※2003年4月27日例会における講義を編集したものです。
次の話は、経済に関するもので、今まで縮退に頼って生きてきた現代経済が、そこ
からどうやって脱却するかの基本戦略に関する、かなり重要な話です。
さてまず現在の経済状況ですが、今のブッシュ政権の経済は、もうかなり
危機的な状況にあるわけですよね。
今まではアメリカという国は常に未来の文明のビジョンを持っていました。例
えば日本の太平洋戦争の時なんかはそうでしたけれども、当時の日本がとにかく
この戦争を軍事的に乗り切ることしか頭になかった時期、アメリカは戦後の文明
として一つの大きなビジョンをもっていました。つまり大量消費社会という素晴らし
い未来が来るんだ、アメリカンライフというのが来るんだというビジョンですね。ある
意味アメリカという国はその文明のプログラムを一種の巨大な予備戦力とし
て持っていたという事は言えると思うんですよね。だから、この戦争が片付いたら次
があるんだよという、その予備戦力というものをはっきり持っていたというのが、
アメリカが何となく余裕をもって第二次大戦を勝ち抜けた大きな要因だと思うんで
す。
実はITが登場する直前の最近まで、アメリカはそういう文明のビジョンとしての
予備戦力を持ってたと思うんですよ。だから当時日本がバブル崩壊で沈み込んでいる
ときに、アメリカというのはやっぱりかなり輝いて見えてたわけなんですよね、日本
人にも。それは何かと言うと、コンピューター社会っていうのを作るんだという、
一種の文明としての予備戦力を彼らは持っていたわけです。
ところが、それが多分アメリカが持っていた最後の予備戦力だったと思うんです
よ。ITというのは他でもない、縮退度を非常に高める仕掛けな訳ですよね。人間の
持っていたそれまでの相互依存の社会というものを全部ばらしちゃって、個人が全部
平等な立場でつなげられるような社会を作ろうと言うわけですから縮退度は非常に高
くなってしまう。そしてその縮退度が高い分やはり金も儲かるわけですよ。その最後
の縮退力を使って演出した景気がIT景気だったわけです。
ところがその景気が一段落すると、もう今度は予備戦力がない。でもアメリカは最
後にもう一回だけ社会の縮退力を、自国経済のために使うことができたんです。
どういうことかというと、世界全体をグローバリズムと言う名前で縮退させてしまお
う、他の国が持っていた資本を全部アメリカに引き寄せちゃえばいいじゃないか
という方針です。つまりアメリカ一国だけが儲かるシステムというものを金融スー
パーハイウェイを用いて作ったというのが、アメリカの最後の経済的な力だったわけで
す。
それがIT景気が崩れても最近まで経済を押し上げてた要因で、その結果根拠のな
い金がアメリカにどんどん入ってくるわけですから、住宅の値段がどんどん値上がり
する。
日本は昔、企業がバブルをやってましたけれども、アメリカでは今市民がバブルを
やってまして、自分が持っている持ち家の値段がどんどん上がるという右肩上がりの
予想があるから、カード会社がどんどん金を貸すわけですよね。だか、住宅の値段が
上がるという右肩上がりのグラフが書けていさえすれば自分の稼ぎなんかなくたっ
て、いくらでももう、金を貸してくれるから、どんどんカードで消費する。今のアメ
リカの消費ブームというのはまあ、個人がやってるバブル、これは日本の企業がやっ
てたバブルそのままですよ。企業がやってたバブルをそのものを、市民がやっている
おかげで、今、経済が維持されているわけです。
それはいつかはやっぱり崩壊するわけですよね。ブッシュ政権はそのバブル崩壊を
非常に恐れてまして、やっぱりそのバブルの崩壊を食い止めるためにはもう何でもす
る、まあはっきり言っちゃえばもう戦争に踏み切ったのもちょっとそういう心理状態
も働いていた、と思うんですよ。
ではこのアメリカの最後のバブルがはじけたら、アメリカは次に一体何があるかと
言うと、これが実は見つからないんですよね。
昔はバイオがITの次を引っ張るものだとされていた訳ですけれども、我々はすで
にそれがハーモニック・コスモス信仰の上の砂上の楼閣に過ぎないことを知っている
わけじゃないですか。なぜならば、系を縮退させたときに金が儲かる。だからコン
ピューターが社会を縮退させることで、膨大なITの需要というのが生まれたわけですよ
ね。
だけれども、バイオでそれだけ儲かるということは、生命という系を縮退させない
と金は儲からない訳じゃないですか。生命という系をそれだけ縮退させたら、
ものすごい副作用が、もうIT産業の場合よりもはるかに早く起きてしまうだろう
し、
その暗黒の図はもっとずっと早く表面化しちゃうはずなんですよ。だからバイオが
次の巨大な需要になるってことは、ちょっと無いと思うんです。
それでまたITそのものが社会そのものを非常に縮退させてしまったものだから、
新しい産業がものすごい寿命が短いですよね。儲かるということがわかった途端
にあっというまに巨大な資本の参入を招いて、値段がドドドドーッと下がっちゃって、
あっという間に、数ヶ月でそれは儲からない産業になってしまうと言う事が起きていて、
ITそのものが最後の縮退をやった時点で、もう次の予備戦力がないという状態です
から、もう世界全体に、何か物事を縮退させて儲かる手というのは全てなくなったというの
が正しいと思うんです。
そうなった時にじゃあ人類全体が次を一体どうすればいいのかって言ったときに、
多分次に述べるもの以外に手段はないと思うんですよね。それは経済思想そのものに
根底からメスを入れて、碁石理論を主力として押し立てていくことです。
つまり単なる金儲けというのは、碁石理論では単に青石を増やすことでしかない
のですから、真の豊かさよりも次元の一つ下のもので、最低限の生活維持に
必要な分を超えれば、もう単なる名目上の豊かさでしかない、そして本物の豊かさ
は呼吸口を増していくことにあるのだから、それをが何らかの形で数値化して経済
の主力とすることで、いわばマネーオンリーの経済からの撤退を考えるわけです。
つまり最終的な目標地点としては、今みたいな年間数%成長しないと駄目という
使い捨て資本主義体制を改めて、定常状態だが呼吸口が十分確保されているから
安定して住むことができるという体制に移行すること、それが一応最終目的地として
設定されているべきだと思うんですよね。だけど今それをやったとしたら、需要が
どどっと激減してしまいますから、今即座に定常経済に移行するなんて事は、そりゃ
もう、巨大不況を人工的に起こすのと同じなわけで、経済を崩壊させずにはできない
わけですよ。
そこでその過渡期をどうするかということが大問題になってくるわけですが、ここで
一つの新しいアイデアというか基本戦術がありまして、それは碁石理論のもう一つ
の側面をここで使ってそれをもたせようということです。
つまり碁石理論の「人間は呼吸口が少ない状態から多い状態へ動こうとする」とい
う原理がここで使えるはずだということです。
つまり移行後の状態が本当に呼吸口の多い状態だったとするならば、経済にせよ
需要にせよ、そこへ向かっていこうとする力は一応働くわけですね。つまりそこへ移
行しようとする過程自体が一種の需要を生み出して、極端なことを言えばそれ自体
が一つの産業になるわけです。そのためその新しい需要が、今までの無駄な需要
をカットした分をカバーする格好で、経済が定常状態に到達するまでの経済全体の
崩壊をくい止めてもたせるということ、それが少なくとも理屈の上からは可能である
わけです。
実際問題、この先資本主義的な縮退を続けていくことは、もう文明として不可能で
いつかは定常状態に移行しなければならないということは誰もが知っています。とこ
ろがやはりその移行期間に経済を崩壊させるわけには行かないんであって、呼吸口
を増やすための技術で、その期間の代替需要を作り出し、軟着陸のための時間的
余裕とショックアブソーバーをどう確保するか。それを考えることが、実はこれから
の経済の最大の問題だと思います。
そして私としては、実はステルス建築技術ってのをそういうものの一つとして考え
ていまして、もともとステルスってのは呼吸口を増すための技術なんですよね。
今までの建物は物質的効率一点張りで、建蔽率ぎりぎりまで建物を造って、白い壁
で囲ってコストを最低に抑えた結果、非常に閉塞感の大きい町を作ってしまった。
そして人間もそれに耐えられなくなっているという時に、もっと呼吸口が欲しいと思って動き
出すことで、新しい動きが始まる。それが実はステルスに関してわたしが一番期待を
かけているところなんですよ。今の日本の街並みというのは、完全縮退状態に非常に
近い状態にあるわけです。どれもこれもユニット化して、全部白い壁で囲ってしまっ
ている。コストの一番安い奴で囲ったから全部どこ見ても似たような閉塞感のある建
物しかないという状態になってるのが、今の日本の街並みだと思うんです。
これはコスト的に言えば実は効率の極大化はされてるわけですよね。だけれど
も、皆この閉塞感に満足できず、もっと呼吸口の大きい町に住みたいとい
う、精神的な要因というのは多分働いてると思うんです。だからある意味ステルス
で、呼吸口の多い状態、もっと良い、縮退度の低い状態に街をしていくことができ
たとしたならば、そしてそこで今までの状態から脱却して、経済を動かしたいという
要求が
働いていくとしたならば、それは立派な経済上の力になるわけじゃないですか。
無論ステルス一つで現代の経済社会の要求全部を満たせるはずはありませんが、
少なくとも先ほど述べたような二段階戦略の一つのモデルとして、その同じ理論に基
づいたステルスや経済的な方面からまずそれをやってみる。
もしもそれがうまく行ったとしたら、それを手本に他のいろいろな部門で同様のこと
を試みて、最終的に縮退を阻止する方向に文明全体をもっていくわけです。容易じゃ
ないとは思いますけれども、でも少なくともそう言う実例が一個作れるということ
は、大変大きいと思うんです。
だから経済にとっては、縮退とコラプサー化を防ぐという主題と、もう一つは、呼
吸口を極大化するというこの2本立てでこれからの過渡期の経済を維持していくと
いうことを真剣に考えるべきだと思うんですよ。これはやっぱり20年以内に軌道に
乗せる事を人類は絶対にしなければいけないと思うんですね。