無形化西方電撃戦・韓国決戦の作戦の詳細 20030720

・これは、以前に発表したシノプシスにおいて、場面12でクライマックスというべき韓国の戦いが、具体的な作戦内容などがほとんど描かれていなかったため、そこの部分をクライマックスにふさわしく充実させた、修正案である。

(どうも最近思うのだが、これをちゃんと映像化して、「世界史の無形化」の現実を世の中に「絵」として認識させることの社会的重要性は、日に日に増してきているように思えてならない。
 実際、現在の国際社会の軍事部門における米国の絶対的覇権のもとでは、メインの世界史のドラマがむしろそれとは別の場所に存在しているということを、多くの人々が強力にイメージできない限り、人々は歴史に参加しようという意志を持つことができないだろう。
 また現代社会の中でのマスメディアの恐るべき秩序破壊能力を可視化しないことには、社会を退廃の泥沼から救い出す手段もまず見つからないものと思われる。このように、その意義は今や単なる娯楽の次元を超えて巨大化しており、そのためこれを支える人材もなるたけ早く育って欲しいものである。)

・以下の作戦内容は、あの時、つまり1997年に韓国経済が破綻してIMF支配下に入った時の実際の過程を、可能な限り忠実に軍事作戦の形に対応させたものであり、なおかつ劇的効果を演出できるよう工夫されている。時間経過と登場人物だけは多少手を加えたが、定量換算などは歴史的事実に相当忠実に行なわれている。
 その意味で、これはあの時の経済戦争そのものの姿にかなり近いものだと言って良いと思う。

・以前の案では、主人公二人組はタイで砲撃戦を目撃した後、韓国へ北上する列車砲の追跡を続けるが、彼らが韓国に入る前に韓国への攻撃が始まってしまうというストーリーになっていた。
 それに対してこの修正案では、彼らはタイから直接韓国に急行し、砲撃作戦が始まる前に韓国軍の参謀将校と会見して、彼らの予想を伝える。
 しかし韓国軍参謀は、その砲撃は陽動作戦であると判断し、その予測に基づいた作戦を立案して、むしろ満を持して帝国軍の侵攻を迎え撃とうとする。
 彼の作戦構想はそれなりによく考えられたものだったが、逆にその巧緻さゆえに帝国側の作戦のスケールに圧倒されて結果的に自壊し、劇的な敗北への長い一日がじっくり描写される。

・この修正案の場合、その韓国軍の秀才参謀将校の存在感が意外に大きくなってしまうため、主人公の狂言回しの方まで韓国人だと、登場人物の国籍に韓国のカラーが強くなり過ぎて全体のバランスが失われる恐れがある。
 そのためこの修正案を採用する場合、狂言回しの人物構成に少し手を加えることが必要になってくる。

 その修正案の一例としては、狂言回しを2人でなく3人とし、それぞれのキャラクターは、

・韓国人将校=任務意識が強く真面目だが少々頭が固い。

・日本人の新米少尉=ある意味で彼が真の狂言回しとなる。キャラクター的には、未経験で知識もないお坊ちゃん育ち、御人好しで頼りないが憎めない。その意味で観客と同じ視点に立っており、他の2人の間をつなぐ潤滑油的存在である。(父親のコネでポストを得て英国に行っていたという設定。それゆえ3人の会話は英語になる。)

・フランス人将校=3人の中で最も年長。背後の事情を何か知っているらしいが、最初の時点ではその行動目的は不明。中盤で、彼が帝国に関する情報収集の任務を帯びていることが明かされる。(その意味ではハリウッド版「ゴジラ」のジャン・レノに似た立場か。)

 とする。この場合、観客に何か物事を説明する必要がある時は、無知で天下泰平な日本人少尉に二人がうんざりしながら説明するという、お定まりのパターンを用いる。
 一方彼らがいろいろな国をかけずり回る動機を供給するのが、韓国人将校の任務意識である。その意味で「シュリ」や「JSA」のような韓国人の少々力んだような雰囲気が活きて来るが、逆に言えば彼自身にはあまり人間的な掘り下げは必要ない。

 それに対して、存在が大きくなってしまうのがこのフランス人将校である。彼の存在によって、フランスが韓国の運命を自国と重ね合わせて重大視していることが浮き彫りにされ、それによってこの事件が単なるアジアだけのものでなく、世界大戦の一環であるという重みが与えられる。(アジア人二人は当初この事件の規模を十分に理解しておらず、その重要性はむしろこのフランス将校から教わるのである。)

 またキャスティングの面でも、作品からアメリカ的雰囲気を抜いてヨーロッパ的雰囲気を持ち込むためには、いかにもヨーロッパ的な重厚な落ち着きをもつキャラクターの存在感は不可欠で、ある意味ではこの人物のキャスティングはこの作品が成功するための一つの鍵とさえ言える。
 (この役のキャスティングは、もし手垢がつきすぎている、という批判さえ気にしないならば、ジャン・レノ本人でも良いくらいなのだが。まあ過去に戦争大作映画にショーン・コネリーなどがよく出演していたことを考えると、そのことも大して問題ではないかもしれない。まあとにかく「どこから見ても米国人には絶対見えない」ということが、キャスティングの絶対条件であり、この役とソロス役の二人だけはヨーロッパの大物をもってくる必要がある。)
 さらに、彼がフランス軍人であることは、1940年のフランス電撃戦を連想させるためにも重要な意味をもつ。

 また、彼らは直接タイから韓国へ急行するので、当然ながらこの修正案では北上する列車砲を競争の形で追跡するシーン(場面11)はない。

 そして以下が修正案の具体的内容である。今回は具体的な台詞の内容の試案まで立ち入ってみたい。考えて見るとこの映画の場合、会話の内容が国際経済の現実と深くかかわったものであるため、少なくとも骨子となる会話内容が具体的に示されていないと、普通のシナリオライターではいきなり台詞を書けと言われても多分できないのである。
 それゆえ以下の台詞は、いわば原作ノンフィクションや当事者たちの手記に収録されている会話内容のようなものだと考えればよいだろう。


修正案のストーリー
・三人組は、タイでの惨状を目撃した後、次の目標が韓国であると判断し、直ちに警告のため列車で韓国へ急行する。(軍上層部の紹介状か、観戦武官の資格か、それに類するものを携えている。)

・韓国へ向かう列車のコンパートメントの中で、フランス将校がそれまで隠していた自分の身分と任務を明かす。この場面は、国際経済的な背景を説明するという点で重要な場面であり、会話の内容はかなり高度なものとなっている。(背景のスケール感さえ伝われば、細部は変更しても差し支えない。)

 まず韓国人将校がフランス将校に尋ねる。「そろそろあんたの任務を明かしてくれてもいいんじゃないのか?あんたはどう見ても下っぱの落ちこぼれじゃないし、持ってる情報の質が高すぎる。大体あんたの行動自体、明らかにもっと上からの命令によるものとしか思えない。いくらあんたが自分は情報部の人間ではないと言い張っても、言えば言うほどこっちは疑いを深めるだけだ。これ以上隠し事を続けるのは、お互いのためにならないと思うんだが。」

 フランス将校は少し考えた末にうなずく。「いいだろう。あんたのご推察どおりだ。確かに私はフランス陸軍の正式な命令で動いている。ただあんたは一つだけ間違っている。私は情報部の人間ではなく、参謀本部の作戦課に所属する作戦参謀だ。そして私の任務は、この帝国側の作戦に対してフランス陸軍が如何に対処すべきかの情報収集だ。」

 しかし韓国人将校は、一体なぜフランスの参謀本部が韓国の運命にそこまで重大な関心をもつのかをいぶかる。

 フランス将校は答える「もし帝国の今回の作戦目標が単に韓国の領土や戦利品の獲得などというちっぽけなものであれば、ここまで関心は持たないだろう。しかし恐らく真実はそんなものではない。むしろ韓国は世界へ向けた一種のデモンストレーションを行なう絶好の舞台として選ばれている可能性が高いのだ。」

 それを聞いて日本人少尉が不思議そうな顔をする。「デモンストレーションの舞台ですか?でも韓国みたいなちっぽけな陸軍国で何かやって、それが本当に世界に対するデモンストレーションなんかになるんですかね?」言ってから彼は口を押さえて、しまった、という顔をする。韓国将校がぎろりと睨む。フランス将校がかぶりを振る。

「君が一体何年前の常識でそう言っているのかは知らんが、今の韓国は正式に列強の仲間入りを認められた本格的な陸軍大国だ。今やフランス陸軍といえども韓国陸軍の3倍の力でしかない。その意味でタイやインドネシアとは根本的に地位が違うのだ。もしそれがたった一日で崩壊するようなことにでもなれば、その衝撃がどれほどのものかはいくら君でもわかるだろう。それだけではない。」
彼はそう言って地図を広げる。(図1)



「現在の韓国は、北と南に堅固な要塞線を持ち、それに国防を依存しているという点で、世界的にもちょっと珍しい国だ。北にあるのは、知っての通り前の大戦でも有名だったいわゆる「38号要塞線」だ。こちらは核ミサイル戦に備えて第一首都を防衛するためのもので、コンクリート要塞の下にミサイルのサイロがずらりと並んで、北朝鮮を睨んでいる。しかし逆に言えばこれはそのためだけのものに過ぎず、現状ではこちらはさほど重要ではない。
 むしろ現在、重要なのはもっぱら南にあるものの方だ。これは北にあるものとは対照的に、通常戦のために対戦車砲のトーチカをずらりと並べて第二首都を防衛するためのもので、外国人はこれをタイガー・キャッスル・ラインと呼んでいる。」彼は地図上のラインを指差す。

「核戦力が飽和状態にあって国際法上もほとんど使用不能の現在の世界では、戦略的にこっちの方が重要になるのは、まあ当然といえば当然のことだろう。これは戦車を阻止するための対戦車トーチカで構成されるものとしては、現在世界で最も堅固な要塞線で、韓国側は外国勢力の侵入をこの要塞線で制限することで、その内側を国防軍がコントロールすることができる。まあマジノ線の現代版といったところだ。
 本当はその効果を疑問視する声もあるが、その象徴的意味というものは馬鹿にならない。それというのもこの要塞線は、韓国が米国の秩序に逆らって自国一国の中で独立した秩序を作るという意志の、一種の象徴になっているのだ。そのため米陸軍は過去数か月にわたってこの要塞線に正面から穴を開けようとしたが、どうしてもそれができずに手を焼いていた。」

「だが帝国側がもし列車砲全部をこの付近に集めて、かつて試みられたことのない規模の砲撃作戦でそれを根こそぎ粉砕するつもりだとすればどうだ。それを撃退するには長距離砲による対抗砲撃で列車砲を遠ざけるしかないが、情報によれば現在、韓国国防軍にはそのための砲弾備蓄が危険なまでに不足しているらしい。そうなれば下手をすれば本当に要塞線に穴が空くことになり、一旦穴が空けられればその背後は第二首都まで無防備だ。」

 韓国将校は納得できない表情で「しかし要塞線に穴が空いたぐらいで韓国軍全体が一日で崩壊するとは、やはり常識から考えて信じられないな。さっきあんたも言ったろう。今の韓国は曲がりなりにも陸軍大国だ。タイやインドネシアとは訳が違う。大体、韓国相手にそこまでの大作戦をやる必然性が本当にあるのか?」と疑問を投げかける。

 フランス将校は椅子に背を沈める。「確かに今までの常識からすれば考えにくいことだ。それに匹敵する劇的な崩壊の例と言えば、過去にナチス・ドイツ軍がマジノ線に守られたフランス軍をたった一月で撃ち倒してパリに入城してしまった例があるきりだからな。
 だがそれでも、というよりむしろそれゆえにこそ私は心配だ。今まで見てきてわからないか?帝国側は現在、一種の戦術革命を行っているんだ。
 今までの常識では、陸戦で勝つとはすなわち、前線で戦車や機械化歩兵を繰り出して相手の野戦軍を撃破することだった。ところが今回の一連の作戦では、最前線を放っておいて、むしろ背後の補給線を空陸一体の砲撃作戦で粉砕することで戦いの決着をつけ、一挙に各国第二首都の占領に持ち込んでいる。つまりこれは全く新しい電撃戦の戦術なのだ。というより、話はもっとでかい。」彼はもっと別の広い地図を広げて、戦場マップの上に駒を置きながら説明を続ける。

「彼らは現在、戦いの目的そのものを従来のような野戦で勝って戦利品や領土の獲得に置くことをやめ、地球全土の鉄道網を支配するという方針へと大転換を図っているのだ。そして現在ではすでに回廊上を、遊牧民の大軍団のように巨大な戦力が自由自在に移動し始めている。まるごと鉄道上を移動するその戦力は、師団規模どころか今や一国の陸軍力全体を遥かに上回るほどのものだ。もう従来とは次元が違う。
 そしてそれだけの圧倒的な物量を、世界のどこにでも望みの時に望みの場所に一日で送れるとなれば、戦わずして相手を下して自らの配下に組入れ、戦場ごと買い取るようにしてスマートに支配を拡大できるだろう。もはやルールは根底から覆えりつつあるのだ。」

「しかしこの構想のためには、この回廊上から直接各国内部の鉄道に自由に乗り入れができることが不可欠で、それにはこの種の要塞線ほど邪魔なものはない。帝国はもともと国境のない世界でのIFFによる一元支配体制を目的としていたが、米陸軍としても、世界各国に残っている要塞線の破壊と新戦術体制への移行は自軍の絶対的優位への鍵だ。つまり少なくともこの点では両者の利害は完全に一致しており、さほど手の込んだ陰謀がなくても、手を組むようになるのは自然のなりゆきだろう。
 そんな彼らが現在最もやりたがっていることとは何だ?彼らが望んでいるのは、恐らく各国政府が自発的にその障害物を撤去してくれることだ。だとすれば彼らに最も必要なのは、ルールが根本的に変わったことを世界にわからせるためのデモンストレーションだよ。」

「そのためには韓国以上に絶好の舞台はない。鉄壁を誇る要塞線に守られた陸軍大国の一つがあっさり崩壊する様を、世界が目のあたりにすることを考えてみたまえ。それは世界全体での一種のドミノ倒しを引き起こすことになるだろう。
 おまけについこの前まで、アジア陸軍は将来野戦で米陸軍を打ち負かす可能性をもつ勢力の象徴だった。他のすべての新興国家はそれを手本として、自分も挑戦者としてリングに上がってこようとしていたのだ。ところがその頭にいる韓国が一撃で粉砕されてしまえば、少なくとも西部戦線では陸軍力で帝国の作る唯一の秩序に逆えると考える国はどこにもいなくなる。」そして彼は日本人少尉に向き直る。

「君は韓国は世界全体から見ればちっぽけな国だと言ったな。だが過去の戦史に記憶されている地名を思い出してみたまえ。その中には、その場所そのものはさほど重要なものではなかったにもかかわらず、舞台として選ばれたが故に歴史に残っているものが少なくない。ノルマンディー、ダンケルク、クルスクなどがそうだ。世界史にとっての現在の韓国の立場も、あるいはそれに似たものになるのかもしれない。」

(注・彼の言うことは何ら誇張ではない。実際、韓国経済の崩壊によって、それまで単なる学者や評論家の間の言葉でしかなかった「グローバリゼーション」は、世界を覆う現実となった。またそれ以前には、米国経済がアジア経済によって追い抜かれるのは時間の問題と考えられていたのであり、それを打ち砕いた最大の象徴がこれだったのである。なお、過去の戦場の地名の列挙は、広がり感を与えると共に、マニアの観客の心をつかむのに重要なので、なるたけカットせずに残した方がよい。)

「まあとにかくそうなれば、わがフランスといえども安泰ではない。そのためフランスは現在、その事態に対抗すべく、ドイツのもつ鉄道網と接続するため、両国間で線路の規格の統一を急いでおり、ゆくゆくはヨーロッパの鉄道をすべて一体化することでそれに対抗することを考えている。
 わかったろう。事はたかが韓国一国の問題ではないのだということが。それゆえ今回の事態に対しては、フランスの参謀本部といえども国家の将来の存亡がかかったものとして、重大な関心を払わざるを得ないのだ。だから私としても可能な限りの情報が欲しい。」

 韓国将校はうなずく。「要するにこの情報と引換えで、韓国側がもっている情報が欲しいということだな。わかった。あまり機密度の高いものは私の立場では無理だが、知り合いに参謀本部の奴がいる。できるだけのことはやってみよう。でもそのためにはもう少しいいネタが要るな。」
 そして車窓の外にそそり立つ山肌を眺める。(進行方向に対して左側が海、右側が山脈である。)「あの山の向こうをわれわれと並んで列車砲の大軍団が北上つつあるかと思うと不気味だな。」


・韓国に到着した三人は、本来なら勧告ができるほどの充実した情報分析はできないはずだったが、そのかわりに彼らは、韓国周辺空域での航空機の飛行記録を集める。つまりタイ付近で彼らが撃墜された時と同様、故意にIFFが狂わされている場所がないかに注目したのである。

・その結果、案の定、地図のA地点付近は、IFFの巧妙な操作で航空機の上空通過が制限されていることを突き止める。

・韓国人将校はその分析結果をもって、旧知の韓国軍の参謀将校と会見し、回廊のA地点に列車砲が集結している可能性が高いと伝えるが、秀才の参謀将校はそれを笑い飛ばし、以下の理由によりそれはあり得ないと主張する。(なお以下の記述は、作戦の背景を完璧に組み上げるために詳細にわたって構成されたものであるから、必ずしも全部を映画の中で説明する必要はなく、これを一旦消化した上でアニメーションなどを使って映画向きにコンパクトに再構成すればそれでよい。)


参謀将校の説明(1)
(ここから以下数ページにわたっては、作戦の詳細の説明であり、ストーリー自体は「午前10時・砲撃戦の開始」の部分から再開される。)

・A地点からの攻勢があり得ないことの理由は、まず第一にこの付近は(過去には戦場になったことがあるが)、現在では燃料資源なども掘り尽くして戦略的にはすでに僻地となっており、第一線級の韓国軍部隊はここでは活動していない。
 そのためこんな場所に列車砲が来ても、タイなどの場合と違って、射程内にそもそも目標になるような機甲師団などが存在していない。
(また韓国の陸軍はタイと異なり、少なくとも戦車だけはキャタピラ化されているので、道路上で立ち往生して砲撃の的になるようなこともない。)


参謀将校の説明(2)
・しかし三人組は、むしろ帝国側の目的はそんなことにはなく、砲撃で要塞線に穴を開けることを狙っているのではないかと指摘する。

・実際に地図を見ても、回廊上のA地点付近から要塞線までの距離はかなり短くなっており、回廊上からも十分射程にある。そこに穴を開けられて戦車に雪崩れ込まれると、第二首都まで一挙に攻め込まれてしまう。

・ところが参謀将校はそれを、度の過ぎた陰謀論として一笑に付し、さらに要塞線に穴を空けること自体、そんな簡単なことではないと主張する。
「君はこの要塞線の力がコンクリートの壁だけに依存しているとでも思っているのではあるまいな。この場合、むしろ要塞前面に大量に埋められている埋没式戦車こそが防衛能力の中心となる。たとえコンクリートの壁だけを砲撃で壊したところで、この数十キロにおよぶ縦深陣地が戦車の前進を阻み、これを排除しない限り第二首都まで戦車が前進することは事実上不可能だ。」

 ここで彼は、過去に実際に韓国の参謀本部でその想定のもとに詳細な図上演習をやったことがあり、そしてその結果やはりそんなことは現実には不可能であることが判明したのだと明かす。(以下の説明は、その図上演習のアニメーションの中に巧妙に混ぜるやり方をとった方が良いだろう。)


注・「埋没式戦車」についての詳細
・「埋没式戦車」とは、耐用年数が過ぎて動けなくなった旧式戦車を、車体を土中に埋めて砲塔だけを地表に出して、トーチカがわりにしたものである。(図2)



 一方侵攻してくるIMFの戦車は、実はこの種の防御施設に対しては無敵ではない。そもそもIMF戦車の主砲は、コンクリート壁の破壊を目的とする短砲身のものなので、射程が極めて短い。そのため旧式戦車の主砲といえども、IMF戦車は射程外から撃たれてそれなりのダメージを受ける恐れがある。
 つまりもしIMF戦車を侵攻させるなら、それに先立ってこれらの埋没式戦車を砲爆撃などで全部制圧しておかねばならないことになる。

・ところがこの埋没式戦車全部を砲爆撃で制圧するのは容易ではない。まず埋没戦車というものは、重量増加は気にする必要がないため、砲塔に相当な厚さの増加装甲ブロックを装着して強化されており、横からの爆風にも極めて強くなっている。
 普通の戦車だと、比較的近くで大口径砲弾が炸裂するだけで、爆風で簡単に横転してしまう傾向があるが、この埋没式戦車は、直撃ないしそれに近い至近弾でないと破壊できないのである。
 さらに増加装甲ブロックを厚く装着されている埋没式戦車の場合、中程度の野砲ではたとえ直撃弾でも1発だけでは必ずしも破壊できず、着弾誤差まで含めて考えると、1両当たりに対してかなり多数の砲弾を降らせなければ確実には撃破できない。

・タイでの巨大列車砲の砲撃においては、砲弾が地中深くもぐって炸裂した際に周囲に地震を引き起こして、着弾点付近にあったコンクリート施設にダメージを与えていたが、この埋没式戦車は鉄の車体が平らな地面に埋まっているだけなので、地震ではほとんど被害を受けない。

・さらにこれを一個一個砲爆撃で潰すことを考える場合、この付近には、ただのスクラップ戦車も粗大ゴミとして大量に投棄されて埋めてあり、外見からは埋没式戦車はそれらのスクラップとほとんど同じで、見分けがつきにくい。
 そのため砲爆撃で埋没式戦車をピンポイントで潰す場合には、これらのスクラップも念のため全部潰しておく必要があり、大変に時間がかかる。

・以上の理由により、砲撃で要塞線に穴を開け、そこからIMF戦車を進入させるには、準備砲撃に通常約1か月、どんなに急いでも2週間はかかると計算されるのである。


埋没式戦車に装着された発信機
・なお伏線として重要になるのが、埋没式戦車についている「ダメージ・インジケーター」の説明である。それは、個々の埋没式戦車には車内に発信機が装備されていて、それらが破壊された場合には、そのことが司令所で把握できるようになっているということである。

 つまり埋没式戦車の砲塔が破壊されて車内に爆風が吹き込んでくると、砲塔内部に取り付けられているその発信機も一緒に壊れて、信号が停止する。
 そして発信機の脆さは、車内の射撃装置などの機器とほぼ同程度に作られているため、信号が途絶えれば、大体その戦車は使用不能にされたと思ってよい。
 そのためこれによって、砲爆撃の嵐の中で埋没式戦車が生きているかどうかが、無人の状態でも一両一両すべて中央司令所で把握できるわけである。


参謀将校の説明(3)
・それでも韓国側の楽観が心配な三人組は、帝国側の作戦のスケールの大きさを考えると、彼らが2週間にわたって未曾有の規模でその準備砲撃を行うことさえありうるのではないかと、駄目押し的に食い下がる。
 しかし、それに対して参謀将校は、このA地点付近の線路が袋小路のような引込線になっていることを指摘し、そもそも列車砲がそんなに長くここに留まって砲撃を続けることはできないのだと説明する。

・大体、列車砲がそんな凄まじい砲撃を行う以上、弾薬の消費量もまた凄まじい。そして射撃地点にそんなに大量の弾薬を積み上げておくことは(安全上)できず、通常の射撃でも3日に一度は弾薬列車による再補給を受けねばならない。

・ところがこの地形だと、砲撃期間中に、大量の弾薬を積んだ弾薬列車が袋小路の引込線をA地点まで入って、少なくとも数回の再補給を行わねばならず、その際にはどうしても弾薬列車がB地点付近を通過せねばならない。
 そして韓国側がその2週間の間に、前線にいた通常の戦車を移動させてC地点に集結させてしまうと、B地点周辺はその射程に入って、そこを戦車砲で砲撃することが可能となる。
 戦車砲による砲撃は、精度の悪い間接射撃なので一種の応急措置に過ぎないが、それでも無防備の弾薬列車は相当のダメージを受けることを覚悟せねばならない。(図3)



・大体において弾薬の再補給のことを考えなくとも、そのように戦車隊をC地点に展開されると、帝国側の列車砲は袋小路のA点から抜け出す際に、いずれにせよB点を通過せねばならないので、戻る時にやはりある程度のダメージを受ける恐れがある。

・そういったことを考えると、現実的には列車砲がA地点に留まって砲撃を続けられる時間は、脱出の際のダメージを覚悟した場合で最大3日、無傷での脱出を考えるならせいぜい数時間が限度である。

・そして参謀将校は彼らに「この種の砲撃作戦では、長時間に渡って投射される砲弾の合計重量と弾薬補給量の数字だけが結局は問題なのだ。とかく素人は個々の大砲の巨大さに幻惑されやすいが、口径が大きいと発射弾数が少なくなるため、砲1門当たりのサイズの大小は問題にはあまり関係ない。」と言い放つ。(それ自体は完全な正論である。)

・そして「砲撃で要塞に穴を空けるという君らのアイデアは、素人にしては悪くはないが、現実に精密な図上演習をやってみると、やはりそれは不可能だということがわかるだろう。」説明を続けていた参謀将校は、彼らに説明しているうちに何事かひらめいた様子である。
 そして彼らに、タイで長時間の砲撃が道路にどういうダメージを与えたかを尋ねる。彼らは、80センチ列車砲の間断ない射撃で、弱い地震が長時間にわたって連続的に続いたため、次第に二級道路のほとんどの舗装に亀裂が入り始め、数時間でそれが非常に広い範囲に拡大し、全土で交通が寸断されたことを説明する。
 それを聞いて参謀将校は、「相手側の作戦が読めた」とつぶやいて立ち上がり、彼らとの会見を終えて、韓国軍首脳へのブリーフィングの準備に入る。


韓国側の作戦ブリーフィング
・参謀将校は、韓国軍の司令官たちを前に、作戦のブリーフィングを行う。

・まず彼は、帝国側の作戦は恐らく次のようなものだと説明する。それはまず最初は(三人組の言う通り)回廊上のA点からの、列車砲による大規模な砲撃で始まるだろう。ただしこれは一種の陽動作戦に違いないというのが、彼の考えである。
 そして帝国側の真の狙いは、韓国の戦車部隊をC点に誘い出して集めて、そこで身動きが取れなくさせ、他の全地域に戦車の不在状態を作り出すことにあると主張する。(図4)



・そしてこの作戦の頭の良いところは、砲撃による地震で、数時間で徐々に道路網が破壊されていくということを巧妙に利用する点にある。
 つまり韓国側が砲撃に過剰反応して戦線を縮小し、戦車隊を対抗砲撃のためにC点に移動させた場合、行く時はまだ道路はさほど破壊されていないのですぐに行けるが、戦車がC点に集結を終えた頃には、もう道路網は傷んで交通が麻痺しているため、帰るのは非常に難しくなってしまうのである。

・そう考えると、陽動作戦としての砲撃は、せいぜい数時間程度続けて韓国側に戦線縮小の必要を感じさせ、戦車隊のC点への移動を誘う一方、道路網を破壊するための地震をある程度の時間、起こし続けるだけでよい。
 そしてそれが完了した時点で列車砲を素早く退避させれば、韓国戦車隊のC点への封じ込めを完了させた上で、自分はほぼ無傷でA点から脱出できる。無論この場合、列車砲への弾薬の再補給は必要ない。

・ではこれが陽動作戦だというなら、肝心の主攻はどこに指向されているのだろうか。というより、そもそも帝国側はなぜ今この時期に韓国に対して作戦行動をとってくるのだろうか。

 彼の見解では、恐らく帝国側は単にタイやインドネシアの壊滅で生じた不安真理を、いわばおまけの形で最大限に活用しようとしているに過ぎず、韓国そのものは彼らにとって必ずしも、今回のアジア全体の大電撃作戦の主目標ではないとみる。(この点で三人組の見解とは正反対である。)

 つまり帝国側は、別にどうしても今、韓国を狙わねばならないわけではないのだが、せっかくタイやインドネシアの壊滅が韓国に不安真理を作り出していて、もしその過剰反応を利用した「戦利品漁り」ができるというなら、それをみすみす見逃す手はない。
 そのため電撃戦のおまけとして、このさい韓国でも取れるものを取れるだけ取っておこうというのが、今回の作戦の本質である。
(註・なお、実際にその種の火事場泥棒的な戦利品漁りは、この電撃戦の末期にいろいろな国に対して実施された。日本の山一証券の崩壊もある意味でその一環である。その点からする限り、彼の読みはそんなに馬鹿げたものではない。)

・つまりその際に戦車隊がC点に封じ込められて、他の地域全体で戦車の不在状態が生じていれば、そのどこで韓国軍相手に戦車戦を行なっても、かなり楽に勝って容易に占領地を拡大できることになる。

 そう考えると、帝国側は今回はIMFの戦車隊を使うのではなく、むしろ予想の裏をかく格好で、普通の戦車で普通に攻勢をかけてくる可能性が高い。
 つまり恐らく帝国側は、回廊のA点ではなくむしろD点あたりに通常の戦車部隊を増援兵力として待機させている。
 そして韓国側が陽動作戦にひっかかって戦車をC点に移動させ、そこに雪隠詰めになって他が手薄になった時点で、待機していたそれらの戦車部隊がD点から出発して、戦利品や占領地をせいぜいとれるだけとっておこうとしているわけである。このD点付近は要塞線のすぐ外の比較的重要な地域なので、そこで占領地を拡大できることの意義は小さくない。


それに対する韓国側の作戦
・その予想を述べた後、参謀将校は韓国側がとるべき対応策について述べる。

・この場合、もし帝国側の作戦がそのようなものであるなら、対応は容易である。つまりこちらはどっしり構えて陽動作戦に乗らなければそれで良いのであり、砲撃が始まっても強気を通して戦線縮小を行わず、戦車隊を列車砲攻撃のためC点に移動させずに各部隊の現在位置でそのまま待機させればよい。
 そして数時間後に、もし予想通りに回廊上のD点から帝国側の戦車隊が出てきて、内陸に侵攻してきたとしても、韓国側の戦車戦力が思いのほか厚いことを知って、無用な作戦は断念されることだろう。(図5)



・なお埋没式戦車は、無用の人員損失を避けるため、人員は後方に退避させて無人状態で待機させる。(無論、車内の発信機はすべてオンにしておく。)
 そのため砲撃を受ける地帯全域がほぼ無人状態となるが、前線観測所となるトーチカを1個所だけ設けて、そこにだけは観測員を配置する。
(航空偵察は、天候が悪いことに加えて爆煙ですぐに不可能になると予想されるため、情報はその観測所に依存することになる。)

 そしてブリーフィングが終わったころ、列車砲が予想どおりA点付近の位置に集結を始めているらしいことが報告される。一同解散し、参謀将校は司令所に向かう。

(以下よりストーリーは再開。)


午前10時。砲撃戦の開始
・午前10時、砲撃が開始される。参謀将校以下の面々は司令所に詰めている。(この時の日付は一応「D+12日」とする。)

・砲撃が開始されてしばらく経過。参謀将校は前線観測所に質問し、砲撃がどこか一点に集中されているかどうかを尋ねる。

・観測所からの返答「いいえ。現在のところ、砲撃は中心角45度の広い扇形パターンで満遍なく実施され、着弾は幅6キロにわたって広く等分に分散しています。どこかに集中されている気配はありません」(スクリーンにもそれが映像で示される。)(図6)


・それを聞いて参謀将校は語る。「これではっきりした。これが陽動作戦であることは間違いない。穴を開けて通路を作るつもりなら、砲弾をこんなに広い角度でばらまくことをせず、砲撃はもっと狭く集中されているはずだ。」
 それを裏付けるようにスクリーン上の地図には、埋没式戦車からの信号を表す緑の光点がたくさん点灯しており、それらは砲撃の中でもほとんど消えずにそのまま点灯を続けている。これによって、砲撃が実際にはあまり効果を上げていないことが示される。

・前線観測所からは、間もなく砲煙で遠距離の精密観測は困難になると報告される。そのため地下の退避壕に降りてそこで待機するよう命令。

 そして司令所の士官たちはスクリーンの地図を見上げて、回廊上の、主力がいると彼らが予測した地点(D点)を見つめる。ここに戦車部隊が待機しているはずなのである。

(下級参謀の一人が言う。「お気付きですか。ノルマンディー上陸作戦の時に、上陸地点から遠く離れたドーバー・カレー地区に対して陽動作戦が実施されたことがありましたが、今砲撃を受けている地域と予測主攻地域の距離が、その時のカレー・ノルマンディー間の距離とほぼ同じなんです。」それを聞いて参謀将校は笑う。「われわれはひっかからないぞ。」)


午後4時。真相の判明と急転回
・午後4時。砲撃開始から6時間が経過。予想では陽動作戦の砲撃はそろそろ停止し、列車砲は退避の準備に入るはずである。しかし砲撃はまだ止まない。D点から戦車が前進を開始したとの報告もない。

参謀将校は、帝国の戦車の予想待機地点(D点)付近に派遣してある偵察部隊に質問。
「戦車部隊は橋を渡って移動を始めたか」

返答。「依然として何の活動も認められません。それどころか戦車部隊の存在を示す兆候さえ観測できせん。」

・司令所では皆が時計を見ながら不安にかられ始める。しかし砲撃状況を示すスクリーン上では、こちらの埋没戦車を表わすグリーンの点はほとんど消えておらず、依然として95%程度が破壊されずに健在であることが示されている。奴らは一体何を考えているのか?

・そしてこの頃、前線観測所から、そろそろ観測所付近にも着弾が接近しつつあるため、退避準備の許可が欲しいとの要請が来る。
 そこで参謀将校は、退避を行う前に最後に可能な限り精密な観測を行なって、何か変わったことはないかを調べるよう命令。

・前線観測所では、観測員が安全な地下施設を出て、やや危険な監視塔の観測室に上り、そこにあるスコープを覗く。ピントが合うまで時間がかかる。映像が鮮明になる。最初は軽い驚きの表情。それが恐怖に変わる。

 スコープの視野の映像。そこには、埋没式戦車が砲撃で地中から叩き出されて土ごと空中に舞い上がっている光景が写る。観測員は急いでその周囲の光景も見るべく、スコープの向きを二、三度、左右に素早く切り換えて周囲を観測した後、マイクに向かって絶叫。

「砲弾が地中深くまで突き刺さって炸裂し、着弾点の周囲半径30mほどの埋没式戦車を、土砂ごと全部空中に吹き上げています!そしてその土砂が、さらにその外の半径100mほどに降り注いで、そこにあった戦車を完全に埋めています!着弾は、すべての埋没式戦車を無力化しつつある模様!」

・報告を受けて司令所は色を失う。

 参謀将校は急いで観測員に尋ねる。「確認せよ。そこからグリッド座標D−18の位置は観測できるか?」
返答。「見えます。」

質問「その位置にある埋没戦車は生きているか?」(ここで司令所のスクリーンのクローズアップ。座標D−18の埋没戦車はグリーンのままで表示されている。)

返答。「この位置の付近は一面土砂に埋まっていて、地表には戦車の姿そのものがありません!地中で破壊されているかどうかは確認できませんが、いずれにせよ土砂に埋まって完全に使用不能の模様!」
(スクリーン上の映像が少し引いて、座標D−18より広い範囲が視野に入り、地図の全域で今も多数のグリーンの点が輝いている。つまりこれらの埋没戦車も全部、実際には土砂に埋まってあらかた使用不能にされていたにもかかわらず、砲塔内部は壊されずに信号を送り続けていたのだということが、暗に観客に伝えられる。)

・司令所の士官の一人が叫ぶ。
「これは陽動ではない!こっちが主攻そのものだ!奴らは砲弾をやみくもにばらまいていたのではなく、最初から幅6キロの巨大な通路を開削するつもりだったんだ!」
 彼らは作戦を深読みしすぎていたのであり、主攻が来ると思っていた回廊上のD点には戦車戦力など最初からいなかったのである。

・直ちに情報の再整理が行われ、スクリーン上の地図に砲撃による真の推定ダメージが映し出されると、司令所に悲鳴にも似たどよめきが起こる。地図の上に描かれた、相手側の開削完了領域を示すラインはすでに大きく不気味に凹んでおり、早くも要塞線までの距離の1/3ほどがえぐられている。(図7)


「現在、砲撃によって開削中の凹みは、幅6キロ、深さほぼ5キロに達しており、すでに予定距離の1/3まで開削を完了しつつある模様。その先頭が要塞線前面に到達するまで、推定あと13時間!」

・その想像もしなかった速さを聞いて全員蒼白になる。突破予定時刻は明朝5時ということであり、夜明けには要塞線は破られることになる。そしてもしその場所で要塞線が破られたなら、もう第二首都まで前進を妨げるものは何も存在しない。

・それでも一応すぐに一同はわれに返り、直ちに対抗砲撃を開始するよう命令がなされる。

 要塞の砲術担当士官が電話でその命令を受ける。要塞の砲塔に設置された長距離砲がゆっくり空を向き、火を吐き始める。要塞線の他の場所でも長距離砲が砲撃を始める。

 司令所。「要塞砲の残弾を表示します。」スクリーンに残弾が表示され、カウントダウンが始まる。
 それを見ながら担当士官が不安げに言う。「ご存じと思いますが、現在こちらには要塞砲の砲弾の十分な備蓄がありません。現在ある弾薬は、ものの30分で撃ち尽くしますよ。これだけではほとんど焼け石に水で、多分押し返せません。それを撃ち尽くしたらもうわれわれには・・・」しまいまでは言わない。
 その言葉を裏書きするように、スクリーンの残弾表示がどんどん減っていく。


韓国軍の必死の対応
・午後4時30分。スクリーンの残弾表示が早くもゼロになる。「こちらの砲弾は尽きました。要塞自身にはもはや抵抗の手段がありません。あとは外で何か奇跡でも起こることを期待するしかなさそうです。」そして破滅を翌朝に控えた長い夜が始まる。

・参謀将校は、以前に砲撃による通路開削には1か月はかかると報告した専門士官と電話で話し、その誤りをなじる。ところが返答は
「われわれが受けた質問は、砲撃で埋没式戦車をすべて「破壊」するのにはどのぐらいの時間がかかるかという内容だ。現在の砲撃でも、ほとんどの戦車は破壊されておらず、単に土砂に埋まったり横倒しになったりしているだけだ。その意味ではわれわれの報告は間違っていたわけではない。」
 参謀将校は受話器を叩きつける。

・マレーシア。空中指揮機の中。機内にいるマハティール首相のもとに、部下が紙を持ってきて報告する。「韓国側の対抗砲撃は砲弾が尽きてあっという間に終わってしまったようです。どうやら韓国第二首都の陥落は時間の問題かと。」
マハティール首相は椅子に体を沈める。
「わが国もいよいよ単独での徹底交戦を覚悟せねばならないということか。こうなってくると、何か思い切った手段が必要になりそうだ。」(この台詞は、後の鉄橋爆破作戦への布石である。)
 そして溜息をつき、「見たかね?われわれが数十年をかけて営々と築いてきたものは、たった2週間ですべて奪い取られつつある。」(この台詞は確か実際の彼の発言である。)

・一方韓国の司令所では、それでも何とかして対抗策を講じようとする。(このあたりの説明や描写はコンパクトに。手詰まり感が伝わればそれでよい。)

・下級参謀の一人が状況報告を行なう。
「とにかく事前の予想の20倍以上の速度で通路が開削されつつあります。何しろ巨弾を地中で炸裂させ、3万トンの土砂を吹き上げて防御施設をまるごと埋めてしまうなど、全く予想もしない戦術でした。彼らは最初から弾薬の再補給を行なうことなく一日で決着をつけるつもりだったんです。
 逆に言えば、現在でも完全に破壊されている埋没式戦車は5%ぐらいしかなく、皮肉ですがその点に関する限り計算は正確だったことになります。」

「それならその生きている95%の埋没戦車を掘り出して使用可能な状態にすることはできないか?」
「問題外です。何しろ地面全体が1mから2mの土砂に覆われているわけですから、戦車の上の土を取り払っただけでは駄目で、陸軍が保有する工兵隊の重機材を総動員しても、最低1週間はかかります。ましてそこには砲弾が今でも落下しているのですから、むしろ直接戦車部隊を送った方が早いでしょう。」

・そのため次善の策として、こちらの戦車隊を移動させて、相手側が開削中の巨大な通路の脇で待機させ、IMF戦車の前進が始まったら、その進路上に立ち塞がって迎撃阻止することが検討される。

・ところが皮肉にも、すでに道路網が地震で破壊されているため、今からの移動は困難になっている。全軍の移動も検討されるが、この道路状態ではどのみち大渋滞が予想されて物理的に全軍の移動は不可能である。
 また、全軍移動の命令を出した場合、パニックの発生も予想されるため、結局全体の1/4程度だけの戦車部隊に移動が命じられる。

・ところが移動命令がこれまた大変で、事前に流言飛語に惑わされないように現在位置の固守を厳命しておいたことが裏目に出る。そのためいくつかの部隊に対しては、伝令を走らせなければならない有様で、ようやく戦車部隊が移動を開始したのは、夕闇が迫る頃だった。

・そしてこの頃までには、航空戦力もダメージを受けていて、地上軍は航空支援を受けることができなくなっている。


深夜。難渋する前進
・午後11時、深夜。移動命令にしたがって前進を続ける韓国軍の戦車は、悪路を走行するため燃料消費が予想より激しく、野外で次々に燃料切れになってエンストし、立ち往生していく。
 乗員たちは戦車を降りて、夜中に近くの町で燃料を探そうとするが、容易に見つからない。進行方向の地平線には砲撃の閃光がきらめいて、砲声と地震が断続的に続く。

・深夜の司令所ではスクリーンの地図上に、戦車が燃料切れで次々に停止していく状況が赤い点で表示され、その前進が大幅に遅れている様子が示される。

 一方、砲撃による通路はすでに2/3まで開削が完了して、スクリーンの地図に示された深い凹みが、その危機的状況を物語っている。
「砲撃の先頭が要塞線前面に到達するまであと6時間!」
しかしすべては遅々として進まず、無力にそれを待つほか何もできない。

・夜明けの破滅を待つ焦燥感の描写。司令所の士官の独白。「韓国はついこの間、正式に陸軍大国の仲間入りしたことを、名実共に世界に認められたばかりなのだ。その陸軍大国がたった一日で崩壊するとは一体誰が想像したろう。」

・夜明け間近の回廊上。出撃を待つIMF戦車のシルエット。遠くに砲声が聞こえる。前進開始に備えて、搭乗員たちが点検のためハッチから忙しく出入りしている。

 一方帝国側の司令センターでは、大きな作戦地図テーブルの上の韓国付近の位置に戦車を表わす大量の駒が密集して置かれ、それらが韓国に雪崩込もうとする直前状況が示されている。「戦車4100両、支援戦闘車両7200両、出撃準備完了です。」のアナウンス。

 ソロスの独白。「さてカドムシュ大将の戦車部隊に、最後の仕上げをやってもらおうか。何しろ合計1万両を超える未曾有の大戦車部隊の第二首都への電撃的突入だ。これが韓国第二首都に入城した時、もはや世界が一つの逆らえない運命のもとにあることを、いかなる国の陸軍軍人も不可避的に認めざるを得なくなるだろう。」

そして傍らの幕僚を振り返る。
「思えば私は巨大な代理人だな。この歴史的変化を真に望む者たちは誰も表へ出てきたがらず、そんなことに全く興味のない私が、連中にかわって汚れ役を引き受けたのだからな。まあいい。そのかわり取り分の回収はさせてもらうぞ。獲物はあそこにたっぷりある。
 それに悪名を受けることが何だろう。とにかく自分はこの史上最大の砲撃作戦を指揮できたのだ。今の時代にスターとして花束に埋まっている者たちを見てみろ。所詮彼らは気紛れな空の巨大権力の慰みものとして3年で使い捨てにされ、存在の痕跡すら残らなくなってしまう存在なのだ。それに比べれば、悪名を百年の後までしっかり歴史の中に刻み込むことの方が数等倍ましではないか。
 まあいずれにしても自分もここらが潮時だ。いっそのことこれから慈善事業家にでも豹変して、空の連中を大いに嘲笑ってやろうか。」そう言って笑う。


午前5時。突破
・午前5時。韓国側の司令所。スクリーン上の地図全体が、警報と共に明滅する。
「砲撃による開削領域の先頭が要塞線前面に到達の模様!」
ついに突破されたのである。

・午前6時。朝もやの中、IMF戦車の大集団がごうごうと音を立てて前進を開始する。砲撃を受けて耕された地域は、一面荒れた茶色い丘陵地帯のようになっている。(天候は、やはり弱い雨が降ったり止んだりしており、地表は水たまりができない程度に湿っている。)

・韓国側司令所で声がスピーカーから響く。「要塞より報告!現在、敵側の砲撃目標はわが要塞外壁に転換されつつある模様!」

 遠景からのパノラマ的映像で、数千両のIMF戦車が丘の表面を、まるで黒い昆虫の大集団のカーペットのようにこちらへ移動してくる様子が写る。(このあたりのBGMは、「バルジ大作戦」のイメージで。背後に不釣合に明るい「千年王国マーチ」が流れている。こういう場合、妙に明るい感じの方が逆に圧倒的な重量感を引き立てる。安直に悲しげな音楽を使うことは、スケール感を損なうため避けるべきである。)

・韓国側司令所。「要塞より報告!現在、要塞本体が着弾を受けつつあり、すでに5つの区画が要塞機能を喪失の模様!砲撃はなおも続行中!」そして要塞線そのものが列車砲の砲撃を受けて、山の形そのものが次第に変わってゆく様子が映る。

・一方深夜には燃料切れで立ち往生していた韓国軍の戦車は、それでも朝までに何両かは燃料をみつけて、朝もやの中を攻撃地点へ向けて懸命に前進を続けるが、それらは空からイルミネーター機の餌食になる。
 イルミネーター機のサイトが、走行中の戦車を上から十字線に捉える。音は全く聞こえないが、サイトの視野の中で、走行中の戦車の周囲にいくつか着弾の煙が上がった後、命中弾を受けて戦車が破壊されていく光景が無音のまま次々に映る。

・午前8時。IMF戦車の先頭が、要塞線の残骸を通過する。
 韓国側司令所のスクリーンの地図には、第二首都へまっすぐ向かう矢印と、要塞線の背後に回り込む矢印が大きく表示され、IMF戦車の前進方向が示される。参謀将校が皆に向かって言う。

「ついに戦車部隊は要塞線を超えた。背後は無防備だ。彼らはもはや第二首都まで250キロの距離を無抵抗で走破できるだろう。韓国軍全軍が事実上、背後を断たれてしまったのだ。これで韓国は、国土防衛能力を喪失したことを各国に宣言せねばならない。前線の野戦軍がほとんど無傷であるにもかかわらずだ。
 そしてこの宣言と同時に、現在前進中の国際治安維持軍の戦車部隊は、韓国の正式な進駐要請を受けた占領軍となる。もう彼らに発砲はできない。大統領の命令があり次第、国防軍の全軍に停戦を命じることになる。
 彼らは恐らく二日後の朝までには第二首都に入城するだろう。ここへも間もなくやってくる。機密書類の破棄を。」そしてやや自嘲的に言う。

「国民のことはさほど心配する必要はあるまい。もし連中の目的がこの要塞線の破壊とそのデモンストレーションにあるというなら、占領後の韓国がわれわれ無しでも平和で豊かになることをも、続いて示さねばならない道理になるからな。」


・韓国の第二首都では、サイレンがあちこちで鳴り始め、民間防衛隊の招集が告げられる。目をさましたばかりの市民たちに、ラジオが武器をもって集合するよう伝える(この設定では家庭にテレビというものはない)が、突然のことに市民たちは眠い目をこすりながら、何が起こったのかよくわからない。

・早朝の韓国軍の前線。野戦本部のテント前に国防軍の将校たちが集められ、停戦命令が伝えられる。驚愕する将校たち。「停戦命令?まさか降伏っていうことですか?一体全体何が起こったんです?われわれは無傷なんですよ。ろくに戦ってもいないのに?そんなこと信じろという方が無理でしょう?」

・司令所の全員が寝ておらず疲れ切っている。参謀将校は「顔を洗ってくる」と言って席を立つ。そして洗面所で拳銃の銃声が響く。誰かが「医務室へ運べ!急所は外れている!」と叫ぶ。
(この場合、それは徹底してドライに描いた方が、かえって彼の悲劇性を引き立てる。それを抱き起こして泣いたりする人物のカットなどは一切要らない。ここでは下手に個人のドラマを膨らまそうとすると、戦争経過の大ドラマがその分だけ矮小化してしまう。ちなみに「史上最大の作戦」にはそのようなシーンは一切ない。)

・そんなことにはお構いなく、要塞線を通過してその先の一面の緑の平原の上を、第二首都へ向けて前進を続けるIMF戦車群。(図8)


・フランス将校の独白。(この独白は必ずしもこの場面ではなく、もっと後の、ラストに近い場面に入れてもよい。なおこの独白はフランス語の方が良いだろう。)

 彼は本国への帰途につき、列車の中で一人黙って車窓の外を眺めている。
「戦史に残る驚くべき劇的な勝利だ。1940年に祖父が見たのもこれと似た光景だったのだろうか。あの時もやはり誰一人としてパリ陥落などという事態を想像していなかったに違いない。
 だが今回は、表に出てこなかった米陸軍こそ最大の勝利者だ。もう世界は昨日と同じではあり得ない。もはや陸上の通常戦で米陸軍に勝てる者は現われないことを世界は知ってしまった。
 だが本当のところ世界が知ったのは、もはや米国に抵抗するためには、国際法のルールを守った戦いでは駄目なのだということなのではあるまいか?それは本来米国にとっても超えてはならない一線だったのではあるまいか?
 いずれにせよ歴史の決定的な扉は開いてしまった。そしてもし歴史が繰り返すとするならば、西部戦線がこうもあっけなく片づいた以上、次はやはりその力は東部戦線に向けられることになるのかもしれない。しかしその時、わがフランスはどうする?」

(言うまでもなくこの独白は、観客にその後のイラク戦争や9.11テロへ続く歴史を思い起こさせるためのものである。)

ほぼ以上が、「場面11および12」の修正案である。この場合、映画全体も30分ぐらい長くなるかもしれない。


要塞線について
・この要塞線のモデルがマジノ線であることは、劇中でも語られていた。ところでマジノ線の場合、一般にその魅力はむしろイラストの図解で最もよく表現される。その巨大な要塞の断面図は大抵、山の中の地下の何層にも渡る蟻の巣の断面のような図として描かれており、それが想像力をかき立てるのである。(図9)


・ところが一般に映画ではその魅力の描写は難しい。現実の地表の映像だと、普通の丘のところどころ砲塔や銃眼が突き出ているのが見えるだけだし、CGワイヤフレーム映像だと、透明感がありすぎて重量感が出ない。何か魅力的な描き方の独創的な工夫が必要である。
 逆に、それを描く独創的な手法が何か作れれば、それは広く応用の効くものとなって映画全体の映像特徴を定めることになる。それゆえ、まず回廊と要塞線の描き方からスタートして、映像表現のコンセプトを作り上げていくべきである。

・現在のアメリカ映画がつまらない最大の原因が、ドイツ・ヨーロッパ的重厚感を描けないことにあるが、一方においてヨーロッパ映画ではハイテクとアジアの存在をうまく取り込めない。
 それゆえにこの世界全体の雰囲気は、「巨大な地中海の一部」というコンセプトで貫かれている必要がある。つまりこの世界には「アメリカ的な夏」はなく、夏の雰囲気はすべて地中海の対岸の北アフリカ戦線のイメージに似た形で表現される。
 そしてここでのアジアは、いわば地中海のヨーロッパ側、つまり南フランス、イタリアやその北のヨーロッパを現代的、無国籍的にアレンジした存在として描かれることになり、それゆえここでは狭く「韓国」のイメージにこだわるのは避けるべきである。
 もともと戦場となる陸地の大部分は、法的にはどこも領有権を有さない国際的なモザイク領土であるから、ヨーロッパ風の建物が存在しても設定上差し支えない。いずれにせよ、要塞線の表現と合わせて、何か独創的な表現が欲しい。

・なおこの要塞線の呼び名である「タイガー・キャッスル・ライン」というのは、当時欧米が韓国を筆頭とするいわゆるNIES諸国を「四匹の虎」などとも呼んでいたことによる。もっと良い名前があれば変更しても良い。

・参謀将校が三人組に説明する部屋は、外国の同盟軍関係者や観戦武官のためのゲストルームであり、大きな模型地図が置いてある。説明の映像面に関しては、この模型をジオラマ的に撮影して魅力を引き出すというのも一つの手である。

・また、ここに登場するテクノロジーは、未来的というよりは、(シリコンが存在しないという、この仮想世界全体に共通する重要な設定ゆえ)エレクトロニクスの重要部分が1950年代のレベルで留まっていて、どこか妙にレトロな雰囲気が漂っている。


埋没戦車の経済戦への対応物について
・埋没式戦車(これは実際に陸戦で昔からよく使われた手段である)の、経済上の対応物が何かと言えば、それは成熟期を過ぎてもう利益の上がらなくなった産業を意味している。
 こういう産業にはもう設備投資は行なわれないので機動力はなくなっているが、それでもある程度(GDPのほんのコンマ数%程度)の力をもって、国の経済を僅かながら担っている。

・こういう戦力は、当然ながら、ある程度の歴史をもつ経済の中でしか形成されず、それゆえタイ経済など、外資の急速な導入で大きくなった経済国にはあまり存在していないはずである。
 その点では、韓国はタイなどと比べればそのようなものが多少なりとも存在するはずで、それが一挙に全部潰されるはずがないというのが、韓国の自信の根拠となっていたわけである。

・先ほどのシノプシスでは、その自信が裏をかかれて見事に崩壊したことになる。もっとも、97年の為替暴落では、別にこういう産業ばかりが狙い撃ちされて破滅したわけではない。(まあ先ほどのシノプシスでも、それらは単に土砂に埋まっただけで、「破壊」されてはいないが。)
 まあこれは、「韓国のようにそれなりにしっかりした基盤をもつ国がIMFに救いを求めるようなことがあるはずはない」という自信そのものを打ち砕くという、象徴的な意味の方が強いだろう。


民間防衛隊の招集
・最後の部分で民間防衛隊が招集される場面があるが、これは史実との対応では、IMFの支援が要請された際に、韓国市民に対して外貨不足の足しにするため、貴金属の拠出などが呼び掛けられたことに相当する。


砲弾量の計算
 発射された砲弾の量は、この場合、為替市場に直接投入された金額でなく、韓国の最終的なドル換算のGDP損失分から計算されている。その結果は、80cm列車砲弾で約3000発という換算になる。
 つまりもし1発の着弾が半径100mの円内を耕せるならば、3000発で合計94平方kmを耕せる。そのため通路は幅6km、長さ15kmの90平方kmとしてある。またそこから計算すると、全体での発射速度は毎時160発で、平均22秒に1発の割合で着弾していることになる。
 つまり列車砲1門あたりの平均発射速度を1時間に3発とすると、このクラスの列車砲約50門で砲撃を実施したという換算になる。史上最大の砲撃作戦としては、まあ妥当な換算と思われる。


   オープニング映像に関する一案

 ところでOPの映像をどうするかの一案であるが、これもやはりスターウォーズにならって、シリーズ全体で共通のものを使うのが良いのではあるまいか。(ただしよほどの名曲でないとそれは無理だが。)そしてやはり俳優などの名前をクレジットするかわりに、メインテーマをバックに劇中で必要な重要情報をOPで流すわけである。

 OP映像の一案としては、このシリーズ全体の象徴として、普通の地球儀が仮想地球儀に変化する映像を使うことが考えられる。つまり見慣れた陸地の地形がCG変形で仮想地球儀の地形に変わっていく映像を、タイトルバックの基本とするわけである。
 ただしそれは小さな「地球儀」のイメージではなく、むしろ衛星軌道から見た地表のような壮大さを感じさせる映像であり、日本だの韓国だのの見慣れた普通の地形が写り、それが次々にCG変形していくことで、可視化世界へ観客をいざなっていく。
 これをいくつかの国について都合4、5回繰り返し、最後に写った国の変形終了後、その場所から物語が始まる。

 そしてそれをバックに、文字で重要情報が説明される。例えば「15秒CM1本のオンエアの力は、航空爆弾2kgの力に等しい」などの説明も、ここで観客に示される。

 なお具体的な案の例として、この「15秒CM」に関する説明をOPの最後に表示し、メインテーマが終わる頃に、この説明の文字に四発機の爆音がかぶるようにして(つまり爆音がCMを意味していることを観客に意識させ)、フェードインで、もや(あるいは雲)の中から帝国空軍機が画面に登場するようにするというのも一案であろう。

 音楽構成に関しては、ちょっと「空軍大戦略」を参考にしたい。同作品では、必ずしもどちかを善悪に分けて描くことをしなかったため、独空軍と英空軍の2種類の明るいマーチが用意されていた。つまりそれと同様に、このシリーズでは2種類のマーチが用意され、両陣営のそれぞれのテーマとして使われるわけである。そして同作品にならうと、オープニングの音楽は、帝国側を表わす「千年王国のマーチ」である。

 このテーマとして名曲が作れれば、シリーズ全体の成功が半分は約束されると言っても過言ではない。無論ロック・ポップス系やボーカルつきのものでは駄目で、重量感のある交響楽でないとうまく行かないことは、「スターウォーズ」で証明ずみである。(大体交響楽でないと、仮想地球儀がもつスケール感や重みに釣り合わない。)


   場面2・最初のタイでの戦いの作戦内容

 作戦の細部を説明するということだったので、どうせだから別の場面の作戦イメージについても、ここで補っておくことにしよう。(この内容は、この映画そのものというより、むしろこれを応用してゲームに移植する場合などに、参考として重要になってくるはずである。)

 以下は冒頭付近、電撃戦がまだ行われる前にアジアの将来が薔薇色だと思われていた時期の、タイ軍があっさりと勝つ場面の作戦内容とその背景である。

・これは、作戦前のブリーフィングで語られる内容の要点をまとめたもので、ジオラマ的、箱庭的にきれいにまとまった感じの描写と共に、地図か模型を前に、あるタイ軍師団長の台詞として語られる。(経済戦への対応に関しては、ここでは述べないので各自が練習問題として考えられたい。)


         ブリーフィング内容

 以下がその台詞の大まかなアウトラインである。(別に観客は細部までを理解する必要はなく、ただ作戦の確固たるリアリティが伝わりさえすればそれで良い。)

・この作戦は、わが師団が自活するための独自の行動であり、タイ中央国防軍の作戦ではない。そのためタイ国防軍からは多少の間接支援の要請は可能だが、直接の国防軍の参加はなく、失敗の場合の救援も期待できない。

・今回の作戦目的は、わが師団が自活するための燃料確保である。現在わが師団は駐屯地の地下の油井から燃料を補給しているが、この燃料がそろそろ枯渇する。そのため新しい未開拓地へ侵攻し、そこに埋まっている燃料を確保することが、今回の作戦目的である。

・作戦区域は、タイ本土のすぐ近くに比較的最近隆起してできた陸地であり、国際法上、誰も特に恒久的な領有権を有しない。そのため現在、この陸地の支配権は確かに地理的な近さゆえにタイに有利であるが、原則的には各国のモザイク領土である。

・作戦目標は、燃料の埋蔵が予想される地点の制圧である。

・あらためて注意しておくが、この種の作戦では必ず守るべき原則がある。それは、「半径10キロの円内に少なくとも4個以上、それぞれ別々の国の重要拠点が存在する状態を必ず保っておく」ことである。
 言うまでもなく、これは核兵器を無力化するための措置である。すなわち核爆弾の破壊半径が半径10キロなので、その円内に複数の国の重要拠点が入っていると、どの国も核爆弾を使用することができない。

・つまりそれらを故意に温存し、国全体でその状態を保つことで、核兵器を無力化して通常兵器だけの作戦に限定できるわけである。
 今回の作戦の場合では、侵攻途上のルート付近にある、米国の通信施設、フランスの飛行場、インドネシアの補給基地、日本の休養センターなどがそれに相当し、もしそれを誤って破壊した場合、今回の作戦は失敗となる。

・次に道路状況を説明する。作戦区域の地表は基本的に不整地であり、その中を急造の3級道路が網の目のように走っている。
 この3級道路は、やや軟質の土壌の上に、表面硬化処理剤を散布して作ったもので、重量物を乗せたり強い衝撃を与えたりすると、チョコレートのように割れてしまう。
 そのため基本的に軽装甲の装輪式戦闘車両による高速前進の方が有利であり、逆にキャタピラ装備の重戦車、重装甲車両の高速での通過は、道路を損傷させて前進が止まる恐れがある。
 その点で、米陸軍や日本陸軍の装備車両がキャタピラ式主体であるのに比べ、タイ軍は装輪式主体であるため、高速作戦であれば有利である。

・なお国際的な道路交通規定で定められている通り、各車両は必ず道路表面硬化剤を定められた量だけ搭載し、途中の道路に損傷部分があったとき、後続車両のためにそれを散布しながら前進する。それゆえ多くの車両が通過するほど道路状態は改善される。

・前線に近づくとさらに道路状況は悪くなるが、こういう場合には素早く車両の側面補助装甲を何枚か投棄して車両重量を軽減し、速度を落さず作戦目標に前進せよ。交戦が予想される場合でも、装甲防御力に頼ることなく、むしろ軽量化による機動力の向上によって側面に回り込むことを考えよ。

・機動力向上や進出距離増大のために装備を投棄して車両の軽量化を図った場合、前進中に一時的に大きな損害を受けることは覚悟せねばならない。ただし迂回競争に勝って目標地点の確保に成功しまえば、その不利は取り返すことができる。ぎりぎりどの程度の装備を投棄するかは重要な判断であり、しばしば戦術面での最大の要素となる。賢明に対処せよ。
 特にわがタイ陸軍の装備車両の場合、火力は外国勢とほぼ同等だが装甲防御力で優位に立つことはできず、身軽さだけが利点である。

(注・一応ここだけは経済戦争との対応を補足しておくことにする。この場合、「火力」が品質を、「装甲防御力」がブランド力を、そして「重量」が価格を、それぞれほぼ意味していると思って良いだろう。なお、この場合の「ブランド力」はあまり狭く解釈せず、局面ごとにそれに相当する概念を探して柔軟に解釈することが必要である。)

・全般的傾向として、この種の作戦において敵対戦力と遭遇した場合、交戦によって直接相手を駆逐するよりも、軽量化によって機動力を上げることで相手より先に目標地点に到達し、そこを先んじて確保した方が有利である。

・逆に、もし相手側に先に目標地点を奪われた場合、正面から強襲をかけるよりもむしろそこを一旦迂回し、軽量化を実施することによって、重車両では通過できない攻撃ポジションに進出してから攻撃を行なうか、あるいはやはり軽量化によって進出距離を伸ばして別の拠点を確保することで立場をイーブンにする方針で臨め。

・また作戦目標に関しても、具体的にどこが防御拠点となるかは、現地に行って燃料埋蔵状況がどんなものかを調べなければわからない。それゆえ細部は現地に到達した時点で、ある程度臨機応変に対応せよ。

・また今回の作戦における補給線は鉄道に依存せず、補給の大部分は直接道路輸送によって行なわれる。(注・道路の整備状態が株価水準を意味する。)

・今回の作戦では航空支援がある。近接支援機による合計3トンの航空爆弾の投下が予定されており、FAC(前線航空統制)士官との協議によって、有効な目標を選定せよ。


 以上をイメージしながら、テンポよく演出を行なっていけば良いだろう。そしてこれに関しても、これを完全に消化・発展させて、経済戦争を戦車戦として精密に再現するゲームを組み上げられる人材が早く育ってほしいものである。