20050111 長沼伸一郎
(写真製作・OPT班)
これは第一作とはがらりと趣を変えて、陸の戦いではなく海の戦い、すなわち今後
知的世界で起こると予想される知的制海権の争奪戦を軸に、知的世界の現状をかなり
リアルに可視化した映画である。
具体的なストーリーは、硬直した組織からはみ出した若い海軍(理系・技術)士官た
ちが、「数学史上最大の盲点」を制するツールをテコに、自力で自前の原潜を作って
手に入れていく物語である。
筋立ての8割は、実は現実に起こったことをベースにして可視化を行ったものであ
り、台詞の一部も本当に周囲で行なわれた会話に基づいている。そのためこれは半ば
われわれパスファインダー・チームの自叙伝であると共に、われわれが将来の目標と
して共有すべき一個の夢物語でもある。
今回、その一番最初の部分を試験的に公開するが、この物語の原案をこういう形で
作った目的は、実際にこれを映画として作りたいというより、むしろわれわれ自身が
現在どういう場所にいて何をしているのかを、これを通じて皆に認識してもらいたい
ためであり、どちらかと言えばその目的の方が大きい。
今回の物語は、準四次大戦勃発直前ぐらいの時代の場面から始まる。(つまり第1
作より少し時間的に遡る。)
全体的な雰囲気としては、第1作の西方電撃戦の物語に比べるとぐっと明るく、一
種の青春冒険物語の雰囲気ももっており、日本人から見ると、これは一種「日本人で
も主役を張れる、潜水艦版スターウォーズ」のような、カタルシスのある作品にでき
る可能性がある。
そして単なるアクションというよりは、体制側の目を盗んで自力で原潜を建造して
いくという、前代未聞の破天荒な企てを、じっくりと見せることに主眼が置かれる。
(そのあたりは、ちょっと「大脱走」などと一脈通じた雰囲気になるかもしれな
い。)
またその物語を縦糸に、周囲の学会や知的世界の状況、さらに背景をなすメディア
の状況などが濃密に構築されて可視化されており、その興味でも見ることができる。
物語の中に、原潜建造の鍵となる物質を積んで海底に眠っている古い沈没船が登場
するが、その現実世界での対応物が何かと言えば、それは三百年間の伝説的な数学的
難問であった三体問題を意味している。
一般に無形化世界では、海とその水面下が、「知的世界とその盲点」に対応してい
るが、そこから考えると、伝説の宝を積んだ沈没船の対応物として、恐らく三体問題
以上にぴったりするものはあるまい。
そして三体問題の陰に眠っていた「数学史上最大の盲点」を制するツール、すなわ
ち作用マトリックスN乗理論が、原子力推進機関に相当するわけである。
本来なら原子力推進機関というものは、海に存在する最高級の武器である以上、よ
ほど威力のあるツールや理論でない限り、安易に対応させることは許されない性格の
ものである。
それは例えば内輪の学会と産業界から評価されるだけのツールや新理論では駄目
で、むしろそれを超えて、思想と文明全体に強い影響を及ぼす力をもつことが、資格
の絶対条件である。それゆえたとえノーベル賞級の業績と言えども、最近のものはそ
の点でスケールが小さいものばかりで、押し並べてその資格に欠けている。
それに対して作用マトリックスN乗理論の場合は全く逆で、確かに現在は学会の盲
点の下に入り込んで評価が定まらないが、逆に将来の思想や国際情勢に及ぼす影響に
関しては(現時点での予測が正しいと仮定する限り)、潜在力の点で十分な資格を備
えていると言ってもばちは当たるまい。
そしてその場合、むしろ現在それが学会の盲点に入り込んで評価が定まらないこと
が、かえって原子力機関を水上ではなく海面の下で使うことによく対応していると言
える。(逆に言えばその予測が正しかった場合のみ、この物語は真に「実話」となる
わけだが。)
その意味では少々気の引ける部分がないではないのだが、しかし客観的に見ても、
この物語は現代の理系および技術者肌の青年の多くにとって、共感するところは多い
はずである。
またこの映画のスタンスとして、「空軍を悪役として描く」というのが大きな特徴
であり、それは映像的にも大きなテーマである。
考えてみると今までの戦争映画では「ドイツ・陸軍・統制」が悪役イメージの定番
で、その象徴たるナチスドイツの悪の美学が活劇を裏から支えていた。しかし現代で
は、人々は米国の強さを見過ぎているため、それは悪役として弱すぎて、もはや通用
しない。
にもかかわらず米国が悪役をちゃんと引き受けないため、悪役不在で活劇が成立せ
ず、それが最近のハリウッド活劇のつまらなさの大きな原因となっている。
つまりナチスドイツにかわる新しい悪役のイメージは「アメリカ・空軍・縮退的自
由」がベースでなければならず、これを「悪の空の帝国」として如何に美学をもって
魅力的に描き出すかが活劇再生の鍵であると共に、その手段を編み出すことは世界中
の映像表現にとっての大きな課題なのである。(ただしここでは「帝国」は米国とは
少し別の場所に設定されており、米国自体は必ずしも帝国や悪役そのものではな
い。)
その意味では原潜と空軍の戦いというものは、このためには最も適したテーマであ
り、原潜の建造過程を青春ものの明るさ(といってもその「青春」は、現代よりも幕
末期の海軍士官のそれに近いが)で描く一方、背後の資本主義経済やメディアを現実
世界のリアリティの重みをもった敵役として可視化するという、ちょっと類を見ない
作品になると予想される。
ただし、もともと潜水艦ものがとかく映像的に少し暗くなりがちであるところへ
もってきて、それを日本人が行うという二重の難しさが重なり、ハリウッドの潜水艦
映画と同じコンセプトではまず成功は期しがたいものと思われる。
その困難を突破するには、映像や構成の両面で様々な巧妙な工夫と配慮が必要とな
り、そのために何が必要なのかについても深く突っ込んで考えてみたい。そしてここ
には、日本を舞台とする映画で米国と互角に勝負するための、いくつかの手段が工夫
されてい
る。
シリーズ全体でのこの作品の位置付けは、第1作の西方電撃戦がとにかく「経済戦
争を目で見ることの衝撃」を観客に伝えることにあったのに対し、今回は無形化世界
全体の世界観や骨格、あるいは無形化世界の細部がどうなっているかを、この作品を
通じて解説するという役割を多分に担っている。
つまりこれは、無形化シリーズの新作が作られたり公開されたりするごとに、その
背景を知るためのベースとして参照されるべき重要な作品としての役割を負うわけで
あり、また、下手をすればとかく暗くなりがちな準四次大戦ものの中で、シリーズ全
体に明るさを与える役割も担っている。
それを考えると、これは単体で公開時だけの瞬間風速だけで勝負する作品というよ
りは、むしろ長期にわたってこのシリーズ全体と共に、そのベースとして生きていく
べき作品であるため、採算も含めた勝負も、最初からそういう形の長期戦を想定して
行なう必要があるだろう。
とりあえず基本構想の下書きを作っておこう。今回は、会話の中に相当密度の高い
情報を盛り込むことが必要(しかも部分的に現実の過去の会話が再現されている)な
ので、台詞の中味も原案の段階でかなり具体的に書いておかざるを得ない。
それゆえ映像化の際には細部は変えても良いが、内容そのものはなるたけ忠実に再
現することが望ましい。実際、ここに会話として具体的に書き出しておいたものに関
しては、単なる思いつきで書いた会話はほとんどない。
オープニングと最初の場面
オープニングのタイトルバックは、このシリーズ共通の仮想地球儀である。仮想地
球儀上の地形をスタイリッシュに見せながら、字幕スーパーで無形化対応や換算に関
する情報がいくつか示されていく。(テーマ音楽は無論、重厚だが明るい交響楽で、
その意味ではSWと同系列のものである。)
そしてオープニングの最後付近で、日本の部分の地形がクローズアップされていっ
て、画面がフェードアウトして暗くなっていく。
テーマ音楽も同時にフェードアウトしていき、音楽と入れ替わる形で、昔懐かしい
B17の大編隊のような飛行機の爆音が響いてくる。(低音の重厚な轟音で観客席を
包み、この音のイメージで観客を別世界に誘い込む。SWシリーズのタイトルバック
直後の宇宙巡洋艦の音の感覚を参考に。)
暗くなっていく画面上で、最後の字幕スーパーが消えていく。(その最後の文面
は、「現代世界でオンエアされる15秒CM1本の力は航空爆弾2kgの力に相当し、
この映画ではそれを基にメディアの力が空軍力として正確に可視化されている。」で
ある。つまりバックに四発重爆の爆音を聞きながらこの字幕スーパーを読むことで、
観客にはその爆音がメディアの力を意味しているということが意識に残る。ただしこ
の時点では必ずしもその意味が完全に全員に理解される必要はない。)
響き続ける爆音をバックに、だんだん画面が明るくなっていく。すると基地への帰
途につく四発重爆が、夕闇迫る灰色の空を飛んでおり、音はその大編隊の爆音である
ことがわかる。そのうちの1機の中央部のアップが映り、もやを通して背後にも何機
か見えている。
(コンセプト写真1)
編隊を構成している四発重爆は、機体の中央部に大きな主砲(75ミリ砲クラス)
のついた旋回砲塔を1基装備している奇妙な機体で、その異様なコブのように盛り上
がった砲塔が、ゆっくり旋回している。(周囲の空が暗い灰色であるため、不気味な
イメージを強調するため、機体全体も少々暗い迷彩塗装の方が良い。見ようによって
は宮崎メカ風。)
そして次のカットは地上から空を見上げたアングルである。夕闇迫る頭上の空を爆
撃機の大編隊が通過していく。最初は先頭の数機だけが視野に入っているが、後続機
がどんどん視野に入ってきて、一体どこまで編隊が続いているのかわからないほど大
量に空を覆い尽くし、その編隊の巨大さに圧倒される。(これはちょっとSW1の冒
頭の宇宙巡洋艦のシーンを思わせ、ノスタルジックで不気味なプロペラ重爆の大編隊
の爆音と共に、現代世界のメディアの規模が如何に巨大かを観客に意識させる。)
空を向いていたカメラが下を向いて地上が写ると、湖畔か川岸に突き出て建てられ
た木造の大きな建物が視野に入ってくる。建物には明かりが灯り始めており、完全な
和風ではないが、水面の上に渡り廊下が突き出ている(厳島神社をホテルにしたよう
な感じ)など、全体として「夕闇の湿気」を感じさせる、風情のある雰囲気である。
そしてこの上に「第四次世界大戦の開始(1990年)より少し前。日本。」とい
う字幕スーパーが、日本語と英語で示される。
(映像上の注意点・どうも思うのだが、日本の実写映画の場合「湿気感とスケール感
の両立」ということが、映像的にハリウッド映画に負けないための重要なポイントで
あるらしい。
またハリウッド映画に慣れた目からすると、TVの場合に比べて映画では日本人の
顔色が暗く写るので最初地味な違和感を覚えることが多い。それらをクリアするた
め、まず冒頭だけは舞台装置を少し湿気を感じさせる場所に置き、室内も暗い照明の
似合うものにして観客を慣らせておく一方で、そこに爆音をかぶせることでスケール
感をもたせる。そしてそこから舞台を徐々に広い場所に拡大していくわけである。)
時代背景について言うと、この頃にはすでに帝国の陰がだんだん世の中を覆い始め
ており、帝国空軍が自前の制服(航空識別用の黒白ストライプが胸部に入っている)
を制定し始めて、これ見よがしにそれを身に着けた若い空軍兵がちらほら町中にも見
え始めている頃である。
ちょっとナチス勃興直前のドイツにも似た雰囲気で、もっと若い者の中には「オー
バーロード・ユーゲント」に所属して気炎を上げている者も多い。
空軍兵たちは麻薬の一種の「ユーフォライド」という興奮剤をタバコがわりに口に
くわえている。これは高高度の空気の薄いところでも反射神経が鈍らない効果がある
として、パイロットたちの間では常用されているが、地上だと多幸感があって精神状
態がハイになりやすい。
また、多くの者がナイフを装着しており、柄の部分が帝国の黒白ストライプか、あ
るいは鷲の紋章が入っている。
そして、若い海軍士官たちが世の中でだんだん生きにくくなって、欝屈している状
況が描かれる。
若い海軍士官たちの憂欝
店では、海軍の少尉候補生たちが何人か集まって、ジョッキで乾杯している。(店
の中のイメージは必ずしも和風ではなく、戦前の海軍将校が通っていたようなちょっ
とドイツ風のハイカラなイメージで。)
「海軍士官学校卒業を祝って、乾杯!」一同ジョッキを空けるが、それも終わらない
うちに、一人が浮かない顔で一同に言う。「ここのところ、このまま海軍にいていい
のかと疑問に思うんだ。陸軍か空軍に転属した方がいいのじゃないかって。」
「これから海軍少尉任官っていうのに、そんなしけた話をするなよ」ともう一人が言
うが、別の一人は何となくしみじみした口調で同意する。「わからないじゃないな。
昔はこんなじゃなかった。」皆そう思っていたらしく、ちょっと座が沈む。
沈んだ雰囲気を和らげようと、別の一人が手を伸ばして、脇に置かれていたセピア
色のアンティックな地球儀を持ってきてテーブルの上に置き、昔を懐かしむ口調で言
う。「俺たちの少年時代を思い出さないか?あの頃は、とにかくこの地球表面全体
が、人類史上かつてないほどの変動を起こしていた時期だった。今から振り返ると、
その変動のエネルギーは、あの数十年間だけでそれ以前の数万年分の合計を上回るほ
どのものだったんだ。」カメラが地球儀の方を向くと、正面に写っているのは、実は
日本周辺である。
別のもう一人が地球儀の日本の部分に指を当てて言う。「日本なんかはさしずめ最
もその恩恵を受けた口だな。おかげでいつの間にやら国土も大陸並みになって、面積
の大きさもオーストラリアと逆転しちまったし。」そして地球儀をくるっと勢い良く
回す。
カメラは回り続けている地球儀の南半球部分に向かってどんどん寄っていき、やが
て画面一杯に、勢い良く回り続ける地球儀の南半球が広がる。(このアンティック地
球儀によって、大航海時代のロマンのイメージを重ねながら、ちょっと不可解な世界
観をずんずん説明していく。観客は一度で全部を理解する必要はない。)
誰かの指先がつーっとその回転を止め、地球儀の南半球部分の絵柄が見えてくる。
するとそのセピア色の南の海の部分には、ところどころに雲や嵐や氷の絵がアン
ティック調に描かれているのがわかる。
そして声は続く。「青色海軍の栄光の時代、大規模な変動を始めたこの南の海は、
まさしくフロンティア以外の何物でもなかった。激しい嵐と雲に覆われて、人類の接
近を拒むようになった海の向こうに、新しく姿を現わしつつある氷の世界。」
カメラはさらに地球儀上をなめて南極の方に下っていく。「嵐の海を突き抜ける
と、そこには壮大なオーロラに覆われた空が広がっていて、その下の氷の海には地球
と人類創成の秘密を解き明かす鍵が現われているかもしれないというんだ。そのオー
ロラをこの目で見ることはどれほど憧れだったろう。」地球儀の南極の部分は、何か
神秘的な絵が描かれている。
「そしてその未知の海に進歩を信じて乗り出していった偉大な探検者たち。士官学校
へ入る時、その誰を目指すつもりだった?特に個性的なところでは?」彼はそう言い
ながら一同を見回し、一同はめいめいが名を挙げていく。
「ディラック・・かな。」
「俺はガモフだ。変わってるって言われるけど。」
「ド・ブロイ。」
「シュレーディンガーだね。」
再び彼は懐かしむ表情で地球儀の真ん中あたりに指を当てて見つめ、ゆっくり回し
ながら続ける。「南極まで行かなくたって、その手前にある嵐の海も、未知の陸地が
海から次々誕生しつつある探検の舞台だった。それらはやがてもっと大きな新しい大
陸となって、未来の自分たちはそこに住むことになるかもしれない、そんな思いに胸
をときめかせたもんだ。そこへ乗り出すことに比べれば、北の陸地で陸軍や空軍が
やっている戦いなどおよそちっぽけで愚劣なものに過ぎない。だから青色海軍以外の
一体どこに自分の生きる場所があるかと思ってた。皆もそうだろう?」一同うなず
く。
(士官たちは最初詰襟の制服を着ていて、ちょっと戦前の旧海軍の雰囲気もあるが、
乾杯が終わるとすぐにそれを脱ぎ、肩に黒い少尉の肩章のついた現代風なワイシャツ
の制服姿となる。なお「青色海軍」は理系研究機関、「赤色海軍」は文系研究機関で
あり、後者は陸軍士官学校の砲術科出身で、川や湾内などの沿岸で陸軍を支援する
「ブラウン・ウォーター・ネービー」である。)
隣のテーブルにいる集団が気勢を上げて騒いでいて、時折その騒音で話が中断され
る。(「あいつらは空軍の下士官パイロット連中だよ。」とぼやく。)
実際この連中はとにかく傲慢で態度がでかい(モデルとしては、さしずめとんねる
ずの石橋貴明あたりを思い浮かべればよい。空軍兵の服装は、米航空隊の革ジャンを
ベースにSS風のドクロの襟章、また前肩の部分には黒白ストライプ模様がついてい
る。)
空軍兵たちの周囲に群がって嬌声を上げている女の子たちは、けばけばしい化粧や
身なりでタバコをすぱすぱ吸って、バブリーな雰囲気と援交コギャルの乱暴な口調を
ミックスしたような感じ。(これはずっと後の場面との対照として意味をもってく
る。)おまけに話の中身は下ネタばかり。
士官たちは騒音の合間に話を続ける。
「ところが海軍士官学校を卒業した頃には、海は変わっていた。昔に比べて嵐の方は
静まってきたが、そのかわり、新しい陸地の発見などはとうの昔にやりつくされて、
小さな島の調査がせいぜいだ。そして地球創成の鍵など解き明かしたところで、どの
みち大したものは得られそうにない。だから誰もが口にこそ出さないけれど、もう青
色海軍の時代は終わったのじゃないかと、密かに悩み恐れている。」
「同感だな。それでいて、嵐のかわりに艦艇用燃料の世界的な枯渇がとってかわっ
て、海を渡る困難は相変わらずだ。だから今じゃ陸軍の奴らが俺たちに期待すること
といったら、どこかの島で未知の触媒を発見してきて新しい燃料を作り出すことと、
上陸作戦の支援を行うことだけなんだから、栄光の青色海軍がこれじゃブルーカラー
の労働者だ。甘く見られたもんだよ。」
「それでも第三次世界大戦でソビエト連邦が米海軍と張り合っていた頃は、まだしも
良かったんだ。この南の海もその競争の華やかな舞台だったからね。でもその第三次
大戦も、もういよいよ終結だ。ゴルバチョフが講和条約に署名して、今じゃモスクワ
にアメリカ陸軍の戦車部隊が進駐してる。国土もこんなに痩せ細っちまって、国名も
ソ連からロシアに戻るんだって?」彼は(仮想)地球儀のロシアの部分を指で指す。
「それで今じゃ米陸軍の最大の脅威は、ソ連じゃなくて日本陸軍だってさ。ジャパン
・アズ・ナンバーワンとか言われてね。」
彼らの脇では、空軍兵が馬鹿騒ぎをしながらだんだんこっちのテーブルまで攻めて
きて、ビールのしぶきがこちらの一人にかかってびしょびしょになる。
しかしこっちは困惑顔をしてハンケチで服を拭きながら場所をずらして避難するだ
けで、文句を言う度胸がない。(そのあたり、ノーと言えない日本人の典型を思わせ
て苦笑させられる。)
「だけどここのところ、その無敵の日本の陸軍がまずいことになっているらしいぞ。
油断し切ってろくに防御もせずに戦線を拡大しているから、後方の鉄道網を砲撃で寸
断される危険があって、このままでは戦線崩壊に陥るかもしれないって。」
隣のテーブルの空軍兵たちの無礼が何度も繰り返されるので、さすがに一人がたま
りかねて「君らは一応下士官だろう。それが将校への態度か」と注意する。
ところが空軍兵たちはそれを聞くと「そこの海軍のエリートさんたちが敬礼しろ
だってよ」と大笑いする。彼らは海軍をなめきっていて敬語は全く使わない。そして
嘲笑するような口調で、
「大体、数学や工学なんかができる人間がエリートだった時代はもう終わりだ。俺た
ち空軍じゃ、機械を扱うのは下等動物の整備兵どもの仕事なんだよ。大体今時、自分
の頭で小難しいことをのろのろ考えること自体、時代遅れだっつーの。情報はどうせ
空に集まってて神の眼が全部指示してくれる。その指示を1秒の差で瞬時に判断でき
るやつが、これからの自由人ってもんだぜ。」
脇の女の子が「ねえ、神の眼って何よ」と聞いてくる。空軍兵は「IFF、通称神
の眼。要するに敵味方識別装置のことだ。」と答え、もう一人がさらに詳しく説明す
る。「計器盤の真中に、誰が敵で誰が味方か、その位置を全部教えてくれる画面が
あってな。その画面の上に赤い点が現われた!そいつは敵だ!俺たちは瞬時の反射力
で操縦桿を引いてそいつの後に回り込んで、素速く機銃弾を叩き込む。反射が0.1
秒遅れたら、やられるのはこっちだ。」彼は両腕を翼のように広げて派手な身振りで
自慢する。(この話は後で笑える伏線になる。)
女たちは「超格好いい!」と馬鹿丸出しの口調でそれを賛える。空軍兵はさらに調
子づいて、「機銃掃射!」と言いながら女に悪戯し、馬鹿女大喜び。
海軍士官たちはたまりかねて、「でも君ら空軍が使ってる飛行機も、元はと言えば
海軍で設計したんじゃないか。君ら空軍はそれを改良して使ってるだけだ。」と不器
用に正論の文句を言う。
ところが空軍兵は鼻でせせら笑って「設計なんかやった奴のどこが偉いんだ?一旦
完成品の機体が出回っちまえば、コピーなんざ自由だ。それよりも燃料弾薬を要領よ
く調達してそれを飛ばせられる能力を持ってる方が勝ちなんだよ。だから戦士として
主役になるのは俺たち。安月給で俺たちの下働きになるのが、あんたら海軍のエリー
トさんたちだ。それで偉そうに自分たちの頭脳が世界を支えていると思い込んでるん
だから笑っちまう。」
「馬っ鹿みたい。結局頭悪いんじゃないの?」「超うざいよね、そういうのって。」
女たちの声でさらに勢いづいて、空軍兵は胸のナイフを抜いてちらつかせ、「大体ろ
くに喧嘩をする度胸もないくせしやがって、上官面するんじゃねえよ」と凄むが、士
官たちは後退りするだけで一言も返せない。
やがて空軍兵の連中は、取り巻きの女の子たちを連れて去っていく。すると他の
テーブルにいた一見普通の娘までが全員、席から立って追いかけていくので、店にい
た女の子は底引網よろしく根こそぎさらわれてしまう。すっかり静かになった店の
中。
陸軍の参謀将校と
後ろで「さんざんな言われようだったな」と声がする。一同驚いて振り向くと、声
の主は隣のテーブルで一人で飲んでいた少し年配の陸軍将校で、笑いながら「すま
ん。話は全部聞こえちまったんでね。さっきの連中、自分たちが自由人とは笑わせて
くれる。空軍の奴らは大体そうだ。反政府や反権力を気取りながら、実は政府より遥
かにでかい権力の忠犬ハチ公になってるくせに。」そう言ってグラスをぐいと空け
る。
彼らはその言葉で親しくなり、しばらくそれについて話した後、参謀将校は将来の
海軍エリートたる彼らに、世界がどうなっているかを伝えたいと思ったらしく、教え
ておきたいことがあるから場所を変えようと提案して、一同は店を出る。
参謀将校の説明
一同は、取り壊し中だが地図などがまだ残っている、旧司令部の建物のがらんとし
た地下室に、明かりをつけて入っていく。そしてここで彼らは、壁の世界地図やテー
ブル上のジオラマのような立体地図を前に、じわじわ存在感を強めていく帝国の力の
状況や、またIFFの神の目が何者かに操作されていて、空軍全体がその帝国の操り
人形になっているらしいことなどを説明される。
(この場面でなるたけコンパクトに、敵の正体が何なのかに関する解説をしておくこ
とが望ましい。台詞の具体的な内容例は後に別稿で述べる。)
士官たちは、はじめて聞く話に困惑を隠せない。彼らは海軍士官といっても、探検
用の海軍で戦闘にはあまり関与してこなかったので、陸上の戦略情勢などについては
興味もなかったのである。話が終わって、不気味な感覚がじわりと残る。
(なお参謀将校の服装は、第二次大戦時の英陸軍将校の服を参考にするのが望まし
い。旧日本陸軍のだと画面が重苦しくなりすぎ、逆に現代の軍服だと軽すぎるか、あ
るいは自衛隊的でありすぎる。そう考えると英陸軍のものが、赤い記章がついていて
適度にモダンで適度に重味があり、イメージに一番近い。)
海軍の憂欝な現実
そして現実の生活に戻った彼らを待っているのは、海軍のうんざりするような現実
である。まず彼らは実務研修としてモニター艦に配属される。(ただし憂欝なモニ
ター艦でも、艦内で聞こえる効果音はどこか心地良い。この場面などで、モニター艦
の姿など、海軍の現実が興味深く可視化され、ここで観客の映像的な関心を惹いてお
く。まあモニター艦の外観はもろにCGで良いだろう。)
(コンセプト写真2)
艦内の射撃指揮所。目標との位置関係をプロットする部所である。皆グレーの救命
胴衣にヘルメット姿で、上級士官も年配で硬直した権威主義的な感じの人間が多く
て、官僚的な(旧海軍の戦艦の砲術科のように偉そうに硬直化した)重々しい雰囲気
である。
部屋は割合に静かで、空調の音が聞こえている。海図テーブルの上に、目標がピン
で示されている。スピーカーから発射シークエンスのオヤジくさい声のアナウンスが
聞こえる。「目標までの距離8050。」「上空の風速24m」「コリオリ力偏差修
正」「仰角25」「発射!」轟音が室内まで響いてくる。
「目標に命中!砕氷範囲30m。」「命中率良好なり。本日の射撃はここまで。」
「さて戦果を報告書にまとめて申告だ。」
海図テーブルの前で、主人公が先輩士官に尋ねる。「あの、今のこの目標って、流
氷の上に置いておいた単なる距離測定用マーカーですよね?それで今割った氷って、
明日になれば氷結して元通りに戻っちゃうんですよね。そして今のは訓練じゃなくて
本番ですよね。あの、つかぬことを伺いますが、これに砲弾を命中させることに一体
どういう意味があるんです?」
先輩士官は肩をすくめる。「新入りの研修生がそう言いたがるのはわかるがね。何
しろ艦艇用燃料の不足が深刻でな、動けるのは2ノットで1日1時間までと決められ
てる。意味のある目標といっても、そんなものは近くにはないし、それがあるところ
まで移動するのも無理だ。とにかくここから半径20海里以内だけがわれわれの守備
範囲なんだから、この円内で目標を何とか見つくろって戦果として報告するしかない
んだよ。」彼は海図の上にコンパスで円を描く。
「でも動けないのは、燃料不足というより、むしろ艦が装甲の重みで鈍重になり過ぎ
てることが問題じゃないでしょうかね。」
「まあな、悪循環ってやつさ。燃料が乏しいからなるたけじっとしていたい。じっと
していても損害を受けないために、艦の装甲を厚くする。それでなおさら鈍重にな
る。また装甲を厚くする。ついでに装甲で重くなった分、航行用のものはなるたけ捨
てて軽くし、船体に浮力材をくっつける。また動けなくなる。
でもおかげで、今じゃもうこの艦の装甲はかつての大和級の主砲のゼロ距離射撃で
も撃ち抜けないほど分厚くなってるし、喫水の下も厚さ10mもの浮力材で着ぶくれ
してるから魚雷も歯が立たない。知ってるか?この艦も昔はああいう姿だったん
だ。」彼は壁にかかった銘板を指差す。そこには普通の形の戦艦がレリーフで描かれ
ている。
「でも動けないんじゃ船とは言えないでしょう。」「まあそうだが、一応ここの縄張
りを絶対的に守ってることにはなってるんだ。目標に意味があろうとなかろうと、命
中弾の数が俺たちの点数になって、それが昇進につながる。大体点数の評価基準を決
めるのはアメリカ海軍だし、おえら方はその方針に右へ習えだ。それに、ライバル艦
との撃ち合いにならなかった分、まだましだろう。まあつまらんことは考えるな。」
主人公は納得できない表情である。
(映像上の注意・邦画の政治サスペンスものなどで、海上自衛艦の艦内のグレーの壁
をバックに日本人俳優が演じたものを見ていると、同じグレーの艦内で撮ったもので
あっても、米国映画に比べてなぜか閉塞感がある。そのためむしろここではその感覚
を逆手にとって主人公の閉塞感をそれで表現し、後の原潜艦内のウッド調−−設定で
は艦内に人工木材が張られている−−の感触と対比させるとよい。ただ観客がその閉
塞感で疲れないよう、バックの効果音は魅力的な音にするよう注意が必要である。)
帝国空軍にどう対抗するか
研修後に一時的に内地に戻った候補生たちが、再び集まって話をしている。場所は
夕刻の丘の上で、丘はかなり広く視界は開けており、空には飛行船が浮かんでいる。
(広々とした空気感は東京のごみごみした狭い雰囲気ではなく、ロケをやるなら海外
で行なう必要がある。そしてこの場面で、空軍の姿がいくつかちりばめられる。)
日没間近の市街地は近代的なビル街ではなく、建物はややヨーロッパ的な作りであ
る。しかし地平線には砂漠が広がっており、遠くには崩れた高い建築物の廃虚が砂に
埋もれているのが見える。つまり地理的には、砂漠の中に箱庭のように伝統的な市街
地が点在しているという、ちょっと幻想的な構図になっているわけである。
遥か高空には重爆が編隊を組んで飛んでおり、何本もの飛行機雲が青空をバックに
鮮やかに曳かれていて美しい。
「そっちはどんなだ?」「硬直した組織と無意味な任務、まあそれに以外表現する言
葉が思い浮かばないな。」一同も同意する。
「みんな配属変えは希望せずに、やっぱり研修をやった艦に戻って任官するのか?」
「艦を変えたって、そう将来が変わるわけじゃないだろう。大体日本じゃ大佐や艦長
に昇進したって、やれることはたかが知れてるよ。何しろわが日本海軍は制海権を
もってないから、領海の外に出たら実質的に米海軍の指揮に従わなきゃならないんだ
から。」
彼らの頭上の低空を「ワイドショー仮想航空機」が、翼を下げた高速飛行状態で爆
音を上げて通過する。それらは市街地へ向かって飛んでいき、その途中で、翼を広げ
て低速飛行形態に移行する。(爆音はジェット機の音であり、この場面では今まで
あった湿気感が取り払われて、現代的な乾燥した雰囲気になっている。)
丘の上から眺めると、市街地上空をすでに数機の同型機が円を描いて舞っており、
先ほどの機体もその円舞に加わるのが見える。時折その風防に日没間際の陽光がきら
りと反射する。
(コンセプト写真3)
双眼鏡で見ると、それらは円の中心にいる目標に集団で銃撃を加えている。それを
見て一人が
「見ろよ、誰か餌食になっているらしいぞ。気の毒に、あーあ、なぶり殺しだ。何が
空の保安官だ、ありゃどう見ても空のゲシュタポだぜ。全く今の世の中、密告屋の天
国だよ。引きずり降ろしたい奴があれば、下手をすれば匿名の電話一本だけで、ああ
やって空から集団リンチを加えてくれるというんだから。」と呑気に言う。
もう一人が「この間の参謀本部の人の話を覚えているか?例の噂、ほら、黒白スト
ライプをつけた連中がIFFの神の眼を裏から勝手に操作し、空を支配しているとい
う話は本当なのかな。もしそれが本当なら、それに逆らう奴はみんなああなるわけだ
ろう?」と言ってさっきの光景へあごをしゃくる。
「今時、若い連中は誰も彼もが空軍に入りたがる。空軍にあらざるもの人にあらずっ
てな。だけどその空へ行けば自動的にその帝国の奴隷になっちまうってんじゃ、もう
どこへ行けばいいのかわからないなあ。救いようがないぜ。」
「確かにな。現在すでに、陸軍にせよ海軍にせよ、航空戦力に頭を押さえられて一歩
もそれに逆らって動けない。それに勝てる力はどこかにないもんかね。」また1機、
頭上を飛んでいく。
「とにかく制空権を握られたんじゃ、陸だろうが海だろうが誰も手も足も出ないよ。
唯一、その制空権下で行動できるものがこの世にあるとすれば原潜か。」
「原潜ねえ。まあ日本に生れた海軍士官にとっては夢のまた夢だ。大体今じゃ原潜は
米海軍でさえ資源不足で建造困難ときてる。かと言ってディーゼル潜水艦なんかじゃ
何隻作っても、息を吸いに水面に出たところを片っぱしからやられちまうだろう。活
路なしだよ。」一同ため息をつく。
しかしここで一人(主人公)が「そのことで、実は皆に見てもらいたいものがあっ
てさ」とバッグの中から大きなケースを取り出す。ケースに放射性物質のマークがつ
いているのを見て、一同は「おい正気か?核物質を持ち出すなんて!」と驚く。
「一応マークはついてるから、ばれたら問題だが、放射性物質っていったって夜光塗
料と大差ないぐらいの無害なものだよ。」ケースの中身は透明なシリンダーで、シリ
ンダーの中に砂粒ぐらいの白っぽい結晶のようなものが固定されているのが見える。
(結晶の名称は未定。)
「砂粒ぐらいのものだけど、xxxの結晶だ。知ってるかな、これは海底で生物の死
骸をヨリシロに成長した結晶で、中を細い穴がたくさん通っていて、フィルターみた
いに水が通ることができる。それだけでも珍しいものだが、こいつは結晶が出来ると
き、一緒に放射性物質を中に取り込んで成長した希少なものだ。これを使うと、海水
から電力を取り出すことができる。ちょっと実演しよう。見ててくれ。」続いてバッ
グから水筒を取り出す。
「この水筒の中身は南の海の海水だ。海底火山の活動なんかが活発な南の水域だと、
海水中にその燃料の源になる成分が豊富に溶けている。それがこの結晶の作用で一種
の電解液に化けるんだ。」そう言って水筒の海水をシリンダーに注ぎ、蓋をする。蓋
には電極がついていて、そこに豆電球がつないである。「ただし少し磁場をかける必
要があるんだが」と、外から磁石(のようなもの)を近づける。するとその豆電球に
明かりが灯る。
「これは基本的には結晶自体の触媒機能のせいだが、普通の結晶だと結合エネルギー
の不足分を外から補ってやらなきゃこの反応は起こらない。でもこの場合は中の放射
性物質の力がそれを絶妙に補うことで、こういうふうに簡単に反応が起こるんだ。こ
のサイズの結晶だと豆電球を灯せる程度だが、結晶が大きくなるにつれて飛躍的に効
率は良くなる。」彼は化学式のチャートのメモを見せて続ける。
「まあそれだけでも十分に電池になるが、これを電解液として使うんじゃなく、気体
として取り出して、高圧下で別のレアメタルを触媒にしてマグネシウムと作用させる
と、物凄い高熱を発してタービンエンジンを動かせるほどのエネルギーを出せる。つ
まりこの結晶があれば、海水を十分に補給し続ける限り、水中でいくらでもエネル
ギーを取り出せるわけだ。空気補給の必要が一切ないから、これは潜水艦の動力に使
うには最適だよ。」
「知ってるよ。間接型原子力機関ってやつだろ。おい、まさか本気で原潜を作ろうっ
てんじゃないだろうな」
「そのまさかだよ。でも原潜といったって、ウランを使う直接型とは根本的に違っ
て、核物質はトリウム系だし、放射能も病院のレントゲン施設程度のものでしかない
から、構造は比べ物にならないほど簡単ですむ。」
彼はそう言って、カバンから取り出した設計図を広げる。「こいつはラフスケッチ
だけど、計算してみたら、結晶のサイズさえ大きければ、深度40m付近の海水を吸
入口から採り入れながら進むと、排水量5千トンぐらいまでなら高性能の原潜を作れ
る。しかも全く浮上する必要がないから、空軍力の絶対的な支配下でも行動できる事
実上唯一の兵器だよ。」一緒に計算を示したメモも見せる。
「いや待て待て。間接型原潜ってやつは昔、赤色海軍で検討して、建造可能かどうか
の問題以前に、そもそも建造しても兵器としての価値自体が乏しいという結論に落ち
着いたんじゃなかったのか?」
「そうだよ。確かにこの艦には一つ弱点があって、それは回遊魚みたいに動き続けて
ないとエンジンが止まっちまうことだ。一方赤色海軍の考える原潜ってのは、貝みた
いに陸地の近くの海底に貼り付いて、じっと息を秘めて情報収集を行うための船だか
ら、こういう艦はお呼びじゃなかったんだよ。」
「だがこのところいろいろ見聞きして思ったんだ。このさい俺たち青色海軍が探検用
の海軍であることをやめて、その不気味な帝国の空の力と戦える、戦闘用の海軍に生
まれ変わるべきじゃないのかってね。もしそういうことを考えるとなると、南の広い
海の下を空から探知されずに走り回れるという特性がもろに活きて、こいつは理想的
な原潜になれる。」
別の一人が「まあ何から何まで独創的としか言いようのない構想だ、と言いたいと
ころだが、一番肝心な問題はどうなんだ?要するにそんなでかい結晶をどうやって手
に入れるのかってことだよ。こいつはいわば海底のダイヤモンドとでもいうべきお宝
だ。その特大の現物がない限り、どこに話を持ち込んでも最初から相手にしてもらえ
ないぞ。」
他の一人も口をはさむ。「その結晶探しは、確か18世紀から19世紀にかけて盛
んに行なわれたんだろう?何しろ、かの大航海者オイラーさえも発見に失敗した伝説
的なお宝だというので、名だたる探検家たちが何人も挑んだが、結局砂粒ぐらいのも
のしか見つからなかった。それだけ探して駄目なんだから、そんなものは結局どこに
も存在していないというのが常識だ。」
「わかってるよ。そこがネックだっていうことはさ。でもなあ・・・」諦めきれない
口調である。
古文書の記録
モニター艦の中にある薄暗い書庫。主人公が書棚の間にしゃがみこんで携帯ランプ
の光で古い本を調べている。(書庫内はどことなく伝統の重みを感じさせる雰囲気。
この場面で、ちょっと英国の海洋冒険ものの雰囲気を混ぜる。)
「砲術の勉強会をさぼってこんなところで何をしてるんだ?」彼に理解のある大尉が
上から声をかける。「古い航海記録なんか漁ってどうするんだ?何だ、古文書みたい
な本だな。」そう言いながら近寄ってくる。
「17世紀の古い帆船の航海記録です。ねえ大尉、ここに嵐で放棄された一隻の船の
記述があるんですが、これってひょっとしたら、この船がxxxの大きな結晶を積ん
でたんじゃないでしょうかね?」大尉は本を受け取ってそのページを眺めると、そこ
に古い銅版画が描かれているのが写る。
彼は続ける。「これによると、この船は嵐で船倉に浸水して、荷物の木箱が海水に
漬かったんですが、その時不思議なことに船の中から稲妻が起こったというんです。
そのため、船員が次々に気絶させられて、船から逃げ出さねばならず、結局放棄され
た船はそこで沈没してしまいました。」
「ふん。それで?」
「その先を読んで下さい。・・・その結果、胡椒やスパイスなどの貴重な積荷が失わ
れたが、積荷の中には曇った水晶の大きな塊も含まれていた・・・とあるでしょう?
それですよ。」
「曇った水晶、か。要するにお前さんは、そいつがxxxの塊だって言いたいのか
?」
「ええ。何でそう思ったかというとですね、実はその場所を調べてみると、当時この
あたりでは海底火山の活動がかなり活発で、海水中に燃料物質が非常な濃度で含まれ
ていた可能性が高いんです。
で、この木箱の中身がその結晶だったと想像してみて下さい。その場合、船室に浸
水してきた海水がその場で電解液に化けちまうわけじゃないですか。おまけに電極と
して必要な金属の方は、こいつの場合は割とありふれたものでもOKで、それらは実
際にこのあたりの船では金具なんかに良く使われていたんです。
ということは、もし船室の中の金具か何かが偶然、電極の役割を果たしたとする
と、海水を満たした船室全体が、まるごと一種の大きな電池になってしまうというこ
とが、理屈からすれば十分考えられるわけですよ。」
「なるほど、それが稲妻の原因か。一応話としては成り立つな。」
「それで、この船がその後引き上げられたという話は聞きません。ということはです
よ、ひょっとするとその大きな結晶が今でもこの位置に沈んでいるということが、あ
り得るんじゃないでしょうかね?」
大尉はページを裏返す。「場所はどこだ?東インド航路の船か。おいちょっと待
て、俺の知識だと、確かこの結晶が採れる場所はヨーロッパ付近に限られていたの
じゃなかったか?この記述だとそれがアラビア海沖あたりで採れたことになるぞ。理
屈から考えておかしいだろう。」
「いや、その常識がそもそも間違ってると思うんです。定説とは逆ですけど、少し組
成の違う結晶ならもっと大きなものができて、それはむしろアラビア海の方でないと
成長できないというのが、私の考えです。そして、名だたる探検者たちが皆失敗した
のは、結晶が存在しなかったからじゃなくて、それをヨーロッパ近海で探そうという
思い込みに捉われていたからじゃないでしょうか。」そう言って、計算用紙の束も見
せる。
「これはまた大変な新説だな。例によってお前さんの独創的発想の行き過ぎじゃない
か?」ここで大尉は用件を思い出して本を閉じ、話を遮る。「そんなことより、艦長
がお呼びだ。こんなことばかりしているのが睨まれたらしいぞ。明日10時に出頭す
るようにとのことだ。」
転属
主人公は艦長室に出頭する。(艦長室には後ろにモニター艦の大きな模型があっ
て、目ざとい観客にとってはそれ自体が興味の対象になる。)
「N・・少尉、出頭しました」「君の、このところの勤務態度が問題になっている。
皆の命中率向上の努力に協力してないそうだな。君は砲術を馬鹿にしているのか?」
艦長が報告書を手にしながら冷たく言う。
「そうではありません。ただ、射撃目標の意味が何なのかについて、これほどまでに
誰もが何も考えようとしないということに疑問があるだけです。」
「今の君は、命中弾を得る活動に参加して点数を稼ぐことだけ考えればいい。そんな
ことは大佐になってから考えろ。というより、大佐になればそんな幼稚なことは考え
なくなるもんだ。」
主人公はさすがに反感を押さえきれない。「そんなにして無意味な標的ばかりを
撃って命中弾の点数を稼いで一体何になるんです?」すると艦長は馬鹿にしたように
「簡単なことだ。命中弾の点数を稼げば昇進につながる。昇進すれば給料が上がる。
その他に一体何が必要だ?」
「現在の世界の状況がこうなった責任の一端は海軍の怠慢にもあるでしょう。海軍に
は理念が必要です。われわれがそれを自覚しなければ・・・」
艦長は鼻で笑う。「幼稚な書生論議は大変結構だな。では自分の立場をそろそろわ
からせてやろう。君は一介の少尉で、艦長は私だ。君はもうこの艦では昇進させな
い。艦は降りてもらう。今の君の手持ち点数では、輸送船か上陸用舟艇の乗組員とし
て、陸軍のどこかの師団の傘下に入れれば上等だろう。要するにマーチャント・ネー
ビーへの転属だ。希望を出したまえ。」
「いえ、私はその道は選びたくありません。」「それじゃ海軍そのものを離れて、一
から陸軍に入り直すっていうのか?君にそんなタフなことができるとは思えんが」艦
長は彼を上から下まで見回して馬鹿にしたように笑う。
「いいえ、陸軍に入るつもりもありません。」「どっちも嫌だって?君は一体何を
言ってるんだ?どこへ行くつもりなんだ?」
「海軍の義勇予備隊の所属ということにしていただくつもりです。」
艦長は失笑する。「義勇予備隊なんて名目だけは海軍士官だが、実態は体のいい失
業者だ。持ち船から何から全部自分で調達しなければならないし、戦艦やモニター艦
など、主力水上艦への復帰はもうあり得ないぞ。良く行って魚雷艇の艇長だが、魚雷
艇乗りでエースになるなんてのは余程の幸運に恵まれたやつだけだ。」「わかってま
す。」
「大体、今の君の手持ちの点数では、魚雷艇に乗るのも無理だ。確かに義勇予備隊に
入れば、1回だけは艦艇を借りる権利があるが、借りる条件には高いスコアのオ
ファーが必要だ。期間内にそれを達成できなければ、一生を棒に振る。今の君の立場
では魚雷艇を借りるのは至難の技で、後はせいぜい二人乗りの潜航艇ぐらいがやっと
だ。結局君はモーターランチで下働きというあたりで一生終わるしかないぞ。」艦長
はむしろそれを楽しむような口調で言う。「それでも良ければ書類に判を押してやる
が。」
「結構です。」「わかった。それでは一応明日から君は海軍義勇予備隊の予備中尉
だ。肩章も波形のものに変えておけ。」彼は用紙を引き出しから出して書き始める。
「ちなみに、どの部門へ行ってどんな船を借りるつもりだ?」「お話にあった小型潜
航艇です。私は潜水艦部門を志願するつもりです。」艦長は驚いて手を止める。
「小型潜航艇だって?正気か?あれが自殺専用艇と言われていることぐらい知ってる
だろう。あれで何らかの成果を上げるには神業的な腕が必要で、魚雷を目標に命中さ
せられる可能性なんて1万分の1以下と言われてるんだぞ。
大体今では潜水艦全体の運用が極度に困難になってきていて、もはや天才的な艦長
でない限り作戦行動は事実上不可能というのが実情だ。1920年代とは訳が違う。
だからあの部門自体、一応名目的には存続しているが、実質はほとんど機能していな
いに等しいんだ。それとも何か?君は自分がそういう天才だとでも言うつもりか?」
そう言って艦長は彼をぎろりと睨む。
「いえ、そんなつもりは。」「まあいい。これを人事課に提出してこい。海軍には理
想が必要だ?結構なことだ。せいぜいその信念と心中するんだな。」そう言って嘲笑
する。
艦を降りる
彼は艦の自分の部所に戻って、荷物の整理を始める。何か測定器のようなものを取
り外してコードを束ねている。
例の大尉がやってきて尋ねる。「船を降りるんだって?」「ええ大尉、次の補給艦
に同乗して帰ります。」
「それで?こんなところに何か忘れ物か?」「ええ、まあいろいろと片付け物が。と
ころでちょっと所望したいものがあるんですが。」「何だ?餞別か?」「まあそんな
ところです、こいつと、あとそいつなんですが。」と言って彼は二種類の測定器を指
差す。「何だ、これは?」
「こいつはもともとろくに使われてなくて半分壊れてたやつなんですが、それを改造
して、例の結晶を探すために使えるようにした測定器です。こっちは近距離用で、結
晶による海水中の電場変化を直接捉えて位置を特定するためのものです。こっちは広
域走査用です。大きい結晶が三百年も海底に眠ってると、周辺の広範囲な海底に僅か
ですが痕跡が残るんで、それを調べるためのものです。」
「こんなもの自分で工夫して作ってたのか。勉強会をさぼって。」
「ええ。それで、これを廃棄処分という名目で、私にくれませんか。もともと廃品リ
ストに入ってたんで、一応問題はないんです。ああ、上には黙っててくださいよ。」
「それで、こいつをもって例の場所へ探しにいくのか?本気でやるつもりだったとは
驚いたな。まあ艦長に睨まれるわけだ。だけどそこへ行くための船の調達が、今のお
前さんじゃできないぞ。」
「わかってます。だから最初はまず潜航艇を1隻借りて、そいつで何とか状況打開を
考えます。」
「まあ俺のみたところ、まずそのこと自体が、奇跡を味方につけなきゃ無理だと思う
がな。まあいい。とにかく頑張れ。だが道を踏み外して海賊のレッテルを貼られるよ
うなことにはなるなよ。その末路は悲惨だからな。」そして彼はちょっと寂しげにつ
け加える。
「お前さんみたいに面白いやつは、こんなところにいるよりはいいかもな。俺も、大
佐になれば何でも出来るから、今は上の言いなりになれと言われて我慢しているが、
何十年もかけて大佐になったその時には、もう夢なんて全部忘れているんだろうな。
大体、聞いたろう、制度改革で今後は海軍全体が帝国体制に編入されるってこと
を。今までは形だけでも海軍は空軍より格上だったが、新体制ではそれが逆転して、
俺たちは空軍より格下の扱いになっちまう。
よし、そのがらくたのことは餞別がわりに何とかしてやる。一応海軍の外じゃなか
なか手に入らないものだからな。そうだ、廃棄処分のがらくたといえば、壊れて修理
されないまま捨てられてる小さい水中作業艇が基地にあったな。後ろ半分が壊れて
バッテリーが完全にお釈迦になってるやつだが、欲しければそいつも何とかしてやる
ぞ。」
「あ、是非欲しいです。有難うございます。」
(続く。)
注・対応物について
・最初に出てくる四発重爆は無論、メディアを意味するが、ここではそれらはプロペ
ラ機であり、したがってそれは新聞および活字メディアを表現していることになる。
(つまり実は夕闇の空を覆う四発重爆は、全国に配達される夕刊のことなのであ
る。)
一方ジェット機がTV・映像メディアに対応するが、参考までに記しておくと、こ
の世界ではジェットエンジンは燃費が極端に悪くて滞空時間が短いという泣き所があ
るという設定になっており、そのためプロペラ機も十分生き残る余地があるわけであ
る。
・冒頭の会話で「この数十年の地球の変動エネルギーは、それまでの数万年分の合計
を上回る云々」という話が出て来るが、これはもちろん地球のエネルギーの話ではな
く、文明のエネルギーとその解放の話であり、その点ではまぎれもなく事実である。
・地球儀上の南極の、オーロラに覆われた神秘の氷の世界は、理学部の領域である宇
宙論などの神秘の世界を指し、またその途中の嵐の海に出現する大陸などは、工学部
の領域たる宇宙開発などを指す。つまりわれわれはその新大陸などへはまだ住むに
至っていないことになる。
・続く会話の中の「陸軍がまずいことになっている」という話は、言うまでもなく日
本にバブル崩壊が迫っていることを意味しており、また士官たちが空軍兵に馬鹿にさ
れる場面は、理系がお笑い芸人より軽く見られるようになったバブル期の傾向を示
す。
・士官たちが空軍兵や女たちにぼろくそに言われる場面は、幸いにして筆者の直接的
な体験に基づくものではない。しかし理工学部の学生を何人か集めれば、恐らく似た
ような体験をして同じようなことを言われた者が実際に必ずいるはずである。(まあ
大体映画の世界では、冒頭付近で粗暴な同年輩の男や馬鹿な女から碌でもない扱いを
受けるというのは、青春映画のお約束なので、ご容赦。)
・なお服装に関する注意だが、この場面に限らず、服装は全般的に第二次大戦ごろの
イメージを少し現代的にしたものにすることが必要なので、ベースそのものは基本的
にトラディショナルである。そのため空軍兵の場合、第二次大戦型の米空軍の軍服を
着崩して、それに帝国軍のシンボルをつけるというのが、一番適切であるわけであ
る。
(一般に、現実世界で渋谷の不良少年が着ているような着崩したストリート系ファッ
ションは、無形化世界では帝国軍の肩当てやナイフなどのシンボルの装着によって表
現され、これはシリーズ全体のお約束である。)
むしろこの場面では、女たちの服装の方がちょっと難しい。古いツッパリファッ
ションだと、ノスタルジックで好意的なイメージが漂ってしまうし、90年代以後の
本物の援交コギャル・ヒップホップファッションだと、画面が現実の閉塞感に完全に
からめ取られてしまう。それを考えると、80年代前半のバブル初期ファッションの
ような、微妙に古さを感じさせる服装をベースに、茶髪で光物をじゃらじゃらつけ
て、一点だけ1920年代ごろのデカダンなアイテムを何かつけ加える、というあた
りが適当かと思われるが、もう少し研究を要する。
・海軍の内部で「艦艇が燃料不足で動けない」という話が出てくるが、それは学会や
知識世界が根本的な新発想やビジョンの枯渇で停滞している現状に相当する。つまり
海軍の場合、「新発想やビジョン」が艦艇用燃料を意味しているわけである。
(一方陸軍の場合はもろに「マネー」が燃料弾薬に対応しており、そこから考える
と、この世界では海軍燃料と陸軍燃料には兌換性がないことになる。なお航空燃料
は、基本的に陸軍用燃料がベースだが、それに海軍燃料の上澄みを混ぜて作るものと
する。)
・また現代の学会内部での、論文の過剰な数学的複雑化や厳密化が、モニター艦の、
限度を超えた重装甲化として可視化されており、鈍重なモニター艦の無意味な射撃活
動が、たこつぼ化した学会内部での、論文本数稼ぎだけを目的とする無意味な論文生
産活動に相当している。
・そして冒頭にも述べた如く、数百年前の沈没船が三体問題を意味しており、その船
倉に沈んでいる結晶=作用マトリックスN乗理論を手に入れれば、一挙に長大な行動
能力を得られることになるというのは、われわれが知っている通りである。
そしてこの「数学史上最大の盲点」を行動できるということは、ちょうど水面や空
から探知・制圧しにくい海面下の広い領域を行動できることに相当しており、戦術的
に見てもこれを武器にする艦は、装甲がそれほど厚くなくても相手主力艦と正面から
勝負できるし、またメディアを敵に回しても一応の行動は可能であり、その面でも原
潜との対応は一応妥当だろう。
(ただしこの結晶にはまだ名前がついてない。化学はあまり得意ではないので、これ
に関する設定や名称は何か提案していただけると有り難い。)
・主人公が艦長と口論する場面は、実は台詞の4割ほどは筆者が大学院を辞める際
に、実際に教授との間で交わした会話に基づいている。(少なくともこれにかなり似
た台詞を言われた覚えがある。書いても名誉棄損には・・・まあならないだろう。)
ちなみに、理解のある大尉のモデルになった人は、なぜか顔がキリスト様に似た人
だったのだが、本当にそれをやるとかえって不自然になるので、普通の顔で良い。
・また階級に関しては、理系の大学(ただし卒業時に大企業が研究職として問題なく
採用するぐらいのレベルの大学に限定する)の学部卒で海軍少尉、修士で中尉に相当
する。なお劇中ではちょっと卒業時期との順序が曖昧だが、学部4年の間が実務研修
中に相当し、この間は「少尉候補生」と呼ばれている。
企業の研究者は「マーチャント・ネービー」所属の海軍予備隊の士官である。一
方、中退して文筆業などに従事すると、義勇予備隊の士官ということになる。そのた
め話にあるように、修士中退の段階で義勇予備隊の中尉というのは、まあ妥当な対応
だろう。なお教授が大佐であるのは言うまでもない。
また陸軍の場合、大卒全部を三流大学卒まで含めて全員が少尉だとするのは、人員
構成上明らかに無理であり、士官学校と見なせるのは偏差値で上の方のごく一部の大
学のみである。その下あたりの大学群は、卒業で下士官となる「曹候」レベルに相当
し、その下の三流大学となると、もう大卒でも一等兵程度の地位しかないのが実情で
はあるまいか。
・潜水艦部門がほとんど存続できないというのは、現在では1920年代のように一
匹狼の研究者が盲点を巧みに突いて新発見をすることが、極度に困難になっているこ
とを意味する。
一方魚雷艇乗りに相当するのは、文系ビジネス書などの花形ライターである。
・主人公が艦を降りる際に、ジャンクとして測定器具をもらっているが、このとき筆
者は別に物質的な物として何かをもらったわけではない。ただ、研究室にいたこと
で、現実の数学の最先端の学問なるものがどの程度でしかないのかを知り得たこと
は、やはり非常に重要だった。今にして思えばそれは良いジャンクだったように思
う。
・「海賊になるな」と大尉が言う場面があるが、海賊に相当するのは、オカルトや危
ない偽科学にのめりこんで世の中を惑わす連中のことであり、そう考えると現代の無
形化した海は実は海賊だらけだということになる。
(今回は一応ここまで。次回に続く。)
PathfinderPhysicsTeam