「現代経済学の直観的方法」出版のお知らせ


これまで電子版のみが当サイトで細々と販売されていた「現代経済学の直観的方法」ですが、このほど講談社から本格的な活字版の書籍として出版されることになりました(今回はブルーバックスではなく四六判の単行本の形で、4月8日ごろ刊行予定です)。

そしてそれを機に、今回の活字版では新たに大規模な加筆を行うと共に、冗長で読みにくい部分をスマートに読みやすくするなど、電子版とはほとんど別の本と言ってもよいほど大幅にリニューアルされています。

また、これによって書店で中身を見ることができるだけでなく、ネット購入も簡単になったので、今まで興味はあるものの億劫で手を出さなかったという方も、この機会に是非ご覧いただければと思います。


この本は、いわば「物理数学の直観的方法」の経済学版そのものと言ってよく、とにかくこれ1冊が手元にあれば経済に関して最重要な大筋をあらかた理解できるという、これまでにない画期的な本となっています。その効果や実力に関しては、30年前、オリジナルのコピー原稿の時代にも、例えば東大の経済学部を出て大手証券会社に就職している人がそれを読んで「今まで大学時代に読んでいた教科書は一体何だったのだろう・・・」と呆然としていた、などということがありましたが、今回はさらにそれがパワーアップされているわけです。

ただ450ページという大部となっており、そこに多少の抵抗感を覚える方もあるかもしれません。しかし実際には、本来なら各分野ごとに総計3000ページ分になるほどの内容を極限まで凝縮してオールインワン的にまとめた本なので、それを考慮すればむしろ非常にコンパクトな本なのです。また価格も2400円(税抜き)となっていますが、これもやはり各分野の本を全て買って読むことを考えれば、コスパの点で相当に安価と言えるのではないでしょうか。


では具体的に、今回の書籍化に当たってのポイントを述べていきましょう。

まず何と言っても今回の一番大きな改修点は、仮想通貨とブロックチェーンに関する章が一つまるごと加筆されたことです。この話題については「関連書を何冊も読んだがいつも半分までしかわからない」という悩みを抱えている方が思いのほか多いようですが、この章ではそれを一挙に解消することを狙っています。

これを可能にするため、本書ではブロックチェーンに関して、今まで他ではあまり見られなかったユニークな方法で解説が行われており、その部分はまさしく「物理数学の直観的方法」を思わせるテイストです。今まで「ブロックチェーンと仮想通貨がよくわからなかった」方も、少なくともこの章さえ読んでいただければ、その基本的な考え方をしっかり理解できるはずです。その後は最新情報を各自で補っていただくことで、もはやこの話題は怖いものではなくなることをお約束できると思います。


もう一つの大きな加筆は、最終章「資本主義にどうブレーキをかけるか」について、前半部分に全く新規な記述を加筆し、ここを質と量の両面で大幅に充実させたことです。

最近では国連が「SDGs(持続可能な発展目標)」というコンセプトを掲げ、その推進を正式に採用したことで、それが一つのトレンドとして定着することが予想されていますが、もともとこの章の内容はこれに沿うものでした。

 そこで今回の書籍化に際してはこの部分を大幅に拡大し、「物理数学・・・」でも末尾で述べられていた「作用マトリックスと縮退」の概念を本格的に採り入れて、経済と社会の問題をこの切り口から論じるという、今までにない議論となっています。

また昨今、「社会的包摂」という概念が取り上げられることがありますが、これに興味がある方にも何らかの知見を与えるかもしれません。

特に縮退の話に関心がおありだった方にとっては、この章の加筆分だけでも、優に本一冊分の内容を備えていると言ってもよいと思われます。


 さらに他に細かいポイントとして、図の配置に関して「1.2倍速く読める方法」というアイデアを本格的に取り入れました。

実はその方法は横書きには効果がないので、これまで実際に試みる機会がなかったのですが、今回は縦書きなので初めて採用が可能となり、それがどの程度効果があるのかも、手に取って確かめてみていただければと思っています。


まあそうはいうものの、理系読者の方でこれまで理系の話題にしか関心がなかったという方の場合、物理の本はともかく、経済の本ならパスしてもいいや、と思っておられるかもしれません。

しかしこれはむしろ理系の人が読んでこそ面白い本で、そもそもこれまで世の中には、理系が読むための経済学の本というものはほとんど一冊も存在しなかったと言ってよく、本書が事実上その最初のものとして、現時点では唯一無二のものであると言ってもよいと思われます。

そしてもし「物理数学・・・」の読者であった人々の書棚に本書が置かれるようになるとすれば、その意義は思いのほか大きいのであり、「あとがき」でもその社会的意義が述べられていますので、理系の方には、この部分だけでも目を通していただければと思っています。


 またこの本に関してはもう一つ、理系の方に伝えておきたいことがあります。

 それは、これまで文系の世界に「物理数学・・・」のような中間レベル、方法論で書かれた書籍があまり見当たらないため、文系側の読書界がまだその意義に気づいていない恐れがあるということです。

実は理系層においても、30年前の「物理数学・・・」の出版当時は、そうでした。

 何しろそうした本がそれまで存在しないのですから、最初はそれに対する戸惑いから、細部の厳密さを省いていることなどを問題視した否定的な評価も一部で見られたのです。

しかしその時に、その方法論・意義を理解し肯定的に評価する大勢の読者が声を上げて擁護してくれるということが起こりました。そして、それが大きな助けとなり理系世界全体での評価が定着し、現在も読み継がれるロングセラーとなったのです。

逆に言えばこの時に理系世界の読者がそうした行動をとってくれなかったとすれば、「物理数学・・・」の命運もどうなっていたかは微妙です。

いわば「物理数学・・・」は理系読者層に守られてきた書籍であり、これは著者冥利に尽きるというだけでなく、理系全体の良識として大きく評価されてよいことだったと言えましょう。

そして今回、文系側がこうした本に慣れていないことを考えると、同様のことが一時的に起こる可能性は十分に考えられます。その際には、この件に関して先輩としての経験をもっている理系側が、その意義を文系世界の人々に語っていただけると、大いに助かるのです。

文理の融合が必要だという掛け声が聞かれて久しいですが、現実にはその隔絶は大きくなる一方です。この一冊がそうした状況を打開する助けとなることを願っています。


さて現在われわれの周囲では、コロナウイルス禍の中、不安で不自由な日々が続いています。しかし逆にこういう時期は、普段学べない新しい学問などをじっくり学ぶには絶好の機会であるとも言えます。

実際こうした時は暇つぶし的な娯楽の楽しさも減殺されてしまうものですが、それに対して今まで習得できなかった新しい学問を学んで、自分の能力が向上したことを実感できたとすれば、この時勢の中でその幸福感はしばしばむしろ大きいものです。

そのためむしろこの状況を絶好の機会と捉えて、特にこれまで経済が苦手でそこが鬼門となっていた方は、これを機に「経済もわかる人間」へと自身の能力をレベルアップする試みをされては如何でしょうか。