「武術と医術」レビュー
last update: 2013/07/09
● 武術と医術 人を活かすメソッド (集英社新書) [新書]
・本書を、ここで紹介したのは、「物理数学の直観的方法」の中で作用マトリックス概念と併せて述べた「縮退」について、古武術と統合医療の視点から述べられているからである。
  古武術と統合医療(東洋医学を含む)の共通性の一つは、ともに近代西欧デカルト的哲学、すなわち「物事はバラバラに分けられる(=部分の総和は全体に一致する)」という思想が無視してきた部分を、逆に大きく重視している点にある。
  そのため、これらの分野は数学とは最も縁遠いというのが一般的常識だったと思われるが、本書においては古武術に身を置く方が、この数学に基づいた「縮退」に強い関心を示して、これを重要な概念として述べられるという、意外な展開になっている。
  それは、あるいはこの「縮退」概念の中に、これまで物理の世界に生きてきた者たちが見落としていた未知の可能性が秘められていることを示唆しているのかもしれず、むしろ物理や経済の世界に生きる人間の側が、古武術の観点からの「縮退」の意義について耳を傾ける必要すらあるのかもしれない。

いずれにせよ、長く古武術の世界で生きてこられた方に、この概念が受容されたことは、今後日本の古武術界において、この数学的概念が重要なものとして定着し、逆に数学をバックに西欧的合理主義価値観へ逆襲をするというきわめてエキサイティングな展開も予想されるうるだろう。
 そうした意味で、本書の持つ価値は、きわめて広範囲におよび分野を越えて、非常に興味深いものであることは間違いない。
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