新著のお知らせ 2
last update: 2016/09/15
 
かねてより予告していたブルーバックスの「経済数学の直観的方法」ですが、その「マクロ経済学編」が、ついに9月15日に刊行となります。(もう一方の「確率統計編」は11月に刊行予定です。)

 前回の告知でも述べたように、この「経済学の直観的方法」では、現在の経済学で最も難しいとされる「二大難解理論」を一挙に突破する、というアプローチが基本となっており、今回のマクロ経済学編で扱うのは、その一方である「動学的一般均衡理論(以下、動的マクロ理論)」です。

 この動的マクロ理論というのは現在、マクロ経済の世界で主流となっている経済学の最重要理論で、アベノミクスでもしばしば話題になる「インフレ・ターゲット」の問題でも不可欠なものです。そのため主として経済学部の大学院で、必須の中心科目となっているのですが、何しろ一昔前とは次元の異なるほど高度な数学を使っているため、多くの学生が理解に苦しんで、しばしば理解を諦めているという難物です。

 実際この理論は、物理学のいわゆる解析力学などを応用しているため、本来は物理と経済学を両方知っていないと、解説書を書くこと自体が不可能な性格のものです。しかし恐らくそういう書き手がなかなか存在せず、そのためずばり要点を教えてくれる解説書というものが、今までほとんど存在しない状況にありました。
 また一般読者にこれを解説することなども、到底不可能として、その試みはしばしば最初から断念されており、そのためこれだけ重要な理論であるにもかかわらず、これまでそれに関する新書版などの解説書もほとんど出版されていないのが実情だったと言えます。

 しかし実はこの理論は、物理の世界では古くから知られていた、光に関する「フェルマーの原理」を出発点にすると、直観的な形で非常に簡単にその本質を理解できるのです。
 これは理系と文系を両方に同時視野に入れて初めて知り得ることですが、とにかく本書の場合、ここからスタートするという斬新なアプローチを採ることによって、その不可能を可能にしており、そのため本書は経済学部で難所突破用の参考書として使えるだけでなく、この理論を一般読者が理解するためのものとしても、恐らく最初の解説書になると思われます。

 理系の人の場合、あるいはそんな経済学の話に興味はないと思われるかもしれませんが、意外なことにこの話は理系の人が読むと、何か物理の話でも読んでいるような感覚で、一種の読み物として面白く理解できるのです。そのためむしろこれまで経済学が苦手だった理系の読者こそ、これを機にチャレンジしては如何でしょうか。

 また本書では経済学部の学生のために、どうしても経済学部で必要となるいくつかの他の数学メソッドについても、凝縮した形で解説をつけており、とにかくこれ1冊が手元にあれば、ピンチの折に必ず役に立つはずです。
 そのためもあって、本書のページ数は「物理数学の直観的方法」よりやや厚い320ページとなっており、価格は税抜きで1200円です。(もっともこれまでの常識では、一般的に言って経済数学の本は最低でも2〜3千円はするのが普通で、それを1200円台で買えるということ自体が、ほとんどあり得なかった話だと言えるのですが。)

 なお今回は、ページ数をぎりぎり320ページに収めるため、極限まで枚数をカットする必要があり、そのため例えば参考文献一覧などのページも入れる余裕がありませんでした。まあもともと伝統的に「直観的方法」シリーズでは、従来の記述から離れた自由な著述こそが真骨頂なので、参考文献を挙げることはさほど重要ではありませんでしたが、とにかくそのため本書では「確率統計編」の方に参考文献をまとめて掲載する形になっており、それを知りたい方は、恐縮ですがそちらをご参照ください。

 また用語に関して一言(予防的に)コメントしておくと、本書では「動的マクロ理論」という言い方が多く使われていますが、一般に経済学の業界では「動的」のかわりに「動学的」という言葉を使うことの方が多いようです。
 しかし物理の世界では「動学的」という言葉を使うことは滅多になく「動的理論・静的理論」などという言葉を使うのが普通です。そのためどうしても無意識に「動的」という言葉を使ってしまうのですが、むしろこれは業界で使い分けることを行っても良いのではないでしょうか。
 例えば理系の世界でも電磁気学に関して、物理の業界では「電場・磁場」という言葉を使いますが、電気学科では「電界・磁界」という言葉を使っており、その使い分けは一種の文化になっています。そのためこの場合も、理系からこの話にアプローチする際には「動的マクロ理論」の言葉を使い、経済学業界との間で使い分けをする形にしても良いと思っています(まあどうせ英語にすればどちらも同じですし)。
 
 なお今回も表紙は、「物理数学の直観的方法」と並べても違和感のないCG画となっています。今回はニュートンの反射望遠鏡がモチーフで、これとフェルマーの原理をイメージ的にミックスした図案になっているので、書店ではそれを目印にしてみてください。
 ともあれ、あまりにもエポック・メーキングな内容なので、ちょっと今までの常識には収まり切れない本となっており、そのため書店で見かけたら是非、序文だけにでも目を通していただければと思います。

(今回は、講談社が月1回発行して全国の書店や図書館に配布している「本」というPR誌の10月号にも、この本の紹介エッセイが載る予定です。そちらは9月25日に発行です。)


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