■ 推薦の言葉
いま世界が必要としているのは、経済成長の方法ではなく、むしろ成長の速度を遅らせても倒れないシステムである。地球環境を考えれば、成長に限界があることは誰の目にも明らかなのに、それに取って代わる新しい概念を人類は未だに見いだせていない。しかしそのヒントはある。それが本書であり、私は20年前にこの本の原稿に出会ったときに大きな衝撃を受け、私のその後の人生に大きな影響を与えた。普通の視点からいえば過激に見える内容も含まれているが、表面的なことで挙げ足をとるのはやめて、長沼氏の深い思想を味わってほしい。20年経った今でも全く色あせず、我々にこれからどう生きればよいか迫ってくる本書は、万人に読んで頂きたい一冊である。

  -- 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 西成 活裕
 
 
※以下は旧版を電子出版した際の、筆者からの言葉です。




 昨今の厳しさを増す経済状況のもと、例えば技術系の職場など、これまで経済の知識とは無縁でいられた場所でも今やそんなことは言っていられなくなり、何しろこれだけ経済が世の中で死活的に重要になってきたため、どうしてもそれをどこかで一度ちゃんと学んでおかねばならないと思われている方は多いと思われます。
 そういう時、確かに世の中にはビジネスマン向けの経済解説書は多いのですが、ところがどうもそうしたものには手を出す気になれないという方が意外に多いのではないでしょうか。
 
 大体「経済の本」というだけでも鬱陶しいものですが、むしろこの場合には、とにかく何冊読んでも結局表面的なことしかわからないということが、恐らく何と言っても最大の理由でしょう。確かにそういう本の多くは語句の説明などは平易で、話題の中に一つ二つは理解できるものもあるのですが、一番知りたい肝心の核心部分となると、どうにもわからないという場合がほとんどです。
 またもう一つ困るのは、本の目次を見ると、学ぶべき項目が10個も20個も並んでいてどれが一番大事なのかわからず、結局は総花的な読み方になってしまうことです。そのためせっかく読んだ内容もばらばらな雑学的な知識のまま、右から左へすぐ忘れるということの繰り返しになってしまい、その挫折感で次第に本を手に取ること自体が億劫になってしまった方も多いのではないでしょうか。
 
 そのため語句の説明などはそんなにレベルを下げなくても良いから、とにかく何が一番重要なのかを整理してそこだけに焦点を絞り、表面的な常識の一歩先にある「最大の核心部分」のイメージをずばり理解させて欲しいということが、多くの人にとっての切実な要求かと思われます。
 しかしそこを理解するということになると、やはりどうしても経済学の基礎にまで足を踏み入れざるを得ず、そしてもし今の段階で経済の知識がほぼゼロという方の場合、その状態から出発してそこまでたどり着くには、最低4年ぐらいの努力は覚悟しなければならないでしょう。 そのためそのような方にとっては、全くの素人でもすらすら読めて、それ1冊で経済学をたった1週間程度で理解できる本が欲しいということが、まさに一つの夢に違いありません。しかし現実を考えると、それは外国語や武術をずぶの素人が1週間でマスターしたいという要求に等しく、無いものねだりとして諦めるのが普通だったと思われます。
 
 しかしこの本はまさにその不可能を可能にすることに挑戦したものです。この本の場合、何と言っても画期的なことは「経済学には、そこを突破すれば全体が理解できるという重要突破点が2箇所ある」として、そこに焦点を絞ったことです。 それというのも、経済学の構造を深く突き詰めていくと、そこには2個の重要なコアとなる部分が存在していて、そこさえ把握すれば全体を容易に視野に収めることができると考えられるのです。そのためその2点を重点的に突破することで、従来は理解に4年はかかるのが普通だった経済学の本質を1週間で理解するという、夢のようなことが本当に可能になるはずだというわけです。
 
 大体、序文にもありますが、経済学の解説書の世界を眺めると、「中ぐらいのレベルの手頃な本」というものが意外に見あたりません。つまり初歩的な本の中味よりもう少し先を知りたいと思うと、途端に難解な専門書になってしまい、その間をつなぐ「中間レベル」が一種の真空地帯となっているわけです。
 しかし先ほどのような読者の要求に答えられるのは、本来そのレベルの本なのであり、その意味でちょうどこの本は、初級レベルと中間レベルを同時にカバーして、最大の核心部分を直観的に一発で突くための本だと言えるでしょう。そして実を言えば理系の本の世界でも、以前にはやはり全く同じような状況が生じており、そして20年前の拙著「物理数学の直観的方法」は物理と数学の世界でまさにそれを実現した本として、切実に求められていたのです。
 当時の同書に関するエピソードとして、例えばある学生が期末試験を明日に控えて講義内容が全く理解できず途方に暮れていたとき、偶然に生協書店でこの本を見つけて即座に購入し、たった一夜で期末試験を突破したという話など、様々な伝説には事欠きません。
(なお同書の出版当時の状況が 手記 にまとめられて購入サイトの中に掲載されていますので、興味のおありの方はそちらもご参照ください。)
 当時の同書に対する読者からの歓迎ぶりは、著者自身が驚くほどのものでしたが、今回はそのノウハウを活かして、経済学に関して同じことをやろうというわけです。
 
 なおこの本の最初の原稿が《旧版》の形でまとめられたのは十年以上も前のことですが、最初の時点では上で述べた2つのコアに関して、まだそのうちの片方しか存在が明らかになっておらず、その意味ではまだテキスト自体の実力も半分程度以下のものでしかありませんでした。
 それが十年を経て今回の電子版で2つが出揃うことで一つの完成形となり、それによって従来不可能とされていた「4年間分を1週間で理解する」道が拓かれたというわけです。
 なおその2つのコアのうち第一の部分は、本の中では第1章に置かれて、現在購入サイトの中で「立ち読み可」として公開されていますので、どんなものかはそちらをご参照ください。実際これだけでも相当な威力はあるのですが、残りのもう一方が出揃って2つが一緒になると、それさえほとんど比較にならないほどの力を発揮することが期待され、それが今回の電子版でついに明らかにされるわけです。
 それを最短距離で理解したいという方の場合、どう読み進めば良いかのガイドが序文の中にあるため、そちらをご参照いただければと思いますが、そのためだけならページ数もさほどではないので、その部分だけをプリントアウトするという方法をとっていただいても良いかもしれません。
 一方、iPadなどをお持ちの方の場合、是非お手元のiPadに入れて、行き帰りの通勤通学の時間だけで全文を読破することで、一挙に経済のエキスパート・レベルに足を踏み入れるという、一種の夢物語に挑戦されてみては如何でしょうか。
 
 ともあれ現在の厳しい経済状況の下、技術系などの職場でも多くの方が先行きがどうなるか不安を感じておられると思います。そしてそういうとき、自分が経済についてほとんど知らない状態でいることは、喩えて言えば武術の心得が全くないまま無法社会の中に放り出されるようなもので、それが日々の不安をさらに募らせる要因となっているのではないでしょうか。
 そのためせめてその時に備えて、いわば「知的護身術」として経済学を今から身に着けておきたいという方は少なくないと思われますが、しかし現実には目の前に忙しく仕事を抱えていて、到底そんな勉強時間は捻出できないという方がほとんどでしょう。
 しかしこの本とその中で示されている「2点突破のルート」は、それを1週間程度で可能にするものとして、恐らく今まで不可能とされていたその要求に応えるものであると思われます。
 
 

■ 旧版時代の話

 この本はその時期にはまだコピー原稿の状態で、2部だけが門外不出のものとしてパスファインダー・チームの本部に置かれていました。それだけにむしろ貴重なものとして扱われ、序文にもあるように、当時はわざわざこれを読むため地方から上京された方もあったほどですが、原稿自体が未整理でかなり分厚い本だったため、コピー代だけでも数千円かかる有様で、その上に新幹線の交通費まで出された方は大変だったと思います。
 余談ですが、当時はそんな状態だったため、仲間内では半ば冗談めかしてこのコピー原稿は「われわれのヅーフ・ハルマ」とも呼ばれていました。幕末史に詳しい方はご存知と思いますが、「ヅーフ・ハルマ」とは幕末に蘭学者の間で用いられていたオランダ語の辞書のことで、当時は非常に貴重な本だったため、勝海舟などはこの本を人から借りて自ら2部書き写し、1部を自分の手元に置く一方、もう一部を売って大金を手にしたといいます。
 また緒方洪庵の適塾などでも2冊だけしか所有しておらず、門外不出の貴重本としてそれ専用に部屋が一つ設けられ、その特別室からは室外への持ち出しさえ許されていませんでした。
 そのため塾生たちはこのヅーフ・ハルマ部屋に入って自分で書き写さねばならず、大村益次郎や福沢諭吉などもそれを行って蘭学を勉強したと言われます。われわれの場合、この「2冊だけ」というのが何だかそれを連想させるというのでそう呼ばれていたのですが、それはともかく当時のコピー原稿は、今回の電子版に比べればまだ半分以下の実力しか備えていなかったにもかかわらず、そこまで人気のあるテキストだったというわけです。
 なお旧版から電子版に改訂される際の状況に関しては、序文などに詳しく述べられていますので、そちらをご参照ください。
 

■ 著者から読者へのお願い

 以上でも述べられているように、今回の電子版では「通常なら理解に4年かかる難解な経済学の本質部分を1週間で理解できる」ということが、いわば最大のキャッチフレーズとなっています。しかしこれは表看板に出すにはかなりリスクを負った台詞で、正直これを採用するべきかどうかには迷いました。
 大体、巷に溢れる解説書のこうした謳い文句が本当にその通りだったためしはほとんどなく、恐らく自分なら、ある本がこう謳っているのを遠くからちらりと眺めた時、中味を読みもせずにどうせいんちきに違いないと勝手に決めつけ、その本だけでなく著者のことまでを「信用できない人」として頭の中で片付けてしまうのではないかと思います。
 確かにそれは無理のないことで、そうしたことは論理の根本レベルから直観化するという一種の革新的なブレークスルーがない限り不可能なのであり、単に漢字を平仮名に直す程度の解説書ではまず絶対あり得ない話です。この本の場合「経済学の理解には2つのコアが存在する」という新しい視点がその直観化を可能としているわけですが、しかしそんなことは実際に読んだ人にしかわかりません。
 そのためここまで思い切って断言することは、そういう傷を負う危険と隣り合わせで、本来なら避けたほうが無難ではあります。しかし今回あえてそこまで踏み込んだのは一つには、特に技術系読者の間にこの本を通じて経済学の基礎知識が浸透することは、その層全体に力を与えてその立場の強化につながると確信しているからです。
 
 それゆえ筆者は、自身が今まで「物理数学の直観的方法」で築いてきた信用をここに賭けるつもりでいます。そのためもし読者の方が実際にこれをお読みになって、その台詞が決して嘘ではなかった、あるいは百%は賛同できないものの、少なくとも半分程度は事実であったと感じられた方がおられたなら、是非ともそのことをきちんとどこかで(職場やネット等どこでも良いですから)人に伝えて証言していただきたいのです。
 こういう場合、傍から眺めている人にとっては、もしその中味を読んだはずの読者が無言・無反応であったとすれば、やはり想像通りこれは偽物だったのだという確信を深めるに違いなく、その印象が覆されるのは、実際に読んだ読者があちこちで「これは本物なのだ」と証言しているのを目にした場合だけではないかと思います。
 もっとも筆者がこの本で意図したことは、あるいは必ずしも百%は実現できてはいないかもしれず、本の内容自体にもまだ改良の余地が残っているかもしれません。
 そういう場合、たとえ「1週間で学べる」というのはさすがに無理としても、採点基準をもう少し下げて、例えば少なくとも「この2つのコアこそが実際に経済を理解する最大の鍵である」、あるいは「このコアを知ることで経済を眺める一つの基準点が生まれて、全体像を楽に見渡せるようになる」などの評価でも良く、とにかく筆者が意図したことがどの程度実現されているかを客観的に正しく評価して、それをきちんと証言していただければ結構です。
 
 またこの本の価格は、序文でも述べたように活字本の基準からすればかなり低く設定されていますが、もしそれを、本来の内容に比べて「割安だった」とお感じの方がおられたならば、その差額分は読者に上記のことを期待してのものだったと解釈していただければ幸いに思います。
 
(もう一つ、特にこれは理系の方に覚えておいていただきたいことなのですが、このことを人に伝えていただく場合、もしそれを1人当たりが平均2.7人以上の相手に対して行なっていただけたならば、ひょっとしたら何か面白いことが起こるかもしれません。それというのもこれはいわゆる「バタフライ効果」が起こるかどうかの一つの臨界点となるからで、一般にある系の内部で相互作用の平均個数がe個≒2.7個を上回ると「臨界曲線効果」が起こると考えられ、その話の詳細はこのサイトにも掲載されています。まあこの話は無駄話として聞き流していただいても一向に差し支えなく、また細かい話もどうでも良いのですが、とにかくこの場合、「3人以上に伝える」ということが一つの目安になるということだけを、頭のどこか片隅に留めておいていただければと思います。)
 

■ 表紙について

 なお表紙は幕末軍艦「観光丸」模型のシルエット写真です。(ちなみに撮影に使われた模型は完全自作の一点ものです。)
 これは別に昨今の龍馬ブームに便乗したわけではなく、この本では現在の日本がどこに活路を見出せるのかという問題に関して、その答えを、日本の歴史の中に「理数系武士団」という存在が眠っていて、それが最大の鍵を握っているという形でしめくくっています。
 つまり序文にもあるように、それらが一斉に目を覚まして4つのタイプ全部が出揃えば中国といえども恐るるに足りないということが、この本の時事問題に関する一つの結論となっており、当時長崎の海軍伝習所にあった観光丸はそれを象徴する一つの存在ということで、表紙のモチーフとなっています。
(なおこの話題については本サイトにも
インドの数学パワーと「理数系のサムライ」たち が掲載されていますので、是非ご参照ください。)