2004年アメリカ大統領選挙の無形化戦略分析
 (20041104初出、1105、1114、1115修正 長沼伸一郎)


この企画は、今回のアメリカ大統領戦でのメディアCMの力を、「無形化世界の力学
と戦略」で提示された手法によって、空軍力に換算して可視化する試みである。
 「無形化世界の力学と戦略」では、経済戦争におけるメディアの力を空軍力として
可視化し、エネルギー値とマネーの対応を基にそれを具体的に数値換算することが行
われており、それによれば例えば「民放での15秒CM1本のオンエアの力が、航空爆
弾2kgの力に等しい」と数値換算されている。
 そしてCMの力が爆弾に似ているというのは、大統領戦の場合には特に顕著であり、
両陣営が相手候補の力を殺ぐべく、空から大量のネガティブ・キャンペーンCMを降ら
せており、その投弾量を競わなければ負けてしまう。
 それはちょうど、対峙する地上軍の頭上を多数の近接支援機がカバーして、相手地
上軍の力を空から殺ごうとするのと全く同じ構図となっている。


図1 無形化戦略のイメージ図

そのためそのメディアの活動が航空機何機分に相当し、航空爆弾何トンの投弾に匹
敵する力として戦局を動かしたのかを、具体的に算出するという試みを行ってみよう
というわけであり、現実の大統領戦でのメディアの影響力を「無形化された空軍力」
として可視化するという点で、恐らくこれは世界でも初の試みであろうと思われる。

基本的な換算は、宣伝予算4.9億円が航空爆弾1トンに相当するとして、投弾量を
求める。
そして1機当たりの爆弾搭載量を1.5トンと見積もり、それで割ることで延べ機数の換算を
行なう。

図2は、爆弾搭載量1.5トンとはどの程度なのかを示すための参考イメージである。
F16による近接航空支援(クロースエアサポート)の標準的な搭載状況を示したもので、
この場合Mk82爆弾6発を外側のパイロンに搭載しているが、この爆弾1発当たりの重量が
241kgだから、大体1.5トンと見ることができる。


図2 参考イメージ

(11/15追加)下記のレポートのデータに基づき、両党のCM資金を
ジェット機に換算すると次のようになる。
換算式:
 共和党:320億円÷4.9億円/d÷1.5d/機=43.5機
 民主党:290億円÷4.9億円/d÷1.5d/機=39.5機


図3 両陣営のCM戦略の換算結果


レポート:アメリカ大統領戦・無形化データ
(2004.11.14 11.25修正 吉岡 (第三支部管理人))


@参考 大統領選挙CM の歴史

・〜1952年までの選挙活動
集会・新聞などを利用

・1952年 
テレビCM 開始
共和党アイゼンハワーVS民主党スティーブンソン
CMの形式:訴求方法 
有権者へ語りかけたり、候補者が集会で演説している様子を流す方法をいう

・1964年には、全米95%の所帯にテレビが普及する。
このため、選挙戦においてテレビCMの重要性はきわめて大きくなる。

・1968年
共和党ニクソンVS民主党ハンフリー
比較CMの開始:相手候補に対する自己の優位性を強調するCM
ハンフリー陣営はニクソンを「風見鶏ニクソン」と評し、自己の優位性を強調した。
このころからカラー放送が多く流され始める。
カーター大統領はこの比較CM を多用した。

・1970年代:コンピューター技術と世論調査による、有権者のピンポイントアピール開始
比較CMの隆盛

・1980年代
攻撃CM (ネガティブ・アド)が流され始める

 比較CM と攻撃CM
攻撃CMは相手方のあからさまな中傷を行うもので、比較CM とは区別される。
いわゆるネガティブ・キャンペーンであり、無形化による攻撃とみなすことが可能である。

(参考:攻撃アドの原型は1964年のジョンソン対ゴールドウオーター戦である。
このCMの結果ジョンソンが勝利し攻撃CM の有効性が認められるが、当時としては
極めて異例であった)。

・1988年
共和党ブッシュVS民主党デュカキス
ブッシュ陣営による「ウィーリーホートンCM 」。デュカキスが犯罪者に甘いと
執拗に攻撃した。
以後、攻撃CM は過激の一途をたどる。今回のブッシュとケリーの選挙戦では、
さらに先鋭化し、国内の世論対立が問題となっていることは周知である
(TIME誌は、この対立を「内戦」と表現している)。

A今回の大統領選挙
 ブッシュ、ケリー候補の両陣営が放映したテレビ広告費は3月から
10月までに約5億7500万ドル(約607億円)と史上最高額に達したと、
一部報道機関が報告している。
この金額は、前回のブッシュ対ゴア両陣営による大統領選に費やされた
約2億ドルの約三倍に達する。
 また両陣営は、選挙費用の約80から85%をTVCMに費やしているとされる。
したがって、総選挙費用は630億円から700億円程度と思われる。
さらに、現在のところ、両陣営の広告費の内訳は不明であるが―
アメリカでは選挙費用を、詳細に項目分けして公的に提出なければならないとの
法的拘束がある(※)
―、過去の大統領選挙および中間選挙での両陣営の比率から計算すると、
およそ共和党対民主党の比は8:7程度と予想される
(よって金額では、共和党320億円から360億円、民主党290億円から330億円程度)。
 また、前回の大統領選では、ニューヨーク大の調査によると、6月から10月24日までに
ブッシュ陣営と共和党が使った選挙広告費は6500万ドル(約70億円)、
ゴア陣営と民主党は6160万ドルと、ほぼ同額と報告されている。
このデータと照らし合わせると、今回の選挙費用の内訳のなかで、
TVCMの割合が突出していることがわかるだろう。

※この法的拘束も、日本同様各種抜け道があり、正確な資料が得られないとの指摘がある。

 激戦区でのCM
オハイオ、フロリダ、ペンシルベニアなど激戦州5州で、約66%の約3億
8000万ドルが費やされた。特にフロリダ州などでは1週間に、両陣営で
計1100回ものテレビCMが打たれたと報告されている。

 両陣営のCMの特徴
ブッシュ陣営:ウィスコンシン大学の調査では、ブッシュ陣営の広告の
およそ6割がケリー候補を攻撃したものとの調査結果が得られている。
《弱腰(ケリー候補を暗示)はアメリカを傷つけようと待ち構える人々の
注意を引いている》とのナレーションを執拗に流した。
ケリー陣営 :比較CM に重点を置いた内容が多用された。

→したがって、単なるCM費の差以上に、ブッシュ陣営の方がより無形化した
攻撃力は甚大であるといえよう。

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