。まさか治安維持軍の戦車にそんな使い道があり得るとは、ついこの間までわれわれは誰も想像すらしていませんでした。何しろあれが先頭に立っている限り、通常の師団にはできない第二首都への進駐と占領が可能になるんですから。」
 一同は唸る。「確かに。連中は表向きは『弾薬供給危機』と呼んでますが、噴飯ものです。むしろこれは明白な侵攻作戦ですよ。」  先ほどの参謀が後を続ける。「現にタイの第二首都に進駐した帝国治安維持軍は、現地でむしろ破壊を広げています。要するにわが国以外、これら諸国を助けられる国は存在しないわけです。そこでこれを食い止めるため、これからわが国は弾薬援助部隊を独自に組織し、戦闘中の西部戦線諸国に補給列車を派遣することを提案します。」
  「確かにな。それにしても、もしこれが起こる以前の段階で、わが国が西部戦線全体に補給列車を派遣する用意があることを宣言していれば、帝国治安維持軍の機甲部隊の出動も阻止できたかもしれなかったな。」
「その通りです。しかし今からでもそれを送り出せば、これ以上の破壊は防げるでしょう。むしろ今回のことは、わが国がこの西部戦線の秩序維持のため、積極的に一歩を乗り出すための好機と捉えるべきです。」「確かにそうだが、しかしそうなると、米国はその中止を要求してくるのではないか?」
 参謀はやや皮肉ぽく言う。「もし今回のことが本当に『弾薬供給危機』だというなら、わが国が独自に救援のための補給列車を組織してはいけない理由は、表向きはどこにもない理屈になります。そこでもし米国が一人、それに露骨に反対するようなら、今回のことが意図的なものだったという疑惑をもたれることになるでしょう。それを考えると、表立っての反対はしにくいはずです。」
  「よし、わかった。では榊原参謀の提案する、大規模な弾薬補給列車を西部戦線全体に送り出すべきだというプランに対する意見は?」「賛成です。」「賛成。」
「決定だ。では補給列車の編成計画に着手してくれ。」一同は解散する。 (注・「救援の弾薬補給列車を送るプラン」とは、日本でこの時計画された「AMF=アジア通貨基金」構想のこと。ただしこの場面の表現に関しては無論、榊原英資氏ご自身の了解は得ていない。なお大蔵省の財務官というポストの権限だが、現在の大蔵省では財務官というポストは局長の上、事務次官の下というあたりだとされ、日露戦争などの時には高橋是清がこのポストにあって外債募集の責任を担っていた。また戦前には中央省庁のポストは軍との給与体系統一のため、それぞれが軍の階級と正式に対応づけられており、課長クラスが大佐、局長クラスが少将に対応していたが、それを考えると、このポストは参謀本部の中将程度の権限をもっていると考えられる。)

車内で明かされる秘密
 韓国へ向かう列車のコンパートメントの中。まず韓国人将校がフランス将校に尋ねる。「あんた本当は英語ができるんだろう?そろそろあんたの任務を明かしてくれてもいいんじゃないのか?あんたはどう見てもコネだけで将校になった落ちこぼれじゃない。持ってる情報の質が高すぎるし、大体あんたの行動自体、明らかにもっと上からの命令によるものとしか思えない。いくらあんたが自分は情報部の人間ではないと言い張っても、言えば言うほどこっちは疑いを深めるだけだ。これ以上隠し事を続けるのは、お互いのためにならないと思うんだが。」
   フランス将校は少し考えた末にうなずいて、英語でしゃべり始める。「いいだろう。あんたのご推察どおりだ。確かに私はフランス陸軍の正式な命令で動いている。ただあんたは一つだけ間違っている。私は情報部の人間ではなく、参謀本部の作戦課に所属する作戦参謀だ。そして私の任務は、この帝国側の作戦に対してフランス陸軍が如何に対処すべきかの情報収集だ。」
   間にいた女性通訳は、いきなり自分の頭越しに会話が始まって目を白黒させる。しかし韓国人将校は「フランスの参謀本部が韓国の運命に関心をもつ?、要するに韓国がどういう具合にやられるかを見物しようというわけか?」と皮肉っぽく言い、フランス将校はふんと鼻を鳴らす。韓国人はさらに続ける。
  「大体さっきあんたは、アメリカ陸軍が新戦術の実験をやろうとしているとか言っていたが、もしこれが実験というなら、もう十分だろう。これ以上韓国まで戦線を広げる必要はないはずだ。むしろ今まで見た感じじゃこいつは単なる実験としちゃ規模が大きすぎる。かと言って、もし実験でないとすれば、今度は韓国にはそこまでして奪う必要のある戦略目標はないことになる。確かに今まではあんたの言うとおりだったが、韓国がこれから標的になるという話は如何にも無理があるぞ。」
 フランス将校は答える「君はまだ根本的なことがわかっていないようだな。今回の作戦は、単に西部戦線諸国がもっている僅かばかりの戦力や資源を奪うといった、そんなちっぽけなものじゃない。これは世界全体が帝国体制に移行するかどうかに決定的な影響を与える、歴史的な戦いとなる可能性が高いのだ。」
  「帝国体制移行への戦い?」 「そうだ。現在世界は一つの岐路に立っている。それは、世界全体がアメリカを首都とする一個のグローバルな帝国となって、独立国というものが実質的に地上から消えるか、あるいはそれに歯止めがかかり、世界が複数の独立国から成る勢力均衡体制に留まるかの選択だ。そして今回の戦いはそれに大きな扉を開くことになるかもしれないんだ。」
「そんな重要な戦いがアジアで起こるのか?でもアメリカにとってはここ、西部戦線はむしろ裏口で、彼らの目はむしろ東部に向いていると思ってたんだが。」 「いや、現在のところ西部戦線は地上戦において世界で唯一、陸軍が活発に動いている場所だ。西部戦線諸国の陸軍はアメリカ陸軍にとっては目の上のコブで、それを潰しておくことは、避けて通れない。その意味では、連中はさしずめ韓国を第四次大戦におけるダンケルクとするつもりなのかもしれない。」
  「でも韓国にそんな戦略的な重要性があるのか?確かに陸軍大国への仲間入りは果たしたが、世界の命運を握るほど大きくなってはいないぞ。」 「まあ韓国はデモンストレーションの舞台として選ばれていると言った方がいいだろう。」彼は鞄からファイルを取り出して地図を広げる。
「直接的に言えば、そのデモンストレーションの最大の標的は、この韓国の要塞線『タイガー・キャッスル・ライン』だ。」と地図を指差す。 (注・この要塞線の名前は、なかなか適当なものがなく迷ったのだが、当時、日の出の勢いのNIES諸国と韓国経済を、しばしば欧米のジャーナリズムが「虎」と呼んでいたことから暫定的にそう命名。)

(図4)

  「このマジノ線のような要塞線は、現在のところ世界で最も堅固なもので、アメリカ陸軍がこの地域で行動する際の障害になっていて、連中は何とかそれを解体に追い込もうと手を焼いていた。
 だがその意味は単にそれに留まらない。そもそもこれは現在、各国の陸軍がそれぞれ一国だけで独立できると考える勢力にとっての、一つの象徴的存在になっているんだ。」
「象徴的存在、つまりこういう要塞線があれば帝国の世界統合主義に対して抵抗できるという、その象徴ということか?」 「そうだ。だから今回の作戦の総仕上げとして、西部戦線でこの要塞線を崩壊させると共に韓国陸軍を一夜で降伏に追い込んだとすれば、それは世界全体に対する最も強力なデモンストレーションとなる。もし世界がそれを目撃したとすれば、帝国の作る唯一の秩序に逆らって一国だけの独立陸軍国としてやっていこうと考える国は世界のどこにもいなくなり、雪崩を打って帝国体制に参加することになるだろう。」
 そしてフランス人は椅子に背を沈める。「まあとにかくそうなれば、わがフランスといえども安泰ではない。そのためフランスは現在、その事態に対抗すべく、ドイツのもつ鉄道網と接続するため、両国間で線路の規格の統一を急いでおり、ゆくゆくはヨーロッパの鉄道をすべて一体化することでそれに対抗することを考えている。」
  (注・これはヨーロッパの通貨統合のこと。この時はまだユーロは登場しておらず、ドイツの通貨はマルクだった。)  「わかったろう。事はたかが韓国一国の問題ではないのだということが。それゆえ今回の事態に対しては、フランスの参謀本部といえども国家の将来の存亡がかかったものとして、重大な関心を払わざるを得ないのだ。」
   韓国将校は納得できない表情で「だが韓国軍があんたの言うようにたった一日で壊滅するとは、やはり信じられないな。今の韓国は曲がりなりにも本格的な陸軍大国だ。確かにフランス陸軍と比べればまだその規模は1/3だが、それでも正式に列強の仲間入りを認められた第一級の陸軍国だ。タイやインドネシアとは訳が違う。あんたはこの状況を、かつて自分の母国がマジノ線に頼って、ナチス・ドイツ軍にたった一月で撃ち倒されてパリを占領されてしまったことに重ね合わせてるんじゃないのか?」と疑問を投げかける。
 

 (図5)

「それがないとは言わない。だがさっきも言ったように、今回の作戦はアメリカ陸軍の新戦術構想のテストを兼ねている可能性が高い。連中はすでに第四次大戦前からそういう構想を練って準備を始めていたんだ。」フランス将校はもっと別の広い地図を広げて、戦場マップの上に駒を置きながら説明を続ける。
  「とにかくアメリカ陸軍は第三次大戦の時には野戦で日本の機械化歩兵に苦杯をなめさせらて、何とか歩兵の質を上げようと努力したが、一向に成果が上がらない。さらに、来るべき第四次大戦においては、新興アジア諸国の陸軍が、日本を手本にして優秀な機械化歩兵を大量に戦力化する恐れが出てきた。
 そこで彼らは発想を転換し、もはや野戦で勝つこと自体を目標にせず、むしろ彼らが強味をもっている鉄道網の力を陸戦の主役とすることで、第四次大戦の陸戦の主導権を握るという戦術革命を考えたんだ。」
  「歩兵の弱さを鉄道でカバーする?あの列車砲が歩兵のかわりを務める切り札だというのか?」 「いや、列車砲なんてのは例外的に用いられる特殊機材でしかない。むしろ普通の鉄道の力こそが真の主力だよ。」「普通の鉄道が主力?今ひとつ意味がよくわからないが。」
「例えばだ。こちらがある地域の野戦で相手側の1個師団をまるごと全滅させる大勝利を得たとしよう。ところがもし相手の補給能力が桁外れに大きくて、一夜で1個師団分の装備まるごとを戦場に送り届けて補充することができるとしたらどうだ?」
「・・・確かに・・翌日の朝にはもうその勝利はきれいに帳消しにされているな・・。」 「補給能力の怖さというのはそれだよ。むしろ列車砲なんかより遥かに恐ろしい。こうなるともう野戦での勝敗など半ば意味を失うことになりかねず、鉄道網の主導権をもっているか否かが鍵になってくるだろう。」
「まあ、それはそうだが・・・。」 「これは単なる例え話じゃないぞ。今では鉄道網の補給能力が昔とは次元が違うほどに巨大化したため、本当にそういうことができるようになっているんだ。現在では優に一国の陸軍の装備全部を上回るほどの膨大な補給物資が常時鉄道網の上を動き回っていて、一日のうちに世界中のどこへでもそれを送ることができる。」
 しかし韓国人は反論する。「まあ鉄道の弾薬輸送能力が物凄いものになっているという話は聞いてるよ。でもあんたは肝心な点をぼかしている。そもそもそういう無国籍の補給部隊は勝ち馬に乗るのが基本だろう?だとすれば、まず最初に肝心の野戦部隊が勝たないことには、それは味方をしてくれないし、機械化歩兵が弱ければやっぱりそれができないことになるじゃないか。」
「戦いには不戦勝というパターンもあるのだよ。要するに問題はこういうことが常態化した場合、戦場で双方が戦う前からその結末を見越してその後の交戦を避けるようになりはしないかということだ。そうなれば最初から補給能力で相手を圧倒し、戦わずして相手を下して自らの配下に組入れ、戦場ごと買い取るようにしてスマートに支配を拡大していけるだろう。そうなれば機械化歩兵などなくても、鉄道網を支配していれば勝てる理屈になる。もはやルールは根底から覆えりつつあるのだ。」
 韓国将校は呆然とする。「それが奴らの新しい戦術構想か?」   「そうだ。そう思って現在の作戦を見てみろ。まさに最前線を放っておいて、むしろ背後の補給線を空陸一体の砲撃作戦で粉砕することで戦いの決着をつけ、一挙に各国第二首都の占領に持ち込んでいるだろう?つまりこれは新しい電撃戦の戦術そのものなんだ。」
「でも今回はアメリカ国防軍は表へは出てきていない。作戦計画を立ててるのはオーバーロード親衛隊の側じゃないのか?」 「確かに、鉄道回廊を根拠地とするオーバーロード親衛隊とアメリカ国防軍は、必ずしも一枚岩ではない。親衛隊側が望んでいるのは、国境を撤廃して世界中に鉄道の力が及ぶようにし、そこでIFFの『神の目』による一元支配体制を作ることだ。しかし今回は両者の利害は完全に一致している。親衛隊側は国境の要塞線が邪魔だし、アメリカ国防軍側は機械化歩兵の無敵神話を崩壊させたい。だからさほど手の込んだ陰謀がなくても、手を組むようになるのは自然のなりゆきだろう。」
 韓国人はあまりの話に黙り込んでしまう。 「わかったろう。もし韓国を新しい電撃戦戦術で打ち倒せれば、それは世界に向かって、機械化歩兵を主力とするアジア陸軍は次の時代の主役ではなく、むしろアメリカが握っている鉄道網の力が主役になること、そして世界がアメリカを中心とする帝国体制にひれふす以外に選択肢がないことを、劇的に示すことができる。」
 韓国将校は唸る。「つまりそうなれば、世界の陸軍は雪崩を打って帝国体制に移行することになるというわけか・・・。」   「そうだ。もしたった一日で陸軍大国の一つを降伏に追い込めたとすれば、それは文字通り世界史的な影響を与えることになるはずだ。そのためのデモンストレーションの小道具としては列車砲はまさに最適だ。」
 韓国将校はさらに考え込む。「そしてその舞台としてちょうど良い条件を備えた国は韓国以外には存在しない・・・そういうことか?」 「その通りだ。タイでは小さすぎてデモンストレーション効果が薄いし、日本は逆に大きすぎて1年やそこらでは倒せないからね。だから私としても韓国でこれから何が起こるのか、それを観測できるポジションにいたい。できれば観戦武官に近いぐらいの。」
   韓国将校はうなずく。「要するにこの情報と引換えで、そういう観測ポジションを得たいということだな。わかった。知り合いに参謀本部の奴がいる。できるだけのことはやってみよう。」
   そして車窓の外にそそり立つ山肌を眺める。(進行方向に対して左側が海、右側が山脈である。車内はオリエント急行のような雰囲気。)「あの山の向こうをわれわれと並んで列車砲の大軍団が北上つつあるかと思うと不気味だな。」
(注・彼の言うことは何ら誇張ではない。実際、韓国経済の崩壊によって、それまで単なる学者や評論家の間の言葉でしかなかった「グローバリゼーション」は、世界を覆う現実となった。またそれ以前には、米国経済がアジア経済によって追い抜かれるのは時間の問題と考えられていたのであり、それを打ち砕いた最大の象徴がこれだったのである。)
     三人は韓国に到着する。フランス士官は、日本女性通訳に向かって「君はもう帰れ。通訳は必要なくなったわけだからな。ここから先はわれわれだけでやる。」
 しかし彼女は必死に「私も連れていってください。あまり役には立たないかもしれませんが、足手まといにならないよう頑張りますから。」と懇願する。    フランス武官は意外そうに「しかし君はこんな騒動に巻き込まれるのを嫌がっていたじゃないか。せっかくもうこんなこととおさらばできるのに、今頃どうして?」と尋ねる。
 彼女は「私、これを最後まで見届けたいんです。今まで私は何も知りませんでした。こんなことが世界で起こっているなんて・・・。それに、自分がこれほどまでにちっぽけな存在であったということも・・・・。だから・・・・。」と、何やら言葉が十分に見つからず、もどかしそうな感じで答える。
 フランス武官は、あごをしゃくって、ついてくるよう示す。      「D+9日」インドネシア陥落。三人が新聞を前に話している。「タイとインドネシアはあっという間に陥落した。この短さは、かつてドイツ軍の西方電撃戦でオランダとベルギーが抵抗を続けていた時間とほぼ同じだよ。」
「それじゃ急いだ方が良さそうだな。あの時はダンケルクまではあと数日ぐらいしかなかったわけだから。」 「しかし韓国はずいぶん悠長に構えてるぞ。対岸の火事ぐらいに思ってるみたいだ。さて参謀本部のやつは一応同期だが、今のこの時期に会うには何か手土産が要るな。」
「やはり例の写真を使うしかないだろう。あれは一応、作戦開始2日前に列車砲の集結を空から捉えた貴重な写真だ。何せ状況がこういうことになった以上、この写真の値打ちも相当に大きくなってる。これを提供するということなら、会見を申し込むネタとしては十分じゃないか?」
「よし、それで行くか。」 (注・史実ではインドネシアがIMFの支配下に入ったのは10月のことで、開始から90日〜100日程度である。また実際に韓国はこの頃は、自国経済はファンダメンタルズ自体はしっかりしているため、通貨危機は自国には波及してこないと信じ込んでいた。)

参謀将校との会見
 彼らは旧知の韓国軍の参謀将校と会見し、回廊のA地点に列車砲が集結している可能性が高いと伝えるが、秀才の参謀将校はそれを笑い飛ばし、以下の理由によりそれはあり得ないと主張する。(なお以下の記述は、作戦の背景を完璧に組み上げるために詳細にわたって精密に構成されたものであるから、必ずしも全部を映画の中で説明する必要はなく、これを一旦消化した上でアニメーションなどを使って映画向きにコンパクトに再構成すればそれでよい。)
 秀才参謀は自信たっぷりに言う。「君らはまさかわが韓国陸軍が、タイやインドネシアの、にわか作りの陸軍と同じようなものだと考えてるんじゃないだろうな。連中の、タイヤ式で安上がりな『タンケッテ(豆戦車)』で機甲師団を作れるなんて発想自体、所詮は代用品だったんだ。それに比べればわが韓国の陸軍は本格的な機甲師団だ。少なくとも戦車だけはキャタピラ化されているから、あんな風に道路上に閉じ込められて砲撃の的になるようなことはないんだよ。」
「いや、それでも要塞線に穴を空けられると、その背後が無防備であることには変わりはないだろう。要塞の弾薬備蓄が少ないことは聞いているぞ。そうなれば第二首都まで一挙に攻め込まれてしまうことになる。」
「君らはこの要塞線があの程度の砲撃で一日で穴を空けられると思ってるのか?あれはコンクリートの壁一枚だけで成り立っている施設じゃない。むしろあれが鉄壁である理由は、その前面に大量の埋没戦車トーチカが埋められて双方が援護し合い、数十キロにおよぶ縦深陣地が構成されていることにあるんだ。」
 そして次のカットで、埋没戦車トーチカが写る。  

 (写真16)

  「たとえ要塞線のコンクリート壁自体に穴が空いても、こいつが生き残ってる限り敵側の戦車は壁にたどり着く前にこいつに止められて、要塞線の内側に侵入することはできない。」
「だがそこに埋めてあるのは旧式の戦車だろう。今回のような状況で本当に役に立つのか?」   「確かにその大部分はエンジンが動かない旧式戦車だが、逆にこいつは普通の戦車と違って重量増加を気にしなくていいから、相当な厚さの増加装甲ブロックをべトンと一緒に固めて強化されているし、横からの爆風で横転することもない。一般に戦車が巨大列車砲にやられる一番の理由は爆風による横転であることは知ってるだろう。」
「まあそれは知ってるが・・・。」   「要するに帝国側が戦車を侵入させるためには、この埋没トーチカを前もって砲撃で全部破壊しておかなければいけないわけだが、こいつは直撃でない限り破壊できないから、結局虱潰しに砲撃していくしかない。80センチ砲といえどもそれは基本的には同じことだ。」
「80センチ列車砲がその埋没戦車トーチカにどの程度ダメージを与えられるかは正確にわかってるのか?」 「当たり前だろう。われわれは正確なデータをもってる。そこから計算すると、この要塞線に穴を空けるには、最低でも2週間は絶え間なく砲撃を続けなければならず、帝国治安維持軍の戦車を進入させられるようになるのはその後だ。ここらへんが今まで制圧された西部戦線諸国とは訳が違うんだよ。」 (注・この「埋没戦車トーチカ」による相互援護体制は、韓国特有の「大財閥と政府の二人三脚の関係」を示す。つまり米国側の視点から見ると、これは政府による大財閥への不当な優遇措置で一応成立しているが、市場経済側の投資の論理からすれば自立行動できずに切り捨てるべき部分が、こういう形で表現されていることになる。なお参考としてつけ加えておくと、韓国の機甲師団は日本と違って機械化歩兵が未発達であるという特徴がある。)
 しかしフランス武官らは食い下がる。「しかし今回の砲撃作戦は、何だか本気さの度合いが桁外れだ。もし彼らが2週間以上砲撃を続ける意志があるなら、それも一応可能じゃないか?」
 しかし、それに対して参謀将校は、「いや、それに関しては向こうに一つ弱点がある。それは、そんなに長く砲撃を続けようとすると、少なくとも3日に一度は弾薬列車による再補給が必要になってしまうということだ。大体その再補給の時は脆弱で狙われやすいものだが、この場合は地形的な要因で特にそれが危険になるんだよ。」と別の地図を表示する。
「射撃を行なうとすればこのA点からだろうだが、ここは線路が袋小路のような引込線になっていて、再補給の際にはB点まで後退しなければならない。ところがこの場所は、ちょうどわれわれが自走砲などでそれを狙い撃ちできる位置にある。」彼は地図のA地点付近を指差す。
 

(図6)

   「再補給だけでなく、列車砲がその袋小路から後退する際にもこのB点を通らねばならない。そこを砲撃で狙われる危険があることを考えるとなると、ここに列車砲を入れて長期間砲撃を続けさせることはどう考えてもリスクが大きすぎるんだよ。まあ陽動作戦なら話は別だが、それでも安全を考えればせいぜい数時間砲撃を続けるというあたりがいいところだろう。」
   そしてつけ加える。「砲撃で要塞に穴を空けるという君らのアイデアは、素人にしては悪くはないが、現実に精密な図上演習をやってみると、やはりそれは不可能だということがわかるだろう。」説明を続けていた参謀将校は、彼らに説明しているうちに何事かひらめいた様子で、彼らに尋ねる。
  「確かタイでは、80センチ列車砲の間断ない射撃で弱い地震が長時間にわたって連続的に続いたため、数時間でほとんどの舗装道路が通れなくなったと言っていたな。」
「そうだ。われわれはそれを間近で見てきた。数時間でタイの道路はチョコレートのように割れて輸送は麻痺状態に陥ったんだ。」それを聞いて参謀将校は、「相手側の作戦が読めた」とつぶやいて立ち上がり、彼らとの会見を終えて、韓国軍首脳へのブリーフィングの準備に入る。

韓国側の作戦会議
 韓国軍の会議室。上層部が作戦会議を行っている。    参謀長らしき年配の人物が一同に質問する。「さて未確認ではあるが、シンガポールあたりで砲撃を行なっていた列車砲がわが国周辺に向かいつつあるとの情報があり、何らかの行動がわが国にも及んでくる可能性もゼロとは言い切れない。そうなった場合どう対応すべきだろうか。」
  「まあわが国の陸軍は、これまで制圧された西部戦線諸国のものと違って本格的な機甲師団ですから、彼らと同様のことが起こるとは考えにくいと思いますが。」
「確かにそうだが、しかし現在、われわれの防衛線も対抗砲撃用の弾薬備蓄は乏しく、その意味では同様の危険な状態にある。一応は砲撃を受けた場合の対応については考えておく必要があるだろう。」
 参謀の一人が発言する。「無論、方策がないわけではありません。教科書どおりの戦術ではありますが、このさい国内の弾薬列車を一律に第3レベルまで重装甲化するという緊急変更措置も、真剣に検討すべきかと思われます。」


   (写真17)
  「第3レベルとは、これまた思い切った重装甲化だな。貨車1両が積める弾薬の量がそこまで減るとなると、国内の鉄道の補給能力全体が大幅に縮小することになるな。」一同は唸る。
「無論そうですが、とにかくそうすれば砲撃の下でも安全に列車を走らせることができます。特にこういう場合、国外からわが国に入ってくる弾薬補給にそういう形で安全を保障することは重要かと思いますが。」
 しかし別の出席者が言う。「というよりむしろ君のプランの主たる目的は、まさにその弾薬補給圏を故意に縮小することそれ自体なんだろう?違うか?」 「まあおっしゃる通りです。とにかく弾薬補給圏が縮小すれば、必然的にこの付近がその中心地となり、国内にいる自走砲なども弾薬を求めて自然にそこへ集まってきます。そうなれば、列車砲側の弱点である弾薬再補給のポイントを、それを使って狙えることになります。」


(図7)
  (注・彼が言っているのは、思い切った利上げで自国通貨を高めに誘導する政策のこと。結果的にそれは韓国では実施されなかった。) 「つまり国内の自走砲をそのあたりに集めて、列車砲が弾薬再補給のために後退したときに、その再補給地点に集中砲撃を加えるというわけか?」
「そうです。確かに列車砲より遥かに小さな自走砲ですが、相当濃密に集結させればある程度の効果は期待できます。少なくともそういう潜在的な対抗砲撃能力を有していることが示されれば、相手を抑える抑止力となり得るかもしれません。」
「まあ非常手段として考えられる方策ではあるが・・・しかし弾薬補給圏の縮小を実行するというのは、陸軍全体にとって一大事だ。それは他の区域での大幅な弱体化を招くわけだから、どうしても必要な場合以外、一応避けたい方針ではあるが。」
 ここで例の参謀将校が発言する。「いや、むしろそれこそ彼らの狙いなのかもしれません。つまり砲撃作戦自体は実は陽動作戦で、われわれがそこに戦力を集中させるのを見計らって、手薄になった別の場所へ主力部隊が侵攻してくるというプランではないでしょうか。」
 

 (図8)

  「ではIMFの戦車部隊は?それも陽動作戦の駒になるのか?」 「というより、ひょっとするとIMF自体は最初から作戦には参加しないのかもしれません。実のところそれらの北上を何日も前から監視しているのですが、その兆候がほとんど見られず、比較的近い位置にいるのは通常の師団に属する隊ばかりなのです。そうだな?」と、幕僚の一人を振り返る。
「ええ。もし本当にそれをわが国で使うつもりなら、遅くとも3日前には南方からこちらに移動させて、わが国周辺で待機させておかねばならないはずですが、その兆候が見られないことからすれば、最初からIMFの存在自体が、われわれが作り出した幻影に過ぎないことは十分考えられます。」幕僚は答える。
 参謀長は考え込む。「確かに現在の状況でこの砲撃作戦を陽動作戦として使うならば、どんな幻影でも作り出す力があるな。つまり連中はその幻影を最大限に活用し、裏をかく形で普通の師団が裏口から攻勢をかけてくるというのが、君の予想かね?」
「おっしゃる通りです。通常ならわれわれもそんな陽動作戦には引っかかりませんが、この西部戦線全体の混乱でわれわれが浮き足立っているところを狙って、逆にその裏をかく形で、通常師団に所属するもっと小口径の自走砲部隊を裏口に多数進出させて、取れるだけのものを取っておこうというわけです。」
  (注・これは、韓国があわてて通貨防衛のための高金利政策をとった場合、国内の株価が下落して外資が韓国企業の株を安く買い占められるという経済状況に相当。つまり彼はむしろ外資はそれを狙っているのだと主張しているわけである。)
「つまりそれこそが向こうの目標だというわけか。全く火事場泥棒的だな。しかし落ち着いて考えてみればそれが一番ありそうなことかもしれない。だとすると、その主力部隊の待機地点はどこと予想される?」
   参謀将校はスクリーンを操作する。「恐らく回廊上のこの場所でしょう。」とD点を示す。「われわれが自走砲部隊をC点に集めるとすれば、このあたりが手薄になって、そこに残っている師団は弾薬燃料不足で対抗砲撃能力が大幅に低下します。つまりこのD点付近から他国の自走砲の大兵力が橋を渡って雪崩れ込んでくると、ここに停留しているわが方の自走砲では十分に対抗できず、向こうは楽に大きなスコアを上げることができます。」
  「しかし連中そこで自由に振舞える時間は、所詮はわれわれが気づいて戻ってくるまでの間だけだろう。陽動作戦の砲撃も、せいぜい二日しか続けられないし。」
「いえ、そこがこの作戦の頭のいいところです。タイやインドネシアでは、砲撃による地震で、数時間で徐々に道路網が破壊されていきましたが、これがちょうど移動にかかる時間と同じであることに注意してください。つまりわれわれがその陽動作戦につられて動いてしまった場合、行きはすぐに行けるが、帰りは道路網が壊されて戻れなくなるという事態に遭遇するわけです。」
 一同は感心して唸る。「なるほど、そうだとすれば辻褄も合う。それなら砲撃も1日だけ、いや、せいぜい数時間続けて、われわれが浮き足立ってそういう行動を起こすまで続行するだけで良いわけだ。」
「そうです。その場合、列車砲の側は危険な再補給など行なわず、手元の弾薬を撃ちつくした時点でそのまま砲撃地点から退避してしまえばよいでしょう。」 「要するに結論はこういうことか。つまりA点からの砲撃は実は陽動作戦で、向こうの本当の主力はこのD点で待機している。そのためわれわれとしてはたとえ砲撃が始まっても軽々しく動かず、そのまま配置を変えずに待機することが重要だというわけだな。」
「そうです。陽動にひっかからずそのまま待機していれば、恐らく数時間のうちに砲撃は停止するはずです。そしてD点付近から攻勢をかけてくる自走砲戦力は、われわれの防備が厚いということを見れば、その攻勢は断念されるでしょう。」


(図9)

「しかし要塞内に対抗砲撃を行なうための弾薬備蓄が乏しいことはどうする?これ自体は如何ともし難い事実だが。」 「砲撃が数時間で止むということがわかっているのであれば、無理に対抗砲撃を行なう必要はないことになります。むしろそれを下手に撃ち尽くして、要塞線の脆弱さをアピールするのは得策ではありません。あくまでも弾薬は非常用に温存して、どうしても必要な時だけ対抗砲撃を行なうに留めた方が良いでしょう。」
「それが一番妥当のようだな。」  そのとき、会議室の扉が開いて紙を持った将校が入ってくる。「列車砲の集結が確認されました。一日以内に砲撃が始まるはずです。」「いよいよ始まるか。ではわれわれも作戦室に移動しよう。」

三人組の別れ
 韓国の兵舎の一室。フランス人たちの二人組が部屋に戻ってきて、待っていた女性通訳に迎えられる。「どうでした?」  韓国人が首を振る。「どうも無駄だったみたいだ。」そしてフランス人に「結局あんたが望んでるようなことはできなかったな。われわれに出来ることもなかったし・・・。何だかわれわれは、各国を事が始まる直前に脱出することをただ繰り返して、無意味にその間を渡り歩いただけだったような気がするんだが。」
   しかしフランス人は笑って「そうでもないさ。今だから白状するが、実は私の任務は、むしろ直前状況に各国がどうだったかを実地に目で見ておくことだったんだ。事が起こった後なら、どうせ本国から偵察のための戦力が大量の観測機材と一緒に一個大隊ぐらい押し寄せる。だからそっちはむしろ私の仕事じゃないんだよ。ただ、それも見ておいた方が変化がよくわかるというだけの話でね。少なくとも韓国が事前にどんな状態だったかをこの目で見ることはできたわけだから、一応は任務達成だ。」
  「まあそれならいいが、しかしあんたも秘密の多い人間だな。でもこれからあんたはどうする?私は今夜から早速本部で仕事がある。もし状況があんたの言うとおりだとすれば、韓国から出るのも大変になるぞ。」
  「そうだな。日本へ戻ろう。今なら鉄道にも乗れる。」「それじゃどうだろう。回廊上の停車場に韓国軍の無線を傍受できるポイントがある。さっき準観戦武官のパスをもらったろう?あれがあればそこに入れるぞ。どうせ韓国の中にいても、情報収集なんかできない。むしろそこで傍受できる平文の無線だけでも聞いていた方がいいと思うんだが。」
 フランス士官はしばらく考えて「それが良さそうだな。」と頷くが、韓国人は「でも平文の無線は韓国語だ。あんた韓国語はわかるのか?」ここで女性通訳が口を挟む。「少しなら私が聞き取れます!やっと私が役に立てますね。」
「よし。じゃそれは君がやれ。ただ、基礎的な軍事用語だけは覚えろ。軍事用語の入った君の翻訳は時々おかしいことがある。」  そして韓国将校は部屋の中から何か探してきて、彼らに向き合う。「それじゃ餞別がわりだ。これは無線コードの早見表だ。別に機密のものじゃないが、そこらの売店では手に入らない。あると便利だから持って行け。」彼は小さなファイルをフランス人に渡す。
   そして女性通訳に「これは軍事用語の韓英小事典だ。素人向けのものだからどっちみち要らなかったやつだ。目を通しておくといい。」と、小さな冊子を渡す。
 そして少し自嘲的につけ加える。「君は自分がちっぽけな存在だと言って嘆いていたな。でもちっぽけという点では、われわれも君と大して変わりはないようだよ。」
   フランス人は「それじゃわれわれはこれからすぐに発つ。ぐずぐずしてると何が起こるかわからないからね。すっかり世話になったな。」と彼と握手する。「ではここでお別れだ。」(このあたりの演出は自由。他には特に重要な台詞はないので。)  

韓国側の作戦準備
 韓国側作戦室。慌しく準備が進む中、例の参謀将校が担当者から報告を受けている。 「埋没戦車トーチカの準備状況は?」 「無用の人員損失を避けるため、人員は後方に退避させて無人状態で待機させておきます。そして砲撃が止んでから埋没戦車トーチカに人員を再配置して、活動状態に戻します。」
「しかしそれだと砲撃を受ける地帯全域がほぼ無人状態となるな。」 「ええ。そのため前線観測所となる固定式のコンクリート・トーチカを1個所だけ用意して、そこにだけは観測員を配置してあります。どのみち航空偵察は、天候が悪いことに加えて爆煙ですぐに不可能になると予想されますので、情報はその観測所に依存することになりますね。」
「まあそれはともかく、埋没戦車トーチカが撃破されていないかは、各車に備えられたダメージ・インジケーターで監視します。」スクリーンが明るくなり、そこに多くの緑の輝点が表示されている。
「各車両は、修復困難な重大な損傷を受けた場合、大抵は内部のダメージ・インジケーターも同時に破壊されて、信号も途絶えます。現在はご覧のように正常に作動して、健在である旨の信号をここへ送ってきています。信号を送る地下ケーブルはネットワーク状に接続されていますから、どこかで断線しても他の経路を迂回して信号が送られてきます。」

(図10)

 参謀将校は別の担当者(同期らしい)を振り返る。「これは、君の計算だと現在の規模の砲撃下でも2週間は耐えられるということだったな。われわれの作戦はそれが正しいことが前提になってるが。」
「ああ。埋没戦車トーチカ自体、この前の点検の際に増加装甲を強化してあるし、この付近には、ただのスクラップ戦車も偽装用に大量に埋めてあって、空からは判別できないから、砲撃でそれも含めて全部潰す必要がある。それで、タイでの情報で得た80センチ列車砲の最新データをもとにあらためて計算した結果だと、たとえあれを用いても砲撃だけでこのゾーンに穴を開けるためには、通常でも準備砲撃を約1か月続行する必要があり、限界までペースを上げても2週間はかかるという計算だ。」
「わかった。まあこいつを全部潰すのは、いくら物凄い砲撃でもそう簡単じゃないということだな。」そしてここで先ほどの将校を振り返り、「だがちょっと基本的なことを確認していいか?いくら装甲ブロックで強化されているとは言え、トーチカとして利用されているのは旧式戦車だ。万が一、本当に正面から攻められた場合、その主砲で向こうの最新鋭戦車を本当に止められるのか?」
「まあ確かにIMFの治安維持軍の戦車を迎え撃つなんていう状況は、今まで一度も想定したことがありませんでしたが・・・ですが大丈夫です。  確かに短砲身で装甲貫徹力の弱い旧式の主砲ですから、正面装甲には歯が立ちませんが、この埋没戦車トーチカは曲射弾道で戦車の真上を狙うよう改造されています。如何に装甲の厚い治安維持軍の戦車といえども、真上から粘着榴弾を3発食らえばまず行動不能になるでしょう。」
  「で、曲射弾道の最大の弱点は命中精度の悪さですが、これに関しては前もって戦域全体をグリッド座標に区切り、各砲は座標を指定されるだけで正確にそこに砲弾が命中するように照準調整されています。また目標がどの座標にあるのかの情報は、各トーチカからの観測データが全部互いにリンクされ、侵入した戦車は射程内の複数のトーチカから攻撃されるようになっています。」

(図11)

    「こういう間接射撃では動きの早い移動目標は狙いにくいものですが、この地域には対戦車障害物として地表に多数のコンクリート・ブロックが埋められており、それによって向こうの高い機動力を封じられるようになっています。これら全部を総合するならば、結果的にわが方の防御力の方が上回ることになると見て良いでしょう。」
「よし。準備万端だな。まあとにかくわが国の要塞線は現在、世界で一番堅固なものだ。来てみろ。わが国はそんな簡単にはやられない。」  一方回廊内部では、作戦開始に備えて80センチ列車砲がゆっくりと線路上を進んでいる。今回は巨大な列車砲の少し後ろの離れた場所に、同じものがもう一門いて、隣の線路上を進んでおり、さらに遠くにもう一門が見えていて、合計3門の列車砲が射撃準備を整えている状況が描写される。
 巨大列車砲が一門だけではなかったという衝撃的な事実と共に、帝国側もこれから起こる決戦に只事でない準備で臨んでいることを実感させる。(先ほどの韓国側の万全の体制に関する説明と対照させて、「どちらが勝つか、良い勝負」という感触を与えることが必要。)
   空は相変わらずの曇り空で、それがかえって空を睨む巨大な砲身を黒々と不気味に浮かび上がらせている。背景の山々もどこかドイツ的な重厚さがあって、絵のように印象的な風景である。


(写真18)

  (この場面は、できれば映画制作に先立って画家に絵を一枚描いて欲しい。その絵が静止画としても圧倒的な印象があれば、「これを動く絵にしたい」という情熱がスタッフに伝染し、その一枚の絵が映画全体を引っ張っていける。)  

ついに始まる韓国への攻撃
 参謀将校以下の面々は、韓国の司令所に詰めている。(この時の日付は一応「D+12日」となり、それが字幕スーパーで示される。)  午前10時。「80センチ列車砲の射撃が観測されました!複数です!最初の弾着まで40秒!」その声を聞いて「始まったか!」と全員が持ち場についてスクリーンを注視する。
  「着弾によると思われる地震波を観測。着弾点を特定!地図上に表示します。」スクリーン上にいくつかの点が現れる。「予想通りの位置だな。ダメージの程度は?」「ダメージ・インジケーターの信号も、同一画面上に表示されるよう切り換えます。」
 輝点が現れるまで数秒の時間がかかる。「最初の着弾点はグリッド座標FD106。最も近いトーチカは着弾点から約30mの位置にありますが、それは依然として信号を送り続けています。現在のところ、信号が途絶した埋没戦車トーチカはありません!」
   司令室に歓声が起こる。「よし!わが国の要塞線は80センチ列車砲にも十分耐えられるぞ!こちらの勝ちだ!」緊張が解けて、楽観的な空気が周囲に流れる。
   一同にコーヒーが配られ、それを手にして参謀将校たちは会話を始める。「まあ直撃を食らったやつはやられるだろうが、このペースなら一応大丈夫だ。これで後は、砲撃が止むのを待つだけだな。」「気が早いな。まあ確かに陽動だとは思うが、念のためもう少し様子を見よう。」
    砲撃が開始されてしばらく経過。参謀将校は前線観測所に電話で質問する。「砲撃がどこか一点に集中されている兆候はあるか?」  観測所からの返答。「いいえ。現在のところ、砲撃は中心角45度の広い扇形パターンで満遍なく実施され、着弾は幅6キロにわたって広く等分に分散しています。どこかに集中されている気配はありません」(スクリーンにもそれが映像で示される。)
 

 (写真19)

 それを聞いて参謀将校は語る。「これではっきりした。これが陽動作戦であることは間違いない。穴を開けて通路を作るつもりなら、砲弾をこんなに広い角度でばらまくことをせず、砲撃はもっと狭い角度で一点に集中されているはずだ。」
   それを裏付けるようにスクリーン上の地図には、埋没戦車トーチカからの信号を表す緑の光点がたくさん点灯しており、それらは砲撃の中でも大部分は消えることなくそのまま点灯を続けている。これによって、砲撃が実際にはあまり効果を上げていないことが示される。
  「D点で待機中の部隊に伝えろ。恐らく数時間後にそちら方面から主力が来るはずだ。そのままの防備体制を一切崩すな、とな。」    前線観測所からは、間もなく砲煙で遠距離の精密観測は困難になると報告される。そのため地下の退避壕に降りてそこで待機するよう命令。
 そして司令所の士官たちはスクリーンの地図を見上げて、回廊上の、主力がいると彼らが予測した地点(D点)を見つめる。「そろそろ本命の自走砲部隊も偽装のための分散をやめて、このあたりに向けて集結のための動きを始めるはずだ。」
   下級参謀の一人が言う。「どうもやっぱり何だかフランス電撃戦を連想するな。」「どこがだ?」「あの時、フランス軍司令部は北からドイツ軍主力が来ると考えていたが、実際はドイツ軍は南のアルデンヌを抜けてセダンを突破してきた。その北と南の間の距離が、ちょうど今砲撃を受けている地点と、主力の予想攻撃地点の間の距離とほぼ同じぐらいなんだよ。」
 それを聞いて参謀将校は笑う。「それじゃ今回はわれわれの側がそれを見抜いているというわけだ。北の砲撃作戦が陽動なんだからな。」

午後4時。真相の判明と急転回
 字幕スーパーに「午後4時。砲撃開始から6時間が経過」の文字が表示される。  参謀将校に部下が言う。「予想では陽動作戦の砲撃はそろそろ停止し、列車砲は退避の準備に入るはずですが・・・。」「まだ止む気配がないな。」「主力と予想される向こう側の自走砲部隊に関しても、何の報告もありません。」
参謀将校は、帝国の戦車の予想待機地点(D点)付近に派遣してある偵察部隊に質問。 「何か大部隊が橋を渡ってくる兆候は見られるか?」 返答。「いいえ、まだ何も橋を渡ってきていません。今のところ対岸に何かが集結している気配も全く確認されません。」
「それじゃ連中はまだ回廊内部からの移動を始めていないということか・・・。回廊内部の偵察班は?敵の主力部隊をまだ発見できないのか?どこかに集結を始めているはずだぞ?」
「第1ゾーンでは何も発見できないので第2ゾーンまで足を伸ばしているとのことで、報告は予定時刻より遅れています。」  司令室でいらいらしている参謀を部下がなだめる。「まあ第2ゾーンで捜索しているとなると、確認に時間がかかるのは仕方ありませんよ。何しろあそこはノン=IFFゾーンです。たとえ待機中の戦力を何か発見しても、それがトンネルを越えて第1ゾーンに入った時に誰に味方するものかは直接はわからず、一通り全部情報を集めてから再評価しなければなりませんから。」
 そして回廊内部にいる偵察部隊からの報告が来る。「第2ゾーンで待機中の戦力を全部探しましたが、未だにまとまった戦力の集結はどこにも見られていません。」
「要するにわれわれが予想した位置には何もいないわけか?」「ええ。戦力らしきものはかなり離れた位置に分散していて、この状況だとたとえ今すぐ集結を始めたとしても、予想位置まで進出できるのは、こちら側が完全に体勢の立て直しを終えた後になるはずです。」
 司令所では皆が時計を見ながら不安にかられ始める。「そうだとすれば、この砲撃は陽動作戦としては最初から意味がないことになる。何か作戦の読み違いがあったのじゃないか?」
   参謀将校は苛立って反論する。「しかしこの砲撃が効果を上げていないことも確かです。依然として埋没戦車トーチカは95%程度が破壊されずに健在であることからすると、この砲撃が主攻だと考えるのはやはり理屈に合いません。」
 砲撃状況を示すスクリーン上では、それを示すようにグリーンの点はほとんど消えずに輝き続けている。「奴らは一体何を考えているんだ?」  そしてこの頃、前線観測所から、そろそろ観測所付近にも着弾が接近しつつあるため、退避準備の許可が欲しいとの要請が来る。
 そこで参謀将校は、退避を行う前に最後に可能な限り精密な観測を行なって、何か変わったことはないかを調べるよう命令。    前線観測所では、観測員が安全な地下施設を出て、やや危険な監視塔の観測室に上り、そこにあるスコープを覗く。ピントが合うまで時間がかかる。映像が鮮明になる。最初は軽い驚きの表情。それが恐怖に変わる。
 スコープの視野の映像。そこには、埋没式戦車が砲撃で地中から叩き出されて土ごと空中に舞い上がっている光景が写る。観測員は急いでその周囲の光景も見るべく、スコープの向きを二、三度、左右に素早く切り換えて周囲を観測した後、マイクに向かって絶叫。
  「砲弾が地中深くまで突き刺さって炸裂し、着弾点の周囲半径30mほどの埋没戦車を、土砂ごと全部空中に吹き上げています!そしてその土砂が、さらにその外の半径100mほどに降り注いで、そこにあった戦車トーチカを完全に埋めています!着弾は、すべての埋没戦車トーチカを無力化しつつある模様!」
 報告を受けて司令所は色を失う。参謀将校は急いで観測員に尋ねる。「確認せよ。そこからグリッド座標DR−18の位置は観測できるか?」 返答。「見えます。」
質問「その位置にある埋没戦車トーチカは生きているか?」(ここで司令所のスクリーンのクローズアップ。座標DR−18の埋没戦車トーチカはグリーンのままで表示されている。)
返答。「この位置の付近は一面土砂に埋まっていて、地表には戦車の姿そのものがありません!地中で破壊されているかどうかは確認できませんが、いずれにせよ土砂に埋まって完全に使用不能の模様!」
(スクリーン上の映像が少し引いて、座標DR−18より広い範囲が視野に入り、地図の全域で今も多数のグリーンの点が輝いている。つまりこれらの埋没戦車トーチカも全部、実際には土砂に埋まってあらかた使用不能にされていたにもかかわらず、砲塔内部は壊されずに信号を送り続けていたのだということが、暗に観客に伝えられる。)
 司令所の士官の一人が叫ぶ。「これは陽動ではない!こっちが主攻そのものだ!奴らは砲弾をやみくもにばらまいていたのではなく、最初から土砂で戦車を埋めるのが目的だったんだ!そして幅6キロの巨大な通路を開削するつもりだったんだ!」
 彼らは作戦を深読みしすぎていたのであり、主攻が来ると思っていた回廊上のD点には最初から何もいなかったのである。    直ちに情報の再整理が行われ、スクリーン上の地図が、修正のため一旦消えて暗くなる。そして「映像、出ます」という声と共に、地図に砲撃による真の推定ダメージが映し出される。それを見て、司令所に悲鳴にも似たどよめきが起こる。地図の上に描かれた、相手側の開削完了領域を示すラインはすでに大きく不気味に凹んでおり、早くも要塞線までの距離の1/3ほどがえぐられている。
 

  (写真20)

「現在、砲撃によって開削中の凹みは、幅6キロ、深さほぼ5キロに達しており、すでに予定距離の1/3まで開削を完了しつつある模様!その先頭が要塞線前面に到達するまで、推定あと13時間!」
 その想像もしなかった速さを聞いて全員蒼白になる。「つまり突破予定時刻は・・・」「明朝5時ということになります!」「つまり夜明けには要塞線は破られることになるわけか!」
 全員が凍りつく。「その場所で要塞線が破られたなら、もう第二首都まで前進を妨げるものは何も存在しないぞ・・・。」  それでも一応すぐに一同はわれに返り、直ちに対抗砲撃を開始するよう命令がなされる。
 要塞の砲術担当士官が電話でその命令を受ける。要塞の砲塔に設置された長距離砲がゆっくり空を向き、火を吐き始める。要塞線の他の場所でも長距離砲が砲撃を始める。
   そしてここでさらに追い討ちをかけるように報告が来る。「回廊内でIMFの戦車部隊を発見しました!数は多数!こちらに向けて移動中です!」 「何だと?今になって北上を始めたのか?一体今までどこにいたんだ?それでいつごろこちらへやって来る?」「恐らく明朝には要塞線前面に現れると予想されます!」
 一同は衝撃を受ける。「明朝だと!?何かの間違いじゃないのか?北上を開始してからここまで来るのに最低でも3日はかかるはずだろう?」 「南から北上してくるのではありません!北から南下してきます!現在タイなどにいるものとは別の戦力が、回廊のすぐ北で待機していました!われわれは北上してくるものだけを監視していたため、それを発見できなかったんです!」
「何と・・・ついにあれが来るのか・・・。わが陸軍は破滅だ・・・。」   「要塞砲の残弾を表示します。」の声と共にスクリーンに残弾が表示され、カウントダウンが始まる。
 それを見ながら担当士官が苦々しげに言う。「ご存じと思いますが、現在こちらには要塞砲の砲弾の十分な備蓄がありません。現在ある弾薬は、ものの2時間で撃ち尽くしますよ。これだけではほとんど焼け石に水で、多分押し返せません。それを撃ち尽くしたらもうわれわれには・・・」しまいまでは言わずに沈黙する。
 その言葉を裏書きするように、スクリーンの残弾表示がどんどん減っていく。 韓国軍の必死の対応  午後4時30分。スクリーンの残弾表示が早くもゼロになる。「こちらの砲弾は尽きました!要塞自身にはもはや抵抗の手段がありません!あとは外で何か奇跡でも起こることを期待するしかなさそうです。」そして破滅を翌朝に控えた長い夜が始まる。
 参謀将校は、以前に砲撃による通路開削には1か月はかかると報告した専門士官と電話で話し、その誤りをなじる。ところが返答は 「われわれが受けた質問は、砲撃で埋没戦車トーチカをすべて「破壊」するのにはどのぐらいの時間がかかるかという内容だ。現在の砲撃でも、ほとんどの戦車は破壊されておらず、単に土砂に埋まったり横倒しになったりしているだけだ。その意味ではわれわれの報告は間違っていたわけではない。」
 参謀将校は受話器を叩きつける。      マハティールの空中指揮機。機内にいるマハティールのもとに、部下が紙を持ってきて報告する。「韓国側の対抗砲撃は砲弾が尽きてあっという間に終わってしまったようです。どうやら韓国第二首都の陥落は時間の問題かと。」
マハティールは椅子に体を沈める。 「わが国もいよいよ単独での徹底交戦を覚悟せねばならないということか。こうなってくると、何か思い切った手段が必要になりそうだ。・・・もう必要な指示は大体出した。これ以上空にいる必要はない。着陸しよう。」
 そして溜息をつき、「見たかね?われわれが数十年をかけて営々と築いてきたものは、たった2週間ですべて奪い取られつつある。」(注・この台詞は確か実際の彼の発言である。)
         一方韓国の司令所では、それでも何とかして対抗策を講じようとする。(このあたりの説明や描写はコンパクトに。手詰まり感が伝わればそれでよい。)
 下級参謀の一人が状況報告を行なう。「とにかく事前の予想の20倍以上の速度で通路が開削されつつあります。何しろ巨弾を地中で炸裂させ、3万トンの土砂を吹き上げて防御施設をまるごと埋めてしまうなど、全く予想もしない戦術でした。彼らは最初から弾薬の再補給を行なうことなく一日で決着をつけるつもりだったんです。
 逆に言えば、現在でも完全に破壊されている埋没戦車トーチカは1割ぐらいだけで、皮肉ですがその点に関する限り計算は正確だったことになります。多分破壊されたのは、直撃を食らうか、土砂ごと空中に吹き上げられたやつだけで、土砂に埋められただけのものは、地下ケーブルも切れてないから信号を送ってきてるんでしょう。」
  「それならその生きている9割の埋没戦車を掘り出して使用可能な状態にすることはできないか?」 「問題外です。何しろ地面全体が1mから2mの土砂に覆われているわけですから、戦車の上の土を取り払っただけでは駄目で、陸軍が保有する工兵隊の重機材を総動員しても、最低1週間はかかります。ましてそこには砲弾が今でも落下しているのですから、むしろ直接戦車部隊を送った方が早いでしょう。」
 そのため次善の策として、こちらの戦車隊を移動させて、相手側が開削中の巨大な通路の脇で待機させ、IMF戦車の前進が始まったら、その進路上に立ち塞がって迎撃阻止することが検討される。
   ところが皮肉にも、すでに道路網が地震で破壊されているため、今からの移動は困難になっている。全軍の移動も検討されるが、この道路状態ではどのみち大渋滞が予想されて物理的に全軍の移動は不可能である。
 また、全軍移動の命令を出した場合、パニックの発生も予想されるため、結局全体の1/4程度だけの戦車部隊に移動が命じられる。    ところが移動命令がこれまた大変で、事前に流言飛語に惑わされないように現在位置の固守を厳命しておいたことが裏目に出る。そのためいくつかの部隊に対しては、伝令を走らせなければならない有様で、ようやく戦車部隊が移動を開始したのは、夕闇が迫る頃だった。
   そしてこの頃までには、航空戦力もダメージを受けていて、地上軍は航空支援を受けることができなくなっている。

深夜。難渋する前進
 午後11時、深夜。移動命令にしたがって前進を続けていた韓国軍の戦車は、闇夜の野外で次々にエンストして停止していく。「もう燃料切れか?」赤い照明の車内で戦車長が尋ねる。「何しろこの道路状態ですからね。悪路を走ってるから燃料消費が予想より激しいんです。」「仕方ない。外へ出てどこかで燃料を探そう。」
 乗員たちは戦車のハッチから外に出て地上に飛び降りる。地平線には砲撃の閃光がフラッシュのように走り、砲声と地震が断続的に続く。「一応近くに町はありますが、燃料を見つけるのは大変そうですよ。」
   深夜の司令所ではスクリーンの地図上に、戦車が燃料切れで次々に停止していく状況が赤い点で表示される。「燃料切れで前進が大幅に遅れているようです。」
 一方、砲撃による通路はすでに2/3まで開削が完了して、スクリーンの地図に示された深い凹みが、その危機的状況を物語っている。 「砲撃の先頭が要塞線前面に到達するまであと6時間!」
しかしすべては遅々として進まず、無力にそれを待つほか何もできない。  夜明けの破滅を待つ焦燥感の描写。司令所の士官の独白。「韓国はついこの間、正式に陸軍大国の仲間入りしたことを、名実共に世界に認められたばかりなのだ。その陸軍大国がたった一日で崩壊するとは一体誰が想像したろう。」着弾による地震で時折揺れる。
  (注・なお、このとき発射された仮想的な砲弾の量を当時の韓国のGDP損失分から算出すると、80cm列車砲弾への換算で、合計約3000発という値となる。先ほどの作戦直前の場面では3門の列車砲が写っていたが、砲身寿命を200発と仮定すれば、15門は必要である。また着弾が何秒に1発の割合であるかは、描写上重要なのでやはり算出しておくと、全体での合計発射速度は毎時160発で、平均22秒に1発の割合で着弾していることになる。)
   回廊上の観測点。外側の線路を見下ろす山の上にフランス士官と女性通訳がいる。絶え間ない砲声と砲弾が飛んでいく音が響き、地平線で閃光が走る。「詳しいことはわからないが、とにかくどうやら想像していた通りになったらしいな。」
 夜明け間近の回廊上。出撃を待つ帝国治安維持軍(IMF)戦車のシルエット。遠くに砲声が聞こえる。前進開始に備えて、搭乗員たちが点検のためハッチから忙しく出入りしている。
   一方帝国側の司令センターでは、大きな作戦地図テーブルの上の韓国付近の位置に戦車を表わす大量の駒が密集して置かれ、それらが韓国に雪崩込もうとする直前状況が示されている。「戦車4100両、支援戦闘車両7200両、出撃準備完了です。」のアナウンス。
  (注・この仮想的戦車台数は当時の実際のIMFの支援額から算出。)     ソロスの独白。「さてカムドシュ大将の戦車部隊に、最後の仕上げをやってもらおうか。何しろ合計1万両を超える未曾有の大戦車部隊の第二首都への電撃的突入だ。これが韓国第二首都に入城した時、もはや世界が一つの逆らえない運命のもとにあることを、いかなる国の陸軍軍人も不可避的に認めざるを得なくなるだろう。」
そして傍らの幕僚を振り返る。 「思えば私は巨大な代理人だな。この歴史的変化を真に望む者たちは誰も表へ出てきたがらず、そんなことに全く興味のない私が、連中にかわって汚れ役を引き受けたのだからな。まあいい。そのかわり取り分の回収はさせてもらうぞ。獲物はあそこにたっぷりある。
 それに、ここで悪名を受けることが何だろう。とにかく自分はこの史上最大の砲撃作戦を指揮できたのだ。今の時代にスターとして花束に埋まっている者たちを見てみろ。所詮彼らは気紛れな空の巨大権力の慰みものとして3か月で使い捨てにされ、存在の痕跡すら残らなくなってしまう存在なのだ。それに比べれば、悪名を百年の後までしっかり歴史の中に刻み込むことの方が数等倍ましではないか。
 まあいずれにしても自分もここらが潮時だ。いっそのこと、これから慈善事業家にでも豹変して、空の連中を大いに嘲笑ってやろうか。」そう言って笑う。 午前5時。突破
 午前5時。韓国側の司令所。スクリーン上の地図全体が、警報と共に明滅する。 「砲撃による開削領域の先頭が要塞線前面に到達の模様!」 ついに突破されたのである。
 午前6時。朝もやの中、IMF戦車の大集団がごうごうと音を立てて前進を開始する。砲撃を受けて耕された地域は、一面荒れた茶色い丘陵地帯のようになっている。(天候は、やはり弱い雨が降ったり止んだりしており、地表は水たまりができない程度に湿っている。)
   韓国側司令所で声がスピーカーから次々に響く。「要塞より報告!現在、敵側の砲撃目標はわが要塞外壁に転換されつつある模様!」   「観測所より報告!回廊上から戦車部隊がこちらに向けて前進を開始した模様!その数、多数!」
   遠景からのパノラマ的映像で、数千両のIMF戦車が丘の表面を、まるで黒い昆虫の大集団のカーペットのようにこちらへ移動してくる様子が写る。  

 (写真21)    

 (このあたりのBGMは、「バルジ大作戦」のイメージで。背後に不釣合に明るい「千年王国マーチ」が流れている。こういう場合、妙に明るい感じの方が逆に圧倒的な重量感を引き立てる。安直に悲しげな音楽を使うことは、スケール感を損なうため避けるべきである。)
   韓国側司令所。「要塞より報告!現在、要塞本体が着弾を受けつつあり、すでに5つの区画が要塞機能を喪失の模様!砲撃はなおも続行中!」そして要塞線そのものが列車砲の砲撃を受けて、山の形そのものが次第に変わってゆく様子が映る。
   一方燃料切れで立ち往生していた韓国軍の戦車は、それでも朝までに何両かは燃料をみつけて、朝もやの中を攻撃地点へ向けて懸命に前進を続けるが、それらは空からイルミネーター機の餌食になる。
 イルミネーター機のサイトが、走行中の戦車を上から十字線に捉える。音は全く聞こえないが、サイトの視野の中で、走行中の戦車の周囲にいくつか着弾の煙が上がった後、命中弾を受けて戦車が破壊されていく光景が、すべて無音のまま次々に映る。
     午前8時。IMF戦車の先頭が、要塞線の残骸を通過する。  

 (写真22)
   韓国側司令所のスクリーンの地図には、第二首都へまっすぐ向かう矢印と、要塞線の背後に回り込む矢印が大きく表示され、IMF戦車の前進方向が示される。参謀将校が皆に向かって言う。
  「ついに戦車部隊は要塞線を超えた。背後は無防備だ。彼らはもはや第二首都まで250キロの距離を無抵抗で走破できるだろう。韓国軍全軍が事実上、背後を断たれてしまったのだ。これで韓国は、国土防衛能力を喪失したことを各国に宣言せねばならない。前線の野戦軍がほとんど無傷であるにもかかわらずだ。
 そしてこの宣言と同時に、現在前進中の帝国治安維持軍の戦車部隊は、韓国の正式な進駐要請を受けた占領軍となる。もう彼らに発砲はできない。大統領の命令があり次第、国防軍の全軍に停戦を命じることになる。
 彼らは恐らく二日後の朝までには第二首都に入城するだろう。ここへも間もなくやってくる。機密書類の破棄を。」そしてやや自嘲的に言う。 「国民のことはさほど心配する必要はあるまい。もし連中の目的がこの要塞線の破壊とそのデモンストレーションにあるというなら、占領後の韓国がわれわれ無しでも平和で豊かになることをも、続いて示さねばならない道理になるからな。」
 早朝の韓国軍の前線。野戦本部のテント前に国防軍の将兵が集められ、停戦命令が伝えられる。驚愕する将兵たち。「停戦命令?まさか降伏っていうことですか?一体全体何が起こったんです?われわれは無傷なんですよ。ろくに戦ってもいないのに?そんなこと信じろという方が無理でしょう?」
 韓国の第二首都の一般家庭。古めかしい格好の木箱型のラジオがアップで写り、そこから声が流れている。(この設定では家庭にテレビというものはない。家具などもこのラジオに合わせた外観で。部屋や市街地は、そのデザイン自体が大変なので、今回は下手に写さないほうが無難だろう。)
  「・・・市民の皆さんにお伝えします。陸軍では各ご家庭に蓄えてある燃料、また民間防衛隊のために備蓄してある武器弾薬を軍に供出することを求めています。間もなく帝国治安維持軍の戦車部隊が首都に進駐してきます。市民の皆さんは平静に対処し、無用な衝突を避けるよう、ご協力をお願いします。・・・」そして雑音で聞こえなくなる。
   そして外ではサイレンがあちこちで鳴っているが、市民たちは眠い目をこすりながら、何が起こったのかよくわからず、ラジオにかじりついてチューニングを懸命に調整する。「一体どこの誰が負けたんだ?民間からの弾薬の供出?どういうことだ?わが軍が突然降伏した?要塞線は鉄壁じゃなかったのか?」
  (注・これは実際に当時の韓国で、外貨準備が危機的状況に陥った際、一般家庭に対して貴金属の供出が呼びかけられた史実に対応。)    韓国側司令所の全員が寝ておらず疲れ切っている。参謀将校は「顔を洗ってくる」と言って席を立つ。そして洗面所で拳銃の銃声が響く。誰かが「医務室へ運べ!急所は外れている!」と叫ぶ。
(この場合、それは徹底してドライに描いた方が、かえって彼の悲劇性を引き立てる。それを抱き起こして泣いたりする人物のカットなどは一切要らない。ここでは下手に個人のドラマを膨らまそうとすると、戦争経過の大ドラマがその分だけ矮小化してしまう。ちなみに「史上最大の作戦」にはそのようなシーンは一切ない。)
 そんなことにはお構いなく、要塞線を通過してその先の一面の緑の平原の上を、第二首都へ向けて前進を続けるIMF戦車群。

韓国占領
 韓国第二首都。進駐してくる戦車が、経済首都の雨に濡れた大通りをゆっくり行進している。(第二首都の大通りには、ピョンヤンの凱旋門------韓国人には不満かもしれないが--------に似たものがあって、パリの大通りをイメージさせる。)
   日本の参謀本部。「ついに韓国は陥落か。さすがにこれほど早いとは想像もしていなかったな。まあそれはともかく、救援の補給列車の件はどうなってる?」 「出発準備そのものは進んでいます。しかしどうも帝国治安維持軍がかなりはっきり阻止の意思表示を始めています。今まではさすがに救援列車の中止要請は露骨にできなかったんですが、どうも急に態度を硬化させてます。とにかく当面、出発は1週間ほどは延期することになります。」
「まあ延期は止むを得ないとして、最終的には出発はできるんだろうな?」 「とにかくもう少し交渉するしかありません。まあアメリカが反対することは予想してましたし、治安維持軍も良い顔をしないのは当然のことですが、ここまで露骨に反対表明をしてくるとは、正直予想していませんでした。」
「いずれにせよ、待機させるしかないな。だがまだ中止と決まったわけじゃない。出発準備だけは進めておくことにしよう。」一同は解散するが、参謀将校の一人が後に残って、議長役の将軍に小声で耳打ちする。
「補給のことに関してですが、救援列車の他にもう一つ問題があります。わが国の国内の補給部隊ですが、ご存知のように7ヶ月前の事変で受けた損害は、海外に公表されているより大きなものです。今まではトラック輸送部隊のコンボイに政府軍が防空部隊を護衛につけて、外国の偵察機からそれを察知されることを防いできました。」
(注・「7ヶ月前の事変」とは90年のバブル崩壊と、その不良債権を大蔵省がひた隠しにしてきたことを示す。) 「まあ今までは何とか偵察機を追い払ってきたが。」
「そうです。しかし現在、韓国上空にいる偵察機とイルミネーター機は大兵力です。それが、もし手が空いてわが国の上空にやってきた場合、今の手持ちの防空戦力ではその全部を追い払うことは到底できません。その偵察機のどれかに引っかかれば、現在のIFFの神の眼の判断基準では戦闘集団資格喪失と表示されて獲物として見なされ、周囲全部から砲撃目標にされる恐れがあります。」
 将軍は唸る。「確かに。しかし何か対抗策はあるか?」 「残念ながらどうしようもありません。わが国の野戦防空能力で現在の空軍に対抗すること自体がもう限界に来ているんです。それを考えると、もはや密集隊形のコンボイ方式そのものを捨て去るしかないのではないでしょうか。」
「つまり補給師団も、場合によっては一つや二つ失われることを覚悟せねばならないということか。」とため息をつく。 (注・「コンボイ方式」とは大蔵省のいわゆる護送船団方式の金融政策のこと。英語だとトラックの場合も同じ「コンボイ」だが、日本語だと現在のままでは海軍用語で、誤った用法となるため、こう改める必要がある。)

山一證券の壊滅
 一方、回廊上ではフランス士官がふもとの駅に戻るために女性通訳と一緒に山を降りている。その途中で、二人の頭上を韓国から引き上げるイルミネーター機が何機も飛んでいく。「ひとまず燃料補給か?だがあれは帰りがけに日本上空を通るようだな。」フランス人は頭上を見上げてつぶやく。
 

 (写真23)

   イルミネーター機の機内。サイトの視野。マイクから声が流れる。「下に日本の自動車補給部隊の大規模なコンボイがいます。第4自動車補給師団と思われますが、どうやら地上で行動に支障が生じているらしく、多数のトラックが塊になって停車しています。」
 

 (写真24)

  「第4補給師団か。あの師団には今までも行動不能寸前という噂もあったんだが、何しろ今までは日本の中央政府軍の防空部隊に阻まれて単機での観測は難しかったからな。」
「韓国から帰投中の他のイルミネーター機が多数、この上空を通過中で、その全部が同じことを報告しています。これだけ情報が揃えば多分間違いありません。」 「よし。それじゃ引導を渡してやるとするか。砲撃推奨目標として照射しろ。」
 周囲を飛ぶセスナ機のような軽観測機の機内。サイトを覗いていた後席の兵士が驚く。「何だか視野の一部が大きく盛り上がるように赤く光ってます!何かが多数のイルミネーター機に照射されているようです!」
「一体何だ?まあいい。とにかくすぐに座標データを砲兵部隊に転送しろ。そこはすぐに砲弾の集中豪雨になるぞ。」

(写真25) 

 日本の参謀本部。(「D+14日」の字幕スーパー。)部屋の扉が開いてメモをかかえて連絡員が飛び込んでくる。「大変です!わが国の第4自動車補給師団が猛烈な砲撃に晒されています!」「ついに来たか!」
 身動きできないトラック部隊の上に、集中豪雨のように大量の砲弾が降り注いでいるカット。イルミネーター機の凄まじい威力は、ここで最も激しい形で描写される。
 

 (写真26)

日本側の参謀本部の会議室。「現在、第4自動車補給師団は砲撃で壊滅状態にあり、政府軍側に救援を求めてきています。」「どうします?今までのコンボイ制度からすれば、救援の追加を求めるというのは当然の要求ですが。」
「しかし損害の程度からすると、もうこの師団はどのみち救えないだろう。それに、今の状況ではわが陸軍全体がコンボイ制度を維持するのがもう事実上不可能になってきている。」
「つまり支援は行なわないと?だとすれば、この補給師団は全滅ということになります。そんな通告をするのは前代未聞ですよ?陸軍全体がパニックになります。」 「いや、そうであればこそだ。それはわれわれがコンボイ制度を放棄することの何よりの意思表示になる。他の師団にその覚悟をしてもらうには、むしろ止むを得ないだろう。」
「4大自動車補給師団のうちの一つをまるごと全滅させて、ですか・・・・。しかしコンボイ制度はわが国の陸軍制度のいわば根幹でした。それを廃止した場合、次にわが国がどういう補給体制に移行すべきかについては何の方策もないのが現状です。むしろ混乱の中でどんどん国際的なプレゼンスを低下させる結果になる恐れの方が強いのではないでしょうか・・・・。そう考えると、今回の帝国側の本当の目標は、韓国よりもむしろわが陸軍だったのかもしれませんな。」
(注・「第4自動車補給師団」は山一證券のこと。一応師団規模と見積もってそう呼称したが、他の3つは、それぞれ第1が野村證券、第2が日興證券、第3が大和證券である。「砲弾が集中豪雨のように降り注ぐ」というのは、恐らく当時、自社株を売り浴びせられる状況を見ていた山一證券の関係者にとっては、恐らくその通りの状況ではなかったかと思われる。)
「D+24日」。韓国。シャンデリアの下がった大統領官邸(あるいは会議室)。扉が開いて、大統領に就任した金大中が入ってくる。 「閣下のこれまでの長い苦難の政治生活の末に、ようやく大統領に就任されたというのに、それがよりにもよって、この時期だったとは・・・・。お察しします。」迎えた高官が同情する。
 しかし金大中は言う。「とにかく私の最初の仕事は、占領軍を出迎えることだ。感傷に浸るのはその後でいい。」 (注・金大中の大統領当選は97年の12月19日。正式な就任は98年の2月25日である。つまり前者ならば「D+18日」、後者ならば「D+24日」である。)  

スハルト退陣
「D+32日」。インドネシア国内。炎上する都市をバックに装甲列車が走っている。後ろに曳いている貨車も、全部が装甲貨車である。  一方市内では、あちこちで火災が発生する中、IMF戦車に市民が火炎瓶を投げつけている。
  (注・実はこれはIMFが当時インドネシアに押し付けた高金利政策を可視化したもので、重装甲の貨車がそれを示している。また、高インフレが市民生活を直撃したことが都市の火災という形で表現されている。)
 執務室。机に座っているスハルトの前にカムドシュが立って、紙とペンを彼に押しやっている。スハルトは激昂して「この都市騒乱の責任をとって辞任しろだと?この事態を引き起こしたのは君ら占領軍の側だろう!」と怒鳴る。
   彼はさらに続けて「貨車をあそこまで重装甲化すれば、積載量がどれほど減るかは君らも知ってるはずだ。海外からの積荷の安全を守る?結構なことだ!だが国内にあの貨車以外走れないようになれば、それ自体が国内の鉄道輸送能力を麻痺させることぐらいわからなかったのか?そんな強引な占領政策を押し付けたのは君らだぞ!その結果がこの騒乱なんだ!」
  「悪いが、あなたがどう自己弁護しようと、今の国内にはあなたの味方をする勢力はいない。主要な空軍基地はわれわれが押さえた。そしてそこは、あなたが今まで押さえつけてきた反対勢力が間もなく使い始める予定だ。あなたがこれを拒否しても、その連中が今度は空からあなたの拠点を攻撃してくるだろう。」カムドシュが冷たく言い放つ。
 スハルトは歯軋りして、「3週間前に降伏した時、すでにこのことは決まっていたということか・・?だが私はこの国では近代陸軍の父と呼ばれた人間だ。あんたが下っ端の中尉だったころから、私はこの国の近代化の歴史そのものだったんだ。私がスカルノからその地位を引き継いで以来、営々として歩んできたその長い道のりに、こういう結末で幕引きをせよというのか・・。」
  「まさにそこがあなたの問題なのだよ。あなたはあまりにも長くこの地位にありすぎた。そろそろこのペンで、その歴史にピリオドを打つべきだろう。時間がたつほど状況は悪化するぞ。」とカムドシュはペンを差し出す。
 スハルトはしばらく睨みつけていたが、やがて思い直してペンをとる。「なるほど、では逆に私が早々にこの座を君らに譲れば、歴史は誰がこの騒乱の真の犯人だったのかをはっきりと知ることになるわけだな。いいだろう。せいぜいこの状況を収めてみるがいい。」
   ペンを握ってサインするスハルトの横にカムドシュが立って、腕組みをしてそれを見守る。 (注・ここは、当時世界中に公表された有名な写真、つまりスハルト大統領がIMFの条件を受け入れる条約にサインしている脇で、カムドシュIMF専務理事が腕組みをしながら立って上から高圧的に見下ろしている写真に相当する場面である。
 ただしあれは98年1月15日のことで、98年5月21日のスハルト退陣の時の写真ではないので、完全には一致していないし、スハルトの台詞は筆者の創作である。
 またカムドシュの「航空基地云々・・」の台詞は、当時はむしろスハルト政権の腐敗がこの事態を招いたのだという論調が圧倒的であったことを表現。無論現在の見解では、確かにスハルト政権末期は腐敗していたが、この事件に関する限りIMFの統治の失敗が真犯人だったことは常識化しているが、当時の論調は何となくスハルト責任論の方にリードされていた。)

マハティールの鉄橋爆破作戦
 最後に残っている作戦目標はマレーシアであるらしいことが、帝国側の作戦指揮室の模型地図によって観客に示される。「頑強だな。ここまで抵抗するとは。」ソロスが言う。
   線路の上で待機し続ける日本の弾薬列車。運行指揮官が指揮車から降りてきて「一体いつになったら出発できるんだ?マレーシアあたりじゃ、われわれの到着を待ちわびてるんだ!」と、停車場の下士官に尋ねるが、下士官は肩をすくめる。そして駅構内で電話が鳴り、係員が出る。
   係員は電話を切って内容を伝える。「出発は中止になりました!その場で追って指示を待てとのことです。」「中止?一体なぜだ?準備は全部整ってるんだぞ?」
「アメリカと中国の陸軍が、反対しているそうです。そのため弾薬補給列車は帝国治安維持軍に一元化されることになり、日本陸軍の補給列車は独自に治安維持のための進入はできないことになりました。」それを聞いて運行指揮官は帽子を地面に叩きつける。
 脇に部下の将校がやってきて残念そうに説明する。「反対するのはアメリカだけかと思っていたんですが、補給列車を一元化するというアメリカの方針案に中国が賛成したため、それが国際方針として承認されたんです。中国の真意は不明ですが、いずれにせよこの補給列車部隊は解散させるしかないでしょうね。」
  (注・これは史実のまま。AMF構想の挫折には、中国が反対したことが大きく影響した。)    

マレーシア。マハティールのもとに通信文を持って将官が来る。「閣下、悪い知らせです。日本からの補給列車は来ません。本日、出発が中止となったそうです。」
「やはりな。半ば予想はしていたが・・・・。となると、いよいよ帝国治安維持軍の戦車部隊は、間もなくわが国にも突入してくるということだな。」彼はテーブル上の大きな立体地図ボードをしばらく睨んでいる。
そして立体地図上の鉄橋を指差して将官に言う。それは回廊とマレーシア本土をつなぐ鉄橋である。「この鉄橋だが。」「はい?」

(写真27)

  「この鉄橋を爆破してしまえば、列車砲も戦車部隊もわが国には入ってこられないことになる。」それを聞いて将官はどう反応すれば良いかしばらく迷った末に答える。「無論そうですが、当然ながらそれをやれば、海外からの一切の補給列車がわが国に入ってこられなくなってしまいます。事実上の鎖国と同じことになりますが・・・。」
「わかっている。しかし独立を守るためには、もはやそうするしかないのじゃないのか?それに補給列車は所詮どれも帝国の息がかかっている。今のわが国は、それ抜きでもしばらくはやっていけるはずだ。」
「確かにそうですが、鉄橋を爆破して国全体を遮断するとは、何とも常識外れの大胆な作戦ですが・・・。」  しかし別の将官が「やりましょう!それしかありません!」と脇からそれを支持する。一同は顔を見合わせてうなずき、同意の輪が広がる。
  「では早速準備にかかってくれ。」一同は作戦実行のために走って部屋を出て行く。  夜中のマレーシア側の前線作戦室。ヘルメットをかぶった指揮官が壁の地図を前にブリーフィングを行なっている。
 「もしわれわれが橋を爆破しようとしていることが察知された場合、橋の上の工兵は砲爆撃の目標にされて、爆破準備作業は困難になるだろう。そのため逆に、われわれが橋の爆破を考えているのではなく、橋を死守する形で戦車の渡河を阻止しようとしているものと思わせる必要がある。そこで」と彼は地図を示す。
  「対岸のここ、橋の前方1キロほどの地点に防衛線を設けて、橋への接近を阻止する体勢を整えているように見せかける。無論この陣地は偽装だ。さらにその前進拠点への物資輸送部隊に見せかけた偽装の補給トラックを用意して、そいつに橋の上を走らせる。その補給トラックの荷台に紛れて、橋に工兵と爆薬を送り届けるわけだ。作業は無論、夜に行なう。」
 夜の鉄橋近く。(「D+42日」の字幕。)暗い空に鉄橋の黒いシルエットが見えている。緩い間隔で砲声が聞こえている。そこへ向かうトラックの運転席。「橋が見えてきた。恐らく朝には本格的な砲撃が始まって、その援護の下で戦車部隊の渡河が始まるはずだ。どっちにしても今夜が爆破の最後の機会だろう。」
   隊列の前方にはハリボテで上半分を戦車に偽装したトラックが走っている。「あんなちゃちな代物で本当に偽装になりますかね?」「キャタピラ音を立てるための車両も準備してあるらしいが、夜が明ければまずばれるだろうな。航空偵察さえごまかせるか怪しい。でも夜の間はあれでも何とかなるだろう。とにかくその間に爆破準備を終えるんだ。」
   橋の上を徐行で渡るトラック。脇からキャタピラ音も聞こえている。ゆっくり走り続けるトラックの荷台から、木箱を両側から持って工兵が二人づつ飛び降り、飛び降りるとすぐに木箱と共に脇に走って橋の下に隠れていく。橋の下で木箱を開ける。「明かりはつけるな。作業がばれたらすぐに橋の上に榴散弾が降ってくるぞ。」暗闇の中で爆薬設置作業が行なわれる。
 

 (写真28)

     対岸では、作業を監督する指揮官が指示している。「バリケードはどうせ偽装だが、設置する際にはなるたけ大きな杭打ちの音を立てろ。橋の上の作業音をそれでなるたけ消すんだ。」
 「しかし向こうは橋にはいまだに砲弾を一発も降らせてきません。どうやらわれわれが橋の爆破なんていう常識外れの手に出るとは想像してないようです。」「そりゃそうだろう。俺だって、師団長から直接命令を受けたんでなきゃ、とても信じられなかったろうからな。」
   夜が明けたらしく、灰色の空はだんだん明るさを増していく。それと同時に砲撃の音がだんだん激しくなってくる。「どうやらそろそろ始まるらしいな。」  
 上空の偵察機。サイトの空中からの視野。橋の前方の偽装防御陣地を上空から見ており、そこにマイクを通した搭乗員の声がかぶる。「防御陣地の戦車はデコイだ。防御陣地全体が偽装と思われる。繰り返す。防御陣地全体が偽装と思われる。」
   一方マレーシア軍の装甲指揮車の中で、爆破指揮官が電話で報告を受ける。「戦車部隊が前進を始めました!現在橋まで5キロの地点まで接近しています!」  指揮官は傍らの部下を振り返り、「爆破準備は完了したか?」「いいえ。大半は終わりましたが、まだ爆薬の取り付け作業はほんの少し残っています。」
 指揮官はちょっと考えて「現在までに取り付けた分だけで爆破はできるか?」「ええ。現在の量だけでも何とか爆破はできるでしょう。取り付けが完了している爆薬に関しては、3分間の準備で爆破させられるようになります。」
「よし。爆薬の取り付け作業は中止して、作業員を退避させろ。今ある分だけで爆破を行なう!」  橋の上。作業指揮官が叫ぶ。「作業を中止しろ!爆破を行なう!全員退避せよ!走れ!」橋の下で作業を行なっていた兵士たちが、橋の上にはい出して一斉に走り出す。
   指揮官は装甲指揮車から出て、土嚢で囲まれた爆破指揮所に飛び込む。そこには起爆装置が用意されている。「爆破準備は?」「完了しています。」 「作業員は全員退避したか?」「まだ何人か橋の上を走ってきます。岸まであと少しです。」
 そして脇で電話で連絡を受けていた兵士が受話器を耳から離して伝える。「戦車部隊が橋に接近中です!現在橋まで距離1キロ!」双眼鏡で対岸を見ると、豆粒のような戦車が見える。
   双眼鏡を目に当てたまま指揮官は「爆破用意・・・。」と言ってしばらく待つ。「全員退避しました!」という部下の声と共に「よし、爆破!」と叫ぶ。そして起爆装置を手にした兵士がハンドルをぐいっ、と回す。
 轟音と共に橋の対岸から1/3ぐらいの部分が爆煙に包まれる。そして煙の中で鉄橋のその部分が水の中に崩れ落ちていく。岸では兵士たちの歓声が上がり、爆破作戦の成功を喜ぶ。対岸では戦車が停止する。
(注・この鉄橋爆破の場面は、マハティールが断行した資本の海外移転の禁止、いわゆる「金融鎖国」を可視化したものである。この政策は98年の9月初旬、つまり通貨危機発生から420日後ぐらいの時期に打ち出されて一応成功した。以上で、ほぼ今回の電撃戦全体は終了する。)

エピローグとして、次の時代への予感
 韓国では、要塞が武装解除を命じられ、残ったコンクリート壁を破壊するために帝国治安維持軍の戦車が裏から配置につき、砲撃で楽々とそのコンクリート壁を崩していく。
   大統領執務室で金大中が語る。「むしろあんなものはない方が良いのだ。あれはわが国にとってのマジノ線だった。これを機会に、われわれは今までの硬直した防備体制を見直さねばならない。」
「しかし何しろ占領下の作業です。防備体勢を見直すといっても、その間に相当の師団がアメリカ軍の傘下に編入されてしまうことになるでしょう。実質的にわが国の独立をどの程度守れるものなのか・・・・。」
「確かに今後占領軍は陸軍の再編成に関しては大きく口を挟んでくるはずだ。だが彼らの権限は空軍にはほとんど及んでこない。そこでだ。このさい、空軍力の増強に力を入れてはどうかと思う。」
「空軍力の増強ですか・・・しかしむしろそれは陸軍の建て直しより困難なのではありませんか?何しろ高高度空軍に関しては、もともとわが国の実力では食い込む余地がほとんどありませんでしたし、そこへもってきてこの状況です。下手に高い高度を飛ばせば袋叩きに会いかねません。一方、低高度空軍に関しては、飛ばせることは飛ばせますが、前線基地が燃料補給ごとかなりダメージを受けたので、その修復だけで手一杯です。」
 しかし金大中は首を振る。「いや、私が言っているのは、わが国がこれまで弱かった中高度領域の空軍力のことだ。」 「中高度の航空戦力ですか?しかしその高度領域は、陸軍に対する直接支援能力という点では、最も効果が薄いように思われますが・・・。」
「逆に言えばそのためここは、陸軍が受けたダメージからも比較的無関係で、比較的自由に行動できる。私が考えているのは陸軍に対する直接支援じゃない。むしろ今のわが国に必要なのは、国民に韓国機が上空を堂々と飛んでいる姿を見せることだ。この先当面、陸軍を巡る状況が好転することは期待できない。その占領下の喪失感を、中高度の航空デモンストレーションでカバーして和らげるわけだよ。今わが国に最も必要なのはそれじゃないか?」
   部下はしばらく考えて、やがて眉を開く。「・・・・確かにその通りです。これはわが国の国民に対する効果だけではなく、対外的にわが国の立場の印象をカバーするにも役立ちます。うまくすれば、むしろわが国のプレゼンスを増すことにつながるかもしれません。」
「そうだ。そのためにはわが国上空だけでなく、もう少し行動範囲を拡大するため、海外の基地にも乗り入れられるようにしたい。そこでだ。このさい日本側に基地を提供してもらって、行動範囲を日韓の間の空域まで広げてはどうかと思う。」
「わかりました。ですがその場合、彼らからその条件を引き出すため、わが国の側も上空での日本機乗り入れの禁止条項を緩和することを検討すべきと思われますが。」
「そうだな。その方針で行こう。」 「では日本側ともその交渉に入ります。」 (注・これは後の韓流映画の台頭を意味している。実際にそれは金大中による国家的な映画産業支援政策に端を発しており、またこのとき同時に日本文化の解禁が行なわれ、相互の乗り入れが拡大した。)
 鉄道回廊の上。行き先を失った列車が大量に停車している。「一体この大量の弾薬列車はどうするんだ?何しろ世界中から集まっていた弾薬列車が、ここで立ち往生してるんだぞ。それがこのままここで足止めを食って、線路を塞いだまま、ずっと雨ざらしか?」
「心配いりません。行き先が決まったようですよ。この列車はみんな中国に向かうことになったそうです。」「中国?これ全部が中国に向かうのか?」  鉄道のポイントが切り換えられ、動き出した列車はゴトン、ゴトンと音を立てて新しい路線にゆっくり乗り入れていく。停車場でそれを見ていた将校は「それにしても中国には、こんな膨大な補給物資が突然流れ込むことになったわけか・・・。こりゃ中国陸軍はあっという間に巨大化して、世界の陸軍力バランスも大きく変わるかもしれないな・・・。」としみじみ呟く。(これによって、後の中国経済の台頭を予感させる。)   
 (写真29・未)  

フランス将校は本国への帰途につき、列車の中で一人黙って車窓の外を眺めている。フランス語の独白。 「戦史に残る驚くべき劇的な勝利だ。1940年に祖父が見たのもこれと似た光景だったのだろうか。あの時もやはり誰一人としてパリ陥落などという事態を想像していなかったに違いない。
 だが今回は、表に出てこなかった米陸軍こそ最大の勝利者だ。もう世界は昨日と同じではあり得ない。もはや陸上の通常戦で米陸軍に勝てる者は現われないことを世界は知ってしまった。
   だが本当のところ世界が知ったのは、もはや米国に抵抗するためには、国際法のルールを守った通常兵器による戦いでは駄目だということなのではあるまいか?そうなれば、貧しい国は条約で禁止された化学兵器をゲリラ的に使用する道に走りはしないだろうか。もしそうだとすればこの勝ちすぎこそ、米国にとっても超えてはならない一線だったのではあるまいか?
   いずれにせよ歴史の決定的な扉は開いてしまった。そしてもし歴史が繰り返すとするならば、西部戦線がこうもあっけなく片づいた以上、次はやはりその力は東部戦線に向けられることになるのかもしれない。しかしその時、わがフランスはどうする?」
(言うまでもなくこの独白は、観客にその後のイラク戦争や9.11テロへ続く歴史を思い起こさせるためのものである。)    海の上。最後の場面でようやく雲が晴れて、明るい陽のさす光景となる。(この作品では、最初と最後の場面だけが晴れていて、電撃戦期間中の大半は曇りの天候で推移する。)大きな入道雲が柔らかい陽光を浴びており、そしてカメラが下を向いて海面が写ると、そこに潜望鏡が。
   そしてラストのカットは、日本の潜水艦の内部。(パネルなどのアップのみの映像。声かシルエットだけで、直接顔などは正面からは映らない。)    潜望鏡の視野。潜望鏡は空へ向けられているらしく、視野には大きな雲が広がっている。
 

 (写真30)

  「神の眼、か。結局表面上は、すべてがあれに従って物事が進むという形で、最終的にこれだけの結果をもたらしたわけだから、凄いものだな。」潜望鏡を覗いている艦長の声が聞こえる。(この場面では艦内は特に写らず、潜望鏡視野の映像が続く。)
 潜望鏡はそのまま少し左右を眺め、その後ろで副長らしき人物の声がする。「まあ暗視装置の効果が上々で何よりでした。こいつを使えば潜望鏡からでもこれだけのことがわかるんですから。一応テストはこれで十分でしょう。地上の方も一応すべて終わったようですし・・・。いや、ある意味でこれから始まるというべきでしょうかね?」
「確かにな。これはまだ序の口だ。もともと親衛隊の戦略目標は、アメリカ大陸と中国の間にあって現在はまだ陸地とは言えない『仮想的ハートランド』に鉄道網と航空基地を敷設し、そこを米中共同で世界の中心地に育て上げて、ゆくゆくはそこに遷都を行なうことだったはずだ。その時にはアメリカ国防軍さえ単なる一地方方面軍となって、地上にはそれに対抗できる勢力は存在しなくなる。」(ここで仮想地球儀の映像が写る。)

(写真31)

   仮想地球儀の映像をバックに再び副長の声がする。「そしてその後には、空に浮かぶあの『神の眼』こそが地上の支配者として君臨するようになり、やがて世界全体を恐るべきコラプサー状態に誘導していくわけですか・・・まさにオーバーロード(OVERLORD=大君主)です。でもお偉方連中はまだ国同士の横の戦いしか眼中にないみたいですね。そこまで読んでる人間がいるのかどうか・・・。いずれにせよ、まやかし戦争の時期は終わって、いよいよ第四次世界大戦は本格化することになりそうです・・・。」
 この台詞で、これから本格的に物事が始まるらしいことが予告される。   (注・実は「無形化世界の力学と戦略」が出版されたのは、奇遇にもまさに1997年、この事件の直前のことだった。そのため、僭越ながらあえてここで筆者らがシナリオ上で「カメオ出演」させていただいたわけである。 なお、ここで副長らしき人物として登場しているのは、「渋滞学」で知られる東京大学の西成活裕氏で、まだ彼が無名時代に筆者とつるんでいた頃、パスファインダー物理学チームの次席リーダーを務めてもらっていたため、ここで一緒に登場しており、このシナリオのバージョンではラストは彼の台詞で一応しめくくられている。)
 
再び海面上のカットとなり、海面に突き出ていた潜望鏡が引き込まれて水面下に消える。そしてカメラはラストで少し上を向いて、柔らかい陽光を浴びる雲が写り、壮大な交響楽のエンディング・テーマ(「空軍大戦略」のような)が鳴り始める。
 そして明るい雲をバックに、この歴史的大事件の規模を示す実際の換算結果の数字が、英語のクレジットとして次のように延々と流されていく。

(スクロールしていく字幕スーパーの内容)
この物語の作戦開始の史実での時期  D+0日 (作戦発動日):1997年7月2日  D+42日(作戦終結) :1998年8月(約420日後)    各国に向けて発射された仮想的砲弾の換算量             砲弾総量       80センチ列車砲弾換算  タイ        11700トン=  インドネシア    23400トン=  韓国        36700トン      =3000発  マレーシア      6200トン=  シンガポール     2700トン=  台湾        11300トン=   各国政府が対抗砲撃のために発射した仮想的砲弾数(15インチ=38センチ砲弾に換算)  タイ        2600発  インドネシア  韓国   各国に出動したIMFの仮想的戦車台数   タイ方面      戦車 780両  支援車両2660両  合計3440両  インドネシア方面  戦車2020両  支援車両5610両  合計7630両  韓国方面      戦車4100両  支援車両7200両  合計11300両   1997年当時の各国経済の仮想的戦車保有台数  タイ            両  インドネシア        両  韓国       18000両  マレーシア  シンガポール  台湾  日本     各国が蒙ったダメージの破壊力換算          核爆発換算     広島型原爆での弾頭数換算   タイ     11.7キロトン      =0.6発分  インドネシア 23.4キロトン      =1.1発分  韓国     36.7キロトン      =1.9発分  マレーシア   6.2キロトン      =0.3発分  シンガポール  2.7キロトン      =0.1発分  台湾     11.3キロトン      =0.6発分      合計 92.0キロトン=広島型原爆4.6発分       

以上のような数字が何行にもわたって次々と示され、史実としての重みがあらためて観客に伝えられる。(「空軍大戦略」のラストで、バトル・オブ・ブリテンのデータが延々と示される感じで。そのためやはり壮大な交響楽でないと効果が薄い。短調は用いるべきではなく、アジア的なウェットさとは完全に無縁。なお、上記の中で虫食いになっている部分は、当時の経済データが入手できず計算未了の部分であり、今後それらは補っていきたい。)
最後はENDではなくTo be continued into the real historiy と出る。  このエピローグの場面全体が、かなり明るいマーチ風の音楽をバックに、広がり感を感じさせるものとなっており、劇の終わりというよりは、むしろこれから壮大な準四次世界大戦が本格的に始まるのだということを観客に予感させて幕となる。

  (なお、ラストの台詞に関する注を追加すると、台詞の中の「まやかし戦争」は英語では「フォニー・ウォー」で、第二次大戦の開戦から電撃戦の期間が当時そう呼ばれていた。一方1990年代の中期、湾岸戦争からこの事件までの間の期間は当時ジャーナリズムによって「コールド・ピース」と呼ばれており、両者をそのように対応させたわけである。)
 そしてさらにこの後、第二次大戦における東部戦線の開戦「バルバロッサ作戦」に対応する形で、歴史は運命のイラク戦争へと雪崩れ込んでいくのだが、それはまた続編のシナリオへと続いていくことになる。

Pathfinder Physics Team